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特集: KERA~才能あふれる異色のマルチ・アーティスト
俳優でありミュージシャン。そして、劇作家、映画監督など様々な顔を持つマルチ・アーティスト、ケラリーノ・サンドロヴィッチことKERA。彼の活動は、音楽だけにフォーカスしても、あまりにも幅広く全貌をつかむのは容易ではない。しかし、さらにその経歴を大幅に拡大してしまうようなソロ・アルバム『Brown, White & Black』をリリースした。いわゆる“ジャズ・アルバム”でありながら、KERAらしさに満ちた本作を引っさげて、3月にはビルボードライブにおけるソロ公演も決定。ますます、この唯一無二のアーティストに注目が集まっている。
KERAが最初に登場したのは、有頂天のヴォーカリストとして。1982年に結成された有頂天は、テクノポップやパンク、ニューウェイヴといったジャンルに影響を受け、独自のコミカルでシアトリカルな要素を加えた個性的なバンドだった。1983年には、KERA自身が立ち上げたインディーズ・レーベル、ナゴムレコードの第一弾アーティストとして、ソノシートでデビュー。翌1984年にキャプテンレコードからリリースしたシングル「心の旅」(TULIPのカヴァー)がスマッシュヒットし、当時ライヴハウス界隈を席巻していたラフィン・ノーズやザ・ウィラードらとともに“インディーズ御三家”といわれてもてはやされた。1986年にはポニー・キャニオンからメジャー・デビューも果たす。そして、1991年に解散するまでカリスマ的な人気を誇っていた。
一方、KERA個人としても、1988年にソロ・アルバム『原色』を発表。秋元康が作詞、井上大輔が作曲という布陣で、有頂天とはまた違う歌謡ロック路線に挑戦。おニャン子クラブのゆうゆ(岩井由紀子)とデュエットするなど、振り切った挑戦を行っていた。こういったメジャー的な活動の裏では、しっかりとナゴムレコードでアンダーグラウンドな活動も同時並行で行っていたことが面白い。ちなみに、ナゴムレコードからは、筋肉少女帯、カーネーション、人生(電気グルーヴの前身)、たま、グランドファーザーズ(青山陽一が在籍)などが続々と話題作をリリース。有頂天の解散と同時期に終息するまで、異色のアーティストを多数輩出し、ナゴムギャルと呼ばれるファンを生み出すなど、80年代の東京におけるサブカルチャーの一翼を担っていた。
▲『BROKEN FLOWER』
/ ケラ&
ザ・シンセサイザーズ
KERAは有頂天以外にも、複数のバンドやユニットを始動。筋肉少女帯の大槻ケンヂ、内田雄一郎とともに結成した空手バカボンは、1983年にスタート。YMO「RYDEEN」の替え歌「来たるべき世界」など、エレクトーンのチープな演奏にのせたバカバカしい歌で話題を呼ぶ。また、有頂天解散後の1991年には、みのすけ(ex.有頂天、筋肉少女帯)、中野テルヲ(ex.P-MODEL)とともに、LONG VACATIONを結成。フレンチ・ポップ、60年代のサントラや歌謡曲などをモチーフに、裏・渋谷系ともいうべきおしゃれサウンドを展開し、1995年まで活動を行った。そして、LONG VACATION休止後の1995年には、三浦俊一を誘ってケラ&ザ・シンセサイザーズをスタート。80年代ニューウェイヴを復活させるがごとく、現在までメンバーチェンジを繰り返しながら活動を続けている。
音楽活動とは別に、KERAの大きな活動の柱に演劇がある。最初に立ち上げた劇団健康は、有頂天全盛期の1985年のこと。田口トモロヲや犬山犬子(現・犬山イヌコ)といった個性派俳優の存在もあって人気を集めた。1992年に解散するが、翌1993年にはナイロン100°Cを結成。1998年に初演された『フローズン・ビーチ』では、KERAが手がけた脚本が由緒ある岸田國士戯曲賞を受賞。名実ともに演劇界での確固たる地位を築いた。また、『1980』(2003年)や『グミ・チョコレート・パイン』(2007年)といった映画作品や、『時効警察』(2006年)や『怪奇恋愛作戦』(2015年)などのテレビドラマでも、監督や脚本家として活躍している。
▲ 「イート・チョコレート・イート」 / No Lie-Sense
しばらく、音楽活動というよりは演劇や映画の方においていたKERAだが、再び音楽シーン賑わせ始めている。きっかけは、鈴木慶一と結成したNo Lie-Sense。2013年に発表したファースト・アルバム『First Suicide Note』は、ひねくれたポップセンスが全開。野宮真貴、大森靖子、緒川たまきといった多数の豪華ゲストも彼ららしい。2014年には東京キネマ倶楽部でお披露目ライヴも行い、その時のライヴ・アルバムも発表している。そして、No Lie-Senseが新生ナゴムレコードの第一弾ということでも大きな話題を呼び、KERAの音楽活動に拍車がかかる。
今回リリースされた最新ソロ・アルバム『Brown, White & Black』も、新生ナゴムレコードからのリリースとなる。『原色』以来27年ぶりのソロ作品である本作は、先述の通りジャズをテーマにしている。もともとは27年前に構想していたそうだが、ジャズ・ミュージシャンだった亡き父親に捧げられた個人的な作品だ。スウィング・ジャズやクレズマーといったオールドタイミーなサウンドを軸に、ミュージカルを思わせるような演劇的な印象の強いナンバーが並ぶ。しかもオリジナルだけでなく、ペギー葉山の「学生時代」やエノケン(榎本健一)で有名な「月光値千金」のようなスタンダードや、ゲルニカ(戸川純が在籍していたユニット)の「復興の歌」、そして有頂天時代の名曲「ミシシッピ」といったカヴァーも含まれている。軽妙洒脱な雰囲気をまといながら、ヴォーカリストとしてのKERAの魅力が浮き彫りになる傑作だ。
KERAという人物は、これまでギミックで楽しませるエンターテイナーといったイメージが強かったかもしれないが、この新作『Brown, White & Black』ではしっかりとシンガーとしての実力も発揮している。そういった意味でも、歌い手であり音楽家のKERAにとっての集大成といってもいいだろう。演劇で多忙な彼にとって、3月のビルボードライブ公演は非常にレアな時間。この機会に、才能あふれる異色の存在に世界に触れてみてはいかがだろうか。
公演情報
KERA
『Brown, White&Black』発売記念 SPECIAL SOLO LIVE
ビルボードライブ東京:2016年3月13日(日)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
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Text: 栗本斉
Brown, White & Black
2016/01/20 RELEASE
CDSOL-1700 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.Old Boys (SWING)
- 02.Shine (That’s Why They Call Me Shine)
- 03.半ダースの夢
- 04.これでおあいこ
- 05.学生時代
- 06.Lover, Come Back to Me
- 07.ミシシッピ
- 08.流刑地
- 09.月光値千金
- 10.東京の屋根の下
- 11.復興の歌
- 12.地図と領土
- 13.フォレスト・グリーン (或いは、あの歌をいつか歌えるか)
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