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「“コアからのヒット”みたいなものが生まれる」―藤井琢倫(AbemaTV編成局長)インタビュー
2016年4月に開局した無料のインターネットテレビ局『AbemaTV』。スマートフォンやタブレット、PCなどで楽しむことができるもので、スタートから7ヶ月弱でアプリのダウンロードが1,000 万を突破している人気サービスだ。また、サイバーエージェントとテレビ朝日が共同で立ち上げたことでも話題となった。今回は、そんなAbemaTVの中枢を担う、 AbemaTV編成局長の藤井琢倫氏にインタビューを敢行。AbemaTVが狙うこれまでと違うヒット番組や運営の裏側の話を聞いた。
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−−藤井さんはAbemaTVでどの部門を担当しているんでしょう?
藤井琢倫:私は、コンテンツの制作と調達交渉、編成ですね。調達というのは、具体的には、 既存の番組などのコンテンツをAbemaTVで配信させてもらう交渉をしています。
−−-なるほど。では、「こんな番組やろう」というような企画も考えたりしているんですか?
藤井:具体的な企画は、テレビ朝日からAbemaTVに参画している プロデューサーの方々が中心となって提案をしてくださり、そこから一緒に考えたり意見を出したりしています。私自身は、番組制作のプロではないので、その辺りは制作のみなさんにメインで動いてもらっています。
−−やはり、テレビ朝日のスタッフのみなさんは心強いですか?
藤井:これまでも『アメスタ』など、サイバーエージェントでも動画サービスを運営してきたのですが、そこで作っていた内製のコンテンツと比較するとクオリティは雲泥の差です(笑)プロの技術はすごいですね。
−−たしかにプロが作っているとわかるクオリティですよね。相当力を入れているんだなと感じますが、そもそもなぜこのサービスを立ち上げたのでしょう?
藤井:“ 若者のテレビ離れ”ということが言われるようになり、生活の中心になったスマートフォンで動画を見るということが一般的になってきたという環境の中で、当社代表取締役社長の藤田晋とテレビ朝日の早河洋会長との信頼関係があって、新しい動画事業 を立ち上げようとなりました。
−−準備期間はどれくらいだったのでしょう?
藤井:ちょうど1年くらいです。その間にスタジオを作ったり、コンテンツの調達を行ったりしました。アニメなどのコンテンツもゼロから交渉していました。
−−これだけのサービスの準備期間が1年とは驚きました。チャンネル数はどれくらいでしょう?
藤井:約30チャンネルです。『AbemaNews』や『AbemaSPECIAL』のチャンネルでは、オリジナルのニュースやバラエティ番組、音楽ライブなどを配信しています。
−−約7ヶ月でアプリが1,000 万ダウンロードされたということですが、これには手ごたえを感じていますか?
藤井:もともと想定していたよりも相当早い段階で1,000万ダウンロードを達成したので、そこは手ごたえを感じています。また、1週間で300万人が利用して いるという数字も出ています。
−−この伸びの要因はどこだと考えてらっしゃいますか?
藤井:宣伝にも力を入れているので、この7ヶ月間で色々なメディアや場所で『AbemaTV』を目にした方は多いかなと思います。 そして、やはり約30チャンネルという大量のコンテンツをすべて無料で見られるというのと、触ってもらうとわかると思いますが、「サクサク動く」ということを体感して支持していただけているのかなと思います。私たちは『サクサクUI』と呼んでいるのですがこれも大きな要因の1つかなと。あと24時間編成ですので、いつ見ても30チャンネルで番組が楽しめる、ということも挙げられるのではないでしょうか。
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音楽ライブは8月に60本放送しました
−−そんなかなり力を入れているサービスですが、立ち上げの時には色々とご苦労があったかと思います。中でも1番苦労したことは?
藤井:とにかく時間がなかったことですね。コンテンツ調達に関して本格的に動くようになったのは、サービスインの半年前くらいだったと思います。 その時点で検討していたチャンネル数も30チャンネルありましたが、半分は開局までの半年間で無くなりました。逆に言うと、半年間で約10チャンネルをゼロから立ち上げました。時間がない中で、それぞれクオリティの高いチャンネルを成立させていくのが本当に大変でした。
−−そんな苦労がありながら開局。開局してからは新たにどんな苦労がありましたか?
藤井:当初から編成方針で重要視していたのがとにかく“視聴習慣を作る”とか“ユーザーの生活習慣の一部になる”ということ なのですが、 多くの人が、朝起きて自然とAbemaTVを開くような視聴習慣と いうのは、当然ですがそう簡単に作れるものではない と痛感しています。
−−なるほど。では習慣にしてもらうためにどんなことをしているんでしょうか?
藤井:いまは、とにかく細かいデータを出して、それをもとにどのような 編成に すると、翌日の継続率が何%上がるのか、翌週何%上がるのか、そのような細かいデータを出して、それをもとに細かくチューニングを しています。PDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)をチャンネル編成において高速で回しているイメージ ですね。アニメやドラマなどは、特に細かくみています。
−−“スマホで見る”ということに対して、気を付けていることってありますか?
藤井:数年前より、大型テレビが安価になり一般家庭にも普及しやすくなりました。テレビ画面が大きくなると人物のアップの絵が大きくなりすぎるので、『ひな壇芸人』を作ったり、セットを豪華にしたりテロップを活用したりと、大型テレビを最大限に活用した放送の仕方を工夫してきたと話を聞きました。一方、スマホは画面が小さいですよね。なので、AbemaTVでは、スマホで見たときに見やすい映像であることを意識して、基本は人をアップにしたり、出演者の数を少なくするなど、画面の大きさに合わせて番組を作っています。
−−オリジナルコンテンツを見ていると、地上波ではちょっとできないような内容もやっていて、攻めているなという印象です。
藤井:テレビでできないというよりは、「スマホをずっと触っている 若い人たちが面白いと思ってくれるものってなんだろう」という視点で 考えており、 『キスに特化した情報バラエティ』といった番組 が出てきました(笑)あとは、人間の妄想を形にする『妄想マンデー』とかもそうですね。「若い人たちがこれだったら面白がって見てくれるんじゃないか」という発想で企画しました。
−−なるほど。そんな発想から企画が生まれているんですね。他にもアーティストのMV初公開なんかもありますよね。
藤井:先日、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEの「Welcome to TOKYO」MVフルver.の初出しが ありました。アクセスがすごくて、過去最多規模の数字でしたね。
−−音楽というコンテンツは大事なポジションなのでしょうか?
藤井:かなり 大事だと考えて いて、 力を入れています。音楽ライブは8月に60本放送しました。 8割が生中継でしたね。音楽ライブの中継は今後も強化していきたいと考えていて、フェス よりもアーティスト単体のライブにシフトしていく予定です。フェスだと、1アーティストにつき2~3曲しか配信できないことが多いので、配信するアーティストのファンの方がじっくり楽しんでいただけるライブを中心に中継していきたいと考えています。
−−音楽コンテンツはたくさんの人に見られていますか?
藤井:もちろんライブ中継など音楽コンテンツは全体的に人気があります。 また、生中継だけではな くて、過去のライブ映像を配信することもあります。DVDなどで すでに発売されているものでも、多くの方にご覧いただいていて、 放送中には 番組内のコメントがとても盛り上がるんですよ。過去の映像でも、コメント欄などを通して、みんなで一緒に見ている感覚になって楽しんでもらえているよう です。
−−多くの番組でコメントを取り上げていると思いますがこれも重要なのでしょうか?
藤井:“ひとりで見ているけど繋がっている”という感覚は大事で、そこに価値があるのかなと思っています。コメントは、1つのコンテンツになると考えています。
−−今後やってみたいことなどありますか?
藤井:音楽に関しては、「週末にAbemaTVを開いたらセンスのいい音楽ライブをいつもやっているよね」っていう状態にしていきたいですね。それが視聴習慣に繋がると思います。また、[Alexandros]などのこれからもっとブレイクしそうなアーティストや、04 Limited Sazabys、KEYTALKなど、若い人たちが支持しているアーティストのライブが毎週末に配信されているようにしたいと思っています。私たちとしては、まずは若い世代を取り込むことを第一に展開しています。
−−今後は海外のアーティストのライブも考えているんでしょうか?
藤井:いつかは、と考えてはいますが、いまはまだコア層までAbemaTVが届いていない段階かなと思っています。“洋楽大好き”というような人たちをカバーできるようになったら、そこも強化しようと思っていますが、まずは広く誰もが接触しやすいようなコンテンツを中心にやっていく方針です。
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“コアからのヒット”みたいなものが生まれる
−−Billboard JAPANでは、総合ヒットチャート“Billboard JAPAN Hot100”を毎週作っていて、いまみんながどの曲を聞いているのか、触れているのかを集計しています。ご覧になったことはありますか?
藤井:もちろん知っています。AbemaTVの音楽班は、みんなこれを参考にしていますよ。これがいまの音楽チャートのメインだと思いますし、圧倒的に精度が高いですよね。
−−ありがとうございます。CDの売上げ以外にもダウンロードや動画、ツイッターのデータなどが入っているチャートです。
藤井:自分たちの実感値とずれていないリアルなものなので参考にしています。このチャートから情報をもらうこともありますね。ソーシャルで流行っているものもわかりますし。
−−私たちは“ヒットってなんだろう”ということを探っているのですが、藤井さんはヒット番組というものをどのように捉えているんでしょうか?
藤井:難しい質問ですね。昔はサザンオールスターズさんや明石家さんまさんのような知名度の高い方々が出演している番組が数字を持っていたと思いますが、いまはコアなファンを獲得すれば意外と肩を並べられる可能性もあると思っています。例えば、麻雀や釣りなど一定数以上の濃いファンを持っているジャンルやアーティストでも、インターネット上であればメジャーなコンテンツとも戦えたりするんです。みんなのニーズが細分化されて、メガヒットが出にくくなったことも関係していると思いますが。なのでわたしたちはコアなファンを持っているアーティスト、タレント、ジャンルのコンテンツやチャンネルを積極的に作っていこうと考えています。マスとかメジャーどころからじゃない“コアからのヒット”みたいなものが生まれる可能性が結構ありそうだなと思っています。AbemaTVは、そのような領域でも頑張っていきます。
−−とにかく話題になったらいいという感覚ではないんですね。
藤井:そうですね、そういう感覚ではありませんね。ちゃんと様々なジャンルのコアなファンがAbemaTVに定着してもらえたら嬉しいです。サービスを継続的に利用してくれるファンを育てることに大きな価値があると思っています。
−−AbemaTVが目指すところはどんなところでしょう?
藤井:AbemaTVは、マスメディアになることを目指しています。多くの人がふとした瞬間にAbemaTVを開いてしまう、そんな生活に深く浸透したサービスにしたいと思っています。そのために、先ほども話しましたが、視聴習慣をつけるための編成を工夫したり、コアなジャンルのコンテンツを揃えて「あのコンテンツを見るならAbemaTV」と連想してもらえるようになることを目指しています。