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楽園おんがく Vol.30: R3 インタビュー
旅と音楽をこよなく愛する、沖縄在住ライター 栗本 斉による連載企画。今回は、世界的人気を誇るオーディション番組『X FACTOR』が日本初上陸した「X FACTOR OKINAWA JAPAN」で、一躍注目を集めたトリオR3が、グループの生い立ちとデビュー作『風のメロディー』を大いに語ってくれた。
2013年10月から2014年3月まで放映されたオーディション番組「X FACTOR OKINAWA JAPAN」。英国でスタートし、その後世界中で広がっていったリアリティ音楽オーディション番組が、初めて日本上陸ということで大きな注目を集めた。参加したアーティストはおよそ2000組。地上波放映は沖縄のみだったが、CS放送やYouTubeなどで見守っていた視聴者も多かっただろう。
その「X FACTOR OKINAWA JAPAN」で決勝に進出し、優勝は逃したが人々の記憶に残るパフォーマンスで魅了したのが、R3(アール・スリー)だ。もともとはMakoto(渡嘉敷真)とHomare(望月誉)がRevival Viewとして、そしてRisa(新垣李沙)はソロで出場していたが、いずれも途中で落選。しかし、審査員によって可能性を見出され、新たなグループとして敗者復活を成し遂げ話題を呼んだ。そして番組終了後も継続し、勢力的に活動を続けている。
そんな彼らが、ついにアルバム・デビューを果たした。『風のメロディー』と題された6曲入りの作品には、沖縄県内の大型タイアップ2曲を含むオリジナル・ナンバーと、オーディションで歌い込んできたカヴァー曲で構成されている。男性2人女性1人という変則的なハーモニーの面白さはもちろん、タイトル通り風を感じさせるような爽快なアルバムに仕上がっている。
ここでは、彼らの人生を変えてしまった「X FACTOR OKINAWA JAPAN」、そしてR3としてのアルバム制作や今後の展開も含めて、メンバーに語ってもらった。
3人でやるってことが決まった時は、最後まで名前が呼ばれなくてもうダメだと思っていた
−−まずはそれぞれの経歴を聞かせてください。
Makoto:うちは特に誰も音楽を聴くような環境ではなかったですね。でも、ある日ラジオからエリック・クラプトンの「チェンジ・ザ・ワールド」が聞こえてきて、それに衝撃を受けて洋楽を聴くようになったんです。その後はロックからブルースまでいろいろ聴きました。
−−音楽をやり始めたのはいつからですか。
Makoto:大学で軽音楽部に入ってバンドを始めるんです。その時にHomareとも知り合うことになるんですが、その時は一緒にバンドはやってないんですよ。彼は隣の別の音楽サークルにいたので。卒業しても僕はずっと歌い続けていて、いわゆるハコバンのような感じで洋楽のカヴァーなんかを歌っていたら、Homareが自分のやってたバンドがなくなったというので一緒にやらないか、って話になったんです。それが、Revival Viewの始まりですね。
−−Homareさんは、Makotoさんと知り合うまではどういう音楽遍歴があったんですか。
Homare:うちは姉が音楽が好きでピアノを弾いていたんです。だからその影響は大きいですね。その後Mr.Childrenなど憧れてバンド活動を始めました。
−−それで、大学の時にMakotoさんと出会うんですね。
Homare:そうですね。ただ、さっきも話があったように、学生の時は一緒にはやってなくて、僕は自分のバンドを本気でやっていたんですよ。バンドではギターのみで歌ってはいませんでした。それで、CDも出したりして頑張っていたんですけど、ヴォーカルが辞めてしまって「どうしよう?」ってなった時に、Makotoさんに声をかけて一緒にやり始めたんです。
−−Risaさんは他のお二人とは少し世代も違いますが、歌い始めたきっかけは。
Risa:私はそれほど音楽が好きだったわけでもなく、ましてプロになろうなんて考えたこともなかったんです。でもある日、絢香さんの「三日月」という曲を聴いて衝撃を受けて。どうしてこんなに歌で元気付けられるんだろうって。それから真剣に歌い始めました。高校の時はバンドで精力的に歌っていて、卒業間近って進路を考えるじゃないですか。でも、歌を続けたかったので、そのままアルバイトしながらバンド活動をしていました。
▲ 「未来へ」 (X Factor Okinawa Japan)
−−「X FACTOR OKINAWA JAPAN」に応募しようと思ったきっかけは何だったんですか。
Risa:たまたまチラシをもらったんです。こんなのあるよって。それで受けてみました。でも、バンドではなくヴォーカルとしてのオーディションだったし、あっという間に進んでいったので、バンド活動がおろそかになってしまって。それで、バンドのメンバーには謝って、オーディションに専念することにしたんです。
−−MakotoさんとHomareさんは、Revival Viewとして活動している最中に「X FACTOR OKINAWA JAPAN」のことを知ったんですよね。
Homare:実は、このユニットはほとんどオーディションのために作ったような感じですね。そこに向けていろいろと固めていったといってもいいかもしれないです。
−−でも、順調に勝ち進んでいったんですよね。
Makoto:それがそうでもないんですよ。最初の頃は、審査員3人のうち2人がイエスと言わなきゃいけないんですけど、あやうく落ちかけたんです。
Homare:とくに松尾潔さんにはめちゃくちゃ酷評されました(笑)。「君たちやる気あるの?」なんていわれて。テレビのオンエアには出てないんですけど。その時はカヴァーだけだったんですけど、仲宗根梨乃さんが「オリジナルないの?」って言ってくれて、その場で即興で歌ったんです。たまたま一曲だけ2人で作った曲があったんですよ。そしたら、松尾さんも「いいねえ」って言ってくれて何とか残りました。
−−Risaさんはそんな2人と組まされることになるんですよね。
Risa:私も途中で落とされたんですけど、決まった時は「やったー!」って感じで、2人の首をぎゅーっと掴んで喜びました(笑)
Makoto:3人でやるってことが決まった時は、最後まで名前が呼ばれなくてもうダメだと思っていたんですよ。でも、最後の最後に3人でやるようにといわれて「また生き返った!」という感じですね。
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Interviewer: 栗本 斉
私たちも夢を追いかけて実現したことがあるから、これを聴いて同じように感じてくれるといいな
−−「X FACTOR OKINAWA JAPAN」では優勝は逃したわけですが、終了したのが2014年の3月。そこから新しいスタートですよね。どういう活動をしていこうと思ったんですか。
Homare:まずは曲を作らなきゃと思って、制作に専念していました。もちろん、ライヴやイベントも最低月に一回くらいのペースではやっていこうという話になって、実際にいろんなステージに立たせてもらったんですが、制作がメインですね。
−−じゃあ、アルバムを作るまでに、曲はたくさんできたんですか。
Homare:そうですね。完成形じゃないものも含めると30曲以上はあると思います。
Makoto:でも曲作りが本当に難しいんですよ。Risaのキーに合わせると僕のキーに合わないとか、いろいろと試行錯誤して曲作りしていきました。
−−アルバムという形にしようと考えたのはいつ頃ですか。
Homare:それはもう最初からアルバムにしたいという話をしていて、曲作りは始めていました。その前に、先にタイアップが決まったということもあって、そっちから作り始めたというのもあります。
−−それで、今回『風のメロディー』というタイトルのミニアルバムが出来上がったたわけですが、この形に決まったのはいつくらいですか。
Homare:9月くらいですね。ずっと制作していたから、すごく時間がかかったという感じがします。
−−では順番に聴いていきたいんですが、冒頭の「さめない夢」はアルバムではいちばんノリのいい曲ですね。R3の雰囲気もうまく出ています。
Makoto:これはこの中ではいちばん新しい曲です。アルバムのバランスを考えると、しっとりした曲が多かったので、こういうのも入れたいなと思って選びました。
Risa:聴いている人も元気を出してくれるように、そんなイメージで歌いました。私たちも夢を追いかけて実現したことがあるから、これを聴いて同じように感じてくれるといいなって思います。
−−曲はHomareさんですが、歌詞はMakotoさんとHomareさんの共作ですね。
Homare:基本的には詞曲はそれぞれで作って持ち寄って選んでいくということが多いんですが、この曲に関しては、モチーフを組み合わせてMakotoさんと作ってみたんですよ。
Makoto:そういう意味でも、R3として新しいトライのひとつですね。今後もそういう試みを続けていきたいと思っています。
▲ 「繋いだその手を / 沖縄海邦銀行TVCM(かいぎんの決意篇)」
−−次の「繋いだその手を」は、ストレートなラブソングになってますね。
Homare:これは沖縄海邦銀行のCMタイアップが決まったので、サビの部分だけ先に作ったんですが、アルバム用にフルで完成させました。
Makoto:Risaと僕の歌い分けをかなり考えました。キーも違うから、その配分はいつも時間をかけるんですよ。
Risa:けっこう感情移入して歌いました。R3らしい優しい雰囲気が伝わるといいなあと思います。
−−続いて「オレンジ色の帰り道」ですが、親子の愛情を歌っているんですよね。
Makoto:実は、最近子どもができて父親になったんですよ。それで、自分にとっての両親の思い出と、逆に子どもに対する父親としての思いを合わせて曲にしました。
Homare:3人で歌い分けしているので、R3らしさもすごく出ていると思います。これもau沖縄セルラーのタイアップで使っていただきました。
−−4曲目からはカヴァー曲ですが、いずれも「X FACTOR OKINAWA JAPAN」で歌ってきた曲ですよね。
Homare:Kiroroさんの「未来へ」は、最初の頃に歌った曲ですね。沖縄の曲で、自分たちらしさが出せるのはなんだろうということで考えぬいて、この曲を選んだんです。
−−Risaさんのアカペラから始まるのが印象的ですね。
Risa:とても緊張します(笑)。でも、昔から親しんでいた曲なので、楽しく歌えました。
Makoto:転調してハモリが分厚くなるところに、R3らしさが出せたかなと思いますね。
▲ 「いちばん近くに」 (X Factor Okinawa Japan)
−−次がHYの「いちばん近くに」ですが、この曲を選んだ理由は。
Makoto:これも沖縄の曲で男女ヴォーカルということを考えたときに、悩んで選んだんですよ。ヴォーカルのテクニック的にもいろいろと工夫しています。
Homare:これも意識的に転調を取り入れたりして、ギター一本なんだけど退屈させないような作りになるように考えました。
−−最後の曲が小田和正さんの「たしかなこと」なんですけど、「X FACTOR OKINAWA JAPAN」でも感動的な一曲でしたね。
Risa:これは自分がやりたいって言って選びました。絢香さんとクリス・ハートさんが歌っているヴァージョンをずっと聴いていて、「この曲を歌いたいなあ」って思っていたんですけど、誰にも言ってなかったんですよ。でも偶然なんですが、お母さんが「R3がこの曲を歌って優勝したのを夢で見た」って。じゃあやるしかないって思って。それで二人にも押しまくりました(笑)
▲ 「たしかなこと」 (X Factor Okinawa Japan)
−−じゃあRisaさんにとっては思い入れのある曲ですね。
Risa:もちろん、3人にとっても思い入れは強いですね。
Makoto:この曲は、それまでの選曲と考え方も違っているんです。「いちばん近くに」は切羽詰まってたから派手に盛り上げようと計算していたんですけど、「たしかなこと」の時は自分たちがやりたいようにやろうと思って、歌詞の内容をいかに表現するかということに重点を置いたんです。そういったこともあって、すんなりと曲は決まりました。それまでは、曲を決めるのにすごく時間がかかるんですよ。でもこれはあっさり決まったし、ナチュラルに歌いましたね。
−−番組を見ていた人にとっては、この曲の印象が一番強いかもしれないですね。涙のシーンもありましたし。
Homare:反響も多かったですからね。会場にも泣いている方がたくさんいたし。
Makoto:みんなに反則技だっていわれたけど(笑)。みんなもらい泣きしちゃって。
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Interviewer: 栗本 斉
まだこれだけでは、R3の全貌を掴みきれないと思う
この先にはもっといいR3があるんじゃないか
−−このアルバムはR3の始まったばかりの歴史ではありますが、これまでの集大成になっていますね。3人にとってこのアルバムの感想は。
Homare:単純に、たくさんの方に聴いて欲しいなあと思いますね。だから、メディアの露出もそうだけど、ライヴも積極的にやっていきたいですね。
Risa:オーディションが始まってから現在までの集大成のようなアルバムなので、自分たちのカラーが詰まっていると思います。聴いている人たちにも心地いい風を感じてもらえるんじゃないかなと思います。だから、とにかくたくさんの人たちに聴いてもらいたいので、自分たちでも届けに行きたいと思います。
−−気合が入っていますね。
Risa:はい!気合い入れて頑張ります(笑)
Makoto:今までのR3のカラーを出せたのは良かったと思います。ただ、まだまだ足りないものもあるかなと。だからもっと挑戦していきたいこともあるし、僕としてはこのアルバムは次に行くための一区切りという感覚です。今のR3はこのアルバムに詰まってはいるんですが、次に行くときはここにないものも入れていきたい。まだこれだけでは、R3の全貌を掴みきれないと思うんですよ。この先にはもっといいR3があるんじゃないかなと思っています。
−−その先のR3というのは、どういうものでしょうか。
Makoto:このアルバムに入っていない曲で、前から作りこんでいる曲もいくつかあって、その中には今までにないようなメロディーを入れてみたりとか、模索はしているんですよ。もっと面白いことができないかなと。歌い分けにしてもハモリにしても、もっと改良するべきところはあると思いますね。
Homare:やっぱり3人で歌うというスタイルは、他にやっている人がいないので、その部分をどこまで研ぎ澄ませていけるかなというのが課題ですね。僕も今がむしゃらに探している状況です。それができれば、他のアーティストとも差別化ができるはずだし、自分たちの強みになるはず。どうやったら聴いている人に「おっ!」と思わせられるかなというのもある。そのためには常に曲を作り続けないといけないし、カヴァーも続けていきたい。「これだね!」とハマるR3の形を探している最中ですね。
−−カヴァーはやり続けるんですか
Homare:やり続けます。ストックもかなりあるんですよ。20曲くらいはありますね。カヴァー曲をやることによって、ハモリのコツが掴めるというのもあるんですよ。あとはこういう曲を作ってみたいなってインスパイアされるし、やっぱり勉強になりますよね。男性目線の曲をRisaが歌うと新鮮に感じたり、振り幅の大きな表現ができるかなと思います。聴いてくれる層も広いから、カヴァーに関してもいろんな楽曲を歌っていきたいですね。あと、沖縄を代表するような楽曲を、R3のオリジナルとしても作っていきたいですね。
Risa:R3らしさを追求しつつ、聴いてくれる人の印象に残るような作品を作りたい。自分たちにとっても思い入れのある作品を作り続けていきたいですね。
−−具体的な目標ってありますか。
Risa:やっぱり小さい頃から見ている「紅白歌合戦」には出てみたいです。両親もずっと見ている番組だから、「たしかなこと」を超えるくらいの楽曲を作って出場してみたい。
−−ライヴも積極的に行っていますが、そのスタンスはいかがですか。
Homare:どちらかというとワーッ!と盛り上がる感じではないので、あまりお祭り向きではないんですよ(笑)。だから、じっくりと聴かせるライヴをしたいです。あと、フル・バンドでもライヴをやってみたいですね。
Risa:でも、お祭りでも盛り上がるくらいの曲も歌っていきたいですね。これからはしっとりするだけでなく、そういう曲も歌えるといいなと思っています。
−−最後に“楽園おんがく”と聞いて、どんな曲が思い浮かびますか。
Makoto:海、島、レゲエというイメージですね。ゆったりした雰囲気が頭に浮かびます。
−−R3はレゲエのレパートリーはないんですか。
Makoto:ないですねえ。でもトライしてみても面白いかもしれない。
Homare:僕は楽園というと、ウクレレとかアコースティック・ギターの音色が流れていて、そよ風が吹いて、波の音が聞こえているという感じです。レゲエというよりはハワイアンとかカントリーっぽい感じかな。
Risa:私は今どきですけど、ワン・ダイレクションですね。聴いているととっても元気が出るんですよ。聴くときは車の窓を全開にして、窓から腕を出して、大声で歌いながら聴くのが最高の楽園気分です(笑)
Homare:それ、ちょっと迷惑だから、窓閉めてもらってもいい?(笑)
Risa:ほんと迷惑ですね!(笑)。でも、開放感があって元気が出るし、楽園にいるっていう感じがします。
−−ってことは、沖縄が楽園ということですか。
Risa:そうですね。沖縄の風って楽園気分になると思います。
−−まさにR3も沖縄の風を感じる音楽ですもんね。
Risa:そう思ってくれると嬉しいです!
栗本 斉 Hitoshi Kurimoto
旅と音楽をこよなく愛する旅人/旅&音楽ライター/選曲家。
2005年1月から2007年1月まで、知られざる音楽を求めて中南米へ。2年間で訪れた国は、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、トリニダード・トバゴ、パナマ、メキシコ、キューバの、合計14カ国。
帰国後は旅と音楽にこだわり、ラジオや機内放送の企画構成選曲、音楽&旅ライター、コンピレーションCD企画、ライナーノーツ執筆、講演やトークイベント、ビルボードライブのブッキング・コーディネーターなどで活動中。得意分野はアルゼンチン、ワールドミュージック、和モノ、中南米ラテン旅、世界遺産など。2013年2月より沖縄県糸満市在住。
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