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sébuhiroko×DAWA(FLAKE RECORDS)大阪対談

 ソロのシンガーソングライターとしてはもちろん、「2016年は1年間ほとんどサントラを書いていた」と自身が言うように映画、テレビドラマ、テレビCMの音楽を次々と手がけるなど、映画音楽作曲家として世武裕子名義でも活躍しているsébuhiroko。そんな彼女が2月8日(水)にビルボードライブ大阪にてライブを行うのを前に急遽来阪決定! という機会を得て、旧知の中である大阪・南堀江のレコード店「FLAKE RECORDS」の店主DAWAとの初めてとなる対談が実現。大阪でしか聞けない話、音楽を売る側であるDAWAから見たsébuhirokoのこと、そして間近に迫ったビルボードライブ大阪での公演について。小難しいこと抜きで「音楽が好き」という共通点を持つふたりのオフトークさながらの対談となった。

当時、とにかくFLAKE的なところに入り込みたかったんです(sébuhiroko)

———そもそもの出会いはいつ頃だったんですか?

DAWA:俺はちゃんと出会う前から一方的に知ってました。確かライブ会場で配ってたサンプル音源を聞いてたんですよね。

sébuhiroko(※以下séb):あぁ! そんなことあった!

DAWA:そこからしばらく経った頃、FLAKEのレーベルとしてフランスのアーティストのMILKY MEEと契約して来日してもらったら、彼女と世武ちゃんが元々知り合いで、そのライブに遊びに来てくれたのが会ったのは最初でしたね。そのあと、2013年に世武ちゃんのサントラが出た時にFLAKEとして初めて店で扱いたいと思って発注をかけました。その発売後に店でインストアライブやってもらったっていう流れですね。

———そのインストアはどちらからやろうと提案したことだったんですか?

séb:それは私かな。当時とにかくFLAKE的なところに入り込みたかったんですよ。DAWAさんの店は、"オルタナなアーティストを扱っている面白いレコード屋"みたいなイメージが私にはあって。ゆくゆく自分がそういう方向に向かって行きたいと思ってたから、FLAKEでインストアをやりたいって思ったんですよね。

DAWA:世武ちゃんの最初頃の音楽のイメージは、うちの店みたいな感じじゃないというか…ちょっと居場所が違う感じやったもんな。うちの店も年々扱う商品の間口は広がってきてるけど、当時はイメージの違うものを売る力も説得力も全然なかったんですよね。でもあの時は売れる環境が運よく整ったこともあって、一度心置きなくプッシュして売ってみようと。でも実際うちに来てたお客さんは世武ちゃんのことを知らん人が多かったような感じでした。

séb:しかも出したのはサントラだったし、今よりもやりたいことがすごくブレてた頃だったし…音楽ももっとポップで、名前も漢字表記にしてました。

———じゃあいつかこういう場所にいきたいみたいな明確な未来像を持ってFLAKEでインストアライブをやってみた感じですか?

séb:未来像…すらなく、ただただFLAKEみたいなところでやりたいって思ってましたね。当時は、自分が聞いてる音楽とやってる音楽のズレがあって、それがすごいストレスになったりとかしてたんですけど、このインストアからしばらくあいた頃に名前の表記を漢字からローマ字に変えて、心機一転みたいな感じで『WONDERLAND』っていうアルバムを出しました。

DAWA:確かその『WONDERLAND』を出す直前に、MILKY MEEの2回目の来日があって、世武ちゃんにも徳島と大阪と京都を一緒に回ってもらったんです。その時にチャットモンチーのアッコと一緒にやったりしてたしね。まさかその後世武ちゃんがチャットモンチーに入ることになるとは思ってもみなかった。

séb:あれはひとつのきっかけでしたね。

———そういう風に世武さんが名前の表記を変えたり、音源を発表したりする過程をDAWAさんはどう見ていたんですか?

DAWA:あ、やりたいことに近づいていってるんだろうな、と思ってたかな。わかりますよ、これまでとなんか全然違うもん。ロック的なアプローチが全然違った。なんやろ…あんまり人の分析はできないんですけど、感覚的に「全然違う」とは思った。あとすごいわかりやすく急にアー写がヤンキーみたいになったしね。正直名前はようわからんうちに変わってたけど。「なんなん、eの上に点いるやん」とか思ってたかな。

séb:(笑)!アー写はヤンキーシリーズって呼んでたやつでしたね。

DAWA:なんなんこれ? って(笑)。まあアー写は置いといたとして、世武ちゃんはとにかく技術的にすごいっていうのが根底にすごくあると思うんです。もちろんパリの音楽学校を首席で卒業してるっていう経歴ひとつをとってもそうだし。それでその上で一緒にやるミュージシャンが、めちゃくちゃ俺的に"こっちの人"とやるっていうのが多くて…。

séb:こっちの人(笑)。

DAWA:最近の編成だと(村田)シゲがベースとかBOBOがドラムとか、俺がはるか昔から知ってる友達とかをピックアップしてやってるから面白いと思わせてくれます。

séb:やっぱり私自身がFLAKEで扱っているようなバンドたちが好きっていうのが大きいんですよね。だって日本で一番好きなバンド、Crypt Cityやもん! ここ数年ずっと好きだから、私がDAWAさんに「私、FLAKE寄りなんやで!」ってアピールしてる感じかな。だからよろしくお願いします!っていう(笑)。

DAWA:Crypt Cityは大阪で扱ってるのうちの店だけだし、変なバンドだよね。ボーカルはモデルの外国人で、今はギターがMONOEYESとかART-SCHOOLもやってるトディ(戸高賢史)っていう。で、ドラムはブッチャーズ(小松正宏)だし。

séb:でも正直私はCrypt Cityが好きなだけで、メンバーの個々の活動がどうとかもあんまり知らないままなんですよね。もしかしたら、(中尾)憲太郎さん的には、そこも興味持ってくれよと思ってるかもしれないんだけど、私はCrypt Cityさえ聞けたらいいっていう(笑)。

DAWA:すごいミュージシャンが集まるバンドとかになると、そのバンドやメンバーのルーツを掘りたがる人も多い中で、世武ちゃんみたいな人もいる、と。

séb:ただただCrypt Cityが好きです!

DAWA:FLAKEとしては、こういう人がいてくれて嬉しい限りですよね。

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世武ちゃんが「全然次元がちがう」ことだけはよくわかる(DAWA)

———この対談のオファーをした時に、DAWAさんは「世武ちゃんは音楽的にすごすぎて、よう喋らんかも…」とおっしゃってましたけど、他の人が真似できない、世武さんにしかできないことってなんだと思いますか?

DAWA:そう。世武ちゃんは多分メロディだけじゃなくて、音色からなにからこだわってるやろ? アレンジとかまで。うまく言われへんけど、そういうのが感覚でわかる気がする。なんか仕込んである感じというか、練られてる感じとか。そういうのは伝わってくる気がするんですよ。

DAWA:どこが真似できないのか、正直言うと明確なところはわかんないんだけど、これも感覚的に言うと「全然次元がちがう」っていうことだけはよくわかります。俺、結構メロディだけで曲を聞くことも多いんで、世武ちゃんの場合曲づくりとかでこだわってる部分がそこにあたるんだと思うんですけど。

séb:へーー!メロディだけで聞いたりするんや。

DAWA:そう。世武ちゃんは多分メロディだけじゃなくて、音色からなにからこだわってるやろ? アレンジとかまで。うまく言われへんけど、そういうのが感覚でわかる気がする。なんか仕込んである感じというか、練られてる感じとか。そういうのは伝わってくる気がするんですよ。

———どうですか? そんな風に言われてみて。

séb:正直言うと、ただ自然に自分から出てきてるものを出してるっていう感覚ではあるので…ちょっと照れます。これしかできひんよ、っていう感じっていうか。だからDAWAさんの言う「こだわってる感じ」のことを、奇をてらってる感が好かへんって言われたりすることもあるんですよ。

DAWA:マジで?

séb:たまにですけどね。音楽がひねくれてるからあんま好きじゃないとか。自分の中から出てきたものを出しているだけに過ぎないから、ちょっと世武さんとは人として相容れません!って言われているのに近い感じに聞こえちゃったりしてたんですよね(笑)。 そういう音楽が自分の中ではスタンダードなんで、それが拒否されてしまったら仕方ないかな、人はみんな友達になれないわけだしっていう感覚はあったりします。自分の音楽の文化背景として、普通にJ-POPを聞いて育っていないんです。日本で育ってきてるけど、文化背景としては育ってきてないみたいな感じなんですよね。だからこそ万人にわかりやすいものが作れていないのかもしれません。今はもうどうでもよくなっちゃったけど(笑)。

———そういう「次元が違う」みたいな感じも含めて、世武さんの音楽を「北欧っぽい」って表現されることが多いっていうところにも繋がりそうですよね。

séb:私の音楽ってビョークとかシガーロスとか、アイスランドのミュージシャンに例えられることが多いんですね。特別アイスランドのミュージシャンが好き! ってわけでもないんですけど、それってなんでかなと思ってた時に、アイスランドと私が高校まで住んでた滋賀が似てるからやろなと思って。

DAWA:え、ウソやろ !?

séb:それ言うとみんな「いや、アイスランドっておしゃれやん」って。アイスランドに対して滋賀やで? って言われるけど、どっちもいい感じの田舎やから一緒やんって思うんですよ。全然違わへんと思う。日本人が西洋に対する美化があるだけで。どっちもただの田舎ですよ(笑)。 アイスランドと滋賀が一緒っていうことの共有できなさみたいなものが自分の音楽と繋がってるところもあるような気がしていて、そういうジレンマみたいなものをなんとかしたいから「DAWAさん~!」って頼ってるところもありますよね。

DAWA:ちょ、世武ちゃんマジで何言ってるかわからへん!

séb:はははははは!

DAWA:いやいやいやいや、マジで全然わからへん!

séb:そういう誰も共感してくれへんみたいな思いを持ちつつ音楽を作ってる自分のことを、ちょっと異端なところにいる感じのするDAWAさんにすくい上げてもらわんと、誰もすくいあげてくれないんじゃないか!と。そういう思いがある上で、もちろん私がFLAKEに置いてるものが好きっていうのもあるし、いつかFLAKE的なフィールドにいけたらなと思ってるんです。丸投げして「DAWAさん、売ってよ」っていう感じではなく、このフィールドに行きたいっていう感覚はすごくあります。

DAWA:アイスランドが滋賀説だけは、理解できひんわ~。

séb:全然どこでも賛同得てないから大丈夫(笑)。


▲sébuhiroko‐『君のほんの少しの愛で』MusicVideo

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———世武さんが昨年発売したアルバムの『L/GB』ですが、初めて聞いた時のDAWAさんの感想はどうでしたか?

DAWA:どうでした、と聞かれると…Crypt City(収録曲の「Night Walk」はCrypt City提供によるもの)がめちゃくちゃ浮いてるなと。

séb:あはははははは! 5曲目ね!

DAWA:めちゃめちゃCrypt Cityやん。Crypt Cityのボーカルが普通に歌ってるから! 世武ちゃんに聞いた時も「めちゃめちゃ歌わしてるよ」って言うてたしね。

séb:今回いろんなアーティストに曲や詩を提供してもらってるんですけど、Crypt Cityだけじゃなくて、みなさんにお願いしたのが私には寄せてこんといてください! っていうことでした。あなたの100%を出してくださいと。じゃないと興味ない! って(笑)。LEO(今井)くんも彼の歌詞世界が好きだし、自分の歌詞世界を書いて欲しかったし、笹本(正喜)くんは音楽家じゃないけど言葉の使い方がおもしろかったり。(阿部)芙蓉美ちゃんは私が歌うことを想定して書いてはくれているけど、いわゆる私っぽくはしないでってお願いしました。Crypt CityにもCrypt City 100%で行って欲しいって言ったら、憲太郎さんはすごく納得してくれて、最終的にああなった感じなんですよね。

DAWA:それが浮いてるのは確かやから(笑)!

séb:人が聞いたら浮いてる感も、私的には全然アリで納得した流れになっているんですけど、それをどうやって「これが全然違うもんじゃない」っていうことを聞く人に伝えるかっていうのが、難しいんだと思ってますね。

DAWA:そうか、「自分のやりたいこと」やもんな。

séb:そうなんですよね。

DAWA:世武ちゃんが新しいアルバムを出した時に…例えば今回のアルバムでいうと普通はなかなかCrypt Cityはピックアップされへんのよ。でもそこは俺がうちの店に来てくれたりする彼らのファンに「世武ちゃん聞いてみてよ」って言うことをせなあかんと思ってます。俺、Crypt Cityは近いどころの関係性じゃないかからさ。

séb:えー、他には? 他には? もっといっぱいいいこと言ってほしい(笑)!

DAWA:無理無理。俺分析とかしてよう聞かへんもん。

———でも「音楽的にすごすぎてよう喋らんかも」とか「次元が違う」っていうのは最大の褒め言葉かなとも思うんですけど(笑)

séb:あはは、そっか。なんか対談じゃなくて飲み屋での会話みたいになってきちゃってますけどね。


▲sébuhiroko‐『Too Far』Radio Edit Music Video

———さて、目前に迫っているビルボード公演ですが、ライブが決まった時の感想を教えてください。

séb:そんなとこでできるんですか? みたいな感じでした。いいもの作ってるって思ってやってるけど、実は去年は1年間ほとんどサントラを書いてたんですね。それに伴ってサントラでの露出が増えていくと"サントラの人"、みたいな感じになっちゃって。そういうこともあってsébuhirokoとして浸透させるのには時間がかかるなというのがあったので、正直できるのかなと思ったりしました。でも今はビルボードでこのセットリストでこうやったら絶対面白いみたいな自分のアイデアが溢れていることと、やれることの間に悩んだりしながら準備を進めてます。

———ビルボードという会場のいいところはどこなんでしょうか?

séb:ピアノの音を聞いてもらったり、楽器の音を聞いてもらいやすいところだと思うし、私も音の部分で期待している部分はすごくあります。ビルボードって敷居が高いと思われてるような気がするんですけど、カジュアル席とかも含めて手が出せないわ! とかいう感じでもないですし。チャットモンチーもそうですけど、普通にロックの人とかシンガーソングライターとかも出てるし、みんなが思っているほどジャズばっかりみたいなイメージでもなくて。そういう固定されたイメージを取っ払って来てほしいっていうのはすごくありますね。

DAWA:どんな編成でやる予定なん?

séb:基本的には“wunderbar!” projectっていう鍵盤5人のプロジェクトで演奏する予定です。でも実は当日ドラムのBOBOにも来てもらえることになったんです。なので“wunderbar!” projectとメタ地獄トリオ(Ba.村田シゲ、Dr.BOBOとのトリオ編成)と、自分のソロとの全部アリのライブにしてみようと。全部楽しめるsébuhirokoお披露目会的な感じにしたいなと思ってます。

———DAWAさんがそのビルボード公演に期待していることはありますか?

DAWA:編成が違うからどんなんやろ、って思ってますね。とにかく見てみたい。まためんどくさいことしてるな~、って思いながら。

sebuhiroko「L/GB」

L/GB

2016/11/23 RELEASE
PCCA-4454 ¥ 2,547(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Too Far
  2. 02.Us
  3. 03.John Doe
  4. 04.Honeymoon
  5. 05.Night Walk
  6. 06.April 11
  7. 07.Long Goodbye
  8. 08.Wonderland (Yoshinori Sunahara Remix)

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