Special
doa『FREEDOM×FREEDOM』インタビュー
三つの声で描き出す「大人の自由」
楽曲ごとにメインボーカルが変わる3ピースボーカルバンドにして、国内最高峰のカーレース SUPER GTで活躍する現役レーサーでもある吉本大樹(vo)に、驚異的なハイトーンとB'zのライブサポートも務める腕前を持つ大田紳一郎(vo,g)。そして数多くのヒット曲を生み出し続けている作・編曲家であり、最近では稲葉浩志『羽』のアレンジも手がけた才人 徳永暁人(vo,b)と個性的な実力派が揃うdoa。
大人の自由 をテーマに制作され、最近徳永が聴いているというアメリカのカントリー・ロックの影響がより色濃く出た最新アルバム『FREEDOM×FREEDOM』について、3人に話を訊いた。
術後4日でライブをやった人はいまだかつていない
--前回のインタビューでは、徳永さんに対して少々マニアックというか、技術的な質問をしすぎてしまったと反省してまして……。
徳永 暁人:アレもよかったですけどね、楽しかったし!(笑)--ただ、そのインタビュー後に取材させていただきました2015年のツアーでは、ファイナル直前に徳永さんがヘルニアで緊急手術を行うという未曾有のトラブルがありました。
吉本 大樹:座って弾いてましたもんね(笑)。 徳永 暁人:早く忘れたい(笑)。まったく歩けなくてリハも車いすでしたし、ドクターからは“30年この手術をやってきているけど、術後4日でライブをやった人はいまだかつていない”って言われてましたから。 大田 紳一郎:あと、やっぱり紙飛行機を飛ばす企画は面白かったですよね。回を増すごとにお客さんが投げてくれる紙飛行機の数が増えていきましたし、あれは楽しかったです。--近年のdoaは1月にアルバムリリースがあり、その後にツアーがあってアコースティックツアーがあってソロ活動などもありながら翌年1月にリリースをして……というサイクルの活動が続いています。
吉本 大樹:それは僕が自由に行動させてもらっているからではあって、みんなが協力してくれてパターン化できてきたことはすごくありがたいです。スタッフを含めてdoaに関わるメンバーが右往左往しながら、それでも理解してくれているからできていることだと思います。--吉本さんは結成前からレーサーとして活躍されている方でしたが、当初から周囲の理解があってのことだったのでは?
徳永 暁人:いや、知らなかったよ(笑)。“英語で歌える奴がいるよ”って紹介されて、カバーをやってみたらかっこいいから“一緒にやろうか”と。で、よくよく訊いてみたら週末はサーキットに行ってるっていうから“何をやってるんだろう? 趣味かな?”なんて思ってたら、実はプロでやってるっていう(笑)。しかも日本最高峰でやっている(doa吉本大樹 レーサーとしてSUPER GTで優勝)のが面白いよね。--レースと音楽で共通する部分は?
吉本 大樹:よく訊かれる質問ではあるんですけど、まったくの別物ですね。ただ、無理矢理結びつけるならフィーリングとかそういう部分になるんですけど、僕の中では全然違うものですね。--エンジン音をより気持ちよく感じられる、とか……
吉本 大樹:それはあるかもしれないですね(笑)。ちょっとパイプの角度を変えたり、パイ数や長さを変えると音が変わってくるので、それは良いことを仰っていただきましたね。楽器みたいなものです(笑)。ただ、レースやっている時は音とか何も関係ないですからね。曲が書けなくなるってことは絶対にない
--では、キャリア10年を超えた今のdoaは、どのような状態にあると思いますか?
吉本 大樹:夫婦で例えたらどんな感じですかね? 大田 紳一郎:結婚11年目かぁ……。 徳永 暁人:倦怠期ってやつですか?(笑) 寝室は別、食事も別。今日、久しぶりに(吉本と)ふたりで食べたら、ちょっと照れくさかったし、……そういう感じじゃないですかね?(笑) 大田 紳一郎:doaって色々できるんですよ。全員ソロでできるし、アコースティックもあるし。そういうのが段々と確立してきたので、ファンの皆さんにも楽しんでもらえているんじゃないかなって。 吉本 大樹:doaは安定を求めているわけでもないし、(全作曲を手がける徳永には)産みの苦しみはあるのでしょうけど、僕らからしたら無限に湧き出てくる数々の曲たちが常にある状態というのは、バンドにとって大きな強みじゃないかと思うんですよ。それに対して僕らが良い歌詞を乗せられるかどうか。もうちょっと良い例えはないものかと思うんですけど、リーダーは曲のことを“排泄物”って言うんですよ(笑)。常に新しい曲がどんどんできてくる環境にあるので、アクセルを踏み続けている状態だと言えますし、それはこれからも続いていくと思いますね。
--いつか曲ができなくなるかもしれないという不安はないのでしょうか。
徳永 暁人:曲が書けなくなるってことは絶対にないです。曲は排泄物だから、食った分だけ必ず出る。しかも最近、食欲が増してるから排泄物がすごい!(笑) いっぱい曲を聴きたいし、年齢と共に歌いたいこともどんどん増えてるんですよね。この前もアメリカでカントリーロックのフェスがあったので観に行ったら、また色々刺激を受けちゃったりとか。まあ、元々僕は作曲家なので、それを考えてたら最初からやってないと思います。--インプットって歳を重ねるごとに減っていく人が多いと思ってました。
大田 紳一郎:確かに僕は減りましたね。昔と今で音楽の作り方が変わったじゃないですか、機械の発達もあったりして。それで聴く量がすごく落ちましたね。やっぱり声、ですかね。声の力が一番出たらいいかなって思うんですけど。 吉本 大樹:僕もボーカルの声を一番重視しますね。--では、作詞についてはいかがでしょうか。
吉本 大樹:僕は“やらないといけない”って思ったらできないです。そうなると全然生まれてこないので、出てくるまですごく時間がかかって待ってもらってしまったり、もう無理だってなったら“お返しします……”と(笑)。でも、やっぱり歌いたくないことは歌いたくないですからね。--過去に、おふたりが作った歌詞で“歌いたくないな……”って思ったことは?
徳永 暁人:“ここは歌いたくないからコーラスパート無くさない?”とか言ってくることある(笑)。 吉本 大樹:ある曲の中に“イカ焼きたべた?”(「笑うが勝ちや」 アルバム『FRONTIER』収録)ってフレーズがあるんですけど、あれは歌いたくなかったでしょ?(笑) 大田 紳一郎:いやいや、あれは歌いたかった(笑)。俺らはそんなに無いよ? 吉本 大樹:時々難しいなって思うのは、僕だけ関西人だから言い回しが違ったりするんですよ。イントネーションや言葉の並びが微妙に違う時があって、そこは直したりすることもありますね。歌詞って作る人によって言葉のはめ方が全然違うのが面白いですね。--では、おふたりの歌詞は吉本さんから見るとどのような詞なのでしょうか。
吉本 大樹:大田さんは優しさにあふれているような感じ。徳永さんはすごい闇の中の……、ブラックホールの中にいるダースベイダーのような……。--ジェダイとダークサイドみたいですね(笑)。
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Interviewer:杉岡祐樹
ミュージシャンは音楽のことばっかり考えてちゃダメ
--というわけでニューアルバム『FREEDOM×FREEDOM』について伺っていければと思うのですが、アルバムリリースに先んじて昨年秋にタイトル曲のハイレゾ音源を先行配信しましたが、ハイレゾ音源を配信するのは初の試みです。
徳永 暁人:新たなチャレンジもやっていこうかというか、あんまり凝り固まりたくないんですよね。確かに僕らはCD世代だと思うんですけど、配信だってどんどんやっていきたいし、2~3年後には普通になっていそうなことでも立ち往生しているモノってあるじゃないですか。例えば大田さんは“死ぬまでガラケーでいく!”って言ってたのに、この前、最新機種のスマホに買い換えてからは嬉しそうに野球中継を観てるんですから(笑)。たった1年でこれだけ変わるのか……っていう姿を見ると、どんどんやっていかなきゃいけないなって!
まあ、そのうちハイレゾのストリーミングだってできる時代が来ると思っているし、そもそも僕らは10年以上前からハイレゾの周波数で録音しているわけで、それをCDに圧縮して出していたくらいですから。
--また、本作は“大人の自由”がテーマになっているそうですね。
徳永 暁人:まあ、サウンドはいつも通り自然に(笑)。最近はアメリカのカントリー・ロックとか大好きで良く聴いているので、自然にそうなってきていると思います。それはミックスやマスタリングでも活かせているんじゃないかなって。ただ、確かに現場では何キロヘルツがどうとか良く言いますけど、その言葉の裏にあるのは“これを聴いて青空が見えるか”、“ドライブしようかな?”と思えるかどうか。“自転車も乗ってみようかな”とか“恋人と一緒に聴いてみたいな”とか、先にあるものを表現したいんですよ。
だから自分がどう思うかよりも、聴いてくれた人たちがどういう用途で僕らの音楽を使ってくれるのかを想像して音作りをしてますね。僕らはウェストコーストを好きで始めたので、どこかへ出かけたくなるようなドライブミュージックを作りたい。
--先日、徳永さんはご自身のインスタグラムにアメリカの空の写真を投稿していましたが、その写真を見ながら聴いた時に前回も仰られていたそういった話にものすごく合点がいったんですよ。
徳永 暁人:だからね、ミュージシャンって音楽のことばっかり考えてちゃダメだと思うんですよ。1日のうち1割くらい音楽のことを考えていればいい。自分の好きな趣味とか友だちや家族と思いっきり楽しんで色んな体験をしていないと、音楽だけで頭でっかちになってしまってリスナーとの共通項が無くなってしまうような気がして。だから大人になればなるほど好きなこともやって、音楽にフィードバックするようにしたいなって。それは10年経って変わってきた所かもしれないですね。
--ただ、そういう自由さって難しいことでもありますよね。
吉本 大樹:まあ、自由と言っても結局、大人はみんな縛られてますからね。僕らは自由にやらせてもらってますし歌ってますけど、やっぱりどこかで大人として、人として解放されない部分はあると思うので。そういう部分は出ているのかもしれないですね。“愛してる”は10年前ならたぶん歌えなかった>
--吉本さんの作詞曲はM-10「I don't know why」、M-12「YOU&I」とありますが、「I don't know why」に関しては英語詞になっていますね。
吉本 大樹:久々ですね。doaではかつてシングルのカップリングが英詞になっていたんですけど、最近は無かったですからね。--「I don't know why」は情感あふれるミディアムバラードに、フラレてやけ酒を飲む男の侘びしさを綴った歌詞っていうバランスが絶妙ですよね。
吉本 大樹:飲んだくれた独りの男の明くる朝の歌です(笑)。--一方の「YOU&I」は、恋愛のみに限らずファンとの関係性を綴った内容になっているように思えました。
吉本 大樹:1人で生きている人なんていないわけで、誰もが周りにいる人たちに支えられて、周囲があって初めて成り立つものだと思うので。そういう意味では周囲にいる誰に対しても言えることなのかなって思いますね。--「YOU&I」のサビは“愛してる”から始まりますが、これも10年やってきたからこそ作れる、歌えるものなのでしょうか。
吉本 大樹:doaとしてというよりも、人間として男としてって感じじゃないですかね。たぶん若かったころには、恥ずかしくて言えなかったと思います。僕は海外で育っているので、そういう恥じらいってあんまりないんですよ。それでも若いころは“愛してる”っていう言葉には抵抗があって、10年前ならたぶん歌えなかった。英語だったら何てことないんですけど。--愛してるとI Love Youでは違う?
吉本 大樹:英語って曲によってパンチのあるフレーズになりますけど、日本語の曲の中に英語がくると、ちょっと軽い感じになりがちなんですよね、日本の人たちに聴いてもらう上では。まあ、その辺は曲によったり前後の歌詞との並びによっても違いますけどね。--また、今作は通じてサウンドが前作より硬くなったように感じたのですが?
徳永 暁人:えーっと、機材が新しくなりました! より良い音でお届けしております!(笑) 大田 紳一郎:僕はプレイする上で大きな変化があったわけではないですけど、今作の方がロック色が強いですね。ただ、僕は根がハードロックなんですけど、その部分を出してしまうとdoaのサウンドにはうるさすぎるっていうのがあるので(笑)。Music Video
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Interviewer:杉岡祐樹
確かに「見つめていたい」は凄い
--大田さんがdoaのギタリストとして一番重点を置いている部分は?
大田 紳一郎:一番はアコギなんですけど、ハードな曲でも、それこそM-02「FREEDOM×FREEDOM」でも同じようにアコギが鳴っているっていうのは、普通のバンドではやらないと思うんですよね。だからエレキよりもアコギの方に重きはありますね。あと、最近はマンドリンとかペダルスティールを徳永先生が弾かれておられますので(笑)。 徳永 暁人:趣味でやってるんですよ(笑)。たまにフィドルを弾く友だちとBARでセッションして遊んだりしていて、段々弾けるようになってきたんでやってみました。--M-08「見つめていたい」のようなバラードにマンドリンの音色を重ねる感じは面白いです。
大田 紳一郎:確かに「見つめていたい」は凄い。 徳永 暁人:カラッとした運動会みたいな感じがしない?(笑) イイ大人ですからあんまりジメジメしすぎるのもなんだし、ボーカリストが3人いるからみんなで歌っても暑苦しくならないような感じっていうのは、全体的にありますよね。--3人のコーラスワークがあって、作りこまれたサウンドがあるのに聴き心地が軽やかというのは、doaにしかできない妙技だと思います。M-03「Run to you」のドラムパターンも、ドラムがいないバンドなのにものすごく凝っていてかっこいいんですよ!
徳永 暁人:またマニアックな話にいきそう(笑)。確かにあれは難しいですね。でも、やっぱり歌詞とメロディが先にあって、そこを広げようとするための楽器なので。例えばこの曲だったら歌詞が先にできていたんですけど、もどかしい男の気持ちで上手く行かなくて“クソッ!”って思っている所は、やっぱりリズムも気持ちよくないですよね?(笑) そこはちょっとズレてるというかスイープしているようなリズムがあって、“やっぱ迎えに行くわ!”ってエンジンをかけた瞬間からちゃんとしたビートになるとか……。ストーリーで考えてるドラムのパターンが多いですよね。“やるせない” “やりきれない”が第一の原動力>
--アレンジ面でいうと、M-01「君はMILLIONDOLLARS」のイントロやAメロって、モタるまではいかないですけどベースが若干後ろノリなのが気になりました。
徳永 暁人:曲を聴きながらドライブして欲しいと思ったので、そうなるとドラムが一番先に演奏しているリズムが気持ち良いんですよね。他の楽器が突っ込むとドラムが遅く聴こえるので、ドラムが先導して引っ張っていくアレンジっていうのは、ドライブミュージックを作りたい時は気にしてやってるかもしれないですね。--ちなみにみなさんは運転する時にdoaの曲を聴くことはあるのでしょうか?
吉本 大樹:僕はdoaの曲、けっこう車で聴きますよ。前作『FLY HIGH』はね、ハワイに連れてってもらう機会があった時に、レンタルハーレーで海辺を走りながら聴いたらものすごく合ったんですよね。『FREEDOM×FREEDOM』はまだ海外で聴けてないですけど、やっぱりドライブにすごく合うと思いますね。曲によってはスピードが出すぎてしまいそうで注意して欲しいです(笑)。--そういう意味では、M-06「真冬の花」は和メロっぽい感じも含めて、いわゆる青空って感じではない曲とも言えますよね。この曲は作詞が大田さん、メインボーカルは吉本さんになりますが、誰が歌うかまで想定して歌詞を作るのでしょうか?
大田 紳一郎:いや、最近はほとんど決まっているんですよ。例えばM-05「LADYLUCK」でも最初から“これは大田さんが歌ってください”と。やっぱり自分が歌うのとは歌詞の書き方が違うと思いますね、少し。吉本くんが歌って良い雰囲気が出たらなって、考えて書いていると思います。だから僕が歌う曲の方が自由ですね。歌詞を詰め込んだりしても歌えそうだと思ったらやっちゃったりとか、歌いまわしも自分なりに変えたりするので、その辺は自由ですよ。--そして、最後に訊いておきたいのが、M-09「拳」です。アルバムの中でも非常にシリアスな歌詞でありながら、サビに歌詞が無く、シンガロングな雄叫びになっている。セルフライナーによると、あるニュースを見てどうしても歌いたくなったことを書いたとあります。
徳永 暁人:別に政治だなんだを歌いたい気持ちは何も無いんだけど、自由をテーマに考えた時に、大人は自由が無いって言うけど実際は自由じゃないかって思ったんですよ。何を食うか、誰と恋愛するか、どんな職業につくか、どこに住むか……、すべて自由なのが大人だと思うんですよね。それは自分の拳の使い方も自由で、大切な人を守るためのなのか、それとも違うのか。確かにサビではウォーウォーしか言ってないですけど、皆さんの捉え方で一緒に歌ってもらいたい。僕は“やるせない”とか“やりきれない”とかが物を作る上での第一の原動力なんですけど、それを吐き出している感じがありますね。
--ものすごくライブで観てみたい曲だと思いました。という所から繋げていくのもイヤらしいですが、2月からはニューアルバム『FREEDOM×FREEDOM』を引っ提げての全国ライブツアーがスタートします。
大田 紳一郎:『FREEDOM×FREEDOM』の曲をライブでやる方法は色々ありますからね。 吉本 大樹:具体的にはこれから考えますけど、大田さんが出し物を考えてくれるので…… 大田 紳一郎:プレスリーは? 吉本 大樹:もうやらない。--え、やらないんですか?(笑)
吉本 大樹:去年も“絶対やらへん!”って言ったのに、その辺りは年功序列の力関係が……(笑)。あれはもう完結です。--では、本当に完結なのかはぜひ会場で確かめて欲しい、と。
吉本 大樹:煽らないでくださいよ!(笑) やらないです!Music Video
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Interviewer:杉岡祐樹
FREEDOM×FREEDOM
2016/01/27 RELEASE
GZCA-5274 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.君はMILLIONDOLLARS
- 02.FREEDOM×FREEDOM
- 03.Run to you
- 04.ニュー☆スター
- 05.LADYLUCK
- 06.真冬の花
- 07.SING A BLUES
- 08.見つめていたい
- 09.拳
- 10.I don’t know why
- 11.Kiss Me
- 12.YOU&I
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