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エディ・リーダー 来日記念特集~スコットランド屈指の癒しの歌声
イギリス・スコットランドのグラスゴー生まれのエディ・リーダーは、18歳のときにストリートミュージシャンとして活動をスタートさせる。やがて、サーカス団とともヨーロッパを旅をしながらパフォーマンスをおこなうようになる。1983年にはロンドンに拠点を移し、自身の活動のかたわら第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの代表格として一世を風靡したユーリズミックスや、元ヤズーのアリソン・モイエバッキング・ボーカルを務めるなど、徐々に活動の幅を広げていった。リーダーはこの頃にアリソン・モイエのツアーメンバーとして来日を果たしている。
そして、1987年、旧友であるシンガー・ソングライター/ギタリストのマーク・E・ネヴィンとリーダーのユニットにギタロン奏者のサイモン・エドワーズとドラマーのイ・ドッズが加わる形でバンド“フェアーグランド・アトラクション”を結成する。その幅広い活動・音楽性により「Ever-ready(常に準備OK)」というニックネームで呼ばれていたという当時のエディ・リーダー。すでにロンドンの音楽シーンにおいてもその実力が証明されていたこともあり、バンド結成後すぐにRCAと契約を結び、1988年にデビュー・アルバム『ファースト・キッス / First Of A Million Kiss』を発表する。
▲「パーフェクト」MV
アルバムのリード曲となった「パーフェクト」は全英チャート1位を獲得し、アルバムも大ヒットを記録。1989年のブリット・アウォードにおいてベスト・アルバムを獲得するなど華々しいデビューを飾った。パンク~ニュー・ウェーヴと70年代後半からの“尖った”音楽がシーンの主流となり、すでに飽和状態にあった80年代後半のイギリスにおいて、彼らのサウンドは逆に新鮮なものとして多くのリスナーに肯定的に迎えられた。エディ・リーダーの透き通るような歌声と飾らないキャラクター、フォークやジャズ、カントリーなどのルーツ・ミュージックをサラリと取り込むポップ・センスで人々の心を掴むことに成功した彼ら。イギリスだけでなく、アメリカや日本でもライブをおこない、まさに順風満帆なキャリアを歩んでいるとファンの誰もが思っていたのだが……デビューからわずか1年半あまりでバンドは解散を宣言。リーダーが当時のパートナーとの間に子供を授かった直後の1990年1月のことだった。
シングルB面曲や未発表曲を含むアルバム『ラスト・キッス』の発表をもって、その活動に終止符を打つことになってしまったフェアーグラウンド・アトラクション。彼らの突然の解散については、当時、解散を惜しむ声とともにメンバーの不仲などさまざまな憶測が飛び交ったが、そのような声に深く傷ついたとリーダーはのちのインタビューで語っている。しかし、バンドを失った悲しみや不安に襲われながらも、そしてプライベートでは母として育児に追われるかたわら、リーダーはソロ・アーティストとしての道を模索していった。
解散後は音楽を題材にしたBBCのTVドラマに出演したり、一時的に拠点を故郷のスコットランドに移したりとしばらくマイペースな活動をおこなっていたが、1992年にロンドンへと戻り、フェアーグラウンド・アトラクションのドラマー、ロイ・ドッズらによるトリオ“ザ・パトロン・セイント・オブ・インパーフェクション”をバック・バンドに従えて本格的に活動を再開。『エディ・リーダー / Mirmama』で晴れてソロデビューを果たした。しかし、デビュー作はセールス的には決して成功とはいえず、リーダーはバンド時代からのレーベルRCAから、ラフ・トレードの設立者であるジェフ・トラヴィスとワーナー・レコードとの共同レーベル、ブランコ・イ・ネグロへと移籍することになった。
▲『天使の嘆息』(1994年)
そして、1994年にはアメリカでのレコーディング作業を経てセカンド・アルバム『天使の嘆息 / Eddi Reader』を発表。プロデューサーにカナダ出身のシンガーソングライターK.D.ラングなどを手掛けたグレッグ・ペニーを迎え、楽曲制作には、この作品以降リーダーの数多くの楽曲を手がけることになるブー・ヒュワディーン、そして、かつてフェアーグラウンド・アトラクションでほとんどの楽曲を手がけていた旧友マーク・E・ネヴィンが4曲の楽曲提供をおこなっている。フェーアグラウンドの解散以降、絶縁状態にあると噂されていたネヴィンの楽曲提供は、ファンにとっては非常に嬉しいニュースとなった。
そして『天使の嘆息』からヒュワディーンが手がけたリード曲「ペイシャンス・オブ・エンジェルズ」がスマッシュヒットを記録し、アルバムも全英チャート4位にランクイン、翌年2月に行われたブリット・アウォードで「ベスト・ブリティッシュ・フィーメイル」を受賞するなど、フェアーグラウンド・アトラクション時代を彷彿とさせる快進撃で女性シンガーソングライターとしての地位を確立することに成功した。2年後となる1996年には、3作目『キャンディフロス&メディスィン/Candyfloss and Medicine』を発表。以降、ヒュワディーンを筆頭に、リーダーの弟が所属するスコティッシュ・ポップ/ロックバンド、トラッシュキャン・シナトラズのギタリストであり、彼女のプライベートのパートナーでもあるジョン・ダグラス、そして旧友ロイ・ドッズら、気心の知れたメンバーらとともにマイペースに新作発表やライブ活動を続けていった。
2000年代に入ると、スコットランドを代表する18世紀の詩人ロバート・バーンズを題材にした『ロバート・バーンズを想う』(2003年)やスコットランドのトラディショナルな楽曲をフィーチャーした『ピースタイム』(2007年)と、原点回帰的な作品のリリースが続いたリーダーだったが、2009年には約7年ぶりとなるオリジナル・アルバム『ラヴ・イズ・ザ・ウェイ』をリリース。そして、同作をひっさげてのツアーなどを経て、2014年には通算11枚目となるアルバム『ヴァガボンド』を発表している。
瑞々しい歌声はデビュー当時から現在までほとんど変わっていないが、近年のリーダーの作品には、彼女の音楽的な才能だけでなく、一人の女性として、母として、人生を謳歌している、彼女自身の現在のライフスタイルを存分に感じさせてくれる。特別な言葉や奇抜な表現は一切使わず、シンプルな言葉で丁寧に歌われる愛の歌は、なんとも詩的で芸術的。そして、サウンドに漂う独特の空気感は、彼女が長い年月をかけて築いてきた友人たち=ミュージシャンたちとの関係そのもの。まるでセッションの輪のなかにいるように親密で、穏やかで、温かい音色を聴かせてくれる。
今回の来日公演にも、リーダーが音楽面で絶大な信頼を寄せるパートナー、ブー・ヒュワディーン、そして、プライベートでのパートナーであるジョン・ダグラスもバンド・メンバーとして参加予定。ソロ楽曲はもちろん、フェアーグラウンド時代の名曲もレパートリーの定番となっているリーダーのライブは、まさに彼女の人生を凝縮したひとときと言っていいだろう。歌声とアコースティックな音色、バンドの持つ空気感が作り出す癒しと安らぎを、ぜひ多くのリスナーに体験してもらいたい。
公演情報
Eddi Reader
Billboard Live Tour 2016
ビルボードライブ大阪:2016/7/4(月)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ東京:2016/7/5(火)~7/6(水)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
BAND MEMBERS
エディ・リーダー / Eddi Reader (Vocals, Guitar)
ジョン・ダグラス / John Douglas (Guitar)
スティーヴ・ハミルトン / Steve Hamilton (Piano, Keyboards)
アラン・ケリー / Alan Kelly (Accordion)
ブー・ヒュワディーン / Boo Hewerdine (Guitar, Vocals)
ケビン・マグワイアー / Kevin McGuire (Double Bass)
関連リンク
Text: 多田 愛子
ヴァガボンド
2014/05/21 RELEASE
SICP-30601 ¥ 2,860(税込)
Disc01
- 01.アイル・ネヴァー・ビー・ザ・セイム
- 02.バック・ザ・ドッグス(ダンシング・ダウン・ロック)
- 03.ヴァガボンド
- 04.マリード・トゥ・ザ・シー
- 05.エディナ
- 06.スノーフレークス・イン・ザ・サン
- 07.ベイビーズ・ボート
- 08.マクシュラ(マイ・ダーリン)
- 09.ミッドナイト・イン・パリ・1979
- 10.ブエン・ナ・ラニック(フェアリー・ラヴ・ソング)
- 11.イン・マ・エイン・カントリー
- 12.プレイ・ザ・デビル・バック・トゥ・ヘル
- 13.ヒア・カムズ・ザ・ベルズ
- 14.イッツ・ア・ビューティフル・ナイト
- 15.ハレルヤ (ライヴ) (日本盤ボーナス・トラック)
- 16.ドルフィンズ (ライヴ) (日本盤ボーナス・トラック)
- 17.ジャクスタポーズド・ウィズ・ユー (日本盤ボーナス・トラック)
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