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GARNET CROW 『メモリーズ』インタビュー
中村由利(vo,songwriting)自身も「最高傑作」「今、GARNET CROWが持っている音楽性の全部を出したアルバム」と断言する新作『メモリーズ』については勿論、震災の影響、タブーを無くしたことで到達できた表現、ツイッターをやらない理由、ますます恋愛成就率の高まったライブについて等、語ってもらった。
GARNET CROWがツイッターをやらない理由。
--今回のインタビューに向けていろいろ調べ物しながらふと思ったんですけど、GARNET CROWってツイッターとかやってないんですか?
岡本仁志:やらないですね。
中村由利:だから何を言っても炎上しない(笑)。
岡本仁志:ウチ、炎上させるところないんですよ。
中村由利:スタッフブログぐらいだよね?
--あれも9月ぐらいからしばらく更新止まってましたよね?
中村由利:ワタワタすると止まるんです。
--こうしたインタビューの場ではいろいろ語ってくれますけど、ツイッター等のツールを使って必要以上に意見を発信したりはしない。それは何か想いや拘りがあってなんでしょうか。それとも単に苦手なんでしょうか。
岡本仁志:僕の場合は、すごく面倒くさがり屋なんですよ。あと、わざわざボロを出すことはないだろうと(笑)。
中村由利:私は全く興味がない。良さが分からないというか。あとは単純に面倒くさいですよね。「あ、今日は何にもアップしてない」とか気にするのがイヤです。それに縛られた生活になりそうで。
岡本仁志:あと、会社の人間に監視されるのがイヤ。「あれ? 岡本、飲みに行ってんぞ! 仕事は?」ってなるじゃないですか!「意外とつまんねぇ生活してんな」とか思われたくないですし!
中村由利:だからやらない。やらないからこそ良いイメージを持ってもらえるところもあると思うので(笑)。ジャケットとかいつも綺麗に写真も撮って頂いて、そこにはいろんなスタッフさんが関わっている訳ですよね。1000枚近くの写真から最高の1枚を選んだりして。それなのに居酒屋で騒いでいる写真を酔った勢いでアップしようもんなら、今まで築き上げてきたものが台無しになるじゃないですか。それは申し訳ない!
--分かりました(笑)。さて、今日はアルバム『parallel universe』リリース(2010年12月)タイミング以来、約1年ぶりのインタビューになるのですが、この間はGARNET CROWにとってどんな期間になりましたか?
中村由利:今年は前半にいろんなことが起きましたから、そこでいろいろ考えましたね。「震災直後に果たしてリリースしていいのか」とか「リリースするならどういう楽曲を聴いてもらうのが一番良いのか」とか。その中で作ってきたのが『Smiley Nation』だったんですけど、そこには「みんなを笑顔でひとつに」という想いを込めたり。だから去年と今年では意識が違いましたね。自分自身の歩いてきた道を振り返って想いを馳せたり、大事にしたい想いみたいなものに改めて気付いたりもしましたし。だから今回のアルバム『メモリーズ』も今年ならではの作品になってる。ストレスを感じさせず、少しでも心から笑えるようにしたい。そういう想いから今年作った曲ばかりになっているので。
--その発想に辿り着く前、震災直後はどんな心境だったの?
中村由利:しばらく何にも手は付けられなかったですね。制作も止まってるし、曲作りも止まってるし。テレビからはショッキングな映像が流れているけど、何をしていいか分からないし「一体どうしたらいいんだろう?」と戸惑ってはいました。リリースが決まってからは動き出していましたけど、そこまでは呆然としていましたね。スタッフの中にも実際に被災された方がいらっしゃったりしたので、しばらくは動けずにいました。
--そこからどのように気持ちを立て直していったんでしょう?
中村由利:リリースが決まって通常通りに動き出したことによってですね。そうなると周りも安心して動き出すし、生活のサイクルが取り戻せる。歯車が回り出すって思うようにして、制作を再開していった感じです。
岡本仁志:当時「いざ大変なことになったら音楽なんていらない」みたいな空気があったじゃないですか。でもファンの皆さんは少なくとも必要としているので。そのことを考えたら、出来るんなら早く再開するべきだし、被災したファンの人は絶対待ってるんだから曲は届けた方がいいし。
--そうして生まれた『Smiley Nation』の仕上がりを聴いたときは、どんなことを感じたんでしょう?
中村由利:最初からキーワードとして“Smile”というものがあった訳ではなかったんですけど、曲が出来上がったときに「これは“Smile”だ」と思って。聴いただけですごく前向きな気持ちになれるというか、自然と表情が緩むんですよ。だからこれなら大丈夫と思って。あと、PVも全国から大切な人の“Smile”写真を募集して取り入れてるんですよ。そういう試みもあったのですごく印象に残っていますね。ひとりでも多くの人に笑顔を届けたい。曲を届けたいというよりは、そっちの意識の方が大きかったです。
--『Smiley Nation』は中村さんの声がいつもよりやや熱っぽく響いているように感じました。実際、歌入れにはどんなテンションで臨んだのでしょう?
中村由利:楽しく歌いましたね。歌っているときも、特にサビとか自然と笑顔になっちゃう。それぐらい“Smile”パワーを感じたんで、笑顔になっているみんなを思い浮かべながら歌わせてもらった感じですね。この曲を聴いている人がその間だけはいろいろ忘れてリフレッシュしてもらえたらなって、
Interviewer:平賀哲雄
タブーを無くす。今まではあり得ないこともやる。
--人前ではもう歌われたんですか?
中村由利:フルバンドではまだ無いんですけど、アコースティックバージョンで何回か披露してます。サビがタイトルになっていることもあって、そこの部分は皆さんが歌ってくださって。
岡本仁志:ビックリした。みんな上手いんですよ。
中村由利:だから私はあんまりサビ頭を歌ったことがない(笑)。すごく一体感が生まれる曲だなって実感しましたね。だって初披露のときにも歌ってくれたんですよ。だから「みんなもこれを待っててくれたんだな」って思いました。
--『Smiley Nation』は、GARNET CROWの新境地となった『Over Drive』の進化系とも言えるナンバーですよね。
中村由利:そうですね。突き抜けた爽快感があったり、アップテンポで明るい曲というのはそんなに多く作ってきてないので、ちょっと本来のキャラとは違うと思うんですけど。でも『Over Drive』でそういうGARNET CROWも受け容れてもらえるんだなと分かったので、この手の曲をどんどん作っていってもいいんじゃないかなと思い始めて。その流れもあったので『Smiley Nation』は出来たんだと思いますね。今や自分たちのキャラのひとつに成りつつある要素です。それはアルバム『メモリーズ』を聴いても感じてもらえるんじゃないかな。
--その『Smiley Nation』が完成したことで、その後のGARNET CROWの方向性だったり、在り方を見失わずに済んだところもあります?
中村由利:この曲は震災後初めて発表した曲でもあるんですけど、今年1作目のシングルでもあったんですよ。だからすごくいろんなものが重なってしまったことによって『Smiley Nation』は重要なキーマンになった。今までとは全然違うプロセスを踏んでのリリースに至った曲だし、制作過程も去年や一昨年とはやっぱり違いましたからね。意識すること、想い入れ、心の持ちようも違うし。だから『Smiley Nation』という楽曲自体が重要だった訳ではなくて、いろんなものが重なり合って今年を象徴する大事な曲になった感じがしています。
--あと、先程「自分自身の歩いてきた道を振り返った」と仰っていましたが、その部分について具体的に話を聞かせてもらえますか?
中村由利:ちょっと過去を振り返って懐かしみたい感覚が芽生えたんですよね。その中で「自分にタブーを無くそう」って思えた。GARNET CROWらしさを追い続けるあまり「これはGARNET CROWっぽくないからやめておこう」とか「こういうテイストは違うな」と思わないようにしようって。「この音は面白いな」「このテイストは面白そうだな」って興味が湧いたことに関しては、どんどんGARNET CROWに取り入れることにしたんです。それはメロディーラインでもサウンドでも音色でも歌い方でも。すごくオープンになりましたね。だから『Misty Mystery』みたいなデジタルロックも作れた。今、K-POPなりでそういうテイストのものは流れてるけど、それを「面白いな。格好良いな」と思ったんなら素直に取り入れようっていう。
--なるほど。
中村由利:それで『Misty Mystery』をシングルリリースしたら評判が良かったので、だったらもっとデジタルなものを突き詰めようと思って作ったのが『ロンリーナイト』で。これを聴いたら部屋がクラブフロアになるようなダンスナンバーになっていて、しかも今までボーカルは一切エフェクト処理せずナチュラルで勝負していたんですけど、この曲に関しては“声もインストゥルメンタルのひとつ、楽器のひとつ”と捉えて「エフェクトかけてもいいですよ」ってエンジニアさんにも遊んで頂いて、だからボーカルにもオートチューンがかかってるんですね。それは今までのGARNET CROWでは考えられなかったんですけど、面白いなと思うことはどんどん貪欲にタブーを作らずまずチャレンジしてみる。そう思えたのは大きいです。
--岡本さんのソロプロジェクト SUPER LIGHT『Now Printing...』を聴いた後に『ロンリーナイト』とか聴くと、意外とあのアルバムからの流れも汲まれているのかなと感じたんですが。
岡本仁志:えぇ!そうですか?
中村由利:ちょっと感化されたんですかね?
岡本仁志:マジで?
中村由利:知らず知らずの間に影響はあったかもしれません。アハハ!
--少し大きいテーマの質問をしたいんですが、お2人が思う音楽の役割ってどんなものだったりしますか?
中村由利:思い出の目次です。音楽を聴くことによって節目節目の思い出が浮かぶことってあるじゃないですか。就活していたことを思い出したり、失恋したことを思い出して「あの頃、辛かったんだよなぁ」って振り返ったりとか。GARNET CROWの音楽もそうした思い出のテーマ曲として流れていたら最高だなって。だから音楽は人の心には必要なものだと思う。もちろん音楽ではお腹いっぱいになんないし、生きるか死ぬかの状況で音楽を人が聴くかと言ったら何とも言えないんですけど、でもやっぱりあればすごく豊かになると思うし。
岡本仁志:受け取る人それぞれによって違うと思うんですけど、少なくともその人の人生に厚みが出る。音楽ってそういうものかと。音楽にすごく依存している人であればあるほど、音楽によってパワフルになるだろうし。メッセージ性の強いアーティストの曲であればなおさら元気になるだろうし。そう思いますね。
--そんなGARNET CROWの最新形アルバム『メモリーズ』、自分たちでは仕上がりにどんな印象や感想を持たれていましたか?
岡本仁志:ありきたりですけど、聴き応えがあるなって思う。バラエティに富んでいるので。
中村由利:どの曲も個性が強いなと思う。今の私たちに表現できうる、あらゆるジャンルを網羅した印象を受けますね。アップテンポでポジティブなバンドサウンドもあり、従来通りの切なさ、儚さ、憂いを含んだロックバラードもあり、『一緒に暮らそう』みたいなGSっぽいギターの雰囲気を取り入れた曲もあり、ダンスチューンもあり、シャッフルのリズムを取り入れた『Blue Regret』みたいなバラードもあり、素材でシンプルに勝負した潔い『英雄』みたいな曲もある。今、GARNET CROWが持っている音楽性の全部を出したアルバムかなと思います。
Interviewer:平賀哲雄
皆さんの人生に自分たちの楽曲が寄り添えたら
--そこは今回のアルバムを制作する上であらかじめ目指していたところなんですか?
中村由利:いや、気付いたらこうなってました。だから本当にビックリ。1曲1曲にも「お、凄いな。この歌詞」とか「このアレンジ凄いけど、どうやって歌おうか」とか思ったんですけど、何よりも並べて聴いたときのパワーが凄かった。1曲1曲のアクの強さが並んだときに鮮明になったんですよ。どれも主張がハッキリ見えるんですよね。制作のときには気付かなかった各曲の良さがアルバムになったことで際立った感じがしました。
--アルバム単位で見ても、曲単位で見ても、フレーズ単位や音単位で見ても、輪郭がより際立っていて、ドラマティックさが増してますよね。
中村由利:みんなそれぞれ主張してますよね。ボーカルを食いそうなぐらいギターが前に出てたり(笑)。歌詞にしてもすごく口語調で、壮大なことを歌っているのに「隣の空き家が」とか言ってたりとかして面白かったり、サウンドも一瞬K-POPと見紛うようなモノを作ったりとか、4人それぞれの「どうや!」っていうドヤ顔が浮かぶ感じ(笑)。そのせめぎ合いが凄い。
--岡本さんのギターも各所で唸りまくってますし。
岡本仁志:ミックス上がりで「わりとギターが大きめだな」とは……
中村由利:かなり大きいよ! でも気持ちよさそうに弾いてるし、良い音しているから「まぁそのままでいいや」みたいな。
岡本仁志:(笑)
中村由利:普通だったら「もうちょっと下げてください」っていうところなんですけど。そこで下げちゃうのは一般のセオリーなんだけど、そればっかりやっていても新しい曲の魅力は生まれないから「ボーカル食っちゃいそうだけど、それもアリでしょ?」みたいな。良さが際立っていればそっちを取る意識。
--結果、メロディも歌詞も声も音の鳴り方もキャッチーですよね。多くの拘りが詰まっていながら、リスナーにはひとつひとつが明確にガツンと響くアルバムだと思います。
中村由利:分かりやすいですよね。「あ、ギターが鳴ってる」「ストリングスが入ってる」って分かりやすく反応できるアルバムになったと思います。
--アルバムはそれぞれにそれぞれの良さがあるので、一概に『メモリーズ』が一番素晴らしいとは言えないかも知れないのですが、今作はかなりの自信作なんじゃないですか。
中村由利:そうですね。毎回、最新作が…………
--最高傑作?
中村由利:です!
一同:(笑)
中村由利:次のアルバムが出るまでは『メモリーズ』が最高傑作で在り続けます。
--岡本さん、笑ってますけど。
中村由利:なんで笑うの!?
岡本仁志:いやいや、間違いないっすよ。前のアルバム、飽きたもん!
--それはそれで問題発言ですよ!
岡本仁志:そっか(笑)。
--ちなみに今作のタイトルを『メモリーズ』にしようと思ったのは?
中村由利:『メモリーズ』という曲が出来たときに閃きまして。この曲がどこかレトロでセンチメンタルな印象を受けたんですよね。それで「皆さんの大切な思い出とか、積み重ねてきたものはオンリーワンで掛け替えのないものだから、ぜひとも大切にしてください」みたいな想いも込めまして。皆さんそれぞれの生きてきた証を大事にして、それを糧に明日、明後日とずっと生きていってもらいたいなっていう。で、その皆さんの人生に自分たちの楽曲が寄り添って歩んでいけたら最高だなと思って『メモリーズ』にしました。
--GARNET CROWってツイッターもブログもやらないので、メンバーの人間性が見えづらいバンドだとは思うんですけど、アルバムは人間らしいというか、生々しいですよね。
中村由利:こう見えて、わりとね(笑)。実はいろんな顔があるので、そこは感じ取ってもらいたいなと思います。写真では笑ってないですけど、ライブではめちゃくちゃ笑うし、喋りますから。よく舞台監督に「時間がない。巻け、巻け」って言われています。そういうバンドなんです。
--ライブと言えば、大晦日には大阪/堂島リバーフォーラムで【GARNET CROW Special Countdown Live 2011-2012】を控えていますが、どんなライブになりそうですか?
中村由利:フルバンドの編成のライブってこのカウントダウンライブが今年初なんですよ。だから最初で最後なんです。去年のカウントダウンライブ以来のライブがカウントダウンライブ。年末の(会場費が)特別料金のときだけ出て行ってライブするっていう。
岡本仁志:コストパフォーマンス、悪いね!
一同:(笑)
中村由利:365日ぶりのライブですので、今年の総決算をこのカウントダウンライブに集中させたいと思っています。盛りだくさんで楽しいライブにしたい。パーティーみたいな感じ。
--前回のインタビューでは、GARNET CROWのライブではカップルが生まれやすいと言っていましたけど。
中村由利:未だにそうですよ!もう1回載せておいてください!この前のイベントでもファンの人に彼女を紹介して頂いたり、いつも来てるカップルの婚約発表があったり。すごく楽しいですよ。逆に別れた話は聞かないですし!
岡本仁志:それは報告しないんじゃない(笑)?
中村由利:いや、成功率が結構高いんだよ。下手に紹介所行くよりはGARNET CROWのライブに来た方がいいんじゃないかなと思いますんで。シングルの方は今年最後のチャンスですから! 2011年、来るときはひとり。でも2012年明けたらふたりで仲良く帰る。それ、書いておいてください!
--了解です(笑)。
Interviewer:平賀哲雄
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