Special
楽園おんがく Vol.32: かりゆし58 ~デビューから10年の歩み
かりゆし58が、この2月にデビュー10周年を迎えた。着実にキャリアを積み重ねた彼らは、いつしか沖縄を代表するロック・バンドというだけでなく、その親しみやすい音楽性やキャラクターで幅広い人気を誇っている。ここでは、10周年記念のベスト・アルバム『とぅしびぃ、かりゆし』をリリースし、精力的にツアーを行っている彼らの軌跡を追ってみよう。
かりゆし58は、2005年に沖縄県で結成された。当初のメンバーは、ヴォーカル&ベースの前川真悟、ギターの新屋行裕、ドラムスの中村洋貴という3人編成。ちなみに、“かりゆし”とは“めでたい”という意味の沖縄方言であり、“58”は沖縄本島を縦断する国道58号線のことである。2006年の2月に7曲入りのミニ・アルバム『恋人よ』でデビューを果たし、その年の夏に初のシングル「アンマー」をリリース。前川が母への思いを綴ったミディアム・テンポのこのナンバーは、その歌詞の内容が評価を得てラジオや有線などでじわじわと人気を集め、インディーズでは異例の日本有線大賞新人賞を受賞した。なお、今も沖縄では母の日には必ずといっていいほどラジオから聞こえてくる定番曲だ。同年には2枚目のミニ・アルバム『ウージの唄』を発表。「アンマー」や映画『ちいさな恋のものがたり』の主題歌となった「星空星子」を含む本作はロングセールスを記録する。
2007年の10月には、初のフル・アルバム『そろそろ、かりゆし』をリリース。収録曲の「電照菊」や「手と手」が音楽番組のタイアップとなったこともあり、音楽ファンへ大きく訴求することになった。ギターの宮平直樹が加入して4人になり、さらに音楽性が広がった彼らは、「ウクイウタ」(2008年)、「ナナ」(2008年)とシングルを重ねて行くことで人気も高まり、徐々にライヴの動員も増加。そして、2009年にリリースした「さよなら」が、松山ケンイチが主演したテレビドラマ『銭ゲバ』の主題歌に抜擢され大ヒット。続くセカンド・フル・アルバム『でーじ、かりゆし』でその人気を確実なものにした。
以降の彼らの活躍ぶりは、順風満帆といえるだろう。2010年には「アナタの唄」や「雨のち晴れ」などを含む3枚目のアルバム『めんそーれ、かりゆし』を発表。2011年には初のベスト・アルバム『かりゆし58ベスト』をリリースし、ゴールドディスクに輝いた。そして、2012年には『5』、2013年には『8』、2014年には『大金星』と、休むことなくコンスタントに力作アルバムを重ねている。同時にツアーも精力的に行い、2009年には47都道府県58箇所を回って全県制覇。翌2010年には日比谷野外大音楽堂でワンマンライブを行った。加えて、フェスやイベントにも多数出演しており、主なものを挙げると、SUMMER SONIC、SWEET LOVE SHOWER、MONSTER baSH、PEACEFUL LOVE ROCK FESTIVALなどがある。
彼らの音楽が受け入れられたのは、やはり歌詞に込められたメッセージによるところが大きいだろう。「アンマー」に代表されるような家族や友人、そして恋人など身近で大切な人をいたわるような言葉や、なんでもない日常を見つめる優しい視点などは、他のロック・バンドと一味違う彼ら特有の個性だ。それでいて、ストレートなロックンロールやハードなギター・サウンド、そしてレゲエのファットなリズムに繊細なアコースティック・サウンドまでを駆使し、幅広い音楽性を保っている。もちろん、沖縄らしさを隠すこともなく、沖縄音階のメロディもあれば、ご当地ソング的な作品も数多い。しかし、そこが肩肘張っているわけでなく、自然に出てくるのが彼らの個性だ。この絶妙なバランス感こそ、かりゆし58の強みといえるだろう。だからこそ異種格闘技的なコラボレーションに呼ばれることも多い。ステレオポニー、U-DOU&PLATY、羊毛とおはな、宮本笑里、中塚武などジャンルを超えた共演歴を見れば、一体どんな音楽性なのかわからないほどだが、懐の大きさも彼らの魅力である。
そんな稀有なバンドの歴史を俯瞰するには、10周年を記念してリリースされたベスト・アルバム『とぅしびぃ、かりゆし』がうってつけだ。CD2枚に収められた楽曲からは、前述のような多彩なサウンドを駆使しながらも、彼らならではのシンプルで飾らないメッセージが浮き上がってくる。バンドが熟成しても、リスナーに対してはフレンドリーな姿勢を崩さないのが長続きする秘訣なのかもしれない。10年前にかりゆし58がデビューした当時は、すでにMONGOL800やHY、ORANGE RANGEが大ブレイクしており、「次に続くのは誰か?」というところで注目されたこともあったかもしれない。しかし、彼らは周りに流されずマイペースに活動を続けることで、独自の立ち位置を確立した。10周年といっても、かりゆし58にとってはあくまでも通過点。これからも笑顔を振りまきながら、新しいステージへと向かっていくことだろう。
リリース情報
10周年記念ベストアルバム
「とぅしびぃ、かりゆし」
- かりゆし58
- 2016/02/22 RELEASE
- LDCD-50130/1
- [定価:¥ 3,240(tax in.)]
- 詳細・購入はこちらから>>
関連リンク
Text: 栗本 斉
10周年記念ベストアルバム「とぅしびぃ、かりゆし」
2016/02/22 RELEASE
LDCD-50128/9 ¥ 4,950(税込)
Disc01
- 01.オワリはじまり
- 02.初恋夜道
- 03.オリーブ
- 04.ウクイウタ
- 05.アイアムを
- 06.For di Future
- 07.恋唄
- 08.嗚呼、人生が二度あれば
- 09.かりゆしの風
- 10.心に太陽
- 11.日々紡ぐ
- 12.ウージの唄
- 13.愛の歌
関連商品