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パティ・スミス 来日公演レポート by 佐藤英輔
[パティ・スミス アコースティック・コンサート with ジェシー・パリス・スミス and レニー・ケイ | 2016.6.7(火)at ビルボードライブ東京
過去を乗り越え、今という場に凛と立つ
公演は、まず娘のジェシー・パリス・スミス(ピアノとスポークン・ワード)とチベット出身のテンジン・チョーギャル(歌とダムニャンというチベットの民俗弦楽器。過去に日本ツアーを、彼は行っている)のデュオによるパフォーマンスで始まった。ジェシーはニュー・エイジ・ミュージック風のピアノの調べをゆったりと弾き、それにあわせチョーギャルが詠唱したり、歌ったり。それはスピリチュアル度の高いものだが、最後の曲は強い語調を持っていた。うち、2曲は琉球音階とも重なる曲調を持つ。時にチョーギャルの歌の合間にジェシーが詩の朗読を入れ、2人の協調表現に奥行きを加える。聴き味は柔らかいものの、その奥にあるのはチベット問題への憂慮だろう。
その後、短い時間の休憩を入れて、いよいよパティ・スミスのショウがスタートする。アコースティック・ライヴと称された今回のライヴは、パティに加え、彼女をデビュー時から支えたリジェンダリーとも言えるだろうNYロック界の重鎮ギタリストであるレニー・ケイ、そしてピアノ音を控えめに付ける娘のジェシーの3人で持たれた。それは、まさに気心の知れた親近者たち同士によるギグ。その様に触れて、スミス家のリヴィング・ルーム・コンサートに招かれた心持ちをぼくは得たりもした。客からのヴァイヴを直接的に受けるようとするかのように、パティは途中までギターを手にせず歌った。
この12月でパティとレニー・ケイはともに70歳を迎えるが、自然体の2人の姿の格好良さに、まずは大きくうなずく。両者とも白髪にて痩身だが、地に足をつけて、思うまま自らが信じる表現を送り出すという佇まいはちょっとした感興を誘う。2人のことを知らない人でも、彼女たちとすれちがったなら、この人たちは何者かと興味を持たずにはいられないのではないか。それから、余分な澱のようなものがこの人たちにはついていないとも痛感させられる。
また、ライヴに接してすぐに実感できるのは、パティ・スミスの歌の力の有り様。とても声が出ていて、それが澄んだ情緒を持っていて、これは非の打ち所のない素晴らしい歌い手だと気付かされる。正々堂々、清々しく。これは、まさにメインストリームとなるべきロック歌唱ではないか! かつては“NYパンクの女王”なんて言われた彼女だが、以前よりもストレートに、外連味なく歌うようになっているのは確か。そして、バンドではないないシンプルな設定による実演であることも、余計に飾らない素のヴォーカルの力を際立たせただろう。
オープナーは、U2やパール・ジャムも取り上げている、彼女の1978 年人気曲「ダンシング・ベアフィート」。以下、キャリアを括るようにいろんな時代の自分の曲を、パティは悠々と披露していく。昨年でリリース40年を向かえた事を伝えたうえで、デビュー作『ホーシズ』から選ばれたのはレゲエ調の「レドンド・ビーチ」だった。かつて姉との大げんかを引き金に歌詞を書いた曲だが、ここでは彼女のお茶目な面もアピールされたか。
パティは当然のことながらMCにも桁外れの訴求力を持ち、曲説明もちゃんとする。モハメド・アリに触れて1996年リリースの諦観曲「ビニース」やエイミー・ワインハウスを話の遡上にあげた後には2012年発表の「ディス・イズ・ザ・ガール」(歌詞に“This is the wine of the house it is said”という一節がある)なども披露した。また、公演日の6月7日はプリンスの誕生日だったが、プリンスの「ホエン・ダヴズ・クライ」も披露。より情念の濃い歌になっていて、この曲を取り上げる意義におおいに頷かされた。過去を乗り越え、今という場に凛と立つ。それらは、そう総括できるものであったはずだ。
アンコールにも2曲応える。その際、彼女は友人のお子さんというエレクトリック・ギターを持った日本人少年も連れて出てくる。観客とのコール&レスポンスにもなった2012年曲「バンガ」の途中で彼女は自分が弾いていたアコースティック・ギターを観客の一人をステージに上げて弾かせる(!)。何と、開かれた”シェア”の精神の発露であることか。
そして、アンコール2曲目はい彼女の1988年曲「ピープル・ハヴ・ザ・パワー」。タイトルを見てごとしの内容を持つ、いまやジョン・レノンの「ギヴ・ミー・ア・チャンス」と並ぶような著名プロテスト・ソングだ。青臭いと指摘することも可能かもしれないが、これだけしっかりした芯と意思を持つ個体から発せられると、本当に肯定的な所感を持つしかない。
音楽や言葉の原初的なパワーを改めて感じ、ココロに光をともされたような気持ちにもなった、生一本のパフォーマンス。人として、音楽好きとして、正しい態度の持ち方をこれほどまで示唆されようとは……。ロック的価値観の朽ちぬ有効性の山ほどの開示。終演後には、そんな思いが山のように頭の中に残った。
公演情報
Patti Smith
Opening Act
ジェシ・スミス
テンジン・チョーギャル
ビルボードライブ東京:2016/6/7(火)
1st Stage 開場 13:00 / 開演 14:00 2nd Stage 開場 19:00 / 開演 20:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2016/6/9(木)
1st Stage 開場 13:00 / 開演 14:00 2nd Stage 開場 19:00 / 開演 20:30
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
BAND MEMBERS
パティ・スミス / Patti Smith (Vocals)
レニー・ケイ / Lenny Kaye (Guitar)
ジェシー・パリス・スミス / Jesse Paris Smith (朗読)
テンジン・チョーギャル / Tenzin Choegyal (Vocals, Guitar)
Text: 佐藤英輔 l Photo: Yoshie Tominaga
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