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毛皮のマリーズ ライブレポート
2010.05.21(金)at 下北沢SHELTER|ライブ写真
ツアータイトルに冠された“RESTORATION”には、回復や変換。修復に復活に加えて、英国の王政復古や日本の維新の意味もあるという。観客と対話しながら、志磨遼平(vo)は「我々は生まれ変わったのです」と語る。しんと静まり返る会場を見渡し、「(ニューポート・フォーク・フェスティバルの)ボブ・ディランの気持ち」だと笑った彼は、手にしたアコギをそっと奏で始めた。
2010年春、メジャー第1弾としてセルフタイトルのニューアルバムをリリースした毛皮のマリーズ。いわゆる新作披露の場として発表された全国行脚のチケットは、その殆どが瞬く間に完売となってしまった。事実、ツアー初日の舞台となるここ下北沢SHELTERも、開場前から長蛇の列である。
青の上下に赤白ストライプのシャツ。赤いスカーフと腕章をあしらった装いで登場した志磨が、観客に向かって何度も投げキッスをプレゼントする。オープニングを飾った「COWGIRL」をはじめ、この日の中心となるのは前述のアルバム『毛皮のマリーズ』からのセレクトだ。次々と畳み掛けられていくアッパーチューンの連続に、会場は早くも興奮のるつぼへ。メンバーや観衆を嬉しそうに見渡しながら、躍動するようにドラムを叩く、富士山富士夫(dr)の笑顔が汗に輝いた。
「誰がSOS団団長やねん」。記念すべきメジャー一発目のMCを今みたいので失いました、と観客を笑わせた志磨が、手にしたアコギで毛皮ズの楽曲にはないブルージーなフレーズを弾く。以前、取材で“プライベートとかオフィシャルとか、そういう区別が昔からつかない”と語っていたが、「こんなんもできるんですよ」と微笑んだ彼の顔からは、変にかしこまった様子も、無駄に決め込んだ佇まいも感じられない。しかし、直後に「サンデーモーニング」の演奏をスタートさせると、柔らかくも何処か寂しげなメロディで、途端に観衆を魅了してしまう。この両面性も毛皮ズの大きな魅力となっているのだ。
また、ハイライトのひとつとして、「すてきなモリー」における栗本ヒロコ(b)の美声を紹介しておきたい。彼女をメインボーカルに、越川和磨(g)の刻むタイトなギターリフに乗せ、ポップかつキャッチーなグルーヴで会場を包み込んだこの楽曲。これまでの毛皮ズとは異質な熱狂で、中盤に花を添えた。
ライブはその後、インディーズ時代の代表曲「ビューティフル」で最高潮まで達すると、一気にクライマックスへ。ツアー初日を飾るに相応しいアクトを全編で披露してくれた毛皮のマリーズだが、最後にもうひとつ、非常に印象的だった一幕を紹介したいと思う。
中盤のMCになるが、「(これまでは)自分のためだけにやってたなぁ……」とつぶやくように話し始めた志磨は、“では音楽っていうのは何のために?”と思ってやってきて、“音楽は凄く余分なもの”。そして“自分は凄く余裕で幸せだから、音楽をやっている”んだと、最近分かったそうだ。だから自身の音楽は、全てあなた方のためであり、誰かから誰かへのためなんだと。
このレポの冒頭は、途中からバンドも参加するアレンジが施された「晩年」の歌い始めを記したものある。“ニューポート・フォーク・フェスのボブ・ディラン”とは、フォークシーンの象徴として人気を確立していたディランが、初めてエレキギターや激しいドラムを導入。ロックスタイルで披露したステージだ。当時は観衆から激しいブーイングが寄せられたそうだが、その後、彼がどのような道を辿っていったかは、皆さんも良く知るところだろう。
毛皮のマリーズは今、様々な意味で大きな変革の時を迎えている。彼らがこれからどのようなバンドになっていくのか。それはまだ誰にも分からないが、だからこそ今の毛皮ズは絶対に見逃してはいけない。ロックを、音楽を愛する者たちにとって、それは大きな損失を意味するからだ。これから全国を巡る彼らが、ツアーファイナルとなるLIQUIDROOM公演でどんなステージを見せ付けてくれるのか。変革の答えはそこで見つかるかもしれない。
Writer:杉岡祐樹
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