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ジョン・メイヤー最新作『ザ・サーチ・フォー・エヴリシング』発売記念特集
天才ギタリストにして稀代のシンガー・ソングライター、ジョン・メイヤーが2017年4月14日に約3年半ぶりの通算7作目のニュー・アルバム『ザ・サーチ・フォー・エヴリシング』をリリース。本国に続き国内盤も4月26日 に発売された。全米 2 位を記録した前作『パラダイス・バレー』以来のフル・アルバムとなる新作は、ロック、 R&B、ソウル、ポップス、カント リー等、ジョンがこれまで出会ってきたすべての音楽のエッセンスを昇華させた作品となっている。この最新作リリースを記念し、今作の国内盤ライナーノーツを担当した赤尾美香氏にジョン・メイヤーの軌跡を振り返りながら、各楽曲について徹底解説してもらった。
“The endless search for everything(尽きることのない探究)”
恋ダンスならぬ、ゆるい不思議ダンスを、パンダの着ぐるみを従えて披露するジョン・メイヤーの姿、もうご覧になっただろうか? 新作『ザ・サーチ・フォー・エヴリシング』からの「スティル・フィール・ライク・ユア・マン」のPVは、ジョン本人曰く“ディスコ・ドージョー(道場)”を舞台に、『キル・ビル』的とも『ウルヴァリン:SAMURAI』的とも、あるいは『ゴースト・イン・ザ・シェル』的とも言えそうな、何かが違う(苦笑)日本文化フィーチュアのカラフル映像がシュールだ。笑えるような、笑えないようなそのPVは、失った恋への未練を綴った歌詞の重さを軽減し、未練がましい自分を笑い飛ばしたいという思いに駆られているかのようにも見受けられた。
▲John Mayer - Still Feel Like Your Man
今や“現代の3大ギタリスト”にも名を連ねるジョン・メイヤー。いや、もしかしたらジョンの登場によって、“現代の3大ギタリスト”なる括りが生まれたと言ってもいいかもしれない。来日公演ともなれば、クラプトンやジェフ・ベックを信奉するうるさ型のギター愛好者も巻き込んで盛り上がりを見せるが、彼の真骨頂は、そのギター・テクニックやアイディアをアピールするだけをよしとはしない、楽曲重視のソングライティング・センスや、艶っぽさのあるスモーキー・ヴォイスで細やかな情感をつぶさに表現する歌唱にもある。
1977年に米コネチカット州で生まれたジョンは、スティーヴィー・レイ・ヴォーンに感化されてギターに目覚めた。19歳で名門バークレー音楽院に入学するも、数ヵ月で退学しアトランタに移住して音楽活動を本格化。2001年、音楽見本市《SXSW》出演の後、レコード契約を獲得し、同年『ルーム・フォー・スクエア』でデビュー。同作は全世界で400万枚以上を売り上げ、収録曲「Your Body Is a Wonderland」ではグラミー賞の最優秀ポップ・ヴォーカル・パフォーマンスを受賞した(これを皮切りに現在までにグラミー賞は7冠獲得)。
▲John Mayer - Your Body Is A Wonderland (Live at The Grammy's)
続いて03年にはセカンド作『ヘヴィアー・シングス』、06年にはサード作『コンティニュアム』とコンスタントにリリース、09年の4作目『バトル・スタディード』では、遂に自身初の全米チャート初登場1位を達成した。
11年と12年には2度にわたり、歌手生命に影響しかねない喉の肉芽腫の手術でファンを心配させもした。が、無事に完治、12年に発表した5作目『ボーン・アンド・レイズド』では、ボブ・ディラン、CSN&Yなどからの影響濃いフォーキーなアメリカーナ・サウンドにチャレンジ。この音楽的アプローチは、ジョンがロサンゼルスからモンタナ州に居を移したことも影響している。翌13年には前作の路線を踏襲した6作目『パラダイス・バレー』を発表した。
高校時代、短期交換留学で日本にホームステイした経験があり、トップスターになってからもプライヴェイトで何度か日本を訪れる(1ヶ月滞在したことも)など親日家としても知られるジョンだが、そんな彼はまた、恋多き男として国内外のゴシップ誌を賑わせることもしばしば。ジェニファー・アニストン、ジェシカ・シンプソン、テイラー・スウィフト、ケイティ・ペリーらがそのお相手として挙げられるが、とりわけ、破局と復縁を繰り返しながら2年ほど交際したケイティ・ペリーとの関係は、ジョンにとって特別なものだったそうで、新作『ザ・サーチ・フォー・エヴリシング』は、そのケイティとの別離による失恋心を封じ込めた作品であることを、彼は隠さない。初めて自分の思いを正確に書いたと話し、またその行為が、荒野に住むことを学ぶようなものだった、とも表現している。それほどまでに、彼には苦労や戸惑いが重くのしかかり、けれども時には新しい何かを見つける喜びも感じさせてくれたのではないだろうか。荒野に住むことを学ぶということは、きっとそういうことだろうと思う。
▲John Mayer - Who You Love ft. Katy Perry
アルバム・タイトルの『ザ・サーチ・フォー・エヴリシング』は、ジョンが書いた詩から取った言葉だそうだ。
「ポエムの各章の最後は“The endless search for everything(尽きることのない探究)”で終わるんだけど、その“Search For Everything”というフレーズが気に入ったんだ。まさにこれまでの僕のキャリアや人生を物語っていると思ったし、自分の心の動きも表しているし、すべてについて言えることだと思った。それに新作の本質についても言えることだなって。新作はこれまで僕がインスピレーションを受けた音楽や、これまで僕がやってきたいろいろなスタイルの音楽を集めたミックス・テープのようなものになる。しかも僕のやり方でね」と語る彼はまた、本作が“これまで彼自身が作り上げてきたもの”によって出来上がっているのだと強調する。
「成熟したアーティストを表現するには、“自分自身の曲を拝借して曲を作る”という表現がぴったりだと思う。それがこれまでの作品と今作との違いだね」。
では、1曲ずつを見ていくことにしよう。
最新作『ザ・サーチ・フォー・エヴリシング』徹底解説
1. Still Feel Like Your Man
ミニマルで軽やかなムードのR&Bナンバー。サウンドは心地よいが、歌詞は呆れるほどに未練がましい。別れた彼女のシャンプーが捨てられない男性のロマンチストぶりときたら!「シャンプーのくだりの歌詞は、本当に悲惨だよね」と本人も苦笑い。
▲John Mayer Performs "Still Feel Like Your Man"
2. Emoji Of A Wave
もともと「ビーチ・ボーイズっぽい曲だなぁ」と思っていたところ、スタジオで偶然アル&マット・ジャーディン親子(父アルはビーチ・ボーイズのメンバー。親子はブライアン・ウィルソンのソロ名義ツアーにも帯同)に出くわし、参加してもらったという。 レコーディングするのが難しかった、ともジョンは語っている。“エモジ”は“絵文字”のこと。海外でもEmojiで通用する。
▲John Mayer - Emoji of a Wave (Audio)
3. Helpless
ジョン・メイヤー・トリオのメンバーであり、本作に全面参加しているピノ・パラディーノ(b)、スティーヴ・ジョーダン(ds)とライブ録音した数曲のうちの1曲。「70年代後期から80年代初期のストーンズを思わせるような曲だよね」とジョン。キレのいいギターのカッティングとリズム、メロディアスなサビの展開は、初期のジョン・メイヤー作品も彷彿とさせる。
▲John Mayer - Helpless (Audio)
4. Love On The Weekend
ジョン曰く、レコーディングするのが楽しかった曲。ギター、ピアノそしてハーモニーのアンサンブルが、ドリーミーな趣を醸し出すポップ・バラード。ロサンゼルスに住む恋人たちの週末の逃避行(近場の素敵なリゾート・ホテルなどに行く)を題材にしており、「独り者の僕は、そういう小洒落た旅ができないのが悔しい」とジョン。悲しみに暮れている曲ばかりが並ぶ中、この曲だけは、何かの始まり、新たな関係の訪れを思わせるのだとも語っている。
▲John Mayer - Love on the Weekend (Audio)
5. In The Blood
名手グレッグ・リーズがラップ・スチールを聴かせ、シェリル・クロウがゲスト・シンガーに迎えられた、カントリー・テイストのスロー・チューン。タイトルが示す通り、父や母にまで遡り恋愛DNA!?に言及する。
▲John Mayer - In the Blood (Audio)
6. Changing
ジョンが、本作の“精神的な支柱”と説明する曲で、キーとなるメロディはスタジオで不意に降りてきたという。シンプルなメロディの繰り返しと、間奏のギター・ソロがとても印象的。主人公は失意のうちにいるけれど、それでも頭を垂れて泣いているだけではないのが、いい。
▲John Mayer - Changing (Audio)
7. Theme From ‘The Search For Everything’
タイトル・トラック(と言っていいだろう)は、インストゥルメンタルとハミングで構成された小曲。控えめな存在感が、アルバム中盤のアクセントに。
▲John Mayer - Theme from "The Search for Everything" (Audio)
8. Moving On And Getting Over
本作製作初期、2014年春に書いた曲で、「Still Feel Like Your Man」と、“いとこの関係”に位置付けられている曲。失恋の曲だが、最後には前を見て進もうとする。2本のギターによるアンサンブルはグレイトフル・デッドから学んだものだという。近年ジョンは、グレイトフル・デッドのボブ・ウィアらとともにスピンオフ・プロジェクト=デッド&カンパニーに参加しており、その影響が出るのは必然か。ジョンは、アルバムよりもさらにライブで影響が出るだろうと話している。
▲John Mayer Performs 'Moving On and Getting Over'!
9. Never On The Day You Leave
アルバム製作初期に書いた曲で、失恋アルバムの礎となった曲の一つ。やはり別れた彼女への未練や、別れたことへの後悔、懐かしく思い出すシーンの一つ一つがリアルに描かれる穏やかなスロー・バラード。
▲John Mayer - Never on the Day You Leave (Audio)
10. Rosie
洗練味のあるギター・サウンドやエレガントなホーン使いが、心地よい装いを見せるAOR風のナンバー。けれども、まだ忘れられない恋人を想い、すがるような想いを吐露する歌詞は痛々しい。マーク・エリゾンド(b)は、ドクター・ドレーやエミネムからフィオナ・アップルなどとも仕事をしている腕利き。
▲John Mayer - Rosie (Audio)
11. Roll It On Home
自分の好きな相手が、親友を好きだったのがわかり落胆する主人公のやるせなさと、そこから脱しようと奮闘する思いが切ない。そんなストーリーを、爽やかな風が吹き抜けていくカントリー調で料理。印象的なペダル・スティールを奏でるのは「In The Blood」同様グレッグ・リーズ。この曲を含め、本作に全面参加しているラリー・ゴールディングス(key)は、ポール・サイモンやスティーヴ・ガッド、メイシオ・パーカーらから絶大な信頼を寄せられるオルガン奏者だ。
▲John Mayer - Roll It on Home (Audio)
12.You’re Gonna Live Forever In Me
ノスタルジックなエモーションを喚起するピアノ・バラード。「とても赤裸々で、不安な気持ちになる唯一の曲だ」と話すジョンは、「シンガーとして初めて、どのように歌うかを計算せず、感情の赴くままに歌った」そうだ。とめどなく溢れる思いを吐露した歌詞は、別れた彼女の気持ちになると少しばかり怖いが、曲の美しさは格別。ジョンは、この曲を聴くたびに、同じ部屋にいる自分と出会い、その周囲を散歩しているような気分になると言う。
▲John Mayer - You're Gonna Live Forever in Me (Audio)
今年10月に40歳になるジョン。最近のインタビューでは、「その時には、誰かが隣にいてほしい」と素直に語っているのが、あまりに正直で切実で、同情せざるをえない。失恋ソングが大好物の筆者ではあるが、ひとまずここは、ジョンの幸せな誕生日を願うことにしよう。
ザ・サーチ・フォー・エヴリシング
2017/04/26 RELEASE
SICP-5193 ¥ 2,640(税込)
Disc01
- 01.スティル・フィール・ライク・ユア・マン
- 02.エモジ・オブ・ア・ウェイヴ
- 03.ヘルプレス
- 04.ラヴ・オン・ザ・ウィークエンド
- 05.イン・ザ・ブラッド
- 06.チェンジング
- 07.テーマ・フロム “ザ・サーチ・フォー・エヴリシング”
- 08.ムーヴィング・オン・アンド・ゲッティング・オーヴァー
- 09.ネヴァー・オン・ザ・デイ・ユー・リーヴ
- 10.ロージー
- 11.ロール・イット・オン・ホーム
- 12.ユーアー・ゴナ・リヴ・フォーエヴァー・イン・ミー
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