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アニメ『謎の彼女X』発売記念 スペシャル対談

アニメ『謎の彼女X』発売記念 スペシャル対談 インタビュー

2012年春アニメの大傑作『謎の彼女X』主題歌が名曲すぎる

純愛とフェティシズムの間で揺れる17歳の恋心の機微と、よだれで繋がるふたりの絆。アニメファン以外をも惹き付ける異色の青春グラフィティとして、放送終了後も話題を呼んだアニメ『謎の彼女X』。
このたび、ヒロイン 卜部美琴役と主題歌に抜擢された吉谷彩子(※1)と、その楽曲制作を担当した北川勝利(※2)の対談を実施。快活な笑顔が印象的な吉谷と、真摯な音楽人 北川の魅力が光るコラボレーションを是非。

やったことがなかったのでアニメの声が出せなかった

北川勝利、吉谷彩子(左から)

北川勝利:前にNHKで見たよ?

吉谷彩子『梅ちゃん先生』(※3)ですか? ありがとうございます!

北川勝利:知らないで見てたから最初は「すっごい似てるなー」とか思ってて、ビックリしちゃったよ(笑)。

--ちなみに、ふたりが最後にお会いしたのはいつくらいなんですか?

北川勝利:レコーディングぶりだから……、1月か2月くらい?(笑)

吉谷彩子:アッハッハッハッハ! お久しぶりです!(笑)

吉谷彩子

--そうだったんですね。さて、そんな訳で今回は先日テレビの放送が終了したばかりの『謎の彼女X』について伺っていきますが、吉谷さんは声優初挑戦となりました。

吉谷彩子:最初の頃はやっている時も実際に観てみても、まだちょっと馴染めてないなって感じはありました。形はできていても、そこまで“卜部”感が出てないというか。でも、やっぱりこういうのって慣れだったりとかするので、徐々に徐々にで最終回は卜部ちゃんを出せたなって。

--オフィシャルサイトのコメント動画では、距離感のつかみ方が難しかったと仰っていましたよね?

吉谷彩子:難しかったです。こうやって話している時はどのくらいの距離感なのかってもちろん分かることですけど、アニメだと何処に椿くんがいて、何処に丘さん(共に登場人物)がいて、どのくらいの声の大きさで話せばいいのかまったく分からなくて。音響監督さんや椿くん役の入野(自由)さんに、色々と教えてもらいながら考えました。

アニメ『謎の彼女X』

--作中では下校のシーンが何度も出てきましたが、吉谷さんがそういった意識を持って演じていたことを知ってから見直してみると、確かに声の距離感の表現をもの凄く作り込んでいるように聴こえました。

吉谷彩子:音響監督の三間(雅文)さんは自分が気に入るまでずっとやり続ける方なので、本当に細かく作っていきましたね。

--監督の渡辺歩さんはオーディションに臨む前、アニメ的に成立しやすい安心できる声か、生っぽいリアリティを伝えられる声かの2択になる(※4)と思っていたそうなんです。そうした中で吉谷さんの声を聴いた時、アニメっぽさを凌駕するだけのインパクトがあったと。

吉谷彩子:えー! 嬉しいです!

--確かに第1話で初めて卜部の声を聴いた瞬間、いわゆるアニメ声優の質感とは全然違って驚きましたし、心をつかまれた部分はありますね。

吉谷彩子:逆にやったことがなかったので、アニメの声が出せなかったっていうのはあるんです。なので思いっきり自分を、素の声のまんまやろうかなって思ってましたね。

初めてのチャレンジだったので大変は大変

北川勝利

--ではオープニング「恋のオーケストラ」とエンディング「放課後の約束」を制作する上で、監督からのリクエストはあったのでしょうか?

北川勝利:原作を読んでいたら後半にアイドル(今井百夏 ※5)が出てくる話があったので、最初は勝手にそのアイドルが歌っているような突き抜けたキャラソン的な曲がいいのかなって思ったんです。よだれがキーワードだから、そういう所に引っかかってくる聴き手を想定してキャラクターを推していかなければいけないのかなって。

でもディレクターの方から「そういう感じじゃない」ということになって、ヒントをもらいながら自分なりに考えて何曲か作っていったら、「じゃあこっちがオープニングで、こっちがエンディングで」と。でも、それだったらエンディングはまた違う曲を書くので聴いて下さいってお願いして、「放課後の約束」に辿り着いた流れですね。

--また、この2曲は劇中の卜部美琴よりも感情を表現した歌い方ですよね。

吉谷彩子:卜部ちゃんって感情を表に出さない女の子って感じなので、この歌の中では“本当は出したいんだけど、表情に出していない卜部ちゃん”の部分を表現できたらいいなって思ってました。この歌詞を読んだ時に浮かんだ、夕陽をバックに椿くんと一緒に並んで帰る姿を想像して。

北川勝利:色んなことが初めてのチャレンジだったので、大変は大変でしたけど素の良さを最大限に出したいと思ってましたね。吉谷さんはレコーディングも初めてだったから、歌う時は僕が隣に立ってメロディに合わせて指揮をしてました(笑)。あと、歌詞の横に「ここは楽しく歌おう」ってニッコリマークを書いたりとか。

北川勝利、吉谷彩子(左から)

--この2曲ってけっこうキーが高いですよね?

北川勝利:いや、一応曲が決まってからキー合わせをしようとカラオケに行って、吉谷さんに歌ってもらったんですよ。

吉谷彩子:「ちびまる子ちゃんの「おどるポンポコリン」を歌いまーす!」って言ったら、どんどんキーを上げられちゃって(笑)。

北川勝利:気楽に歌える曲で得意な声域とかキーをどこまで上げていいのかを知りたかったので、2回も3回も「おどるポンポコリン」を歌ってもらって、延々とピーヒャラピーヒャラ歌ってもらいました(笑)。それを録音してチェックしておいたので、吉谷さんに合わせた一番良い所のキーになっているんです。

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吉谷彩子

--実際に完成した音源を聴いた時の感想は?

吉谷彩子:母にも友だちにも聴かせたんですけど、「これ、本当にあんたの声なの~?」って(笑)。自分の声で曲を作って頂いて、それがCDになるなんて信じられなくて凄く嬉しかったので、舞い上がってました! しかもカラオケにもう入ってるんですよ! この前、採点してくれるのをやったんですけど……、85点で“もっとしゃくりを入れたらプロに近づけるよ”って!(笑)

--また、放送の第1話ではエンディングの「放課後の約束」しか流れませんでしたが、あの出だしのベースラインが耳に入ってきた瞬間、これは絶対名曲だと確信したんですよ。

北川勝利:へ~。

--というのも、最近のアニメソングだと4つ打ちで突飛な展開をする曲や、迫力のあるボーカルがロックサウンドに乗っている打ち込みがメインの曲が多いですよね? でも「放課後の約束」はまったく別の違うベクトルに魅力があって、ひとつひとつが生音でフレーズも細部まで練り込まれている。CDで聴いて尚更確信しましたが、2番で入ってくるピアノフレーズとか本当にこだわり抜かれた楽曲です。

北川勝利:僕はアニメの曲も多くやっているんですけど、アニメ如何に限らずある一定のクオリティの曲を作りたいと思っています。“そこはいらないよ”って言われる現場も多いんですけど、“お願いだからここはこだわらせて下さい”みたいな感じでずっとやらせてもらっているから、そういう部分を良いって言ってくれる人が増えていくのは嬉しいことですよね。メインの女の子の声だけを聴いている人もいると思うので、後ろの演奏まで気付いてもらえるのは嬉しいです。

北川勝利

--アニメ『それでも町は廻っている』(※6)のサントラも本当に素晴らしい作品でしたよ!

北川勝利:ありがとうございます(笑)。

--北川さんの楽曲はストリングスアレンジが絶妙な楽曲が多いですが、アニメ『謎の彼女X』は劇中の音楽でもストリングスが効果的に使用されていましたね。

北川勝利:曲を作っている時は劇中の音楽が長谷川(智樹 ※7)さんだって知らなかったんですけど、本編を見ていてそのクオリティは素晴らしいと思ったし、「でも僕も負けてないよ」って(笑)。そういう所は良いですよね。

--「恋のオーケストラ」では弦楽奏者に弦一徹ストリングス(※8)を招き、美しい旋律を奏でています。やっぱりアニメ主題歌の方が、サウンドプロダクションを大きく広げられる所はあるのでしょうか?

北川勝利:そうですね。最近はある一定の約束事がクリアできていれば、他の現場よりも豪華にミュージシャンを呼べる予算があったり、ちょっと時間がかかっても許してくれたりとか(笑)。こだわって作れる現場ではありますね。

声優はやったことがない! やってみたい!

アニメ『謎の彼女X』

--だからこそ、「恋のオーケストラ」と「放課後の約束」がシングルリリースされていない(※9)ことを悲しんでいる人が多いのは非常によく分かります。

北川勝利:Twitterで「なんで出さないんですか?」ってリプライされることがあるですよ。俺に言われても!(笑)

--ですよね(笑)。では、吉谷さんの中での手応えというのは?

吉谷彩子:収録する前は、歌うこともCDを出すことも絶対にないと思ってたんですよ。(DVDの特典として)CD出しますよって言われた時に初めて自分が歌うって知ったくらいだったので、最初に歌った曲がまさかこんなステキな曲になるなんて……。家宝ですね! 大人になって子どもができたら、「これはお母さんが歌ったのよ」って教えてあげたいです(笑)。

吉谷彩子

--歌も初めてなら声優も初めてでと、『謎の彼女X』は吉谷さんにとって様々な成長を刻めた作品になりましたね。

吉谷彩子:初めての経験をしてみたいっていう気持ちは凄く強いので、「声優のオーディションがありますよ」って最初に聞かされた時は、“声優はやったことがない! やってみたい!”と思ってすぐに本屋さんに行って、単行本の『謎の彼女X』1~3巻くらいまでバーっと借りて……

北川勝利:……借りて?

--本屋で借りるって殆ど万引きですよ(笑)。

吉谷彩子:“買って”です! 買いました(笑)。それで大事な台詞の所に直接マーカーして、オーディション前に“自分の中での卜部ちゃん”を少し固めたんです。だからオーディションの時に台詞を渡された時も、「あ! このシーンをやるんだ!」と思ってその卜部ちゃんを出しました。

--ちなみにそのシーンとは?

吉谷彩子:第1話の笑い転げるシーンですね。後、椿くんに「それは禁断症状じゃなくて恋の病よ」って言う所と。

北川勝利:そのオーディションの時の音声、データで送られてきましたよ(笑)。

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声優経験の無い吉谷彩子への否定的な意見

北川勝利、吉谷彩子(左から)

--確か原作の植芝理一さんは、その音声を今でも時々聞くそうですよ? アニメでも印象的なシーンでしたが、笑った後に卜部が言う説明とかキモいじゃないですか。

吉谷彩子:アッハッハッハッハッハ!(爆笑)

--トーンや口調がけっこう完璧で、あの瞬間“これは良いアニメだ!”って気付かされたんですよ。そんな声を持つ吉谷さんを、北川さんはどんなボーカルだと感じましたか?

北川勝利:みんなが感想として“古い”とか“懐かしい”って書いてくれるんですよ。それって何処のことを言ってるのかなって思ってたんだけど、たぶん歌い方なんだなって。
モーニング娘。とかの流れなのか、それを真似をしてみんなカラオケでもしゃくって歌うから、それがスタンダードになりすぎてる気もしていて。声優さんの歌い方もみんなそうなんですけど、吉谷さんはそこを丸っきり無視してる歌い方なんですよ。隣で指揮する僕に操られて楽しく歌ってたんだな、と(笑)。

でもそれはお手本に沿って歌っているだけな訳じゃなくて、歌詞に線を引いて“ここはちょっと切なく”とか“ここはわがままに”とか、問い掛ける演技を入れてみたりとか。ニュアンスを大切にしたかったんです。

アニメ『謎の彼女X』

--その演技が過剰じゃない所も絶妙です。

北川勝利:今はあんまり聴かない感じの歌い方、真っ直ぐな歌にナチュラルに演技が入ってくる感じは上手くできたと思います。普通の声優さんが歌ったら全然違う曲になったよなって所は、先ほど仰っていた生な感じ。ある種の違和感という所が、本編にも歌にも良い形で出たかなって。

--僕はずっとニコニコ動画で見ていたんですけど、「最後まで曲を飛ばせなかった」っていう書き込みがもの凄く印象的でした。

北川勝利:それは嬉しいですね~。

--あと、実はこの作品は放送前、声優経験の無い吉谷さんが卜部役を務めることに対して否定的な意見も多かったんですよね。

吉谷彩子:はい、それは知ってました。

--でも、最終回後のネットの書き込みには「吉谷彩子に謝らなければいけない」って人も多くて。吉谷さんの存在感を証明する見事な手のひら返しだなと。

吉谷彩子:嬉しいです!(笑)

もし椿くんだったら“よだれ”を舐める?

北川勝利、吉谷彩子(左から)

--では、北川さんにとって「恋のオーケストラ」と「放課後の約束」はどのような2曲となりましたか?

北川勝利:初めての人の素の部分や生の部分から一番良い所を切り取る。ずっとそれを頭に入れて作ったんですけど、ミュージシャンの演奏も含めて本当に上手くいったなって。歌詞を書いてくれた山田(稔明)くんもみんな「良い曲できたね」って言ってくれているので、自分も良かったなって思ってます。

--吉谷さんにとって『謎の彼女X』とは?

吉谷彩子:全員が原作のイメージと一致する訳じゃないことは分かっていたんです。だからそれはプラスに代えてしまおうと思っていて、どんどん話が進んでいくにつれて「吉谷彩子が卜部美琴だ!」と思ってもらえるようにしたかったので。

アニメ『謎の彼女X』

--あ、そうだ。最後にもうひとつ質問が。『謎の彼女X』は“よだれ”がキーになっている作品ですが、もし北川さんが椿くんだったら1話の状況でよだれを舐めたと思いますか?

北川勝利:いや~…………

--かわいい女の子のよだれですよ?

北川勝利:う~ん……

吉谷彩子:北川さんは舐めないみたいですね(笑)。私も最初は「よ、よだれかぁ……」って思ったんですけど、よだれを通してどんどん絆が深まるっていう設定がすっごく面白くって次が気になるんですよ。1話を見た後、入野さんとも“椿くんはいつか死んじゃうんじゃないか!?”って話していたんですけど、続きを見ていくと純粋な恋愛のお話なんだって分かりましたね。

--それでは今回の取材は以上になります。ありがとうございました! ……ところで、今後ライブなどはやらないんですか?

北川勝利:じゃあやろっか?

吉谷彩子:えー!? じゃあ練習しなきゃ、85点だから。しゃくらなきゃ!(笑)

--しゃくらない歌い方が良いって話だったのに?(笑)

北川勝利:で、アンコールは「おどるポンポコリン」をずっと歌おう(笑)。

北川勝利、吉谷彩子(左から)

アニメ『謎の彼女X』キャプチャー画像

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インタビュー写真

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