Special
大塚 愛『LOVE HONEY』インタビュー
歌うことの楽しさも取り戻した大塚 愛による、待望の新アルバム『LOVE HONEY』完成。
サバイバル化が進む音楽シーンにおける彼女の生き方。そして本音と夢。
「歌えるって素晴らしい!」みたいな感覚になって。「私」の存在も大きかった。
--シングル『私』リリースタイミングのインタビュー(http://bit.ly/2nD1K7d)以来2ヶ月ぶりとなりますが、この間にはビルボードライブでのピアノ弾き語りライブ【AIO PIANO vol.4】がありましたね。僕も拝見させて頂いたのですが……
大塚 愛 ai otsuka feat. Lyric speaker / スターターピストル
--本当に観ましたよ(笑)。本人的にはどんなライブになったと感じていますか?
大塚 愛:疲れました。なんかすごい疲れたんですよね~。【AIO PIANO】自体が4回目ということもあって「そろそろちゃんとしなきゃいけない」気分だったんですよね。その肩に力入る感じがすごく疲れた。あと「2daysなんて無理だよ」と言っていたんですけど、やっぱり無理だった。--大塚さん、今のところ愚痴しか言ってませんよ(笑)?
大塚 愛:無理だった! 疲れちゃった! 弾き語りって1曲1曲が本当に……「1曲やって死んで、また生き返って1曲やって死んで」みたいな感じなんですよ。一気入魂? 一発入魂?--一球入魂。
大塚 愛:あー、それ! ハハハハハ! だからすごく疲れちゃって。--今までの【AIO PIANO】はリラックスしてやれたけど、今回はそれだけ神経を研ぎ澄まして臨んだということですよね?
大塚 愛:1,2回目はまだ「どうなるんだろう?」というワクワクした気持ちがあって、例えば「次はこうやってみよう」とか新鮮な気持ちを引きずったまま出来るんですけど、4回目って「そろそろちゃんとしないと本当に怒られそうだな」という……--そのわりにはビルボードライブ東京から見えるスケートリンクの実況したりとか、だいぶ砕けた感じもありましたよね(笑)。
大塚 愛:そこに癒しを求めてました。スケートリンクの「なんでみんなあんなにグルグルグルグル回ってるんだろう」という情景が緊張感を崩してくれた(笑)。--でも本当に一球入魂の連続でしたよね。「Cherish」があれば「LOVE LETTER」もあって、おでんみたいな夫婦をピアノソロで描いたと思えば、安藤裕子さんに提供した「Touch me when the world ends」も自ら歌って涙を誘い、新曲「私」も弾き語りで。前回のインタビュー(http://bit.ly/2nD1K7d)で「歌う」ことに対して懐疑的になっていると仰っていましたが、あの日のライブは「歌う」ことに思いっきり挑んでいっているようにも感じ取れました。
大塚 愛:その【AIO PIANO vol.4】の後にたしか体調を崩したんですよね。それで「しんどいなぁ」と思っていて、そこから無理矢理体調を回復した先に歌うことがあったんですけど、しばらく歌っていなかったことで気持ちも回復していたみたいで、久しぶりに歌ったときに「ちょっと楽しい」って思えたんです。--そうなると【AIO PIANO vol.4】は「歌う」ことに対して懐疑的だったフェーズの最後のライブになる訳ですが、そこで安藤裕子さんに提供した「Touch me when the world ends」を歌ったことが意外でした。言うならば、大塚さんが「私、なんで歌ってるんだっけ?」と思ったきっかけの曲でもあった訳じゃないですか。
大塚 愛:あのライブではトミタ栞ちゃんに提供した曲も歌ったんですけど、栞ちゃんに提供した曲は歌詞も私が手掛けてるから、100%自分と繋がってる感があって。でも安藤さんに提供した曲は歌詞を書いてもらってるから、なんとなく……「互いの血を分け合った」みたいな。べったりと云うよりは、半分繋がってないんだけど半分繋がってる感じ。その謎のハーフ感があって、逆に歌うのが楽しかったというか、自分の曲じゃないんだけど、自分の曲を歌っているような……カバーとオリジナルの中間みたいな、五分五分な気持ちで歌えたことが面白かった。ただ、安藤裕子のモノマネにはならないよう気をつけました(笑)。どうしても彼女のイメージがあるから引っ張られそうになるんですよね。--自分はあの日の「Touch me when the world ends」に涙しました。
大塚 愛:本当ですか? タマネギ食べたんですか?--食べてません(笑)。あと、おでんみたいな夫婦をイメージしたというインストナンバーも印象的でした。
大塚 愛:あの曲は……1,2年前に作っていたものがあって。で、なんとなく【AIO PIANO】で前年からインストの曲を披露するようになって、その流れで今回はすでに作っていた素材を使いつつ、人に聴かせる形に仕上げるときに「おでんみたいな夫婦」をテーマにしようと思ったんです。--そもそもなんでインストに手を出そうと思ったんですか?
大塚 愛:元々サントラが好きで「サントラやりたいなぁ」というところから……せっかく【AIO PIANO】ではひとりでピアノ弾いているし、それで歌が好きじゃないんだったら「うってつけだ」と思って!--もう「歌が好きじゃない」モードではないんですよね!?
大塚 愛:そうですね(笑)。具合が悪くなって歌えない期間があると「健康って素晴らしい!」みたいな感じで「歌えるって素晴らしい!」みたいな感覚になって。あと、2月にシングルリリースした「私」(ドラマ木曜劇場『嫌われる勇気』主題歌)という曲の存在も大きかったです。去年バタバタと作っていたから自分の中で消化する前に提出しなきゃいけなくて、良いか悪いか分からないまんま、不安なまんま過ごしていたんですけど、その曲に自分の背中を押される瞬間があって。そのときに「良い曲だな」と思って「あー、よかった」みたいな。--「私」のどんなところに背中を押されたんですか?
大塚 愛:ドラマ『嫌われる勇気』が最終回に向かっていくにあたって、主人公にどういうことがあったかとか、自分が知らないで曲を書いていた部分がだんだん露わになってきて、私が想像で書いていた部分が「実際に合っていたかどうか」答え合わせをしていくことになったときに、なんとなく「あ、合ってたんだな」ということから「私は彼女の生き方に教えてもらうこともあった」と気付いたというか……--「私」に彼女の生き方が重なり合って戻ってきた?
大塚 愛:重なり合って、私に教えてくれた感があった。--不思議な体験ですね。
大塚 愛:そうですね。--では、前回のインタビュー(http://bit.ly/2nD1K7d)で言っていた「歌わない」とか「転職する」みたいな気持ちにはもうならない?
大塚 愛:いや、今、駐車場経営をしようと思って土地探してます。--え、駐車場経営を目指すことにしたんですか?
大塚 愛:そうですね!一同:(爆笑)
--前回は「転職する」と言っても具体案はなかったですけど、ひとつ候補が出てきちゃってるじゃないですか(笑)。
大塚 愛:やっぱり駐車場経営がいちばんイケてるんじゃないかと思って。--どのあたりに魅力を感じたんでしょう?
大塚 愛:アハハハハ! えーっと、まず私が表に出なくていい。--まぁ任せておけばいいですからね。何なら無人でもOKですからね。
大塚 愛:そこがやっぱり……魅力(笑)?--その間、大塚さんは何やってるんですか?
大塚 愛:そうですねぇ……映画観ようかな?--凄いですね。これだけいろんなものを生み出してきた人が、途端に何も生み出さなくなる(笑)。
大塚 愛:でも最近、自分がピアノを弾いて、子供たちが歌うっていう。そんなことがあったりすると、自分が弾いたものに対して誰かが歌ってくれるのって「ちょっと幸せだな」と思ったりなんかして。それは安藤裕子さんのライブ(http://bit.ly/2kRFjc4)に出たときの話と繋がるんですけど、その形はやっぱり楽しいんですよね。だから……やっぱり歌わなくていいのかなぁ?--また振り出しに戻った! 自分でも歌って、それもやればいいじゃないですか!
大塚 愛:でも「子供たちにピアノを教えるのも面白いな」と思ってしまって。--ピアノの先生の言うこと聞かずに生きてきた大塚さんが?
大塚 愛:楽譜読めないのにどうやって教えるんだろう(笑)。--でも自分のピアノで誰かに歌ってもらうのが楽しいんですね。
大塚 愛:やっぱりすごく楽しい。それもあって「音楽がすごく好きだなぁ」というところには今います。--ちなみに、安藤裕子さんのときみたいに「私のこういう曲をこの人に歌ってほしい」と思う人って今いるんですか?
大塚 愛:既存の曲は自分で歌っちゃってるんでアレなんですけど、数日前にふと平原綾香さんから「「サクラハラハラ」良かったよ」ってメールが来て。それで「じゃあ、あーやさ、私の曲、今度歌ってね」と言ったら「ぜひ歌いたい」と言ってくれたんで、「じゃあ、朝ドラで」って返しました。--朝ドラの主題歌ってこと?
大塚 愛:そうそう!--条件付き(笑)。
大塚 愛:「朝ドラの主題歌、獲ってきて」って。なんかピッタリいったんですよ!「あ、あ、これだったらイケる! 朝ドラなら作れる」って(笑)。--そんな中、大塚さん自身のアルバム『LOVE HONEY』がリリースされます。ここに至るまで紆余曲折ありましたが、無事に8枚目のアルバムを完成させられたことにはどんな感慨を持たれていますか?
大塚 愛:「やっと8枚目か」って。周りのアーティストさんを見ると「私、遅いのかな」って……ま、人それぞれのペースだからアレなんですけど、私も5枚目まではポンポンポンって出してきて、でも6枚目から結構じっくりじっくり作るようになってきて。だから「あ、やっと8枚目まで来た」って思いましたね。- 同じものを「好き」と言ってくれた……ちょっとおかしな人たち(笑)
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リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
同じものを「好き」と言ってくれた……ちょっとおかしな人たち(笑)
--今回の『LOVE HONEY』は、大塚さんの中ではどんな作品を目指したんでしょう?
大塚 愛 ai otsuka / 8th ALBUM「LOVE HONEY」
--具体的に言うと?
大塚 愛:まず格好良い風な曲が入っていたり、自分の歌い方の幅も広がったし、自分が今までに「好きだな」と思ったものの立ち位置を明確にした感じがする。自分の「好き」というものをハッキリと出した楽曲が並んでるなって。--「好きなものを目指そう」という考えが大前提としてあった?
大塚 愛:そうですね。もう1回音楽と向き合うにあたって“自分”というものを認める作業が必要だったというか、自分のことを好きにならないとアーティスト生命も危うくなるところだったので……--ということは、一度終わりかけた自覚があるということですよね。どんなところにそれを感じたんですか?
大塚 愛:自分の曲が流れたときに「イヤ!」って耳を塞いじゃう感じ。そうなると精神的に難しいというか……--どうやってそこから立ち直っていったんですか?
大塚 愛:そこを「ちょっとずつ修正していこう」っていうのが第二部の……そこでちゃんとお客さんに「良いね」と思ってもらえるものと整合する……ところがきっとゴールなんですよね。--そのゴールはなんとなく見えてはいるんですか?
大塚 愛:いやぁ~、どうでしょう? 自分が好きなものの中で認めてもらえるものがあったら、すごく素晴らしいなとは思ってますけど。--「さくらんぼ2」や「プラネタリウム2」ではなく『LOVE HONEY』がそうなればいいなという話ですよね。
大塚 愛:そうですね。--そうなる手応えは『LOVE HONEY』にある?
大塚 愛:自分的には好きだから作ってるんですけど、それが「誰に刺さるのか?」という話になると、もしかしたら少人数かもしれないし、もしかしたら何かのきっかけでたまたま刺さる人もいるかもしれないし、それこそ話題性とかタイアップとかで偶然が偶然を呼んで……みたいな。だから何とも言えないところはある。けど、ここを通らずして次はないなと思ってます。--では、9枚目のアルバムはもうイメージできている?
大塚 愛:どうなんでしょう? そこは敢えてグレーにはしてあるんです。--そこは何がどうなったらどう転がっていくものなんでしょう?
大塚 愛:私が駐車場経営になったら……--そうなったら今の話ぜんぶ無駄ですよ(笑)。
大塚 愛:ハハハハハ!--何の意味も成さない話になる。
大塚 愛:でも状況はどんどん変わるじゃないですか。これからどういう環境で音楽を作ることになるのか分からないし、元々不透明な仕事ではあるし。--音楽の内容がどうであれ、アルバムを出すこと自体も意味が問われるというか、そもそも「それ、必要なの?」と言われかねない時代に突入してますからね。
大塚 愛:そうですよね。--それでもアルバムを出していきたい想いは、大塚さんの中にある?
大塚 愛:うーん……そこに関しても何とも言えないというか、自分が主になるのか、楽曲提供が主になるのか、今はちょっと不透明にしてあるので。--なるほど。でも不透明にする理由は分かる気がします。前回や今回のインタビューに一貫して出てきている話って、実は大塚さんが破天荒にアレコレ言ってるだけじゃなくて、音楽シーン全体の課題ですもんね。それこそ何かのイベントやトレンドやタイアップの為の楽曲提供は求められ続けると思うんですけど、アーティストが主となって自分の発信したいものを作品化していく。それを求められる人はどんどん絞られているから必然的にサバイバルになるじゃないですか。
大塚 愛:私、多分、サバイバルゲームになったら一番に死んじゃう(笑)。--大塚さんはどう考えても最後まで生き残るタイプですよ(笑)。
大塚 愛:ドッジボールは生き残るタイプでしたけど。--飄々とボールをかわし続けそう。
大塚 愛:逃げ続けてボールを取らないタイプ(笑)。戦うのがあんまり好きじゃないんですよね。だったらスタッフ側にまわってしまう気がします。--でも大塚 愛はブランドでもあるじゃないですか。
大塚 愛:いや、私みたいな小型犬は……--犬は小型犬のほうが人気ありますから(笑)。犬の話はともかく、大塚 愛の名のもとに発信される音楽、大塚 愛の名のもとに開催されるライブ、それを求めるファンは日本中にいる訳じゃないですか。それに、大塚さんにはファンに対する想いが確実にあるじゃないですか。実際、ファンのことはどう思ってるんですか?
大塚 愛:どちらかと言うと、同じものを「好き」と言ってくれた……ちょっとおかしな人たち(笑)。私と同じものが好きな人がいるなんて凄い、素晴らしく良い人たちなんだなって思います。そういう感覚はありますけど、その人たちの為に!とか そんな押し付けがましい感じは一切なくて。かと言って感謝がない訳でもないし……だから今後を自分の中で描いてしまうと、柔軟性が持てなくなるんじゃないかなって。凄い荒波らしいから如何様にも漂えるようにしておきたい。何か決めると、どうしてもその通りにならなかったときにダメージを受けるじゃないですか。だから流れゆくままに。--かつてはシナリオを作って、それを遂行していくアーティスト人生だった訳じゃないですか。それこそデビューから5枚目のアルバムまでは。でも今話してくれているスタンスはそれの真逆ですよね。そうなると、当然ながら不安要素も増えるのでは?
大塚 愛:そうですよね。でもなんか「これが歳を重ねるということなのかな」って。若い頃はやっぱり理想があって「こうやっていかなきゃ、こうやっていきたい」とか……それが希望や夢だったりするんだろうけど、もう今年アラフォーになる私としては、現実をちゃんと生きる大人になってしまったゆえ、時代も音楽の市場も変わっているから柔軟に受け入れていかないと、普通にクリエーターとして音楽を純粋に愛する人として、この時代を生きていくのはちょっと難しいというか、気分が落ち込みすぎてしょうがない。となったときにこの大人の法則を使ったほうがメンタルも保てるのかなって。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
中島みゆきさんの「糸」みたいな名曲は生み落としたい
--僕もアラフォーというか、今年で40になるんですけど……
大塚 愛:あれ、まだ40ですか? 凄い長い付き合いな気がするけど。--それだけ出逢ったときはまだ若かったんですよ。
大塚 愛:そうなんですか! 全然変わらないからずっと37のイメージ。--ずっと37は人間として有り得ないし、生命体として有り得ない。
大塚 愛:ハハハハハ! 永遠の37歳。--いや、だから「大人の法則を使ったほうがいい」話はよく分かりますよ。
大塚 愛:そうなんですよね。最近、老後のこと考えますもん(笑)。この歳で未来のことを考えると「もう老後なんだ!」って。「私、60歳になったときに音楽やってるのかな?」とか、そこから逆算していろいろ描いていかないと……「どんなおばあちゃんになるんだろう? あれ、ゴールが「どんなおばあちゃんになるんだろう?」ってなってる! 計画がすごく立てにくい!」ってなる。--こういうおばあちゃんになる為に今何をするべきか?
一同:(笑)
大塚 愛:難しい! ……でもどこかで中島みゆきさんの「糸」みたいな、どの世代にとっても、誰が歌っても「名曲」と言われる揺るがない曲は生み落としたい。それはなんとなく思っていて。だからそれやって駐車場経営かな(笑)?--いや、それやったら駐車場経営していいッスよ。
大塚 愛:アハハハハ!--僕が決めることじゃないですけど、めちゃくちゃ格好良いじゃないですか。
大塚 愛:なんか目標が駐車場経営になってる!--格好良く駐車場経営を始める為の名曲出産。
大塚 愛:どうしよう? 若い子たちの目標が駐車場経営になったら。人気職業1位。--50歳までに人生大成させて、そのあと駐車場経営やりましょう。
大塚 愛:ひとつのモデルケースになる(笑)。--でも中島みゆきさんの「糸」みたいな曲を作りたい想いはあるんですね。自分の中ではまだ「糸」ほどの名曲は生めていないんですか?
大塚 愛:やっぱり「糸」は凄いですよね。本当に歌手を選ばないというか、誰が歌っても「すごい名曲だな」と思わせる。そういう曲ってなかなかない。いろんな名曲がありますけど、大抵はやっぱり「この人が歌ったほうが一番良い」ってなるじゃないですか。でも「糸」は、もちろん中島みゆきさんが歌っているオリジナルは素晴らしいんですけど、誰が歌っても、音痴が歌ったとしても名曲になる。それは凄いなって思います。--そこに意識的に挑戦してみた曲はあるんですか?
大塚 愛:うーん…………挑戦は日々しているんですけど、なんせ山がエベレスト級で。--でも大塚さんにも日本人であれば誰もが知るヒット曲はあるじゃないですか。
大塚 愛:多分、おじいちゃんおばあちゃんは分かんないと思いますよ。「さくらんぼ」と言っても「あー、食べるほうが美味しいね~」って。--それは言うかもしれないけど(笑)、知ってると思いますよ。
大塚 愛:ある社長さんが「黄色いさくらんぼ」って言ってましたからね。「大塚さんの名曲の中で「黄色いさくらんぼ」が一番好きです」って(笑)。--昭和の名曲ですね。
大塚 愛:なので、まだまだ山は高いですね。--「糸」みたいな曲を目指すのと、今回の『LOVE HONEY』みたいなアルバムを作ることって、自分の中ではベクトルとしてはちょっと違う?
大塚 愛:違いますね。言葉がチープでイヤなんですけど、いわゆるお茶の間に向けたものと、自分を掘っていくものは違います。その中間がもしあったらすごくベストなんですけどね。自分がお茶の間に対して「あ、素晴らしいな」という向き方が出来ないと多分交わらない。ちょっとずつ向いてはいると思うんですけどね。「糸」みたいな素晴らしい名曲を作りたいとは思っているので。--今回の『LOVE HONEY』は自分の中でどういう立ち位置の作品なんですか?
大塚 愛:“母親”というものが偉大だとすると、今回の『LOVE HONEY』は“女”なんですよね。役割で言うと。要するに「糸」は“母親”なんです。母親って繋がらない人がいないというか、男の人も女の人も必ずみんな母親から生まれる。偉大なる規模の存在なんですよ。だとしたら『LOVE HONEY』は“女”。そういう立ち位置。--どうして“女”を描きたいと思ったんでしょう?
大塚 愛:女子校に通ったことはないですけど、いろんな揉め事だとか、学生時代の頃に体験していた女性の面倒くささ。「本当に女って面倒くさい!」と思っていたところから、母親になって、子供が女の子で、ママ友たちと関わって、もう1回女性と関わることが増えたときに「あ、面白い生き物だ!」という風に変わった……と言っておきます。--たまに出てきますよね、それ。「……と言っておきます」シリーズ。
大塚 愛:ハハハハハ!--でもゆえに『LOVE HONEY』なんですよね。
大塚 愛:そうですね。言葉はポッと出なんですけど、何かそこに意味を持たそうと思ったときに、その自分が置かれている状況を重ねたんです。女子との繋がりがいっぱいになってきたときに「女と女がかたまるとすんごい男になる」ことに気付いて、「なんて面白い生き物なんだ」と思ったんですよ。「-×-は+になる」みたいな。多分、女同士がかたまるととてつもなく強い。そして怖い。女性はやっぱり目的がハッキリしているし、都知事がちょうど小池百合子さんになったし、「これからは女の時代だ!」みたいな(笑)。--たしかに『LOVE HONEY』は女性らしいなと感じました。例えば【LOVE IS BORN ~13th Anniversary 2016~】@野音(http://bit.ly/2ose1Kl)でも披露していた「モノクロ」は、かつての「恋愛写真」「ポケット」にも通ずる切ないバラードになっていますが、こういう曲をまた歌いたいと思ったのは?
大塚 愛:いろんな女性と喋っている中で「やっぱり上書き恋愛なんだな」と思ったんです。どんどん前に進んで、進化するのはいつも女性だなって。でも男の人って本当に変わんない。久しぶりに会った人で「変わったね!」みたいな男性はなかなかいないんですよ。だって、ずっと37歳じゃないですか?--ずっと37歳ではないです(笑)。でも男性は過去の恋愛をいつまでも上書きしないと言いますもんね。フォルダ分けして保存しておいて思い出に浸ったりする。ゆえになかなか進化できない。でも女性はどんどん上書きしていけるから変わっていける。
大塚 愛:他の女性がどうか分かんないですけど、私の場合は別れた男性がすごく不幸になっていようがどうでもいい。むしろ「不幸になってしまえ! どんどん不幸になってしまえ! 君は私と居たから運が良かっただけだ!」みたいな(笑)。だけど、私も「モノクロ」の歌詞みたいに「すごく大好きな人がいたけど、でもすごく嫌いでもあったんだなって。だから別れたんだな」と思ったことはあって。でも人はやっぱり良い思い出が勝つんですよね。嫌いなところをつい無かったことにしてしまう。ただ、再会したときに喋っていたらだんだん「……だから嫌いだったんだ!」と思い出す。男の人は変わらないから。それで「ダメだ、ダメだ、やっぱりダメだった!」みたいな。過去は美化で許されるかもしれないけど、現在は美化では済まされない。過去はモノクロだけど、現在はカラーだから全部分かってしまう。--それを切なく描いたのが「モノクロ」ですよね。明らかに「恋愛写真」「ポケット」の頃とは違う大塚さんが描いたバラードですけど、そんな今の大塚さんから見てあの頃のラブソングたちはどう映っているんですか?
大塚 愛:客観的に今見ると、すごく“自分で立てない”感があったなって。「私、あなたがいないと立てないバンビちゃん!」みたいな(笑)。それは男性からしたらウェルカムな感じだったかもしれないですけど、でも私は強くなりましたね。--それが『LOVE HONEY』にはよく表れていますが、今作の表題曲とも言える「HONEY」はどんなイメージを膨らませながら形にしていった曲なんでしょう?
大塚 愛:いちばん大事なところは“子宮”だったんですけど、その子宮の感じを曲にしたくて……子宮の中を想像したんですけど、あのネバネバというか。これ、曲にすると良いんですけど、言葉にするとすごく下世話な感じになってしまう(笑)。言ってしまえば、子宮という部屋に男性を迎え入れる訳じゃないですか。つまり荒らされるのは女性の部屋だけなんですよね。それでも迎え入れて見送るんですよ。それが女性の真髄なのかなと思って。この曲はそれが一番のテーマですね。あと、最近、子供を送り出した後、ワイドショーとか観てるんですけど、奥様の時間になるとやっぱり奥様向けのものがいっぱい放送されるじゃないですか。題材も。それ見てると「やっぱり女って強いな!」って。女性は旦那さんが先立っても強く生きれるんですよね。そういうおばさまたちの姿を見て、この「HONEY」と通ずるものを感じたというか。「見送ったよ~! 旦那、先逝ったよ~」みたいな(笑)。特に昔の女性たちは「HONEY」の感じが強いなと思って。--そんな今作『LOVE HONEY』、どうリスナーに響いてくれたらいいなと思いますか?
大塚 愛:女性のいろんな精神状態に寄り添って、そこの塩コショウになったらいいなと思います。「人生の、毎日の味調えます」みたいな。--男性にはどう聴いてほしい?
大塚 愛:なんとなく女性が幸せなほうが男性も幸せなんじゃないかなと思うので、これで女性が元気になったり、美しくなったり、強くなったり、前に踏み出すことで、そこに繋がってる男性の人に還元されたら嬉しいので、男性はこのアルバム『LOVE HONEY』を女性にプレゼントしてください(笑)。--このアルバムを携えたツアーも開催されますが、今回はどんな内容でお届けしたいと思ってますか?
大塚 愛:ライブハウスだし、お客さんと私が一緒になって……と言うとリアルっぽいんですけど、そうなると思いきや「リアルが夢だった」みたいな感じになったらいいなって。大塚 愛のライブに来たはずなのに「あれ? これ、夢かな」という感じにしたい。私、寝ているときにリアルな夢を見てて、それが夢だと気付かないまま寝ていることが多いんですよ。その感じになったらいいなと思ってます。--今回のツアータイトルは【大塚 愛 LOVE HONEY TOUR 2017 ~誘惑の香りにYOUワクワク~】。このタイトルのダジャレ感はデビュー以来一切変わらないですよね。
大塚 愛:でもひとつも私考えてないですからね。--本当ですか!?
大塚 愛:ハハハハハ! 多分(笑)。Interviewer:平賀哲雄
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Interviewer:平賀哲雄
LOVE HONEY
2017/04/12 RELEASE
AVCD-93667 ¥ 4,620(税込)
Disc01
- 01.HONEY
- 02.私
- 03.QueeN
- 04.TOKYO散歩
- 05.サクラハラハラ
- 06.HEART BREAK
- 07.モノクロ
- 08.make up
- 09.FrogFlag
- 10.HEY!BEAR
- 11.スターターピストル
- 12.日々、生きていれば
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