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神田莉緒香『ACCELERATOR』インタビュー
シンガーソングライター神田莉緒香が6月7日ユニバーサルGEAR移籍第1弾となる新作をリリース。CDリリースから5年目にしての初のメジャーリリース作品である。
一時は辞めることまで考えたほどに落ち込み、迷いながら探りながら食らいついてきた彼女が、今、打ち鳴らす清々しいほどのサウンド。『ACCELERATOR』という快作が誕生にいたった経緯を訊いた。
最初は実は声優になりたかった
--音楽をはじめたきっかけは?
神田莉緒香:将来のことを考えはじめる中学生のころ、目指していたものは、実は音楽ではなくて声優でした。友達から勧められたアニメにハマって、声で演技する声優さんという職業に憧れはじめ、そのうち、アニメの音楽などにも興味をもつようになって。もともと小さい頃からピアノを習ってはいたので、徐々に弾き語りのような形で自分で曲を作ったりするようになっていきました。--それでそういう学校に進んだ?
神田莉緒香:中学から高校に進学するタイミングで、音楽や声優などを目指す学校として東放学園高等専修学校、いわゆる高専に進みました。ふつうの高校にいかないということで、母親に大反対されて大変だったんですが、丁寧に自分の思いを話して理解してもらうことができました。今では母も父もとても応援してくれています。
--そういう目標が、歌に変わったきっかけは?
神田莉緒香:2年生のときに、学校の校歌をつくるという校内コンペがあり、面白そうと応募してみたところ、なんと自分が作った曲が校歌に採用されることになっちゃって、”いい曲だね”とか”歌上手いね”とたくさんの人から言われて、単純な性格なので作曲して歌うということが自分には向いているのかもしれないと、それが最初のきっかけですね。その後オーディションなど受けたりしてレコード会社の新人枠みたいなところに入れてもらいました。--神田さんといえばGoosehouseの元メンバーとして知られていますよね?
神田莉緒香:18歳のころ、Goosehouseの前身であるPlayYouHouseに参加させてもらうことになりました。シンガーソングライターが集まるシェアハウスというコンセプトのもと、カバー曲を中心にネット上で音楽をやるという企画なんですが、自分の音楽活動の経験になればと、喜んで参加しました。初期メンバーでお客さんとかもほとんどいなかったころから必死にやってきて、青春(笑)の大部分をあそこに置いてきたなと思うぐらいがんばったなって。
--続けていくうちに色々な変化があった?
神田莉緒香:並行してバンドをやっていたり、自分のライブ活動もしている中で、PlayYouHouseとしてだいたい2年ぐらい、その後、Goosehouseに変わって1年たったぐらいのころから、なんとなく各々のソロ活動のためというよりは、徐々にグループとして頑張っていこうという雰囲気になってきていて、自分の中でバランスが難しくなってきてしまいました。もう少し器用だったら違ったのかもしれないですが、いろいろ悩むことはありつつ、自分の活動をしっかりやっていきたいという思いは揺るがなかったので、わがままを言って辞めさせてもらいました。 グループが大きく盛り上がるちょっと前だったので、その後飛躍していくみんなを横目にちょっとだけ悔しい気持ちがあった時期もありましたが、今は、良いライバルとして、良い関係でお互い応援できているようになっているのではないかなと思います。全部他人のせいにして、傲慢になっていた
--グループに居続けることは、一定以上の安心感があるわけですよね。そこから神田莉緒香として活動することを選ぶのは、全ての責任をご自身で背負うことでもある?
神田莉緒香:若かったし、無知だったし自信もあったんだと思います。卒業して、最初はみんな応援してくれたし、莉緒香ちゃんがひとりでやるなら応援しなきゃって思ってくれていた人たちはたくさんいたけど、なかなか、私自身がそれに応えていけなかった。“何をしたら褒めてくれるのか、喜んでくれるのか”が先行しちゃって、相手に合わせてしまい、応えられない自分に落ち込む悪いループにハマってしまって、それでは作曲もライブもうまくいかないですよね。だんだんお客さんも減ってきちゃって、いろいろドツボにはまっていた時に、所属事務所からライブハウスでちょっとバイトでもしなさい、ということになって、自分が音楽活動をはじめた時から3年間ほぼずっと毎月出演させてもらってたストロボカフェというライブハウスでドリンク作ったりのお仕事をしばらくしてました。
最初は何も考えずに働いてたんですけど、日々いろんな人がライブを行うのをみていて、だんだんお客さんの視点で見るようになってきて、徐々に“自分のライブだったら”って考えられるようになってきました。
その頃はうまくいかないことを全部他人のせいにしたりして、きっと傲慢になっていたんですけど、そんなできごともあって一回ずどーんと落ちてから、初めて自分の悪かった部分をいろいろ受け入れられたんですよ。
その頃に書いたのが「×」って曲で、ここで初めて自分のダメな部分や弱さ、でももうちょっとがんばりたいっていう思いを曲にしたんです。
それまでは“かわいいね、元気だね”って感想ばっかりだったんですけど、この「×」では“共感できます”って感想をたくさんもらえて、まだ曲を書けるかもしれないって思えるようになってきた。自分が褒めてもらうためじゃなくて、自分が歌うことでこれだけ心を動かしてくれる人がいたんだって、きちんと自覚できた瞬間だったんです。
- 私、あらきさんに叩いてもらうために、もっとやりたい!
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私、あらきさんに叩いてもらうために、もっとやりたい!
▲YouTube「[LIVE MOVIE] 神田莉緒香「大きくて小さい世界」「炭酸ペットボトル」」
--「×」も収録されたミニアルバム『TOKYO / OSAKA』では、それまでとは一線を画するサウンドもあって、神田莉緒香のイメージを一新させるアプローチに挑んだ作品でしたよね。
神田莉緒香:ワンマンライブを東京と大阪で演ったんですけど、“これが埋まらなければ活動をお休みするかも”って宣言した中で、本当にたくさんのお客さんに観に来てもらって、なんとかSOLDOUTさせてもらえました。”会いにきてありがとう”、”今度は私がみんなに会いにいくよ”と47都道府県弾き語りツアーをやって、その年の最後に、初めての赤坂BLITZワンマンライブをしました。あの時期は濃かったなぁ……。
--全国ツアーは47都道府県全部にいったんですよね?
神田莉緒香:そうなんですよ!最初は本当につらくてつらくて、長距離移動して歌い続けていく日々に身体が追いつかなくて、家でひとりシクシク泣くっていう(笑)。でも、それが習慣になってくると段々楽しくなってきましたし、慣れてきました。何箇所か回るうちに”交通費が大変だから”とスタッフの人もついてきてくれなくなって、ひとりで鍵盤担いででかけて回ってく感じになっちゃって、こんなちっこいのがひとりでもそもそ行くからライブハウスの人も色々気を遣ってくださって、夜ご飯をご馳走してくださったり、アドバイスをしてくださったり。
全国各地の人たちに、来てもらうのではなく私から会いに行く。それは逆に自分が元気や自信をもらいにいっているような気がしてきて、大きな糧になりましたね。そのツアーを経て何か1曲書けたらと作ったのが、ベスト盤『いつだってベスト!』に収録した「I sing」だったんです。
--そして昨年リリースしたアルバム『大きくて小さい世界』からは、セルフプロデュースにも挑戦しています。
神田莉緒香:1回目のBLITZが終わった翌年の春から、もっと自分を出していくようにと、ライブでも制作でも自分でやらないといけないことが一気に増えました。BLITZではじめてドラムのあらきゆうこさんに叩いていただいたんですけど、本当にすばらしくて“私、あらきさんに叩いてもらうために、もっとやりたい!”って密かに思っていたら、あらきさんのほうから“莉緒香ちゃんの音楽は自分にはすごくハマっていると思うから、私にできることならなんでも協力するから”っていう最高に嬉しい言葉をもらって、今思えばミュージシャンの人からそういうことを言ってもらったのは初めてだったような気がするんですよ。
それから春のライブでは、あらきさんの先輩にあたるベースの種子田さんも参加してくださって、“す、すごい人たちが揃った……。ピンチ!”みたいな(笑)。光栄なんだけど、怒られたらどうしよう!?とか色々考えたんですけど実際は全然違いました。
長い時間をかけて積み上げてきたからこそ、今は揺るがない
神田莉緒香:おふたりは私がやりたいと思っていることをどんどん引き出してくれる。専門的な言葉はわからないので、アクションとか擬音も交えながらどうにかこうにか説明すると、おふたりはそれをさっと汲み取ってくださるんです。もちろん色んな現場の経験がある方々だから当然なのかもしれないですけど、私のリクエストが変なら、“こっちの方がもっとかっこいいよ”って教えてくれる。 今まではこうしたいのになって思うことがあっても、それをなかなか伝えられず黙ってしまっていたんだけど、自信ももてたし、やっちゃっていいんだなって思いました。それからは少しづつ自分で表現したいことを出していけるようになって、そうやって作れたのが前作のフルアルバム『大きくて小さい世界』だったんです。だからあの作品はちょっと特別で、大きな自信になりました。 そういうことが活動の最初からできていたらもっと変わっていたのかもしれないですけど、それだけ長い時間をかけて積み上げてきたからこそ、今は揺るがない。だから嘘じゃないし、今は作品を作ることがすごく楽しいんですよ。誰かに褒めてもらうためじゃなくて、私がやりたいことだって思えるようになった。
--普通はまず自分のやりたいようにやったところが評価されて、周囲の期待に合わせていく流れが多いと思うのですが、神田さんは真逆だったんですね。
神田莉緒香:きっとそうなんです。もちろんあのころの作品も好きだし今もライブで歌いますし、それがあっての今だと思いますけど、CDデビューからはや5年目……。だいぶ出遅れているのでがんばって取り戻していきたいです。--前作『大きくて小さい世界』はピアノ・ロックを基調に、伸び伸びと表現された作品でしたが、本作のサウンドアプローチはまた違いますね。
神田莉緒香:『大きくて小さい世界』が2016年の神田莉緒香がやりたかったことを詰め込んだアルバムならば、『ACCELERATOR』はこれから神田莉緒香がやってみたい、挑戦してみたい5曲になったと思うんですよね。新レーベルで新たに放つ最新作
▲YouTube「[MV] MOONSHOT 神田莉緒香 short ver.」
基本的に楽器4人でせーので同録するんです。めっちゃ緊張するのですけどほんとに楽しんでやれてます。
長く支えてきてくれた方々がいて、その上で、徐々に参加してくださる方が増えていって、最強のミュージシャン仲間ができて、かつそういったチームとしての形を尊重してくれるユニバーサルGEARというレーベルに出会った。そうして完成したのが、今回の『ACCELERATOR』です。
--神田さんの音楽作品は声が近いところで鳴るようにアレンジされています。個人的にはaikoさんの作風にも近いのかな、と思ったのですが。
神田莉緒香:わ!ありがとうございます!そんな畏れ多すぎですし、恐縮です!aikoさんは私の憧れの人なので、もし少しでもそう思ってくれたのなら大変嬉しいです。私の制作スタッフはいろいろ厳しくて、基本的に歌をほとんどコンピューター的なもので直してくれなかったんです。基本的にダメなら歌い直し。そうしているうちにちょっと、きちんと歌うことを重視しすぎちゃうようになってしまったのかもしれないです。
去年ぐらいから“神田さんはライブでの声の方がかっこいいよね”っていわれることが多くなってきて、自分ではちょっとわからないこともありつつ、やっぱりCDだと、どこかで”綺麗に歌いたい”、”上手だって思われたい、みたいな気持ちは捨てきれないところがあって。そこは当然こだわってきた部分でもあるんですけど、生きている感じがするか否か。今回はそんなLIVE感みたいなのを大事にして歌ってみました。
--今作で言えばM-02「FULL-DRIVE」などは、まさにそれが必要な曲ですよね。
神田莉緒香:そうそうそうなんですよ! 神田莉緒香が作って歌う意味。どういうものが聴きたいかを考えたときに、もっと歌が生きてないといけない。演奏とのギャップが生まれるというか、生演奏で熱いものを弾いてくださいっているからこそ、今回はライブ感にこだわったかもしれないですね。レコーディング中も“私、死んでないですか!? 生きてますか!? ライブ感は!?”って(笑)。何なんでしょうね? Mっ気があるのかな(笑)
--M-05「I'm home」では特徴的な節回しを披露しています。そういう技術もあるし、「FULL-DRIVE」やM-01「MOONSHOT」のようにライブ感を重視した曲にもトライできる。これが両立しているところが神田さんの凄味だと思います。
神田莉緒香:嬉しいです!今作の中ではM-04「希望的観測」が一番今までの神田莉緒香に近いと思っていて、お客さんからもこの曲が好きっていう意見が多かったりするんですよ。この曲の安心感があるからこそ、他の曲でチャレンジできたところもありますし、面白いバランスになったと思います。--M03「ゆりかご」はピアノ伴奏による弾き語りの楽曲ですが、より大きな愛を感じさせます。
神田莉緒香:今作の真ん中にこの曲を収録したんですけど、今作は5曲の間でファンタジーと現実を行き来する形になっていて、ループしているんですよ。歌詞の世界観も自分の好きなもので書けたし、選ぶ言葉での挑戦もできましたし、やってみたいことを並べていった結果がこの作品だから、面白い制作ができたなって。濃すぎて覚えてないくらい、あっという間でした。--言葉だけじゃなく、メロディだけじゃなく、サウンドまで挑戦する。ミュージシャンとしての成長を感じさせる本作が『ACCELERATOR』と名付けられたことにも納得ができました。
神田莉緒香:25歳になったとか、ユニバーサルGEARさんと一緒にやるとか、色んなものが変わっていく中で、自分がもっともっとがんばらないといけない。曲作りもライブも進化していくスピードを加速させたい。その速度でもっと色んな人たちを巻き込んでいきたい。もっと先に行きたいし、そこで留まってちゃダメだよ!っていうちょっとした挑発心も込めてます。……やっぱり優しいんですよね、お客さんは。いつも見守ってくれる。でも、それに甘えてちゃいけないし、見守ってるだけだったら視界から消えちゃうくらいのスピード感がある人になりたいなって。
--そうやってまた渦中に飛び込んでいくのですね。
神田莉緒香:何なんでしょうね? Mっ気があるのかな(笑)。--そうやって加速させていって、どのようなミュージシャンを目指しているのでしょうか。
神田莉緒香:最初は苦手で、うまく表現できなかったライブが今は私の活動の中心になってます。ものすごい緊張するんだけど、そして終わればものすごい反省するんだけど、ライブの瞬間だけは無敵でいられる。ライブのときだけは、ライブの瞬間だけは本当解放されていて、幸せで満ち溢れてます!ファンと一緒に作っていくライブというのが私が私であるための大切な時間だなって思ってるんです。「何万人のライブでも小さなライブでもお客さんとアーティストは1対1なんだ。」「それがたくさん集合して1つのライブになるんだ」というお話を昔スタッフから教えてもらって、最初はわからなかったんですけど、最近徐々にわかるようになってきて、そのことをずっと心がけていこうと思っています。
大きな会場でライブをすることは、もちろん大目標なんだけど、小さいライブも含め、常に1対1だと思って丁寧にやっていきたいです。 ファンの方とふれあうことがとても好きなので、ネット放送などをしてみんなと時間を共有したり、一緒に成長していきたいという気持ちが強いです。1対1をたくさん集めて、大きなところで、ファンと自分たちが歩んできた道が間違ってないってことを証明したないと思ってます。
まずは3度目となる11月1日の赤坂BLITZ。そして憧れであるZepp Tokyo。もちろん武道館にも行きたいと思ってます。
◎公演情報
【神田莉緒香 PRIMAL ACCELERATION TOUR 関東ライブハウスツアー 2017】
6月17日(土) 埼玉 西川口Hearts共演:Chelsy、immortal noctiluca
6月25日(日) 神奈川 横浜baysis
共演:あんにゅ(コアラモード.)、Chelsy、美波(オープニングアクト)
6月30日(金) 千葉 柏PALOOZA
共演:LIFriends、赤と嘘
7月7日(金) 栃木 宇都宮HEAVEN’S ROCK
共演:鶴、クアイフ
8月1日(火) 東京 渋谷STAR LOUNGE
共演:クアイフ、Lily's Blow
【2017.11.1 KANDAFUL WORLD Vol.8】
11月1日(水) 東京 赤坂BLITZ※ワンマンライブ
アーティスト写真
ACCELERATOR
2017/06/07 RELEASE
POCS-1595 ¥ 2,037(税込)
Disc01
- 01.MOONSHOT
- 02.FULL-DRIVE
- 03.ゆりかご
- 04.希望的観測
- 05.I’m home
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