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【再掲】ダニー・コーチマー来日記念特集~真のミュージシャンズ・ミュージシャン
派手にソロを決めるロック・スターがいる一方で、地味で手堅いながらもハッとさせられるプレイヤーもいる。職人肌のギタリストの代表的な存在であるダニー・コーチマーは、まちがいなく後者だろう。しかし、その腕は多数のトップ・アーティストから高く評価され、世界中の音楽ファンに愛されている。彼の弾く軽やかなオブリガートは、ヴォーカルと同じくらい雄弁に歌っている。そんな説得力のあるフレーズを弾き続け、すでに50年ものキャリアを重ねてきたダニーこそ、真のミュージシャンズ・ミュージシャンといってもいいかもしれない。ここでは、彼の足取りを追っておこう。
ダニー・コーチマーは、1946年生まれ。ニューヨーク出身の彼は、10代よりギタリストとして活動を開始。リズム&ブルースのバンドであるキング・ビーズに参加した後、無名時代のジェームス・テイラーが在籍していたフライング・マシーンでも活躍した。1966年にはイギリスに渡ってセッション・ミュージシャンとして活動するが、すぐにニューヨークに戻り、実験的なロック・バンドのザ・ファッグスに加入。ここで出会ったベーシストのチャールズ・ラーキーを誘い、今度はロサンゼルスへ向かう。そして、キャロル・キングを交えてザ・シティを結成。1968年に発表した唯一のアルバム『Now That Everything's Been Said』には「Snow Queen」などの名曲が収められていたが、商業的な成功には至らなかった。
1970年にはチャールズ・ラーキーを伴ってジョー・ママを結成。『Jo Mama』(1970年)、『J Is For Jump』(1971年)という2枚のアルバムを発表。その後はリーランド・スカラー、ラス・カンケル、クレイグ・ダーギーというメンバーとともにザ・セクションを結成。『The Section』(1972年)、『Forward Motion』(1973年)、『Fork It Over』(1977年)という3枚のアルバムを残している。また、ザ・セクションとして活躍中の1973年には、初のソロ・アルバム『Kootch』、1980年には2作目のソロ・アルバム『Innuendo』をリリースし、そのソングライティング能力やヴォーカルも高く評価された。
しかし、彼はソロ・アーティストとしてというよりも、セッション・ギタリストとしての名声を勝ち取ることになる。そのきっかけは、キャロル・キングとジェームス・テイラーだ。ザ・シティ解散後にソロ活動を模索していたキャロル・キングは、初の単独名義のアルバム『Writer』(1970年)に続き、『Tapestry』(1971年)をリリース。この作品が爆発的なヒットを記録することになり、キャロルは一躍トップスターに躍り出た。そして、『Music』(1971年)、『Rhymes & Reasons』(1972年)、『Fantasy』(1973年)と初期の作品に参加したダニーは、キャロルの作品には欠かせない存在となったと同時に、ギタリストとして大きく注目されるようになったのである。また、ジェームス・テイラーとは、1970年の傑作『Sweet Baby James』から密にサポートし、『Mud Slide Slim And The Blue Horizon』(1971年)、『One Man Dog』(1972年)、『Gorilla』(1975年)といった名盤を支えたことで、高く評価されることになった。
70年代でさらに特筆したいのが、ジャクソン・ブラウンとのコラボレーションだろう。彼の5作目のアルバム『Running On Empty』(1977年)に参加し、名曲「Shaky Town」を提供。その後も『Hold Out』(1980年)、『Lawyers In Love』(1983年)、『Lives In The Balance』(1986年)と、なんらかの関わりを持ち続けている。また、イーグルスのドン・ヘンリーのソロ作品では、プレイヤーとしてだけでなくソングライターとしても重要な役割を担い、「Dirty Laundry」や「All She Wants To Do Is Dance」といったヒット曲も生み出した。他にも、クロスビー&ナッシュ、ニルソン、ウォーレン・ジボン、J.D.サウザー、リンダ・ロンシュタット、トレイシー・チャップマン、ホール&オーツなど、多くの作品やアーティストに関わっている。
90年代以降もダニーの活躍はとどまることがなく、ジョン・ボン・ジョヴィ、ビリー・ジョエル、ボズ・スキャッグス、ハンソンなど幅広いジャンルのアーティストをサポート。日本でも、伊藤銀次や奥田民生などと共演している。また、自身の新たなバンド、ミッドナイト・イレブンを結成し、アルバム『Midnight Eleven』(2005年)を発表するなど精力的な活動は変わらない。今回の来日公演でも、その卓越したプレイで健在ぶりを見せつけ、ファンを魅了してくれるはずだ。
なお、今回のツアーで演奏すると思しきセットリストを入手することができた。実際にこれらの曲が聴けるのかどうかは当日のお楽しみだが、参考までにリストアップしておこう。
「You've Got A Friend」
キャロル・キングの1971年の名盤『Tapestry』に収録された、言わずと知れた大名曲で、ダニーはギターで参加している。ジェームス・テイラーが『Mud Slide Slim and the Blue Horizon』(1971)でカヴァーした際もギターで参加。
「Honey Don't Leave LA」
ダニーが在籍していたバンド、アティテュードスが、ジョージ・ハリスン主宰のダークホース・レーベルからリリースしたアルバム『Attitudes』(1976)に書き下ろした楽曲。ジェームス・テイラーがアルバム『JT』(1977)でカヴァーし、翌年シングル・カットもされた。
「Machine Gun Kelly」
ジョー・ママのアルバム『Jo Mama』(1970年)に収められた楽曲。ジェームス・テイラーが『Mud Slide Slim and the Blue Horizon』(1971)でカヴァーしている。
「Somebody's Baby」
ジャクソン・ブラウンとの共作曲で、彼のソロ楽曲として1982年の映画『初体験/リッジモント・ハイ』の主題歌に使用された。
「Dirty Laundry」
ドン・ヘンリーとの共作で、彼のソロ・デビュー・アルバム『Can't Stand Still』(1982年)に収録。シングル・カットもされてHot100で3位となった。
「All She Wants To Do Is Dance」
ドン・ヘンリーに提供した楽曲で、彼のセカンド・アルバム『All She Wants to Do Is Dance』(1985年)に収録。シングル・カットもされてHot100で9位を記録。
「New York Minute」
ドン・ヘンリーとの共作曲で、彼のアルバム『The End of the Innocence』(1989年)収録。翌年シングル・カットされた。
公演情報
Danny Kortchmar and Immediate Family
featuring original "The Section" members
Danny Kortchmar, Russ Kunkel, Leland Sklar plus Waddy Wachtel and Steve Postell
ビルボードライブ大阪:2018/6/14(木)
1stステージ開場17:30 開演18:30 / 2ndステージ開場20:30 開演21:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ東京:2018/6/16(土)&18(月)
<6/16>1stステージ開場15:30 開演16:30 / 2ndステージ開場18:30 開演19:30
<6/18>1stステージ開場17:30 開演19:00 / 2ndステージ開場20:45 開演21:30
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
BAND MEMBERS
ダニー・コーチマー/Danny Kortchmar(Guitar, Vocals)
ラス・カンケル/Russ Kunkel(Drums)
リーランド・スクラー/Leland Sklar(Bass)
ワディー・ワクテル/Waddy Wachtel(Guitar, Vocals)
スティーブ・ポステル/Steve Postell(Guitar, Keyboards, Vocals)
Text: 栗本斉
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