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ストーンズ、ディラン、ポール!野外音楽フェス文化の歴史に新たな伝説を刻む【デザート・トリップ】特集
1960年代終盤の以降、現在まで世界各地で発展・変化し続けている「野外音楽フェス」文化。まもなく、その歴史に新たな伝説が刻まれようとしている。ローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン、ポール・マッカートニー、ニール・ヤング、ロジャー・ウォーターズ、ザ・フー…正真正銘のロック・レジェンドたちによる奇跡の野外フェス【Desert Trip】が10月7日~9日、そして10月14日~16日と2週にわたっておこなわれる。これを前に、出演アーティスト6組の交友歴と直近の活動を改めてチェックしておこう。
歴史的な野外フェス【Desert Trip】の舞台となるのは、現シーンにおいて世界最高峰のフェスのひとつ、コーチェラ(・ヴァレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル)がおこなわれているアメリカ・カリフォルニア州のインディオにあるエンパイア・ポロ・クラブ。1年以上の構想と調整を経て決定したという同フェス開催のニュースは、多くの音楽ファンにとって2016年春の一大トピックとなった。まず最初にファンを驚かせたのが、その告知方法。実は少し前から同フェスについては少しずつリークされはじめており、ニュースになるたびに熱心な音楽ファンの間で話題となっていた。しかし、あまりにも豪華すぎるラインナップであることから、その信憑性を疑うファンも決して少なくはなかった。
そんな彼らの胸を一気に高鳴らせたのが、出演アーティストによる「意味深なメッセージ動画の公開」だった。4月末~5月はじめの数日の間に各アーティストが「October」と題した動画を続々とアップ。世界中の勘のいいファンが“例のフェス”が10月に開催されることを察知した、その直後に【Desert Trip】開催が正式にアナウンスされたのだった。出演アーティストはローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン、ポール・マッカートニー、ニール・ヤング、ロジャー・ウォーターズ、ザ・フーのたった6組という、フェスとしては非常に少ない数である。しかし、“ロックの象徴”ともいえる偉大なる6組が毎晩2組ずつ、2週にわたってパフォーマンスをおこなうというのだ。つまり3日間でこの6組のパフォーマンスをすべて観られるということ。この体験はまさに「奇跡」以外のなにものでもないだろう。
会場も主催者もコーチェラと同じであることから「年寄りのコーチェラ=Oldchella」と皮肉まじりの呼び方をされたり、またミック・ジャガーもインタビューで同じような趣旨のジョークを飛ばしていたが、主催者は決して往年のファンのためだけのフェスとは考えていないようだ。指定席とスタンディングなどのエリア分け、アートワークや公式グッズなどを見ればそれは一目瞭然であり、オフィシャルサイトにもわざわざ「全世代を歓迎する」という言葉が明記されている。また、SNSを駆使したプロモーションをおこなう一方で、チケット購入者にはニュースレターやポストカードを郵送するというアナログな手法を用いたことも、このフェスならではの取り組みといえるだろう。実際のところ、どのような客層になるのかはフェスがはじまってからのお楽しみだが、年齢や性別、さらには国境を越えて世界中からファンが集うことは間違いない。さて、ここからは各日ごとの組み合わせとこれまでの共演歴、そして直近の活動やフェスへの出演歴などをチェックしていきたい。
10月7日(金)、10月14日(金) / ザ・ローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン
6組の出演アーティストのペアリングは全15通り存在するわけだが、今回にいたってはどの組み合わせもまさに「直球」という言葉がふさわしい。なかでも初日を飾るディランとストーンズは、もっとも“両方の大ファン”率が高い組み合わせではないだろうか。ディランとストーンズの交流は60年代半から現在まで、つまりは彼らのキャリアとほぼ同期間にわたる。とくにストーンズのメンバーはディランに絶大な影響を受けていること、もっとも尊敬するアーティストの1人であることを度々公言しており、今回のフェス出演についても、「ディランとだったら、天国であろうと地獄であろうと、どこでも一緒に演るよ!」とキースが発言している。
そういった細かいエピソードを挙げればきりがないのだが、ディランとストーンズの交流史においてもっともポピュラーなものを挙げるとすれば、やはりディランの名曲「ライク・ア・ローリング・ストーン」だろう。ディランが1965年に発表した同曲は、彼の代表曲ということだけでなく、音楽の歴史を変えた1曲として神格化され、これまでに数々のアーティストによってカバーされている。実はこの曲はストーンズの元ギタリスト、ブライアン・ジョーンズのことを歌ったものであるという説もあるのだが…リリースから30年の月日が過ぎた1995年、ストーンズが同曲のカバーを発表。「ローリング・ストーンズがライク・ア・ローリング・ストーンをカバーする」という言葉遊びのようなニュースは音楽ファンの間で大きな話題となった。彼らはアコースティック・ライブ盤『ストリップド』の中に「悲しみのアンジー」など自身の代表曲とあわせて「ライク・ア・ローリング・ストーン」のカバーを収録し、シングルとしてもリリース。また、同年のライブではディランとの共演も果たしている。ちなみに、ディランも2000年代に自身のライブでストーンズのヒット曲「ブラウン・シュガー」をカバーしている。
さて、ここでストーンズとディランの直近の動きをチェックしてみよう。2013年以降、世界各地でライブを続けてきたストーンズだが、今年はさらに50年以上におよぶキャリアを集約した大規模展示会『エキシビジョニズム』をロンドンでスタートさせ、また、アメリカとキューバの約半世紀ぶりとなる国交回復の流れをうけて、3月25日にキューバの首都・ハバナで120万人の観衆を前にフリーライブをおこなっている。同コンサートの開催は音楽史にとどまらず、国際社会における歴史的ニュースとしてマスメディアに大きくとりあげられ、また、映画化もされるほどの話題に。さらに新作ブルース・アルバムのリリースもまもなく正式アナウンスされる模様。つねに第一線でシーンを転がり続けてきたストーンズらしい、ど派手なニュースでシーンを賑わせている。
一方のディランは、相変わらず1年の大半をライブツアーに費やす“ネバー・エンディング・ツアー”を続行中だ。日本のファンにも、今年4月に約1か月にわたっておこなわれた来日公演の記憶が鮮明に残っていることだろう。驚くべきは、そんなツアー三昧の日々にも関わらず、75歳の誕生日を迎えた5月に通算37枚目となるアルバム『フォールン・エンジェルズ』もリリースしていることだ。ディランは2週にわたる『Desert Trip』の合間に1回、そして終了後にもぎっしりライブスケジュールが組まれているが、そんなことは彼のパフォーマンスに微塵の影響も与えない。伝説が約束された場所でも、いつも通り「現在進行形のボブ・ディラン」を披露してくれるだろう。
10月8日(土)、10月15日(土) / ポール・マッカートニー、ニール・ヤング
続いて2日目となる土曜日の出演者は、“ソロとグループで2度「ロックの殿堂」入りを果たしている数少ないアーティスト”という共通点をもつポール・マッカートニーとニール・ヤング。ロック・レジェンドであると同時に英国を代表するポップスターでもあるポールと、カナダ出身ながらカントリーやフォークなどアメリカン・ルーツ・ミュージックをベースに実験的・挑戦的な音楽を作り、ときに社会への痛烈な批判やメッセージを発信し続けるニール・ヤング、2人の活動スタンスは決して近いとは言いがたい。しかし、ニール・ヤングは自身の少し先輩にあたりビートルズの音楽や活動に影響を受けたと語っており、ライブでビートルズの名曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」をカバーするのも定番となっている。実は、これにポールが飛び入りで参加したこともあり(こちらの共演映像は必見)、逆にポールがソロ・アーティストとして「ロックの殿堂」入りを果たした際にはニール・ヤングが祝福にかけつけるなど、ステージ上での共演は度々実現している。
今回、唯一「ソロ同士」の組み合わせとなる2人だが、当然自身のバンドを従えてのオンステージとなる予定。ニール・ヤングはここ数年活動をともにし、虫や動物など自然界の音を取り込んだ最新ライブ・アルバム『アース』でも共演しているプロミス・オブ・ザ・リアルを引き連れてのステージとなる。同バンドの中心人物は、米カントリー界の重鎮、ウィリー・ネルソンの息子。これまでグランジやオルタナティヴ・ロックなど次世代以降のアーティストからもリクペクトされ続けてきたニール・ヤングだが、骨太なロック・サウンドを支え続けたクレイジー・ホースとは世代も質感も異なるバンドと繰り広げる、いぶし銀のロックンロール・ショウは全世代のファン必見である。
そして、日本のファンにとっては今も2014年の再来日公演が記憶に新しいかもしれないポール・マッカートニーだが、今夏も『One on One Tour』と題し精力的にアメリカ~ヨーロッパ・ツアーをおこなっている。今回のツアーでは、ソロキャリアではじめてビートルズ初期のナンバー「ア・ハード・デイズ・ナイト」「ラヴ・ミー・ドゥ」を披露し、世界のビートルマニアたちを歓喜させた。また、ロン・ハワード監督によるドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK‐The Touring Years』も公開となり、これに先駆け9月15日にイギリス・ロンドンで行われたワールドプレミアにリンゴとともに登場している。ウィングスやソロとしても数多くの名曲を生み出しているポールだけに、コンサートでは毎回新旧ナンバーを惜しみなく披露してくれるのだが、やはりビートルズ・ナンバーの盛り上がりは別格。今回も世代を超えて愛され続ける名曲ですべてのオーディエンスを魅了してくれるだろう。
10月9日(日)、10月16日(日) / ロジャー・ウォーターズ、ザ・フー
そして最終日となる日曜日はロジャー・ウォーターズとザ・フー。アメリカの砂漠のど真ん中で、モッズの代表格であるザ・フーとプログレッシブ・ロックの代表格であるピンク・フロイド黄金期を支えたロジャー・ウォーターズという2つの“UKロックの象徴”が邂逅する…これもまた、考えただけでワクワクする組み合わせである。おそらく日曜日は最も「爆音」が鳴り響く夜となるだろう。同時代を生き抜いてきたザ・フーとピンク・フロイドの2組。もちろんメンバー間には交流があり、また、数年前におこなわれたチャリティーコンサートでもザ・フーとロジャーは顔を合わせている。
ちなみに、ザ・フーといえば現在の野外フェスの原点といわれている1969年の『ウッドストック・フェスティバル』に出演し、今も活動を続ける数少ないアーティストであり、もちろんこの6組のなかでは唯一のウッドストック出演者である。イギリスにおいてビートルズ、ストーンズとならぶ大御所でありながら、「史上最強のライブバンド」の称号にふさわしく2000年代以降も数多くのフェスやチャリティー・コンサートに参加し、精力的にパフォーマンスを続けている。2016年も春にUKツアーをおこなったザ・フーだが、先日、毎年恒例となっている小児がんのチャリティー・コンサートの2017年度版として、1969年5月に発表したロックオペラ『トミー』をアコースティックで再現するコンサートの開催を発表している。メンバーはすでにロジャー・ダルトリー、ピート・タウンゼントの2人となっているが、伝説のウッドストックから約半世紀の歳月を経て、再び新たな伝説の証人となってくれるだろう。
一方のロジャー・ウォーターズといえば、2010年にスタートさせたピンク・フロイド時代の金字塔『ザ・ウォール』の30周年を記念したアルバム再現ツアーが世界中で大好評を博し、商業的にも大成功を収めたというニュースを記憶している人も多いだろう。同ツアーは当初の予定を大幅に上回る3年あまりにわたっておこなわれ、400万人以上を動員、昨年にその模様が映画化もされている。『ザ・ウォール』再現コンサートでは壮大なスケールのセットや徹底的に計算しつくされた映像・演出でファンを魅了したロジャーだが、今回のコンセプトはいかに?!他の出演者たちに比べコンサート活動が控えめなだけに、非常に貴重なパフォーマンスとなることは確かである。
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