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ソランジュ最新作リリース記念インタビュー ~『ア・シート・アット・ザ・テーブル』に組み込まれたアルゴリズム

ソランジュ

  紛れもなく2016年を代表する一枚だ。これまでも『ソランジュ&ザ・ハドリー・ストリート・ドリームス』(2008年)や『トゥルー』(2012年/EP)などの傑作をリリースしてきたソランジュ。その新作『ア・シート・アット・ザ・テーブル』は、そのアーティストとしての真価を決定づける一枚となった。

 本作の創作的な飛躍を支えたのは、エグゼクティブ・プロデューサーをつとめた現代R&B界の奇才=ラファエル・サディークを筆頭に、クエストラブ(ザ・ルーツ)、Q・ティップ、デヴィット・ロングストレス(ダーティー・プロジェクターズ)、ロスタム・バットマングリジ(元ヴァンパイア・ウィークエンド)、サンファ……と挙げればキリがないほど俊英たち。現代のポップ・シーンを見渡しても、これほど理想的な布陣で作られたアルバムはそうそう無い。本作によって、彼女に“ビヨンセの妹”という前置きは完全に不要となった。

 今回、Billboard JAPANでは、そんなソランジュのオフィシャル・インタビューを掲載。彼女自身のパーソナルな物語が、時代の潮流と共鳴し生み出された渾身の一枚。その奥底に流れるメッセージを、ぜひ感じて欲しい。

私自身が何を作りたいのかを理解することが重要だった

――今回のアルバムが完成するのにどれくらいの制作期間がかかりましたか?

ソランジュ:アルバム最初の曲となる「ライズ」を書き始めたのは4年前よ。私ひとりで、レコーディングに使うのはピアノだけでね。今回のアルバムの曲のいくつかはこの形で作ったわ。その後は、ピアノ・トラックとメロディーを基に、クエストラヴや(キーボーディストの)レイモンド・アングリーとジャム・セッションを行ったの。その時に、「このやり方でアルバムを作りたい。ミュージシャンたちを部屋に集めて、私が前もって作っておいたメロディーやコードから作り上げたい」と思ったの。音楽のエッセンスが自然に出来上がって、ソングライティングのトーンが定まるようにね。

▲SOLANGE - CRANES IN THE SKY (OFFICIAL VIDEO)


――その時にアルバムの音楽的なスタイルとサウンドが確立されたのでしょうか?

ソランジュ:ええ、でもそれは徐々に確立されていったわ。制作開始当初では、私が書こうとしていることをしっかりと表現できる音の試行錯誤に集中したの。実際のところは、この作業は色んな段階でやっているのだけれど。そのセッションの次は別のミュージシャンやアーティストたちとロングアイランドに行って、その後はまた別のミュージシャンたちとニューオリンズに戻ったわ。

 でも、アルバムを実際に書き始めたのはニューイベリアに行ってからね。そこでは、私とエンジニアだけで、編集と曲の構成を行って、全ての歌詞を書いたの。スタジオをセットアップして、ジャム・セッションの音源に耳を傾け、「伝えたいメッセージは何なのか?」「それを音的にどうやって伝えたいのか?」をじっくり考えたわ。そこから、その体験全体をパワーアップさせるためにラファエル・サディークにサポートをお願いして、さらにストーリー全体を引き締めるために友人であるトロイ(・ジョンソン)にもサポートをお願いしたの。かなり時間がかかって、時には長いお休みをとることもあったけど、自分のペースで進めて、私自身が何を作りたいのかを理解することが重要だったのね。

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▲SOLANGE - LOSING YOU

――ここ最近の殺人事件や人種的不公平といったことは、今作の方向性や主題を決める上で影響はあった?

ソランジュ:それは複雑で答えるのが難しい問題ね。というのも、今作は長い間、私が生み出すことが運命づけられていた作品だと感じる部分があるから。お父さんとお母さんが、物事に関する認識を育んでくれたことは、いま振り返ってみると、私のインスピレーションになっている。黒人が本来は受けるべき公平な扱いを受けていないことを認識すること。自分の意見をはっきりと主張し、黒人のためだけでなく、身の回りのあらゆる不公平に対して怒るよう教えられて育ったことなどね。

 そういった点において、私は常にパッションを持ってきたわ。自分のキャリアで生じている変化の形や、自分の私生活や外での生活における体験の中で、今作を通じて表現したいものについて、アルバムを書き始めた時点までには、すでに自分の内面とかなり向き合っていたわ。このアルバムを生み出すことは、絶えず消化しているこの怒りや悲しみを取り除いたり克服したりする上で、必要不可欠だと分かっていたの。そしてアメリカ国内の悲惨な状態を見る度に、その必要性を強く感じたわ。ある意味、アルバムが自分で自分を書き上げたような感じがする。おじけづいたり、あるいは今作が前作(『トゥルー』)とかけ離れたものになると感じたりした時は、アメリカで命や自由を奪われた若い黒人の話を見たり聞いたりしたわ。そうすることで、立ち戻ってみたり、少しでも先に進むために、いくつかの曲を書き直してみたりして、そういった会話を恐れないようにするためのモチベーションにしたの。

――前作『トゥルー』は、今作とはまた違ったオーディエンスを対象としたものだと解釈されているけど、今回これだけオープンで率直な気持ちが込められたアルバムを書くことについて、怖い部分はなかった?

ソランジュ:『トゥルー』の時は、喜びや幸せを感じてもらおうという意図的な目標があったわ。ショーの前には、バンドのみんなに「幸せな雰囲気作りをして、人々が悲しみを忘れるための時間を作ろう」と伝えていた。でも、前作と今作それぞれの範囲を振り返ってみると、どちらの作品もそれぞれの範囲内でとても政治的であり、正しいと思うの。私は、行動主義には様々な形があることを学んだわ。

 アルバム『ソロ★スター』で15歳でデビューした時期、私はティーンエイジャーで、ラスタファリズムにはまっていた。ベジタリアンになってみたり、髪をバッサリ切ったり、あらゆることをやったわ。当時は、これらの中にはしっくりこないものがあるということ、そして、そういうことで自分が必ずしも定義されるわけではないんだってことが分かっていなかった。だけど、私のビジュアル、そして15歳でメジャーレーベルと契約した女の子としての、あの空間での自分の在り方というのは、それだけで政治的なものだったわ。私のビデオは全て赤、黒、緑、黄色だったしね。

▲Solange - Feelin' You, Pt. II ft. N.O.R.E.


 アルバム『ソランジュ&ザ・ハドリー・ストリート・ドリームス』に収録されている「I Decided」のビジュアルには、マルコム・Xやアンジェラ・デイヴィスを使って革命を取り上げていて、当時の私の在り方や解釈の仕方はとても極端だったと思う。それに、当時は見た目の面でもかなり色々と試していて、「あのコ、何か変わってるね」って反応がかなりあった。要するに、私がやっていたことは、多くの人にとってはクールではなかったということね。

 『トゥルー』では、最初のビデオは南アフリカで撮影することを希望したの。それは、多くの困難にも挫けず喜びをたたえるサプールの文化をハイライトしたかったから。ある意味、私は自己を確立する時間の中で、一般的に「怖い」と考えられていることをすでにかなり経験している。だから、今作を世に出すことは怖くないわ。


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『ア・シート・アット・ザ・テーブル』には
たくさんのアルゴリズムが組み込まれている


――9曲目の 「ドント・タッチ・マイ・ヘアー」について聞かせてください。

ソランジュ:髪はとてもスピリチュアルで、エネルギー的な観点で、私たちがどういう人間なのかを表すものだと思うわ。知っての通り、ヘアサロンで育った私と髪との関係はとても深くて複雑ね。

 あと、この曲で伝えたかったもう一つのことは、髪で人を判断する周りの目。言うなれば、インディア・アリーの「アイ・アム・ノット・マイ・ヘアー」的な瞬間ね。例えば、私が髪を切って自然な髪型でいこうと決めても、それが黒人支持的(Pro-Black)でなくなるような気持ちになったり、自分の黒人女性としての歩みを自分で避けているような気持ちになったりするの。

 こういったことは私個人に限った話ではないわ。私はファッション関連のあらゆる場面で数えきれないほどの写真撮影を経験しているけど、ファッション業界は圧倒的に白人の業界なの。それに、私の髪がアフロであることと、それがファッション業界で意味することを通じて、形だけの平等主義に対する虚無感も感じてきたわ。ある大手ファッション雑誌に白人の編集者がいたんだけど、彼女はハロウィンにアフロのウィッグをかぶり、顔を黒くし、自分のことを「ソランジュ」と呼んでいたわ。別の雑誌では「セレブそっくりさん」企画があって、私のそっくりさんとして犬を載せていた。文字通り、私の髪は犬の毛みたいだと書かれていた。

▲SOLANGE - DON'T TOUCH MY HAIR (OFFICIAL VIDEO)


 こういった経験を通して、私にとって髪はとても複雑なものになった。ある時、1日2公演のツアーに母が同行していたことがあったの。4日間のツアー中もたくさんのマイクロ・アグレッション(日常会話の中に混ざりこんだ悪意)を経験したわ。私は母に「移動する時は髪をストレートにしている方が、基本的に支障が少ないわね」と漏らしたほど。だからこの曲では、自分のアイデンティティが日常的におびやかされるのはどういう感じなのかについて触れているわ。もちろん、髪に直接触れることもNGだけどね。

――『ア・シート・アット・ザ・テーブル』という、強いメッセージ性のあるアルバムタイトルについて。今回のアルバムにはクラブソングは一曲も収録されておらず、『トゥルー』にあったような明るいポップミュージックもないです。あなたにとって『ア・シート・アット・ザ・テーブル』はどういう意味を持ちますか?

ソランジュ:私にとって『ア・シート・アット・ザ・テーブル』っていうタイトルは、みんなに椅子を持ってきてもらって、かなり近い距離に座り、話すのが難しくて気まずい真実を共有してもらおうという招待状のようなものだと思う。そういう会話は荒れるかもしれないし、楽しくはないだろうし、ダンスする気分にはなれないだろうし、息苦しく感じるだろうと思う。でも、それが私たちが今いる時代の状態なの。『ア・シート・アット・ザ・テーブル』は扉を開き、意見を持ち、意見を交わし合い、自分の真実を示し、そしてそれを貫こうという、私からの招待状なの。

 今回はおもしろいことがあったわ。それは息子と、親友の一人であるクリスと一緒に私の部屋にいた時のこと。アルバムの制作を終えたばかりの私は、アルバムタイトルについてはまだちゃんと考えていなかったんだけど、タイトルを決めないといけない期限まであまり時間が無かったの!一日中考えた末、書き出していたタイトル案をひとつひとつ言ってそれに対して息子が「それは違うな」とか「それちょっと良いかも」と言ったりして。でも実際に『ア・シート・アット・ザ・テーブル』というのを口にしたのはクリスだった。それを聞いた瞬間、「この作品全体を表すタイトルはまさにそれだ!」と感じたのを覚えているわ。私のオープンさ、そして個人的で親密な会話をすることに対する意欲は、「お互いをもっと深く理解しようよ!」というメッセージの私なりの伝え方なの。

CD
▲ア・シート・アット・ザ・テーブル

――今作全体で伝えたいメッセージは?

ソランジュ:何日か前の夜、私がアルバムを渡した時、お母さんがご飯を作ってくれたの!その時に思ったのは、この『ア・シート・アット・ザ・テーブル』にはたくさんのアルゴリズムが組み込まれているということ。たくさんの異なる意味やスペースにスポットライトを当てているということ。このアルバムに関して、私の母に関連しているということについてのインタビューや、私の話を聞くことが大切な理由は、父と母へのトリビュート作品でもあるから。あらゆる痛み、トラウマ、そして“貧しい2人の若い黒人”という状況を生き抜きながらも、大きな夢を持ち、その夢を体現した人間を両親として持てて、私はとても恵まれていると思うの。このアルバムについて思いを巡らすと、母が家のガレージで美容院を始めたこと、そこから25人もの従業員を抱える会社に成長するまでに母が費やした途方もない時間、そしてヒューストンでもっとも有名で成功した美容院になったことが思い浮ぶの。そして、父もまた、とても貧しい環境で育ちながらも大きな夢を持ち、自宅にあった空き事務所をレコードレーベルとマネージメント会社へと変貌させたことも。

 このアルバムのメッセージの大部分は、私たちのストーリー、癒し、そして怒りを表現する時間を持つことが中心になっているけど、その大部分は、力を与えること、そして黒人の社会的地位の向上についてなの。だからこそマスターPにナレーションをお願いして、「F.U.B.U.」というタイトルをつけたの。私は、何があっても夢を持つことを諦めない人たちの代表例のような2人のもとで育ったと思うの。私たちが生きるこの時代のように重たく、うんざりする状況では、人々は夢を見ることを忘れるわ。私たちは日々を生き抜くこうと頑張っている。立ち上がり、一歩前進しようとしている。でも、そうする時間とエネルギーが足りないの。私の両親が味わったような困難な状況をジュエルズとブルーが体験せずにすむのは、まさに両親のおかげ。

 それから、私がみんなにこのアルバムを聴いてやって欲しいことは、「クソくらえだ!」と言うこと。それは、いまの国の状況に対して、そして私たちが日常的に浴びせられている「十分な能力がない」、「綺麗だといえるレベルではない」、「頭脳が足りない」、「経済力が足りていない」、「十分ではない」というメッセージに対して。私はこの長さ1時間のアルバムが、「私たちは十分以上である」ということを伝える公共広告になって欲しいと思う。私たちはいままでも十分以上であったし、それについて周りの人の許可を得る必要はないということ。私たちは、私たち自身のものを作りあげるの。私たちは、私たちが夢に描いている機会やコミュニティを作り上げているのよ。

 アルバムの最後は、マスター・Pの「私たちは選ばれた者だ」という言葉で締めくくられているわ。これは何か難しいことを考えさせようってことじゃない。人生という旅を続け、その中での体験を耐える私たちにとって、いまいる地点に辿り着くということは、ある意味で選ばれた者でなければならないと思うから。このアルバムには、楽器や音やビジュアルを通じて、常に打ち出したい一種の威厳のようなものがあると思う。なぜなら私たちは一般的にそういう扱いをされていないからね。でも、私たちは今までもずっとそうだった。そして、このアルバムの大部分は、両親を称えるトリビュートでもあるのよ。

▲Beginning Stages - A look into Solange’s songwriting process & jam sessions that shaped ASATT


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