Billboard JAPAN


Special

松本隆の世界 ~スペシャルインタビュー~

AOR CITY 1000

 一昨年、好評を得た稀代の作詞家、松本隆の世界をめぐるスペシャル・ステージ【松本隆の世界 ~風のコトダマ~】。その第二弾、【「風のコトダマⅡ」~松本隆の裸にされた言葉たち~】が7月21日に開催される。2016年のステージでは松本に加え、女優の若村麻由美、ギタリストの村治佳織がオン・ステージし、トーク+朗読+音楽のセッションを盛り上げたが、今回は松本・若村とピアニストの清塚信也、この舞台のプロデューサーで横笛奏者の藤舎貴生が参加。松本隆の手掛けた往年のポップスから近年の作品まで、様々な角度からその言葉を“裸”にしていく。

 Billboard JAPANでは、前回2016年の公演時に行った松本へのインタビューをここに再掲。公演実現までのいきさつや、ライブに臨む気持ちを語ってもらった。

Interviewer:北中正和

他の人がやらない新しい試みの連続だった。

―今回のプロジェクトはどんなふうにはじまったのでしょう。

松本隆:去年『風街であひませう』というアルバムを作るときに、歌詞の朗読のCDをつけるのはどうかと、ビクターのスタッフから提案があったんです。それまでにも現代詩を書き下ろすような形で作って、朗読したことがありました。率直な感想として、われながら意外と手応えがなくて(笑)、ビクターから相談されたときも、最初、あまり乗り気ではなかったんですよ。歌詞に曲をつけて、サウンドがついて、うたってもらってはじめて完成品になるという思いがぼくの頭の中にあったので、歌詞をそのまま読むことが、娯楽になるのかどうか、自分の中ではよくわからなかった。言葉だけ抽出して読むのは、未完成のまんま世に出しちゃうようで、ためらいがあったんです。

―ということは、期待半分、不安半分という感じだったんですね。

松本隆:いや、不安のほうが大きかったかもしれない。でも、実際にレコーディングをはじめて、薬師丸ひろ子さんの「あなたを・もっと・知りたくて」のレコーディングに立ち会いに行ったら、歌とぜんぜんちがう詞が聞こえてきた。エンジニア・ルームで聞いていた人がけっこう涙ぐんじゃって、あ、朗読にこんな力があるのかと思ったんです。

―CDで朗読した作品はディレクターの是枝裕和さんが選んだのですか。

CD
▲『風街であひませう』

松本隆:その企画は、こちらから何をやってくれとは言わずに、読み手に任せた感じでした。選曲は、是枝さんが選んだのと、朗読する人が読みたいものを選んだのと、半々くらいだったと聞いています。で、薬師丸さんが選んだのは、明るくてポップな「あなたを・もっと・知りたくて」だったので、「え?」っと思ったんですが、彼女は「読むとせつないんです」と言っていました。実際、朗読を聞いたら、泣けちゃって、詞だけでも歌と別の次元で存在し得るんだなと。歌詞はうたいやすいようにリズムを切って作られているから、詩より読むのにふさわしいのかもしれないですね、これが理想の形態かもしれないと、そのとき雷に打たれたように思ったんですよ。

 

  松本隆が1970年代初頭に大瀧詠一、細野晴臣、鈴木茂と結成していたグループ「はっぴいえんど」は、日本語のロックの先駆者だった。「はっぴいえんど」解散後は、ロックの感覚を歌謡曲の世界に持ちこんで、作詞家として太田裕美、松田聖子、近藤真彦、薬師丸ひろ子、寺尾聡、KinKi Kidsらに数多くのヒット曲を提供。シューベルトの『冬の旅』の日本語詞や、『古事記』をテーマにした音楽劇にも取り組んできた。その歩みは、他の人がやらない新しい試みの連続だった。

 

―朗読は松本さんにとっても、新しい発見だったということでしようか。

松本隆:"はっぴいえんど"のときもそうだったけど、新しいことをはじめると、聴衆がいないとか、ジャンルがないとか、前例がないとか、壁に打ち当たるじゃないですか。でも、そういう損な役割がめぐってくるのがぼくの運命だったら受け入れましょうと(笑)。『真田丸』で話題になった長野県の上田市のホールで、去年、シューベルトの『冬の旅』をレコーディングして、このお正月にコンサートをやったとき、若村麻由美さんとトークしたんです。そこで『冬の旅』の「辻音楽師」を若村さんが朗読したら、まだ歌手の鈴木准さんがうたう前だったけど、すごいよくて感動したんです。その後、京都で、若村さんとプロデューサーの藤舎貴生さんと食事しているとき、貴生さんがその話をきいて、それなら朗読をメインにしたライブ出来ますねと言いだして、じゃ3人でやろうかってなったんです。村治さんは貴生さんが声かけて出演してくれることになりました。

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何をさせられるかちょっと怖いよね(笑) 。

―まだ準備中だと思いますが、どんなライブになりそうですか。

松本隆:まだ全員で顔を会わせる時間がとれてないんです。いまの段階では誰もどんなものになるのかわからない(笑)。

―藤舎さんがプロデュースされるんですね。

松本隆:彼が仕切っているんです。ぼくはただトークに出てくれと言われている。詞を読もうかと言ったら、だったら普通ではない朗読の仕方考えますと言っていたから何をさせられるかちょっと怖いよね(笑) 。

―松本さんの朗読もとてもいいからやってくださいよ。

CD
▲『はっぴいえんど』

松本隆:"はっぴいえんど"のデビュー・アルバムの最後に、ぼくの朗読があるでしょ。あれは、細野さんからレコーディングの前の晩に「明日までに読む詩を書いてくるように」と言われたんです。「えーっ。誰が読むの」「自分で読め」と。細野さんがなんで突然あんなことを言い出したのか、いまだにわからないんですが、最近のファンはあの声に親近感が湧くらしくて、トークをすると喜ばれるんです。

―トークは若村さんと2人ですか。

松本隆:村治さんも一緒に3人でやります。村治さんはギター伴奏とソロ演奏もしてくれます。細部はまだ決まってないので、当日までに変わるかもしれませんが、朗読は『冬の旅』から入って、『源氏物語』をやって、これは京都で初演した作品です。『夏の夜の夢』をやって、これは吉永小百合さんとやったシェイクスピア。『古事記』を純邦楽にした「幸魂奇魂」は貴生さんが作曲とプロデュースした作品。このオリジナルは市川染五郎さんと若村麻由美さんの朗読で、CDにもなっています。カタロニア民謡を日本語詞にした「鳥の歌」もやってみたい。今年、チェルノブイリ博物館で井上鑑さんのピアノ伴奏でクミコが唄った作品でもあります。後半はヒット曲の朗読。いまのところそんなことを考えています。

―サプライズなどあるんですか?

松本隆:ライブにクミコが観に来てくれるって言うので、どんな形かわからないけど、少し歌ってくれたらなぁとは思ってますけど・・・当日のお楽しみかな・・(笑)

―クミコには新曲も書かれたんですよね。

松本隆:彼女に書いたのは16年ぶりです。16年前にクミコを再デビューさせたときは、サブカル的なところのある鈴木慶一やムーンライダーズ系の人に手伝ってもらって、『アウラ』を作った。今回の「さみしいときは恋歌を歌って」は、ど真ん中のストレートなラブ・ソングです。いまは世の中が荒れているような気がするんです。基本になる恋歌もない。恋は人間の本能のど真ん中にあるべきなのに、いまは金儲けとか政治ばかりが強調されている。それではブラックになっちゃうので、基本を思い出そうと。それが作詞家なりの世の中との関わり方かなと思うんです。

―そういうときは、歌手が演じる脚本のように書かれるんですか。それとも自分が出てしまうものなんですか。

松本隆:半々がいいですね。まったくフィクションにすると感動してもらえないし、100パーセントリアルなことを詞にしても、重過ぎて歌えなかったりします。フィクションなんだけど、どこかにスパイスや、おそばの七味唐辛子みたいなものが入っているほうが感動できる。ぼくの作品はそういう形でできているんです。絵でいったらデッサンかな。デッサンだけで美術展ができるじゃないですか。そういうふうに朗読してもらえればおもしろいし、朗読する人が変われば、またちがう世界が生まれるんじゃないでしょうか。

Interviewer:北中正和

(V.A.) 手嶌葵 草野マサムネ クラムボン 斉藤和義 やくしまるえつこ YUKI ハナレグミ「風街であひませう」

風街であひませう

2015/06/24 RELEASE
VICL-64356 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.風の谷のナウシカ
  2. 02.水中メガネ
  3. 03.星間飛行
  4. 04.白いパラソル
  5. 05.はいからはくち
  6. 06.卒業
  7. 07.Tシャツに口紅
  8. 08.探偵物語
  9. 09.ないものねだりのI Want You
  10. 10.SWEET MEMORIES
  11. 11.驟雨の街 (スペシャル・トラック)

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