Billboard JAPAN


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Gotch「Good New Times」インタビュー

 ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマンとしても活躍するGotchこと後藤正文が、いよいよ新作2ndソロアルバム「Good New Times」をリリースする。そして6月にはアルバムと同タイトルのライブイベントを東阪ビルボードライブにて開催。新作の参加メンバーも多く顔を揃えた公演は、Gotchの新しい音楽をいち早く体感する絶好のチャンスとなる。今回、Billboard JAPANでは、アルバム音源を一足先に聴かせて貰い、Gotch本人にインタビュー。アルバム、そしてライブを目前にしたこのタイミングに、そこで鳴らされる音楽にイメージを膨らませつつ、以下の対話をぜひ読んでみて欲しい。

少しずつ花束を手渡すかのように、自分の関わった空間の空気を良くしていきたい

――6月にビルボードライブで初公演を行いますが、ああいうライブレストランで演奏したことってこれまでにもありますか?

Gotch:昔、ASIAN KUNG-FU GENERATIONで大阪と京都をツアーした時に、観客が食事を取りながら観る場所でやったことがありましたけど、ビルボードみたいな大人っぽいところでやるのは初めてじゃないですかね。弾き語りだったら変わったところで演奏することがありますけどね。能楽堂とか、寺とか、森の山奥とか。

――逆に観客としては?

Gotch:ありますよ。トータスとかロバート・グラスパーとか、ルーツも観に行きましたね。割と渋いカッコいいやつを呼んでくれるので。お酒飲みながら観られるし。年取ってくるとライブハウスは割と凹むんですよね。

――凹む(笑)。

Gotch:フルフラットのライブハウスは若くないとね。3時間も平たいところに立ちっぱなしとか。観にくい観やすいっていうのもあるし。音楽との相性がある会場だけど、落ち着いて聴きたい音楽は、自分の席があるのも良いなと思います。

――Gotchさんは普段のライブでも、PA卓の近くでキチッと聴いているというイメージがあります。

Gotch:二十歳くらいの若い頃はちょっと暴れたいなって気持ちもあって、モッシュやダイブもしましたけど、音楽をより“聴く”ようになったので、だんだんPA前とかが居心地がよくなって来ましたね。やっぱり、ドラマーが上手い人だったら見たいじゃないですか。クリス・デイブとかだったら手と足がどうなってるのかな?とかやっぱり気になるし、ミュージシャンたちがどういう機材を使ってるのかも気になりますよね。

――今回のイベントの「Good New Times」というタイトルはバンド名であり、新しいアルバム名でその表題曲名でもある言葉です。この言葉を選んだ理由を教えて貰ってもいいですか?

Gotch:全部統一しているのは横着なところもあるんですけど(笑)、名前をつけるのはすごく難しくて。毎回ツアーの度に思いますね。

――全部ご自身で名前を付けているんですね。

Gotch:そうです。名付けに関しては、人に任せるわけにいかないので。ビルボードの冊子を見ていると、洋楽アーティストの公演にはタイトルが無いのに、日本人ミュージシャンだけタイトルがあって。それはニュースとして出す時に、タイトルがないとヌルッとした情報になってしまうから、バシッとしたタイトルが欲しいんだろうな、とか考えつつ…。別にそういう投げやりな気持ちでつけたわけじゃ無いんですけどね(笑)。

 自分にとって、今は「Good New Times」という言葉が表すようなシーズンかなと思っていて。それに、この曲の歌詞で歌っていることが自分でも気に入っているんです。

Gotch - Good New Times


――ひと足先に聴かせてもらいましたが、すごく良い曲ですよね。

Gotch:自分が何をしたいのかを考えたんです。少しずつ花束を手渡すかのように、自分の関わった空間の空気を良くしていきたいという気持ちがやっぱり自分にはある。今回のソロアルバムも、自分のバンドと一緒にいろいろなところに行って、手渡すように音楽を鳴らしていくのが良いのかなって。

 ポジティブな言葉で良いなと思ったんですよね。真新しい、ポジティブなフィーリングを表す言葉っていうのを考えていて。この曲は日本語詞で、1行も「Good New Times」という言葉は出てこないんですけど、そこで歌われているようなことに名前をつけるならどういうのが良いのか考えて、出てきたのが「Good New Times」だったんです。今自分がやりたいこと、やろうとしていることを象徴する言葉かなと思います。

――“花束を渡すように”というのはどういうニュアンスなのか、もう少し聞いても良いですか?

Gotch:僕、花屋に行くのが好きなんですよ。でも、言ってしまえば、生産性が無いと思うんですよ、花を作ることって。それ自体が食べられるわけでも無いし、枯れたらゴミになるわけだし。単なる農業としてあるわけではない。そういうのは自分たちがやっていることと近いと思うんです。

――衣食住に直接関わるわけではないけれど、という。

Gotch:そうです。でも、良い気分になりますよね。花を貰って「チクショー!」って気分になる人はほとんどいない。なんか素敵な花があって、ちょっと誰かに渡そうかしらって言って、千円でも千五百円でも花束を買って、友達とか恋人に渡したら、やっぱり「ありがとう」って気持ちになると思うんです。

 もちろん、教室の机の上に菊とか置かれたりしたら陰湿なイジメになっちゃうし、極端に花が嫌いな人とか、例外はあるけど、基本的にはポジティブな行為だと思うんです。なんとなく人の気分をよくするために、花を育てたり売ったりすることに従事する人が居るというのはすごく良いと思う。良いと思いませんか?

――たしかに、そうですね。

Gotch:それがあると無いとでは全然違いますよね。街に花屋がある社会の方が僕は豊かだと思う。そんなことを自分もしたいなと思います。花そのものの美しさもあるけど、それに伴ういろいろな思いのやりとりが良いなと。感謝だったり、愛情だったり、時には欲望の場合もあるだろうけど。ただ無機質に花をやり取りしてるのではなくて、やり取りによって何らかの感情の波が起こる。ほとんど良い波だと思うんですけど。そういうのがやっぱり良いなと思います。

――自分がやっている音楽も、そういうものであって欲しい?

Gotch:そうですね。実際、花束のことを歌う人は多いですよね。宇多田ヒカルさんの新曲とかね。

宇多田ヒカル - 花束を君に(30s Version)


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ある種のビートニク・リバイバルみたいな意識が自分にはあるんです

――新しいアルバムについて、先ほど何曲か聴かせて頂いて、素晴らしいと思いました。ある意味、去年の『Wonder Future』(ASIAN KUNG-FU GENERATION)とは全く違うフィーリングのアルバムですよね。

Gotch:はい。

――そういうフィーリングって、Gotchさん自身が求めていたものなのか、それともGotchバンドのメンバーとやる中で自然と生まれたものなのか、どちらだと思いますか?

Gotch:ソロの曲の方は「エイヤ!!」というような気持ちでは作っていないです。自然体というか、湧いてきたもの順というか。ASIAN KANG-FU GENERATIONの場合、多少自分から鍋の下に火を焚べて湯を沸かさないといけないんですけど、ソロは「良いじゃんヌルくても。自分にとって適温だったらそれで良い」みたいな。仲間たちとの自然なやり取りの中で、日常会話をするように作っていったというか。アジカンはなんか最初にいきなり会議室に通される感じだから。

――もうちょっとプロジェクトっぽい?

Gotch:そういう感じはしますね。ソロはもうちょっとリラックスしてます。

――聴かせて貰った中で、新作のポイントの一つにカントリー的な要素があるのかなと思ったのですが、それはやはりTurntable Filmsの井上さんと作業していく中で出てきた部分が大きいですか?

Gotch:そうですね。(井上は)カントリーのギターは死ぬほど上手いから、それは「ちょっと弾いてみて」ってなりますよね(笑)。「ここにカントリーっぽいギターを当てたらどうなるかな」っていうのは無邪気に思います。

Turntable Films - Light Through


――Gotchさんご自身の中にカントリー的なバック・グラウンドはあるんですか?

Gotch:10代の頃からウィルコが大好きですね。井上君とはウィルコの話で盛り上がりますね。彼とは割と音楽の趣味がカブるところがあるんです。

 でも、カントリーと言っても、純粋なカントリーという感じでは無いですけどね。割と現代的に解釈されたものというか。でも、アメリカのロックが好きだったら少なからずカントリーとかブルースの要素は入ってくるから、避けては通れない感じはします。「自分の血に無いなー」と思いながら聴いてますね。だからこそ良かったりするんですけど。

――2014年のフジロックでGotchさんのバンドを観て、アルバムと全然違うと衝撃を受けました。

Gotch:観ましたか、あのライブ(笑)。「おい、ウィルコだぞ!」って思いながらカヴァー曲は演奏してました(笑)。他の曲は知らなくてもウィルコだったらみんなサビのところを歌ってくれるかな、と思ってセットリストに入れたんですけど、終わった後、メンバーで「スベったね~」って(笑)。

――いやいや、でも超かっこよかったですよ!

Gotch:ありがとうございます(笑)。アルバムよりオーガニックというか、みんなでザ・バンドとかウィルコの映像を観ながらバンドの音像を作っていきましたね。

Gotch - A Girl in Love


――手応えの伝わってくるライブで、絶対にそれだけでは終わらないだろうなと思いました。実際、あのバンドが出来たことが新作にも密に影響してますよね。

Gotch:このメンバーで1枚作ってみたいというのはありました。1枚目はほとんど個人作業で、自分一人で友達を呼んで寄り集めたものを(ジョン・)マッケンタイアのスタジオでミックスしたアルバムだったので、バンドで作業してなかったんですよ。(Gotchバンドの)ツアーを経て、良い空気が生まれていたので、佐野(元春)さんみたいな感じでやれたら楽しいだろうなって。

――実際、表題曲の「Good New Times」を聴いて思い浮かべたのがザ・バンドと佐野元春。あと連想でボブ・ディラン。さらに「ケルアック」や「ホーボー」っていう歌詞もあって、ビートニク運動のことを連想しました。

Gotch:そうですね。ある種のビートニク・リバイバルみたいな意識が自分にはあるんです。アメリカにも「失われた世代」、あるいは物質的に豊かな中で「打ちのめされた」世代があって、そういう流れなかで生まれたのがビートニクだと思っているので、僕らみたいなロスト・ジェネレーションは、現代風にあれをやり直すのが良いんじゃないかと思っているんです。

――今回の「Good New Times」の歌詞も、そういう世代に投げかけている部分がありますよね。

Gotch:アジカンでもチャレンジはしているんです。新しい言葉遣いとか、散らかったイメージを新しいフィーリングに向けて束ねていくというか。解体と再生を同時にやるみたいな。ともすると、カットアップして何を言ってるか全く分からなくする方向もあるんだろうけど。そういう技術的な手法も取り入れながら、新しいやり方、新しい“ビート”みたいなものがあるんじゃないか、みたいなことは考えます。彼らがやったみたいにクールに詩を書きたいんだけど、街中の言葉を見たら、もの凄い平易に、もの凄いシンプルに、ほとんどの言葉がキャッチコピーみたいになっていて、歌詞もそうなっているのかもしれない。それに対して抗いたいという気持ちもあるんです。もちろん、ただ複雑にしていくだけではダメなんですけど。

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――後藤さんはよく“イメージ”という言葉を使いますよね。アジカンの初期の頃から、後藤さんの歌詞は、伝えたいことはありつつ、明確なメッセージやストーリーを語るのではなく、もう少し漠然とした何かを伝える形を取っていることが多い気がします。

Gotch:フィーリングとイメージっていうのはすごい大事ですよね。でも、それを伝えることって難しいんですよ。種まきみたいにやるしかなくて、伝わるのに時間が掛かる。芽さえ出してくれればと思うんですけど、難しいんです。合う合わないがあるし、育つ場所と育たない場所があるから。

――誤解を招いたりとか?

Gotch:そういうことです。水をやらないと育たないこともあるし、その人に何か特別な水々しさがあれば、水なんかあげなくても育つこともある。“種を蒔く”って、何かを作ったり、届けたり、読み解いたりすることが必要な、ありとあらゆるものの比喩に使えると思います。

 他人の作品と接してる時もそういう気がしますね。自分が作品を深く理解して感動しているつもりでも、本来的には種のままにとどめてしまっているかも知れない。育て方次第ではなんとでも育つから、受け手である僕がどうあるかっていうのはすごく大事なんだなと、人の作品を読んでよく思います。だから緊張しますよ、自分の好きな作家の作品が分からなかった時。「なんで分かんないんだろう?」って。

 でも、その後、読めるようになったりするんです。そういう風に変わっていくことって音楽でもありますよね。最初は分からない曲ってあるじゃないですか。「全部一緒じゃないか」みたいな(笑)。

――分かります(笑)。

Gotch:歳を取ってから違いが分かるっていうね。ドアを開けて中に入ってみないと分からないことってあるんですよ。どういう間取りとパースペクティブなのか。だからザ・バンドとかも10代で聴いた時は、先輩たちが良いって言っててもよく分からなかったですけど、30歳くらいになって良いかもって思うようになって、去年くらいは『ラスト・ワルツ』のDVDをみんなで観ながら「今年のベストアクト!」みたいな(笑)。

――本当に。全員が凄まじい奏者で、曲が書ける人も多い。

Gotch:でしょう? ボブ・ディランだけフォルムが違うぞ、みたいなのもありましたけどね(笑)。一人だけハリウッド俳優みたいで。逆にニール・ヤングはヘロヘロとかね(笑)。

The Last Waltz (The Band) - Shall Be Released


――今回のアルバムは英語詞の曲もポイントですよね。実際に英語で書いて歌ってみてどうでしたか?

Gotch:もちろん言葉はすごく音楽に影響を及ぼします。でも、今回に関して言えば、なるべくユニバーサルなものを作ってみたかったんです。この時代を生きる人間が作る音楽として、国籍とかを限定しないで広く作ってみたいなって。日本語ってやっぱり他の言語圏の人たちからすれば難しいんですよね。対して、英語は開かれてる言葉だと思う。それで、挑戦してみたかったんです。英語圏の音楽に憧れて音楽を始めたので、言葉の押韻や譜割りに関しては、そっちからの影響の方がもともと強いんです。

――じゃあ、そこまで苦労したわけではない?

Gotch:はい。ボキャブラリーさえあれば、あたらめて英語の方が楽かもしれないと思いました。日本語だと、言葉が分かるだけに難しい。英語で歌う場合は英語が母語ではないので、歌った瞬間の意味の解像度が低い。だからこそ音楽的な美しさに没頭できるところがありました。

 逆に「この言い回しダサいのかな?」とかは、英語の話者の友達に聞いてみないと分からない。だからイギリス人の友達に「こういう言い方するの?」とか質問して、またそれはそれでイギリスでは言うけどアメリカでは言わないとか、別の問題が立ち上がってきて「マジかよ!」って驚きました(笑)。そういう勉強も含め、新しい挑戦として面白いなと思いましたけどね。

――先に英語で仮歌を書いて、響きの似た日本語を当てていくっていう人もいますけど、Gotchさんは普段はそういう書き方はしますか?

Gotch:しますね。英語というか、デタラメの英語っぽい仮歌ですけど。でも、僕は普段から日本語の押韻を意識して曲を書いているので、極端に英語っぽい仮歌を作ると当てはまる言葉がないんですよ。英語で書くと、そういう柵から解放されるっていうのはありますね。最後に日本語に置き換える必要がない。ただ、英語だと韻の当てはまる言葉を自分の外側で探さないといけなくなるから、辞書が手放せなくなりますね(笑)。どうして中学の頃の俺は英単語を疎かにしたのか、恨みすら立ち上がってきます。

――まさか何十年後に英語詞の作詞で悩むことになるとは(笑)。

Gotch:そうなんです。だから最近は他人の楽曲の歌詞を英訳しています。好きなレコードの歌詞を何度も読んで、自分なりの日本語に訳して。忙しい時はできないけど、暇な時は一週間に一曲とか、朝の時間だけ取り組むとか。

――そうやって歌詞の意味を取り直す?

Gotch:そうです。そうすると「ああ、こういう言い回しもあるな」みたいに気づくことが多いんです。同時代を生きるミュージシャンたちが歌っている内容とか、言葉遣いとか、そういうことも知りたいし、研究も必要なのかなと。英語で歌詞を書くと、なんとなく一人称の「I」から書いてしまうんですけど、 英語の歌詞に「I」って頻繁に出てこないですからね。

――確かにそうですね。

Gotch:歌詞の意味から考えると大変なことになるので、詞の構造を勉強するというか。人の詩集を読んで、どういう書き出しなのか調べてみたり。よく自分の歌詞を、アルバムのリリース前に英語に訳して貰うんですけど、そこでも色々問題になるんですよ。

――主語が明確じゃないとか?

Gotch:そうそう。日本語らしく「ここは主語を明確にしたく無いんだけど」って言うと「英語の場合は、ここには主語をつけないとダメです」みたいな。あとは所有格とか、「his」なのか「her」なのかとか。濁して良い時と、濁しちゃいけない時とか。その辺はまだよく理解できていなくて、不思議なことも多いです。毎回エラー、エラーで、その度に学んでますね。

――解釈の違いという部分もありますか?

Gotch:いや、単純に言い回しのレベルですね。日本語で言ったら、「良いじゃん」と「良いですよね」の違いとか、日本語でいうところの体現止めみたいなもの。押韻についても、こっちが思ってる以上に色んな技法があるんでしょうね。もちろん、そういうのが全く分からない良さもあるのかも知れないですけどね。英語圏の人だったらそういう音節では歌わないっていうのを北欧の人たちがやって、それが逆に面白くて受けるっていうこともあるみたいです。

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――なるほど。今回プロデュースに元デス・キャブ・フォー・キューティーのクリス・ウォラさんを招いていますが、どういう経緯で?

Gotch:クリスはずっと“一緒に仕事をしたい人”のリストのトップに居た人で、前作でもオファーはしてみたんだけど、忙しかったのもあって上手く行かなくて。今回、偶然タイミングが良かったのでオファーしました。

――いまクリスさんはノルウェイの在住ですよね? 彼がプロデュースすると聞いて、最初は「どんな形でやったんだろう?」と思っていたのですが、実際に東京のスタジオまで来て作業したんですよね?

Gotch:そうですね。彼らのプロデュースって、日本人が思ってるプロデュースと違うところがあって。日本人の思うプロデュースってアレンジャー的なイメージなんですよ。

――確かにそうですね。小室哲哉さんとか。

Gotch:コンポーザーとアレンジャーをやるみたいな。向こうはもっとサウンド・デザインというかエンジニアリングも含めてみたいな感じで、エンジニア上がりのプロデューサーが多いんです。どういうマイクで録って、どういう機材を使って、どういう音像にしていくかについて考える。楽曲についてももちろん考える。もっと総合的なものなんですよね。

――日本には秋元康さんみたいに作詞を中心としたプロデューサーもいますよね。

Gotch:彼らは売り方とか、アーティストのあり方をプロデュースしているわけで、もっと広義ですよね。日本だと今回のクリスのような役割はサウンド・プロデューサーという表記になっちゃうけど、基本的にはサウンド・プロデューサーがプロデューサーですから。

――じゃあ、クリスさんとは、アルバムを作る前から、どういう音像にしたい、とかを話し合って進めていったんですか?

Gotch:デモを送ったりメッセージを送ったりはしました。でも、基本的には任せますよ。向こうは権限がめちゃくちゃ強いですから。プロデューサーがイエスって言ってることはイエスです(笑)。

――そうなんですね!

Gotch:そうですよ。だからといってクリスが言ったことが神様みたいに絶対じゃなくて、もちろん僕らも意見します。でも、ジャッジはクリスに任せる。

――なるほど。それくらいの全幅の信頼感でお願いしたということですね。

Gotch:そういうことです。でも、アメリカとかだと、もっと厳しい場合もあるみたいですよ。アジカンでも何度かアメリカで制作しましたけど、向こうのエンジニアに対しても「この音“プロデュース”で頼んでたら絶対直してくれないだろうな」って思ったりしますもん。

――クリスさんとは実際に作業してみてどうでしたか?

Gotch:クリスはすごくスイートだし、とにかくポジティブな言葉を投げかけてくれる。英語圏の人たちの多くはそういう言葉使いだから、日本人は一度、アメリカ人とかと作業した方がいいと思います(笑)。「クール!」だとか「グレイトワーク!」だとか、そういうことばっかり言ってくれるから。何か向こうが変更したいところがあったとしても、まずポジティブな言葉からはじまります。友達に聞いたら、あのジョン・スペンサーですらそうだっていうんだから。

――ジョンスペも?!

Gotch:ジョンスペでも「今のテイクは最高だった、でも。もうちょっとやったらもっとよくなると思う」っていう言い方をするらしいですよ。

――すごく意外です。

Gotch:ね、殴ってきそうなイメージでしょ?(笑) でも、そうじゃないっていう話を聞きました。クリスも「クール」とか「ナイス」から入ってくるから、空気を良くするのが上手。だからあんまり場の空気が濁る瞬間がなかったというか、楽しく前向きに積み重ねていくことができました。

――今度のライブはクリスさんは居ませんが、どんなライブになりそうですか?

Gotch:本当に有機的なものになると思いますよ。バンドってこういうものだよね?みたいな。人間のやってることなんで色々揺らぎがあると思うんですけど、音楽って本来その揺らぎを楽しむものだと思うんです。だから、そういうものであったら良いなと思いますね。クリスには、「一緒に日本でツアーしようよ」って伝えたんですけれど、「ツアーはもう一生分やった」みたいなことを言ってました(笑)。「“ツアー”なんて言葉は忘れたよ」って(笑)。

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