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特集:八神純子~日本のポップス史に残る名曲たち
「みずいろの雨」、「ポーラー・スター」、「パープルタウン」、etc。輝かしい1980年代を迎える頃、これらの楽曲に心ときめかせた記憶を持つ方も多いことだろう。日本のポップス史に残る名曲群を生み出した八神純子。しばらく活動休止していたが、2011年以降はコンサート活動を再開し、精力的に音楽を作り続けている。5月には“The Night Flight 3”というコンサート・シリーズをビルボードライブで行う彼女が、どのように音楽シーンを駆け抜けてきたのかをここで紹介したい。
愛知県の由緒正しき家系で生まれ育った八神純子は、3歳の時にピアノを始めた。幼い頃はとにかく歌うことが大好きだったという。高校生になると、ヤマハのヴォーカルスクールにも通うようになり、1974年にヤマハポピュラーソングコンテスト(通称:ポプコン)に参加。初めて詞曲を書いた「雨の日のひとりごと」が優秀曲に選ばれ、16歳でシングル・デビューを果たした。翌1975年にもポプコンに出場し、またも「幸せの国へ」が優秀曲に選出。世界歌謡祭やチリ音楽祭などにも出場するなど、高校生ながらもスケールの大きな舞台で活躍していく。
高校卒業後も音楽活動に集中し、1978年にシングル「思い出は美しすぎて」で本格的にデビューを果たす。マイナー・コードに乗せて歌われるボサノヴァ・タッチのナンバーは、10万枚を超えるヒットとなった。続くシングル「さよならの言葉」は、ポプコンでグランプリを獲った小野香代子のカヴァーだが、こちらは不発。その後リリースした初のアルバム『思い出は美しすぎて』もセールスは好調だったが、彼女の良さをすべて出し切ってはいなかったのだろう。この時点では、本人も音楽の方向性で悩んでいたという。
風向きが変わったのが、1978年の秋に発表したシングル「みずいろの雨」だ。疾走感に溢れたラテン・ディスコ調のバンド・サウンドと、ハイトーンで歌われるサビがとにかくキャッチーで、あっという間にヒットチャートを駆け上る。「ザ・ベストテン」を始めテレビやラジオの音楽番組でフィーチャーされることが増え、最終的には60万枚を超える大ヒットとなった。おそらく、リアルタムで知る八神ファンは、ピアノを弾きながらこの曲を歌う姿を最初に見たのではないだろうか。1979年に入ると、同じくラテン・サウンドを基調としたシングル「想い出のスクリーン」もヒットを記録。2枚目のアルバム『素顔の私』も飛ぶように売れ、一躍ミュージック・シーンの中心に位置することになった。
70年代の終わりは、彼女にとってもいいタイミングだったといえる。同じ時期には、竹内まりや、杏里、大橋純子といった実力派のシンガーが続々と表舞台に登場し、彼女たちにスポットが浴びせられる。それまでのアイドルでも歌謡曲でもないニュータイプの女性シンガーのひとりとして注目されながら、八神はすでに確固たるキャラクターを確立していたことで一歩抜きん出ていた。1979年の夏にはさらにスケール感がアップした「ポーラー・スター」で話題を呼び、3作目のアルバム『Mr.メトロポリス』も大ヒット。そして、1980年の夏にリリースしたシングル「パープルタウン」がCMソングとして大量に露出され、年末のNHK紅白歌合戦にも出場。その人気を不動のものにした。
ヒットメイカーとなった八神だが、1980年以降の活動は売上を意識するというよりも、音楽的な進化を求めていたというイメージが強い。もちろん、JALのCMに起用された「サマー イン サマー ~想い出は素肌に焼いて~」(1982年)や、映画『宇宙戦艦ヤマト 完結編』の主題歌となった「ラブ・シュープリーム ~至上の愛~」といったヒット・シングルが続くが、『夢みる頃を過ぎても』(1982年)や『LONELY GIRL』(1983年)といったアルバムでは、ソングライティングからアレンジに至るまで、初期作品のクオリティを軽々とアップデートしていった。そして、1983年には全編英語詞に挑戦したアルバム『恋のスマッシュ・ヒット (I WANNA MAKE A HIT WIT-CHOO)』を発表し、さらに奥深い世界へと突き進んでいく。
1985年には、それまで所属していたヤマハを離れ、ディスコメイト・レコードからアルファ・ムーンに移籍。意欲作『COMMUNICATION』を発表する。この時に知りあったイギリス人のプロデューサー、ジョン・スタンレーとともに、同年にはアルバム『純』をロンドンでレコーディング。翌1986年には、ジョンと入籍しプライベートでもパートナーとなった。そして、日本を離れ拠点を米国ロサンゼルスに移し、マイペースで音楽活動を続けていく。LAレコーディングの『ヤガマニア』(1986年)の後は、NECアベニューに移籍。『TRUTH HURTS』(1987年)を皮切りにコンスタントにアルバムをリリース。しかし、ジューン・スタンレー名義で発表した『So Amazing』(1997年)以降はリリースが途絶え、毎年行っていた帰国コンサートも2000年を最後に封印することになる。
沈黙を破ったのは、2011年の東日本大震災だ。自ら出向いて支援活動を行い、その年の11月には11年ぶりの東京でのコンサートを実施。翌2012年にはカヴァー・アルバム『VREATH -My Favorite Cocky Pop-』を発表し、全国ツアーも実現。10数年ぶりの完全復活となった。その後の活躍ぶりは御存知の通りだ。2013年にはオリジナル・アルバム『Here I am ~Head to Toe~』を発表。そして、NHK「みんなのうた」では「チョコと私」が起用され、お茶の間に再び彼女の声が流れるようになった。
復活後2作目のオリジナル・アルバム『There you are』を発表したばかりの八神は、5月にビルボードライブ公演を行う。今回は、ここしばらくライヴをともにしている後藤次利をアレンジャーに迎えたシリーズだ。後藤とは初期作品からの付き合いで、勝手知ったる仲間。また、村上“ポンタ”秀一、佐藤準という日本を代表するプレイヤーがサポート参加する他、ラテン・グラミーにもノミネートされたという気鋭のギタリスト、松野 "Kay-Ta" 啓太をゲストに迎える。長いキャリアに惑わされず、常に攻めの姿勢を崩さない八神純子。彼女の新しい音楽世界を、ライヴで体感してもらいたい。
公演情報
八神純子 with 後藤次利 “The Night Flight 3”
feat. 村上“ポンタ”秀一、佐藤準
Special support 松野 "Kay-Ta" 啓太
ビルボードライブ東京:2016/5/11(水)~13(金)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2016/5/19(木)~21(土)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
関連リンク
Text: 栗本斉
There you are
2016/01/13 RELEASE
LSNJ-1 ¥ 3,565(税込)
Disc01
- 01.There you are
- 02.歌が呼んでる
- 03.出発点
- 04.Kissがいいの
- 05.1年と10秒の交換
- 06.翼があるなら
- 07.月に書いたラブレター
- 08.濡れたテラス
- 09.I wanna be smiling
- 10.夢中
- 11.世界で一番愛を伝えるX’mas song
- 12.生きるから
- 13.明日の風
- 14.チョコと私 (Album Ver.)
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