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最新アルバム・リリース記念特集 ~キング・オブ・エンターテイメント “アッシャー” の功績をたどる~
世界におけるトータル・セールスは6500万枚以上。8度のグラミー賞を受賞し、ハリウッドのウォーク・オブ・フェイムの仲間入りを果たしてもいる実力派R&Bシンガーにして俳優業もこなすマルチなエンタテイナー、アッシャー。1978年10月14日、テネシー州チャタヌーガに生まれた彼が教会で歌の才能を露わにすると、一家はスターダムに近づくべくアトランタに移住。オーディション番組「スター・サーチ」に出場した際のパフォーマンスが業界関係者から注目されて、ラフェイス・レコードと契約し、14歳のときに「コール・ミー・ア・マック」(映画『ポエティック・ジャスティス/愛するということ』のサウンド・トラック盤収録)でデビューを果たす。少年らしさの残る歌声が一気に大人びていった97年のセカンド・アルバム『マイ・ウェイ』になると人気は一気に爆発。同アルバムは全米で600万枚を超える大ヒット作となり、以降、R&B界を代表するシンガーとして過去20年を華麗に駆け抜けてきた。歌い手としての力量はいうに及ばず、類まれなダンス・スキルを兼ね備えたアッシャーはマイケル・ジャクソンとも比較され、ニュー・キング・オブ・ポップなどと呼ばれることも。4年ぶりとなる新作リリースを機会に、改めてアッシャーの魅力に迫ってみよう。
キング・オブ・エンターテイメント
2009年12月、ビルボード誌は2000年代にチャートをにぎわせた20アーティストを発表した。首位の座こそ、この期間に2枚のダイアモンド・アルバム(全米1000万枚セールス)を持つエミネムに譲る形になったものの、ダイアモンド・アルバム『コンフェッションズ』に加えて「YEAH!」「バーン」「ラヴ・イン・ディス・クラブ」を含む8つのR&Bチャート首位(現在は9つ)/7つのポップ・チャート首位曲を持つアッシャーは、ビヨンセやジェイ・Z、アリシア・キーズ、ブリトニー・スピアーズらを抑えて堂々2位にラインクインした。とまあ、この事実からだけでもアッシャーをよく知らない人にも彼のすごさを分かってもらえるんじゃないかと思う。
▲Usher - Yeah! ft. Lil Jon, Ludacris
アッシャーの黄金期はもちろん2000年代の10年間だけではない。90年代には「ユー・メイク・ミー・ワナ」「ナイス&スロウ」の2曲をR&Bチャートの頂点に何週にも渡って送り込み、後者はポップ・チャートでも2週首位を獲得している。2010年代にはマイケルを思わせるファルセットを繰り出す「ゼア・ゴーズ・マイ・ベイビー」や、EDMの盛り上がりを受けてディプロと組んだ「クライマックス」、ジューシー・Jをフィーチャーした「アイ・ドント・マインド」がR&Bチャート首位に、ウィル・アイ・アムとのコラボによる「OMG」がポップ・チャート首位を獲得している。
▲Usher - OMG Feat. Will I Am (Official Video)
90年代からいまに至るまで第一線での活躍を可能にする最大の要因は、いかなる流行にも即座に、そして自然に対応し得る歌い手としての圧倒的な力だ。流行と共に人気となって流行と共に消えていく平凡なシンガーとは違って、彼はどんな流行であってもそれを着飾るための衣装として身に着けるのではなく、自らが乗りこなす乗り物にしてしまう。ヒップホップ・ソウルに始まり、チキチキ・ビートと言われたシンコペ系R&Bや、クランク&B、EDMなどなど、これまで彼が歌ってきた様々なスタイルを見渡せば、そこにはR&Bの変遷が浮かび上がるほどだ。流行にたじろがないということは、スター・シンガーに求められる資質のひとつである。
▲Usher - Gone Too Soon (Michael Jackson Memorial)
アッシャーの才能は音楽の世界だけに留まらない。90年代からテレビドラマや映画に出演してきた彼は、2005年に『イン・ザ・ミックス』で主演を務めてもいる。さらに、伝説のボクサー、ロベルト・デュランの伝記映画で今夏公開されたばかりの『ハンズ・オブ・ストーン』では、主人公のライヴァルであるシュガー・レイ・レナード役に抜擢。鍛え抜かれた身体で好演するなど、俳優としての活躍も目覚ましい。
また、後進のサポートにも積極的なアッシャーは、あのジャスティン・ビーバーを見出し、彼のデビューを後押ししたことでも知られる。アッシャーはジャスティンの師匠としての側面も持つのだ。
▲Justin Bieber - Somebody To Love Remix ft. Usher
新たな世代をフックアップしながらも、アッシャーは自身のアーティスト活動の歩みを止めようとはしない。昨年には、ナズとビビ・ブレリーと組み、人種差別と警官による不当な暴行を訴えるインタラクティヴ・ビデオ作品「ドント・ルック・アウェイ」(曲名は「チェインズ」)をTIDAL先行で発表。PC等のカメラを使い、ユーザーに暴行事件の犠牲者たちをフィーチャーした画面を直視することを要求する新たな表現手法が話題となった。ニュー・アルバムにはこの「チェインズ」は収録されていないものの、同曲を手掛けていたポール・エプワース(アデル「ローリング・イン・ザ・ディープ」などの仕事で名をあげたクリエイター)を再び起用し、不穏な気配を愛で一掃していくような美しいスターター「ニード・ユー」を作りあげている。
▲Usher - No Limit ft. Young Thug
この曲は主にアンビエントR&Bの文脈に位置しそうなスタイルとなっているが、マスター・Pの98年のヒット「メイク・エム・セイ・ウー」を現代化したかのごとき「ノー・リミット」や、ドレイク周辺での活動で知られるパーティネクストドア制作の「レット・ミー」、あるいはザ・ドリームらがルークの「アイ・ウォナ・ロック」をサンプリングしてドレイクに幾分寄せたかのような「バンプ」などなど、今日的なスタイルの、つまり決してのど自慢向けではないタイプの曲を、ときにラッパー的なヴォーカルを交えながら、ここぞというところで滑らかにソウルする。アトランタのストリート・ミュージックとしてのトラップを歌ものへとググッと引き寄せた「メイク・ユー・ア・ビリーヴァー」の今日的なR&B構築も実に上手い。2000年代前半のようにR&Bをやればそのままポップ・チャートに直送された時代は終わり、R&Bアクトたちにとって生きやすいとは言えない環境に変わってしまったが、むしろそんな時代だからこそ、アッシャーの底力は発揮される。シングル・カットされた「クラッシュ」の惚れ惚れするような歌声からは、ミゲルやザ・ウィークエンドといった若手たちとの格の違いを感じさせる。時代のスタイルを着実にこなしながら、置き忘れられがちなR&Bの豊潤なエッセンスを確実に忍ばせるのだ。
新作には『ハンズ・オブ・ストーン』の主題歌「チャンピオン」も収録されており、ラファエル・サディーク制作とあってR&Bファンからは注目されるだろう。けれども、アルバムの聴きどころはやはり現行R&Bのトレンドとしっかり向き合った進化形のアッシャー。流行りがどうなろうと、いかなる時代が来ようとも、アッシャーさえいればR&Bは心配ない、という思いを再確認できる確かな一枚だ。
リリース情報
ハード・トゥ・ラヴ
アッシャー
2016/10/05 RELEASE
SICP-4540
[定価:¥ 2,376円(tax in)]
01.ニード・ユー
02.ミッシン・ユー
03.ノー・リミット feat.ヤング・サグ
04.バンプ
05.レット・ミー
06.ダウン・タイム
07.クラッシュ
08.メイク・ユー・ア・ビリーバー
09.マインド・オブ・ア・マン
10.FWM
11.ライバルズ feat.フューチャー
12.テル・ミー
13.ハード・トゥ・ラヴ
14.ストロンガー
15.チャンピオンズ
16.グッド・キッサー (国内盤のみボーナストラック)
17.シー・ケイム・トゥ・ギヴ・イット・トゥ・ユー feat.ニッキー・ミナージュ (国内盤のみボーナストラック)
関連リンク
ハード・トゥ・ラヴ
2016/10/05 RELEASE
SICP-4540 ¥ 2,420(税込)
Disc01
- 01.ニード・ユー
- 02.ミッシン・ユー
- 03.ノー・リミット feat.ヤング・サグ
- 04.バンプ
- 05.レット・ミー
- 06.ダウン・タイム
- 07.クラッシュ
- 08.メイク・ユー・ア・ビリーバー
- 09.マインド・オブ・ア・マン
- 10.FWM
- 11.ライバルズ feat.フューチャー
- 12.テル・ミー
- 13.ハード・トゥ・ラヴ
- 14.ストロンガー
- 15.チャンピオンズ
- 16.グッド・キッサー (国内盤のみボーナストラック)
- 17.シー・ケイム・トゥ・ギヴ・イット・トゥ・ユー feat.ニッキー・ミナージュ (国内盤のみボーナストラック)
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