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「10~11年ぐらいライブ活動を続けているけど、昔はファンなんて全然いなかった」 ― ジェイムス・ベイ 初来日インタビュー

ジェイムス・ベイ 初来日インタビュー

 2015年、最も飛躍した若手と言えば、現在25歳のイギリス出身のシンガーソングライター、ジェイムス・ベイだろう。2013年にザ・ローリング・ストーンズのハイド・パーク公演のオープニング・アクトを務めたことで一躍注目を浴び、翌年リリースした「Hold Back the River」で大ブレイク。2015年に入ると<BBC Sound of 2015>で2位に選出され、【ブリット・アワード】では批評家賞を受賞。同年3月に満を持してリリースしたデビュー作『カオス&ザ・カーム』は全英アルバム・チャート初登場1位、米ビルボード・アルバム・チャート最高位15位をマーク。その卓越したギタープレイもさることながら、愛や喪失など普遍的なテーマを情緒的に描写した人間味あふれる楽曲の数々は、幅広い世代から共感を呼び、【グラミー賞】3部門、【ブリット・アワード】3部門にノミネートされる快挙となった。2016年3月には待望の初ジャパン・ツアーのために初来日し、8月には【SUMMER SONIC】へ出演するために再び日本へ戻ってくることが決定しているジェイムスにインタビューを決行。短い取材時間にも関わらず、一つ一つの質問に対して真摯かつウィットに富んだ回答をしてくれた。

TOP Photo: Sotaro Goto

ちょうどネオンの明かりがつきだす時間帯で、「東京に来た!」って感じがした

−−イギリスから雨まで連れて来ちゃったみたいですね(取材時は大雨)。

ジェイムス・ベイ:飛行機で日本へ向ってる途中で雨雲を分散させようとしたんだけど、よくあるんだよね(笑)。数週間前にオーストラリアにツアーで行ったんだけど、到着した時は暑くて、気候がパーフェクトだった。今、ちょうど夏だからね。着いた翌日にショーがあったんだけど、その日が唯一の野外ライブだったんだ。でも、朝起きたら大雨で、サウンドチェックが終わる20分前まで降り続けた。ショーをキャンセルする寸前だったんだよ。幸運にも直前に止んでくれて、美しい夜空の下でライブをすることができたけどね。前日まではずっと暑かったのに…こんな具合に雨にずっとつきまとわれているんだ(苦笑)。

−−(笑)。ちなみに、今回が初来日ですよね。

ジェイムス:そう!まだ到着して24時間経ってないんだ。

−−少しは観光できましたか?

ジェイムス:昨晩、ちょっとだけね。12時間のフライトを経て、お昼ぐらいにホテルに着いたんだけど、僕は疲れてたからそのまま3~4時間ぐらい昼寝をしたんだ。他のメンバーは、街に繰り出したみたいだけど。僕は、夕方、暗くなって外に出たんだけど、ちょうどネオンの明かりがつきだす時間帯で、「東京に来た!」って感じがしたよ。僕みたいに、これまで一度も日本に来たことがなかった人間にしてみたら、ネオンって東京を象徴するもので、それをこの目で実際に見れたのは最高だったね!時間がある時に、もっともっと色々なものが見てみたい。

−−そして先日の【ブリット・アワード】では<最優秀ブリティッシュ男性ソロ・アーティスト賞>の受賞おめでとうございます。

ジェイムス:ありがとう!

−−パフォーマンスも相変わらず素晴らしかったです。ああいった大きな授賞式では、ジェイムス自身が尊敬するアーティストを含む大勢の観客の前で演奏しなければならないので緊張すると思いますが、バッチリでしたね。

ジェイムス:そう、同世代や大御所の尊敬するアーティストの前でね。マスターするのが難しいけど、だんだん慣れてきているよ。普通のライブとは違うからね。これまで「Hold Back the River」は何度も演奏してきた。ライブではラストにプレイするんだけど、授賞式で演奏するのとはまったく違う―会場に着いて、客席で授賞式を見て、自分が演奏する時間になったらステージに上がる。だから音楽的なウォームアップやビルドアップがまったくない。そんな状況の中でステージに上がって、演奏して、終わったらすぐにステージを降りる。TVだけど、ライブの時と同じようなパフォーマンスをしなければならない。それが大変だ、とは言いたくないけど、やっぱり何かが違うよね。状況によって、さらに大変な場合もあるし。とにかくベストを尽くし、よりいいパフォーマンスができるように努力してる。

−−ジャスティン・ビーバーのパフォーマンスに参加したのは意外で、驚かされた人も多かったと思います。

ジェイムス:それが狙いだったんだ!まさに、その反応を求めていた。

−−彼とは元々知り合いだったのですか?

ジェイムス:何度か会ったことはあったよ。何かのパーティーだったかな…。授賞式の数週間前に決まったコラボなんだけど、あの日、彼のギタリストが参加することできなくて、困っていたみたいなんだ。それって、すごく稀な出来事だよね。だって、自分がジャスティンのギタリストだったら、普通にスケジュールを空けておくだろう(笑)?

−−ですよね(笑)。

 で、マネージャー同志も知り合いになっていたから、彼らがこのコラボを企てたってわけ。意見を求められた僕は、「構わないよ。“Love Yourself”はすごくいい曲じゃないか。」って快諾したんだ。

 ぶっちゃけ、新作(『パーパス』)がリリースされるまでジャスティンの音楽を熱心に聴いたことはなかった。でも、ポップ・ミュージックやラジオでかかるようなポップな曲は大好きだし、「Sorry」や「Where Are You Now?」もいい曲だ。理由はわからないけど、彼の過去の曲よりも心惹かれた。特に「Love Yourself」は、飾り気のないところがいいよね。

 ギタリストとして何かに参加にしてほしい、って言われるのはすごくクールだよ。もちろん歌うのも好きだけど…声を休めることができる上に、ステージに上がって演奏できる…ギタリストとして。とっても光栄だったし、【ブリット・アワード】のステージで2回もパフォーマンスすることができた。演奏するのが楽しい曲だったね。



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アメリカーナやロックンロールだったり、
アメリカの音楽の影響から少し距離を置きたいという気持ちもあった

−−今でも「Scars」などではバックバンドなしで、完全にソロでプレイすることがありますが、たった1人でも大勢の観客を惹きつけることができるのはジェイムスの魅力の一つだと思います。決して容易いことではないですが、パフォーマーとしての自信はどのように身につけたのですか?

ジェイムス:ごく自然と今の自信のレベルに至るって感じだな。挑戦は嫌いじゃないから。1人でステージに立つ時、50人…15人でも大勢の人がいるように思えるのに、それが5,000人ときたら、完全に多いよね(笑)。けれど人数に関わらず、常に挑戦なんだ。

 国によって、観客の礼儀正しさにも差がある。特にアメリカやイギリスでは、静かな曲になると、ライブ中に友達と喋ったり、バーへ飲み物を買いに行ったりする人もいる。どれ具合の度合いのファンなのか、っていうのも関係してくると思うけど(笑)。曲を知っていて、長年のファンであれば、ちゃんと聴きたいと思うかもしれない。僕は、かれこれ10~11年ぐらいライブ活動を続けているけど、昔はファンなんて全然いなかった。だから早い段階で、静かな曲を聴いてくれないような観客の注意を引けるようなパフォーマンスのコツを試行錯誤し、ライブを重ねるとともにコツをつかんでいった。

 やっぱり自信を持つことがキーだ。それ以外にやってのける方法はないよ。この曲は、「静かに聴いてくれ」ってパフォーマンスを通じて力説する。言葉で説明するより、実際に観てもらったほうが分かりやすいと思うけど、“レス・イズ・モア(=省略の美 )”のエトスがすごく当てはまる瞬間じゃないかな。これから何かが起こる、という雰囲気を身振りとしぐさで醸し出せば、人は興味をそそられて聴き続ける。小さなピンが1個床に落ちただけもその音が聞こえるような静寂…そんな空間を演出するんだ。これは僕が長年の経験を経て、学んだことのひとつ。それをマスターできたのには、興奮するよ。うぬぼれてるわけじゃないよ。まるで演劇で、そうあるべきなんだ。

 僕、ダンスシアターを観に行くのが好きなんだけど、ホフェッシュ・シェクター・カンパニーなんかは、会場を真っ暗にして観客の興味をそそるんだ。間違えてスマホの画面がついちゃった日には、観客全員の注目を浴びちゃうけど(笑)。会場が沈黙に包まれると、スピーカーから微かな音が聴こえてきて、観客は身を乗り出して何が起こるか待っている。すごく興奮するよ。僕なりにそういう環境を演出しようと努力しているんだ。


−−わかりました。ジェイムスの音楽性からは、アメリカのロックやブルースの影響が見受けられますが、実際にナッシュヴィルでレコーディングをするのはエキサイティングだったと思います。

ジェイムス:イエス!もちろんだよ。正直なところ、ずっとロンドンを拠点に活動してきて、アメリカーナやロックンロールだったり、アメリカの音楽の影響から少し距離を置きたいという気持ちもあった。どっぷり浸りすぎてしまうと、僕が育みたかったユニークなサウンドが埋もれてしまうと思ったから。もちろんそういう音楽は僕の一部ではあるんだけど。

 ナッシュヴィルは、カントリー・ミュージックの聖地という風に、行く何か月も前から色々な人に訊いていた。実際に行ってみて思ったのが、カントリーや「これぞアメリカン・サウンド!」っていう根幹がありつつも、ジャンルに捉われない普遍的で、新しい、魅了的な音楽の可能性を開拓している人が大勢いるということ。

 一時期は行くことを躊躇していたけど、今作をプロデューサーしてくれたジャックワイア・キングが住んでいたから、最終的に行くことを決心したんだ。僕は作った曲と共に世界中どこにでも行くことができるけど、彼のスタジオをナッシュヴィルから移動することはできないから。そして実際に訪れたことで、活気溢れる、多彩なミュージック・シーンがある街だということに気づかされた感じだね。

−−ジャックワイアは様々な著名アーティストの作品を手掛けていて、ジェイムス自身、彼との仕事を熱望していたそうですが、彼が作品に与えた影響は?

ジェイムス:一番は経験かな。僕にとって大切だったのは、レコーディングを熟知している人とスタジオ入りすること。それは僕に欠けていたスキルだったから。実際にやってみて、様々なことを学んだけれど、その当時は何も知らなかった。あとマナーかな。スタジオでの振る舞い方。あんまり音楽と関係ないように聞こえるかもしれないけれど。そして作った曲をじっくりと聴くこと。何か意見があっても、まずは3度繰り返して聴いてみて、もう1回聴いてみる、とにかくじっくりと聴いて、次のステップを考えるんだ。単純にアイディアを録音するだけのアーティストも多くいるけれど、そのアイディアを時間をかけて熟成させていかないとダメなんだ。


−−今回初めてバンドとレコーディングしたそうですが、ジェイムスが最初に書き上げたヴァージョンから完成に至るまでで、最も劇的な変化を遂げた曲は?

ジェイムス:「Scars」はそうだね。12曲中8曲は、事前に自分でデモを作っていたから、それに添ってレコーディングしようと試みた。デモをすごく気に入っていたけど、まだブラッシュアップできる余地があったから。でも、その他の曲は僕のヴォーカルとギターのみのヴァージョンしか存在していなかった。「Scars」はそのうちの1曲。最初は、音楽的にこれ以上できることがあるか、わからなかった。そしてスタジオで塾考を重ねた。曲がどのように形になっていくかは不思議なプロセスで…この曲の中核になるような部分をレコーディングしていた時に「映画『ライオン・キング』のオープニングみたいにしたい。」ってジャックワイアに言ったのを覚えてるよ。

−−(笑)。

ジェイムス:可笑しいけど、本当の話だよ!

−−最後に「Get Out While You Can」がどのように形になったか教えてください。スプリングスティーンを彷彿とさせる壮大なスタジアム・ロック・ナンバーですよね。

ジェイムス:嬉しいね~。ジャックワイアがキングス・オブ・レオンとよく一緒に仕事をしているのは知っているよね?初期のサウンドはもちろんだけど、その後の作品で彼らのサウンドにスケール感を与える手助けをした。実は、この曲もギターのみ作った曲で、デモもなかった。で、たしか彼に、ロックで、壮大なナンバーにしたいって言ったんだと思うよ。そこから一緒にサウンドを構築していった。僕が思い描いていたサウンドが、うまく形になった曲なんじゃないかな。

写真

ジェイムス・ベイ「カオス&ザ・カーム」

カオス&ザ・カーム

2016/02/05 RELEASE
UICU-1272 ¥ 2,750(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.クレイヴィング
  2. 02.ホールド・バック・ザ・リヴァー
  3. 03.レット・イット・ゴー
  4. 04.イフ・ユー・エヴァー・ウォント・トゥ・ビー・イン・ラヴ
  5. 05.ベスト・フェイク・スマイル
  6. 06.ホエン・ウィ・ワー・オン・ファイア
  7. 07.ムーヴ・トゥゲザー
  8. 08.スカーズ
  9. 09.コライド
  10. 10.ゲット・アウト・ホワイル・ユー・キャン
  11. 11.ニード・ザ・サン・トゥ・ブレイク
  12. 12.インコンプリート
  13. 13.スティーリング・カーズ (日本盤ボーナス・トラック)
  14. 14.クロックス・ゴー・フォワード (日本盤ボーナス・トラック)
  15. 15.スパークス (日本盤ボーナス・トラック)
  16. 16.ウェイト・イン・ライン (日本盤ボーナス・トラック)
  17. 17.ランニング (日本盤ボーナス・トラック)
  18. 18.ヒア・ユア・ハート (日本盤ボーナス・トラック)

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