Billboard JAPAN


Special

「真実味がある作品に仕上げる以外の野望は何もなかった」― The 1975 来日インタビュー

The 1975 来日インタビュー

 英マンチェスターを拠点として活動するマシュー・ヒーリー、アダム・ハン、ロス・マクドナルド、そしてジョージ・ダニエルによるThe 1975。フロントマンでソングライラーのマシューのややニヒルでダークな詞とエッジィかつ中毒性の高く、ジャンルの隔てを感じさせない新感覚な音楽性が受け、2013年のデビュー・アルバム『The 1975』が全英1位を記録すると、その人気は世界中に飛び火。【SUMMER SONIC】へ異例の2年連続出演するなど、ここ日本でも人気を博す彼らの最新作『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』が2016年2月26日にリリースされる。前作以上に様々なスタイルを取り入れ、メンバー自身が「真実味がある作品に仕上げる以外の野望は何もなかった」と語る今作について、一夜限りのソールドアウト公演のために日本へやってきた4人に話を訊いた。

TOP Photo: Sotaro Goto

真実味がある作品に仕上げる以外の野望は何もなかった

−−まず、ニュー・アルバム『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』の発表に先駆けて、SNSのアカウントを削除したことに関して伺いたいのですが…。

マシュー・ヒーリー:インターネットのアクセシビリティでちょっと遊んでみたんだ。今の音楽業界って、マーケティングの観点においてネット上のアクセシビリティが最重要でしょ。何でも瞬時にアクセスすることができなければならない。何かを得ることよりも、欲する感情の方がパワフルだ、って僕らはずっと考えてきた。新しいアルバムをリリースする、バンドが新たな進化を遂げる、っていうのをみんなに伝えるために、どんな方法が効果的だろう、って考えた時に情報を与えるんじゃなくて、取り上げてしまおう、って思ったんだ。その方が大きな反応を得られるから。当初、みんなが思ってるほど計算されたものではなかった。あそこまで反響があるとは、僕ら自身も思ってなかったし。Instagramにとっても前例がないことだったから、事前にミーティングをして、こういうことがしたいんだ、って説明して、アカウトを消した後のフォロワーの再配分とかをしてもらった。アカウントを一時的に消しただけだけなのに、音楽業界からは斬新なマーケティング手法だった、って思われたみたいだね。

−−今回、テーマカラーをピンクにした理由は?デビュー作のモノクロの世界観から劇的な変化ですよね。

ロス・マクドナルド:まさにそれが理由だよ。前作のモノクロと正反対にすることで、バンドの進化を明確に示したかったから。

ジョージ・ダニエル:それと僕らがずっとシンパシーを抱いてきた80年代のスタイル…手書きで、イタリックで、ジョン・ヒューズの映画っぽいタイポグラフィー…でもこれまでバンドとして試みたことがなかった。デビュー作の時にもそういうスタイルを用いる話はしていたんだけどね。今回は音楽性の観点からもその世界観に一段と近いものに仕上がることがわかっていたから、思い切ってやってみたんだ。



−−なるほど。新作の制作に入るにあたって、明確なヴィジョンはあったのですか?

マシュー:ノー。どんな作品になるかは、まったくわからなかった。レコーディングは、LAで4か月間かけて行ったんだけど、その前に曲はほぼ書き上げていた。LAで過ごす時間は、すべてレコーディングに費やしたかったから。でも、「UGH」、「Somebody Else」、「She Lays Down」とかはスタジオに入ってから書いた曲なんだ。アルバムは制作中に、絶え間なく変化していった。真実味がある作品に仕上げる以外の野望は何もなかった。そのおかげで、これまで以上にオープンになれたし、やりたいことができた。マニフェスト的なものはなかったけど、自然と形になった感じだね。

−−名声を得たことで、ソングライティングの題材の面において、さらに道が開かれたと感じますか?

マシュー:「僕たちって可哀想」とか「ツアー生活はキツイ」とか、いかにもツアー中に書かれたような、ありきたりなアルバムにはしたくなかった。もちろん、そういった題材は取り上げたかったけど、あくまでもこれまでと同じ視点から曲を書きたかった。1stアルバムは、意欲的で高尚な作品だったけど、詞に謙虚さや自虐的な部分があったことで、共感してくれる人たちが多くいた。成功したバンドを取り巻く皮相な世界について露骨に歌うだけではなく、一歩踏み込んでそれが自分たちにどんな影響を与え、どんな風に感じさせたか…たとえば「Love Me」がいい例だよね。そういう世界や文化からはみ出てるって感じたことについてだから。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. 様々なことと向かい合わなければなかった―自分たち自身、現実、バンドの未来
  3. Next >
様々なことと向かい合わなければなかった―自分たち自身、現実、バンドの未来

−−「If I Believe You」ではゴスペルの要素を取り入れていたのに驚かさせられたのですが、元々こういう音楽には興味があったのですか?

マシュー:もちろんだよ。このアルバムまで、脈絡がなかったから探究できなかっただけのこと。

アダム・ハン:ポール・サイモン的な。

マシュー:そう、『グレイスランド』みたいな。ありきたりな入り口かもしれないけど。ゴスペルはずっと好きだった。ダニー・ハサウェイにしろ…

ジョージ:『天使にラブ・ソングを…』(笑)。

マシュー:うん、『天使にラブ・ソングを…』もいい引き合いだと思うよ。劇中の「Joyful, Joyful」を歌うシーンなんて、僕らの世代に大きなインパクトを残したから。ああいう音楽には胸にガツンとくる何かがあるから、そこも探究したかった。僕らは無神論者だけど、だからってそういう音楽をやったらダメってことはないからさ。

−−このようにデビュー作以上に様々なジャンルを取り上げているにも関わらず、一つの作品として収束されているのには、バンドの成長を感じました。

マシュー:それは多分ソングライティングの腕が上がったからだと思う。もうアルバムを作るのは初めてじゃないし。

ジョージ:プロダクションや編曲の面でも、色々実験を試みたんだ。曲はこうでなきゃいけない、っていう決まりは僕らの中にないし、むしろ曲を形成するのはそういったメソッド以外のすべてのものだと考えてる。今回サウンドの面で新境地を開けたとは思ってる。特筆すべきなのは、曲にスペースを与えたことかな。曲が“息をできる”ようなスペースを実際に加えた。1stアルバムにはそれが欠けていたけど、今作でそれを意識的にやったことで、人間味がプラスされて、ライブ感も強まったと思う。ちゃんと各パートが聞こえるような音作りになっていると思うんだ。

マシュー:歳を重ねるごとに、物事はシンプルに感じるし、実際にシンプルになっていく。新作の曲のほうが断然いいし、洗練されている。スタイル、音楽、詞、すべての面において道理にかなっている。なぜなら、それらに対する理解が深まったから。



−−わかりました。アルバムのラストを飾る「She Lays Down」とアルバム・タイトルには繋がりがあるような気がしたのですが…。

マシュー:あぁ、詞の面でね。でも意図的ではなかったんだ。後から気づいたけど。ヴォイヤリズム的な要素があるからだよね。僕がコネクトするロマンチックな観念であることは間違いないね。自覚と明晰、寝ている意識があるか、ないのか…そのパラダイムには何かすごく惹かれるものがある。でも、曲を書いた時には、全然気づいてなかったよ。

−−絶妙にクレバーなアルバムの締めくくり方だなと。

一同:(笑)。

ジョージ:(からかいながら)マシューは、さすがだよね(笑)。

−−タイトルは、マシューが誰かに対して実際に言った言葉なのですか?

マシュー:うん、確かに言ったよ。“i like it when you sleep, for~”の“for”は言ったかよく憶えてないけど(笑)。その心情が存在していたのは間違いない。それに対して相手が、「それってすごくスウィートね。」って言ってくれて、その言葉を書き留めたんだ。たしか、このアルバムの為に書いた初めての詞だったと思うよ。で、最終的にアルバムのタイトルになったんだ。

−−ぶっちゃけ、すごくエモいですよね。

一同:(笑)。

−−最初パニック!アット・ザ・ディスコのデビュー作の曲名みたいだな、と思いました(笑)。

ジョージ:確かに!

マシュー:昔すごい好きだったアンド・ユー・ウィル・ノウ・アス・バイ・ザ・トレイル・オブ・デッドとか、初期のフォール・アウト・ボーイの曲名とかね。最近そういうバンドってちょっとカムバックしてきてるよね。ザ・ワールド・イズ・ア・ビューティフル・プレイス・アンド・アイ・アム・ノー・ロンガー・アフレイド・トゥ・ダイとか。だから、なんだかしっくりくるなと思って。それに僕らって昔からエモの端くれみたいな存在だったから、ピッタリなんじゃないかな。

−−振り返ってみて、今作を制作する上で、一番ハードだった部分は?

マシュー:何もかも大変だったよ。僕らイギリス人だから、自己憐憫しがちだし…。

ジョージ:ヴァリー(レコーディングを行ったLAの地域)で美味い店を見つけるのは大変だった(笑)。

マシュー:確かにそうだけど、それはおいておいて…精神的にもキツかったし。

ロス:すべてがハードだった。様々なことと向かい合わなければなかったから―自分たち自身、現実、バンドの未来。その多くはパーソナルな葛藤だったね。

マシュー:世界と戦う前に、自分たちが抱える問題と向かい合わないといけないからね。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. バンドのアイデンティティーを自分たちで一から築き上げ、
    評価を勝ち取らなければならなかった
  3. Next >
バンドのアイデンティティーを自分たちで一から築き上げ、
評価を勝ち取らなければならなかった

−−ニュー・アルバムのツアーについても教えてください。今回は、視覚的な面にもかなりこだわっているそうですね。

マシュー:日本できちんとした形で披露できないのはすごく残念なんだけど、普段はステージがビデオ・スクリーンで埋め尽くされていて、そのスクリーンを照明として使っているんだ。

ジョージ:エッシャーのトリッピーさには及ばないけど、目の錯覚を利用したステージングになってる。それがライトなのか、スクリーンなのか、鏡なのか、って観客を混乱させるんだ。

マシュー:すごくビューティフルなんだよ。

−−話は変わって、ワン・ダイレクションのようなポップ・アクトと曲作りをしたことが自身のソングライティングに影響を及ぼすようなことはありましたか?

マシュー:ああいうのは、もう一生やらないと思う。

ジョージ:てか、何もやってないよね。

マシュー:実際に曲は一緒に書いてなくて、何時間かスタジオで過ごしただけ。

−−強要された感じだったんですか?

マシュー:いや、そうじゃないんだけど…。しかもジョージが具合悪いから行けない、とか言い出して、結局僕が一人で行く羽目になったんだ。

ジョージ:僕的には、いい口実だったけど(笑)。

マシュー:単純に興味があったんだよね。これまで誰かのために曲を書いて欲しいって言われたことがなかったから。で、自分に出来るかが知りたかったから挑戦してみたけど、すぐに無理だ、って気づいた。だから、今後はこういうことはないんじゃないかな。

−−たとえ、それが1Dでなくても?

マシュー:ないね。

ジョージ:僕とマシューは、アンバーの作品にプロデューサーとして参加してるんだけど…。



−−ザ・ジャパニーズ・ハウスですね。

ジョージ:そうそう。元々マシューの古い友人で、僕らのマネージメントと契約したから、じゃあ2人でプロデュースするよ、って名乗り出たんだけど、今後やるとしてもその程度だと思うな。みんなは「コラボレーションだ」って言うけど…まぁ確かに色々手伝ってるけど、彼女は自分で曲を書いてるし、自分のサウンドを既に確立している。

マシュー:プロデューサーとして他のアーティストの作品に参加するのと、他のアーティストのために曲を書くのは別物だし。自分のためじゃない曲は、僕には書けない。

−−The 1975は様々な面で誤解されがちなバンドだと思うのですが、バンド的にはどんな認識なんでしょう。

マシュー:僕らがメジャー・レーベルに所属していて、青田買い的に契約されたバンドだということ。難なくシングルが売れて、すぐに人々に好かれたということ。正直な話、自分たちについて読むのはとっくに止めたよ。だから、あまりわからないな。批判されていることの中で、真実に基づいたものも多少あるかもしれない。バンドを客観的な目で見ることは、僕らにはできない。僕らにできるのは、アルバムを作ることだけ。どんな風に誤解されているか、わからないけど、そういった批判の格好の餌食なんだろっていうのは認識してる。

−−その上、メインストリームさを保ちながら、何か新しいことや変わったことをやろうとするのには、やはり困難も伴いますもんね。

マシュー:少しづつ状況が変わってきてると思うけどね。本質的にメインストリームにアピールする音楽を作るバンドなんだ、っていうのにやっと気づいた。それが僕らにとって自然なことで、わざわざやろうと思ったことではないんだ。そこが批判されるポイントなのかもね…少し嘘っぽくみえるところが。俗に言う“ポップ・ミュージック”を作ろうって、メンバー間で話し合って、やってるんじゃないか、っていう。

ジョージ:それができたら、最高にクレバーで、言うことないよね。でも、僕らがやりたいのはそういうことじゃないんだ。

マシュー:レニー・クラヴィッツが「もしいい曲が生まれる“場所”があるのであれば、もっと頻繁にその“場所”を訪ねる。」って言ってたみたいに、その“場所”は誰にもわからない。何かを意識的にやってるんじゃなくて、ただ自分ができることやっているだけ。それがメインストリームに受けてる。それは少なからず僕らがそういった音楽を聴いて育ったからなんだと思う。当時、別にクールなキッズじゃなかったし、マンチェスターの白人のミドルクラスが多い、すっごく退屈な所が出身地だ。ごく平凡な街で、アイデンティティーもない。はけ口もなかった。なんか、はけ口っていう言い方は変だけど…。経済困難とか出身地…たとえばアークティック・モンキーズとかオアシスは、シェフィールドやマンチェスター出身というだけで、もてはやされた。でも、僕らはバンドのアイデンティティーを自分たちで一から築き上げ、評価を勝ち取らなければならなかった。それって、すごくタフだよ。

ジョージ:しかも、未だに悪戦苦闘してるからね。

The 1975「君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。」

君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。

2016/02/26 RELEASE
UICP-1171 ¥ 2,420(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.The 1975
  2. 02.ラヴ・ミー
  3. 03.アー!
  4. 04.ア・チェンジ・オブ・ハート
  5. 05.シーズ・アメリカン
  6. 06.イフ・アイ・ビリーヴ・ユー
  7. 07.プリーズ・ビー・ネイキッド
  8. 08.ロストマイヘッド
  9. 09.ザ・バラッド・オブ・ミー・アンド・マイ・ブレイン
  10. 10.サムバディ・エルス
  11. 11.ラヴィング・サムワン
  12. 12.君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。
  13. 13.ザ・サウンド
  14. 14.ディス・マスト・ビー・マイ・ドリーム
  15. 15.パリ
  16. 16.ナナ
  17. 17.シー・レイズ・ダウン
  18. 18.ア・チェンジ・オブ・ハート (デモ) (日本盤ボーナス・トラック)
  19. 19.ハウ・トゥ・ドロー (日本盤ボーナス・トラック)

関連キーワード

TAG

関連商品

ACCESS RANKING

アクセスランキング

  1. 1

    <インタビュー>YUTA(NCT) ミニアルバム『Depth』に込めたソロアーティストとしての挑戦――「たくさんの経験があったから今がある」

  2. 2

    和楽器バンド、活休前最後のツアーが開幕 10年分の感謝をこめた渾身のステージ

  3. 3

    <インタビュー>米津玄師 新曲「Azalea」で向き合った、恋愛における“距離”――「愛情」の源にある“剥き身の生”とは

  4. 4

    <ライブレポート>ano「次に会う時まで必ず生きて」――ツアー追加公演完走、音楽でたどり着いた“絶対聖域”

  5. 5

    ロゼ&ブルーノ・マーズ、11/22大阪開催【MAMA】で「APT.」世界初披露へ

HOT IMAGES

注目の画像