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楽園おんがく Vol.29: 比屋定篤子xサトウユウ子 インタビュー

楽園おんがく Vol.29

 旅と音楽をこよなく愛する、沖縄在住ライター 栗本 斉による連載企画。今回は、デュオ・アルバム『RYUKYU STANDARD』をリリースしたばかりの比屋定篤子とサトウユウ子が、その出会いからアルバムの制作に至るまでを語るロング・インタビュー。


 沖縄民謡のアルバムというと、三線や太鼓をバックに声を張り上げて歌うというのが一般的だ。しかし、今回リリースされた『RYUKYU STANDARD』と題するアルバムは、従来の民謡のフォーマットとはまったく違う作品集である。比屋定篤子によるノン・ビブラートの美しい歌声と、サトウユウ子が弾くダイナミックかつ繊細なピアノという、シンプルな編成で演奏されているのだ。

 比屋定篤子は沖縄出身ではあるが、デビュー当初は東京在住だったし、音楽性もいわゆるシティ・ポップやブラジル音楽を取り入れた独自のポップスを追求してきた。よって、いわゆる沖縄民謡とはほとんど縁がないし、彼女に民謡のイメージを持っているファンもほとんどいないだろう。拠点を地元に変えた現在においても、沖縄民謡をメインで歌うことはまずない。一方のサトウユウ子は、福岡出身でありながら現在は沖縄を拠点に活動するピアニスト。ジャズ関連のセッションに参加することが多く、コンテンポラリーなスタイルの奏法がメイン。2011年に民謡歌手の新良幸人との傑作デュオ・アルバム『浄夜』を発表しているが、けっして民謡専門のプレイヤーではない。

 そんな二人が取り組んだ『RYUKYU STANDARD』は、静かながら大胆で画期的なアルバムだといえるだろう。「安里屋ゆんた」や「てぃんさぐぬ花」といった誰もが知る名曲を中心に、「月ぬ美しゃ」、「じんじん」、「娘ジントーヨー」、「ちんぬくじゅうしい」といった民謡やわらべうたを10曲セレクト。落ち着いたトーンを守りながらも、澄んだ歌声と現代的なピアノの響きによって、まったくの新しい音楽へと昇華している。曲によってはデュオのイメージを超越した多重コーラスを駆使するなど、とにかく一曲一曲に静かな驚きを感じさせる一枚であることは間違いない。そして、三線の音色も民謡の節回しが無くても、全体を通して美しい沖縄の風景が浮かび上がるのが見事。斬新な沖縄音楽を生み出した2人に、その出会いからアルバムの制作に至るまで、じっくりと語ってもらった。

半年くらい過ぎたころに、飲みか練習かわからなくなってきて(笑)
そろそろちゃんと力を入れてやろうってことになって、ライヴを決めたんです

−−お二人が最初に出会ったのは。

サトウユウ子:飲みですね(笑)

比屋定篤子:私は実は覚えてない(笑)

サトウユウ子:私がよく行く飲み屋で、たまたま比屋定さんとお会いして、それからの縁です。

比屋定篤子:私はサトウさんがいたことを覚えてなくて、あとで聞いたんですけど(笑)

サトウユウ子:その後、別のお店でもお会いして、それで仲良くなりました。

−−それはどれくらい前ですか?

比屋定篤子:3年半くらい前かな。

サトウユウ子:それまでは、あまり接点がなかったね。

比屋定篤子:サトウさんはジャズの仕事が多かったから、会う機会がなかったんです。飲み屋しか(笑)

サトウユウ子:私はブラジルやラテン音楽が大好きなので、それで話が盛り上がって。世代も近いしね。飲み友達からスタートしたという感じです(笑)

−−飲み友達から、音楽仲間になったきっかけは。

サトウユウ子:なんとなく「なんか一緒にやりましょう」ってことになったんです。

比屋定篤子:最初はサトウさんの家に行って、ひたすら練習していたんです。「今度はこの曲やってみよう!」とかいって。

−−それはライヴをやるためではなくて。

比屋定篤子:そうそう、何も決めないまま。

サトウユウ子:二人でラテン部っていうのを作ったんです(笑)

−−例えばどういう曲を練習したんですか。

比屋定篤子:ブラジルのモニカ・サルマーゾとかジジ・ポッシとかのピアノと歌のMPBがメインで。

サトウユウ子:ブラジル音楽好きなんですよ。エグベルト・ジスモンチとか。気に入った曲を細々と弾いたりしてたんですけど、彼女に会って「これはいいぞ!」と思って。それで一緒に個人的な楽しみだけで練習していたんですよ。

比屋定篤子:ビール飲んだりしながらね(笑)

サトウユウ子:でもそうやって練習しているうちに、曲もたまってきたので、「ライヴやってみるか」って。

比屋定篤子:半年くらい過ぎたころに、飲みか練習かわからなくなってきて(笑)。そろそろちゃんと力を入れてやろうってことになって、ライヴを決めたんです。

−−モチベーションを上げたわけですね。

サトウユウ子:ジャズ系のライヴハウスでライヴをやるっていうのを決めて、比屋定さんのオリジナルも織り交ぜつつ、パーカッションも入れてライヴをやりました。

−−その後はどういう展開になったんですか。

比屋定篤子:那覇の桜坂劇場が主催しているイベント“Sakurazaka ASYLUM”に出させてもらったり、ピアノのあるレストランで歌わせてもらったりとか。

サトウユウ子:合計4回くらいやったのかな。

比屋定篤子:でも、そんなに精力的にやるって程でもなくて、最近しばらくはやってなかったんですよ。

−−じゃあラテン部の活動もお休みしていたんですね。

比屋定篤子:練習もほとんどしてなかったし。

サトウユウ子:ただ一緒に飲んでるとかね(笑)

比屋定篤子:でも、その間に、サトウさんも参加してるジャズ・ギルド・オーケストラっていうビッグ・バンドがあって、ヴォーカルとして誘ってもらったりとか。一曲ジャズを歌いましたよ、死ぬ気で練習して(笑)

サトウユウ子:なかなか良かったですよ。十分いい個性が出ていて。

比屋定篤子:誉めて伸ばすタイプですね(笑)

サトウユウ子:私も誉められないと伸びないからね(笑)

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    結果的にはこれがいいなという落ち着く場所が必ずありました
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歩み寄ってお互い思ったことを言って作り上げました
結果的にはこれがいいなという落ち着く場所が必ずありました

−−そんなお二人が、今回のアルバム『RYUKYU STANDARD』に行きついたのはなぜなんでしょうか。

サトウユウ子:タフビーツ(発売元のレーベル)の神尾さんからの話があったんですよね。

比屋定篤子:共通の知り合いを介して、今年の6月に初めてお会いしたんです。とりあえず話だけでも聞いてみようかなっていうくらいだったんですが、そしたら「沖縄民謡を歌ってみませんか」という話で。今まではオリジナル作品でアルバムを作ってきたので、一度もそんなことを考えたこともなかったんですよ。でも、私も年齢を重ねたということもあって、面白いかもしれないなって思ったんです伝統的な民謡の節回しなんて練習したこともないから、「そんなのでいいんですか」って聞いたら、「むしろその方がいい」という話で。

−−それまでは、比屋定さんは沖縄民謡は歌ったことはあるんですか。

比屋定篤子:ライヴで1曲歌ったりとか、ソニーに所属していた時も「てぃんさぐぬ花」をカヴァーしたりとかはあります。皆無ではないし、小さい頃に合唱団で歌ってはいたけれど、唄者さんのように頑張ろうって程でもなかったんです。民謡に対していやだということはないんですけど、自分は本物ではないという認識もあるし。でも、軽い感じでやろうって感じになって。それで、アレンジに関しては2パターンのアイデアが出てきたんですけど、そのうちのひとつがサトウさんとのデュオだったんです。それで、もしかしたらいいものができるかもしれないって思って、まずはサトウさんに話したんです。

−−サトウさんはジャズがメインなんですか。

サトウユウ子:わたしはよくジャズ・ピアニストって紹介されるんですけど、私自身にそういう意識は全然なくて(笑)。キース・ジャレットは好きですし、普段ジャズは弾きますけど、いわゆるジャズというよりはむしろ矢野顕子さんとかブラジル音楽やヨーロッパのECMレーベルの音楽の方から影響を受けてます。私は国立音楽大学に行っていて大学は違うんですが早稲田大学のモダンジャズ研究会に入っていまして。その学生時代の頃は先輩に「お前はラテンアメリカ音楽サークルに行け」っていわるほど、アントニオ・カルロス・ジョビンの曲ばかり弾いていました。(笑)その後、沖縄に来て20年近く経つんですけど、最初は学生の頃にバックパッカーみたいな旅行でこっちに来て、その時に沖縄民謡に触れたんですよ。その頃は個人的な趣味として聴いていて、こっちに移住してから新良幸人さんと出会って、沖縄音楽を演奏するようになったんです。

−−じゃあ、それまでは沖縄音楽を弾くことはなかったんですか。

サトウユウ子:ホテルのラウンジなどでピアノを弾くときに、独自に演奏してましたが、幸人さんのおかげで沖縄音楽に深く関わることができました。

−−新良幸人さんとのデュオ・アルバム『浄夜』(2011年)は素晴らしい作品ですよね。今回の作品にも影響しているんですか。

サトウユウ子:幸人さんは八重山民謡の唄者です。今回の比屋定さんは、もともとポップスからスタートした歌い手さんなので、三線無しで沖縄の旋律、歌詞をストレートに聴いてもらうという、幸人さんとはまた違うポップスよりのアプローチが試せるかなって。

−−アルバム制作の準備は、選曲から始まったんですか。

比屋定篤子:最初に神尾さんから7,8曲の候補が届いて、その中からとりあえずサトウさんと一緒にやってみて、出来なさそうなものは外していきました。10曲くらいのボリュームにはしたかったから、足したり引いたりして、随時調整していきました。だから、練習しながら曲も決めていったという感じですね。

−−ということは、最初からある程度アレンジも固めながら選曲していったということですか。

比屋定篤子:そうですね。始めはとりあえずやってみようって感じです。

−−アルバム全体のアレンジのコンセプトやポイントはなんだったんですか。

サトウユウ子:基本的には童謡や民謡なので、郷愁感を大切にしました。自分が若い頃に戻って沖縄を旅しているとしたら、どんな音楽を聴きたいだろうって。いわゆる民謡ではない沖縄民謡をやるならならどういうのがいいかなと。私の中では「青春ふりかけ」って言ってるんですけど(笑)、私にとって青春を想起させるコード感をもとにしてやりたいなと。たとえば島を旅している人が、このアルバムを聴いて「あの頃」を懐かしんだり、そこにコミットできるような音楽にならないものか考えました。比屋定さんの声は、サウダージ・ヴォイスなんていうと嫌がりますけど、どこか懐かしい温かい声音なので、ぜひこの声を活かして、私が好きな矢野顕子さんやエグベルト・ジスモンチ、マイケル・ナイマンとかその辺をヒントに音を当ててみたいなと。作業としては、はじめに比屋定さんの歌のみを録音させてもらって、それをもとにいろいろピアノで弾きながら試して作っていったという感じですね。

−−『浄夜』の延長線上だと思っていたんですけど違うんですね。

サトウユウ子:幸人さんの時と音楽的なアプローチは違います。『浄夜』のピアノは龍安寺の石庭のようなイメージで、唄と三線の間にピアノの音を置いていくような、一音に緊張感をもたせる気持ちで弾きました。比屋定さんの場合は、懐かしさを想起させる映像を思い浮かべながら、ポップで親しみのあるコード重視で音を当ててみました。

−−たしかに、ミニマムというよりは、色合いがはっきりある気はしますね。面白かったのが多重コーラスを重ねているところです。

サトウユウ子:あれは比屋定さんがアイデアを出してくれて。「じんじん」とかはここにいろんな声が欲しいという話をしていて。それはいいなって。いろいろとアイデアをもらって、私もふくらませていきました。

−−じゃあ、コミュニケーションしていく中で、アレンジも固まっていったんですか。

サトウユウ子:そうですね。

−−レコーディングは順調でしたか。

サトウユウ子:3日かけて録音したんです。最後に残っていた曲で少し悩みましたけど、それほど激しい悶絶もなくスムースでしたね。録音自体はリクエストどおりの日程でできました。そこに至るまでは個人的に試行錯誤しましたが。

比屋定篤子:ディスカッションしても、全然違う方向だったということがないんです。歩み寄ってお互い思ったことを言って作り上げました。結果的にはこれがいいなという落ち着く場所が必ずありましたね。意外に「てぃんさぐぬ花」みたいな曲に時間が取られてしまったけど。

サトウユウ子:特にシンプルなメロディだし、いろんなアプローチができる曲なんですよ。だから、最初イメージしたアレンジを比屋定さんが気に入らなければ、別のイメージで提案してみるとか、何パターンか用意していきました。

−−でも、結局3日間で録れたんですね。

サトウユウ子:ただ、録音する時って、曲も出来たてで、独特の緊張感の中でせーので演奏するから、良くも悪くもむき出しの音が記録されてしまいます。でも、いい意味でそれぞれの楽曲が持つ初期衝動は録れた気がします。

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今回のアルバムみたいなアプローチのものを聴いて、
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−−では曲を順番に聴いていきたいんですけど、最初は厳かな感じの「いったーあんまーまーかいが」ですね。

比屋定篤子:これは1曲目にしようということは決めていました。

サトウユウ子:一曲が短いのもあるし、通して聴いてもらいったときに映画のように感じてもらえるように流れがあった方が上手く行くと思っていたんです。それで、まず草原に山羊がいて青い空があってという冒頭のイメージを作りたかったので、こういうアプローチになりました。

−−たしかに開放感のあるアレンジですね。

比屋定篤子:早い段階で曲順を決めていたので、雰囲気も練習の時からああいう感じっていうのは決まっていました。この曲は小さい頃からわらべうたとして歌っていたので、あんな風になるとは思ってもみませんでしたね。すごくゆったりとしていい1曲目かなと思います。

−−オープニングから世界が広がっている感じがします。

比屋定篤子:普通だとあんなアレンジにはならないですしね。全編に感じられる凛とした雰囲気を代名詞にしているという感じですね。本当に一曲一曲を大事にアレンジしてもらえたなという感じです。

サトウユウ子:どの曲も思い入れ満載だよね。

−−次の「ウーマクカマデー」は、またタイプの違うコミカルな歌ですね。

サトウユウ子:これは何がいいって、歌詞がいいんですよ。「刈り上げ頭のカマデーくんが~」という歌詞で始まるんです。島のほのぼのした日常の歌った歌詞のニュアンスをそのまま活かしたいと思って、ああいうコミカルな感じにして。そうなると私にとっての「矢野顕子さん」かなと(笑)。

−−なるほど。フランスの印象派にもああいう跳ねた曲がありますよね。

サトウユウ子:ドビュッシーの「ゴリウォーグのケークウォーク」とかね。民謡的なコブシがない分、ストレートに比屋定さんの歌と言葉が届くじゃないですか。もっと複雑にコミカルにすることもできますけど、あまりにやりすぎると歌詞を置いていってしまうので、今回は矢野顕子さんとブラジルをふりかけてみたというか。こういうの全部ノートにメモしているんですけど、「ブラジルふりかけ」とか本当に自分の構成ノートに書いているんですよ(笑)。

−−これもわらべうたですが、比屋定さんも子どもの頃に歌っていたんですか。

比屋定篤子:「ウーマクカマデー」は初めてですね。それまでにも、ほとんど聴いたことなかったです。これは神尾さんがくれた音源の中にあったんですよ。他の曲とは違って、歌詞が日常のひとコマを描いているので親しみやすいですね。

−−たしかに言葉の意味がわからなくても、楽しい感じは伝わる曲です。

比屋定篤子:歌詞が面白いなって思って。それでサトウさんとこんな歌詞なんだよって話をしたら、演奏にも生かされました。

サトウユウ子:歌詞の意味は大事ですからね。だから今回は内地の人のために、比屋定さんが対訳してブックレットに入れたんです。読んだら面白いですよ。

−−比屋定さんは、民謡の歌詞の内容は普通にわかるんですか。

比屋定篤子:わかるものもあるけど、今回は結構調べましたね。訳するにあたって父と母にも聞いたりとか。うちの父は沖縄の辞典のような本をたくさん持っているので、参考にさせてもらいました。両親が知らない単語もあったり、長い間使われていない言葉もかなり出てくるんですよ。そういうのも訳して理解できたので、とても面白かったです。

サトウユウ子:「ウーマクカマデー」はアニメーションでカマデーくんがスキップしている絵が浮かぶんです。NHKの「みんなのうた」で使って欲しいくらい(笑)

比屋定篤子:たしかになりやすいかも。この曲自体は難しい単語もそんなに無いから、私も説明ができましたね。これはかなり最初の段階でやろうと決めた曲です。「ウーマク」というのは「やんちゃ」という意味なんですけど、やんちゃなカマデーくんを諭す親の言葉が歌詞に織り込まれていて、その視点がとても優しいんですよ。「甘えん坊すぎたら、池の鮒を煎じて飲ませるぞ」なんていうフレーズもあるけど(笑)

サトウユウ子:これは歌詞の内容を内地の人にもぜひ知ってもらいたいですね。

−−続く「月ぬ美しゃ」は、個人的にもとても好きな美しい曲です。

サトウユウ子:いい曲ですよね。これは新良幸人さんとも演奏しているんですが、幸人さんのは、島の20代の若者が艶っぽく朗々と歌うイメージ。比屋定さんのは、17、8歳の内地の女の子を主人公にイメージしたので、今回は私にとってのジョニ・ミッチェルな感じを当ててみました。

−−これを聴くと、どこかゴスペルっぽい教会音楽的なものを感じますね。

比屋定篤子:アメリカっぽいというか、カントリー的な感じはあるかもしれないですね。「てぃんさぐぬ花」とこの「月ぬ美しゃ」は以前からライヴでも歌っているんですけど、いつも2番か3番までしか歌わなかったんです。でも、4番、5番でメロディが少し変わるというのを今回初めて知って。サトウさんは新良さんと一緒にやられて知ってたから「この4番、5番がきれいなんだよ」って教えてもらったんです。だからその部分は歌うのがちょっと難しいんですけど、今はあれがないと物足りないんです。

−−もともとの曲自体がそうなっていたんですね。

比屋定篤子:歌詞を見る限りでは、もともとそういうメロディになってるはずですね。歌詞の長さも変わりますから。

サトウユウ子:もとはたしか7番まであるんです。でも意外と展開部までいかない3番で切っちゃうことが多いみたいです。5番6番まで歌っている人って結構少ないかも。

比屋定篤子:普通の人は聴いたことある人自体も、あまりいないんじゃないかなって。

サトウユウ子:例えば「てぃんさぐぬ花」も、あれも10番まであるんですよ。

−−えっ?そうなんですか。

比屋定篤子:そうなんです。でも最後まで歌うには長すぎるんです。淡々と歌うだけだから。でも、歌詞の内容が少しずつ変わっていて、もしかしたら3人ぐらいで書いているんじゃないかって思うんですよ。

サトウユウ子:民謡の人は、歌詞が長いから好きな歌詞を抜粋して唄うということもあります。それ故にいろんなヴァージョンがあるんですよね。

比屋定篤子:レコードによって言葉が違っていることも多いから、どれが正しいのかもわからなかったりとか。だから好きなのを選ぶしかなないんですよ。民謡はそうやって口伝えで歌われて来たんだなあとも思いますね。

−−勉強になりますね。

比屋定篤子:本当にそう思います。歌って得したというか(笑)

サトウユウ子:歌詞の内容を寺の住職さんに聞いたりとかもね(笑)

比屋定篤子:そうそう、「大札ん」とかいて「うふだん」という言葉が出てくるんですけど、わからないから友達のお寺の住職さんに聞いたんです。そしたら、お寺の門前に立て札があって、掲示板みたいにいろんな人が見る場所だったらしいんですけど、それじゃないかなって。そして、八重山の歌だったら、あのお寺じゃないかなってことまでわかって。

−−歴史の勉強みたいですね。

比屋定篤子:さすがにお寺のことはお寺に聞くのがいちばんだなって思いましたね。

サトウユウ子:私の勝手な妄想なんですが、そういう掲示板ってみんなが見る場所じゃないですか。もしかしたら恋仲の二人が、その二人にしかわからない言葉や記号をそこに書いたりして恋心を育んでいたとか。その掲示板をお花で飾ろうっていう内容なんですけど、心をわしづかみにされる歌詞ですね(笑)

比屋定篤子:本当にいろいろと発見がありましたね。

サトウユウ子:歌詞の世界に引き込まれるというか。たとえばもし民謡に馴染みがない人ならば、今回のアルバムみたいなアプローチのものを聴いて、面白いと思ったら本格的な民謡を聴いてみるとか、そういう入り口になってくれればなお嬉しいです。

−−たしかに民謡というと、ちょっと敷居が高いと思う人も多いですからね。

サトウユウ子:CDショップの売り場のポップス・コーナーにこういう作品が置いてあると嬉しいですね。

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シンプルな曲ほどいろいろアレンジできるので迷います

−−次の「じんじん」も面白い曲だし、アレンジもユニークですね。さっきも話に出ましたけど、とくにコーラスが面白い。

比屋定篤子:「じんじん」という言葉の響きも、声を重ねると虫の声みたいに広がるかなあと思って。

−−ちょっと実験的な感じもしますね。

比屋定篤子:比較的ゆったりとした曲が多かったので、これは勢いのあるアレンジにしようという話をしました。アルバムの中でもアクセントになる曲にしたかったんです。

サトウユウ子:この曲もいろんな人がアレンジしてて、ファンクみたいなのもあるんですよ。私もいろいろ試行錯誤した中で、最近よく聴いているティグラン・ハマシアンというアルメニアのピアニストにインスパイアされて、こんな感じになりました。だから「ティグランふりかけ」ですね(笑)

−−僕は現代音楽的な薫りを感じたんですが、それは「ティグランふりかけ」の仕業だったんですね(笑)

サトウユウ子:今回は曲によっていろんな「ふりかけ」を試しました。ライヴだと、さらにその部分が見えるかもしれないですね。

−−でも、この多重コーラスはレコーディング作品ならではの面白さですね。

比屋定篤子:たしかにコーラスは難しいですけど、今回のアルバムは基本的にピアノと歌だけだから、そのままライヴでも再現できますね。

サトウユウ子:デジタルの多重録音と違って、せーので演奏して録音するのは楽しいです。たとえば「はっぴいえんど」とかあの時代のバンド一発録音って好きなんです。独特の緊張感と脱力感があって。

−−たしかにピアノと歌だけだと、タイム感は2人の呼吸次第ですしね。

サトウユウ子:おかしかったのは、どこで歌が入ればいいかわかりづらい時があって、比屋定さんが目を見開いてこっちを見ていて(笑)、すぐ歌える準備をして待ってる顔があるんですよ。

比屋定篤子:あれは「月ぬ美しゃ」の時だったかな。入るタイミングがわからなくてね。ブレスしたら入れないから、息止めて待ってたりとか(笑)

−−たしかにそういう緊張感はやっぱりありますよね。でも、比屋定さんはこれまでも一発録音が多い方ですよね。

比屋定篤子:そうですね。ショーロクラブの笹子重治さんとのデュオなんかも多いから、慣れてはいるんです。あとは、レコーディング前にもサトウさんの家で練習していたので、そこまで緊張感ばかりではなかったですけどね。

−−次は古い民謡の「赤田首里殿内」ですね。

サトウユウ子:あれは「マイケル・ナイマンふりかけ」で(笑)。あの曲は最初から神様が歩いているイメージがありました。

比屋定篤子:中国からの影響で、日本でいうところの七福神のいわゆる布袋さんの歌です。

サトウユウ子:神様が祝福しているような余韻を感じてもらいたくて、エンディングを私なりに少しだけこだわりました。

−−ピアノがメランコリックで歌っている感じがしますし、幸せ感も出ていますね。この曲にもコーラスも入っています。

比屋定篤子:あれは試行錯誤しましたね。この世とあの世の境を表現したかったんですよ。

サトウユウ子:最初はこれでいいのかなって思ったりもしたし、スタジオでもスタッフがいろんなアイデアを出してくれました。

比屋定篤子:いろいろ試した上で、このコーラスに落ち付きました。後半から知らないところに連れて行かれるような感じになったのがよかったですね。

−−幻想的で不思議な雰囲気です。

サトウユウ子:神様の歌ですから、宗教音楽みたいに感じとってもらえるのも嬉しいですね。

−−次は、さっきも少し話が出ましたが「てぃんさぐぬ花」。誰もが知ってる曲だし、アレンジも苦労されたんですよね。

サトウユウ子:シンプルな曲ほどいろいろアレンジできるので迷います。ジャズ・バラードのように弾いてもいいし、単音で音を当てていくのもいいし、賛美歌のように厳かなアレンジもいい。私が最初に弾いて試したのは、教会の鐘の音みたいにコードというよりは単音で即興的に音を当てる感じでした。でも、これも話し合って、比屋定さんが歌いやすいところで落ち着いたアレンジになりました。彼女の求めるのは、よりシンプルな方向性でした。

−−ずいぶんストレートな印象があります。

比屋定篤子:そこに行き着くまで、いろんなアレンジを試してこうなりました。結局、あの曲はシンプルなアレンジがいちばんいいんですよ。何時間も試してみて、「やっぱりそうか」って最終的に落ち着きました。

−−この曲は比屋定さんは以前からも歌われているとのことでしたが、サトウさんとのデュオで違うところはどこですか。

比屋定篤子:オシャレな部分もあるし、すごくていねいに探ったりもするし、そんな彼女のセンスが出ていると思います。とにかく、出てくる音に信頼感があるんですよ。ダサいと思う瞬間がないから、一緒にやってて気持ちよかったですね。

−−比屋定さんはギターをバックに歌うイメージが強かったんですが、ピアノをバックというのはまた違うんですか。

比屋定篤子:アクセントの置き方とかは少し変わりますね。でも、サトウさんのピアノは笹子さんのギターと少し似ていて、コードの選び方などは共通しているかもしれない。出てくるアイデアも似た部分があるし、自分の趣味とも共通するからそこが心地いいですね。

−−じゃあ違和感もないわけですね。

比屋定篤子:そうですね。

サトウユウ子:ピアノという楽器は、あくまで私の印象ですが、「アルプスの少女ハイジ」のロッテンマイヤー先生みたいっていうか、なんか音がパキパキし過ぎてて、堅苦しく感じることがあるんです。ギターのように、いい意味でファジーな空気の揺らぎが表現しづらいというか。そこを何とかピアノでギターみたいなニュアンスをだせないものかと。これは私がソロでピアノを弾く時にもこだわっていることですが、コードの押さえ方をギターに倣って弾いてみるとか、ささやかな工夫をしたります。

−−なるほど、それは深い話ですね。

比屋定篤子:それは初めて聞きました。「ふりかけ」とかいってるくせに、深いんですね(笑)。今日発見しました。

−−続いては、これまた有名な「安里屋ゆんた」です。

サトウユウ子:この曲はゆんたらしく素直にアレンジしました。比屋定さんの声のグルーヴ感を活かして、これまた矢野顕子さんのように楽しく弾きたいなと。

−−とてもポップな雰囲気になってますね。

比屋定篤子:とても高い音から始まるので、軽やかなイメージになりました。

サトウユウ子:入りの部分はちょっとだけ工夫しましたが、あとはできるだけ素直に楽しく演奏しました。

−−ヴォーカルもダブルにしたりとか面白いですね。ちょっとした驚きがあって。

比屋定篤子

−−ピアノと歌というと静かに演奏するイメージですけど、こういうアレンジを聴くとまた変わりますね。「じんじん」もそうだけど、ピアノと歌だけでもこういうことができるんだなって思います。

比屋定篤子:私の中では「安里屋ゆんた」も「じんじん」と同じ役割です。躍動感を作って、再びアルバムの世界に戻っていくというイメージですね。レコーディングの最中に、このアレンジに固めていったんです。家で練習していたアレンジから変わっていったので、ああこんな感じにもなるんだって思いながら歌いました。

−−楽しい感じは出ていますね。

サトウユウ子:アルバム全体を通して、1曲目からここまでは、映画でいうと物語の本編なんですよ。「安里屋ゆんた」で大団円という感じで、この後の曲はエンドロールのイメージですね。これと違う曲順の提案もあったんだけど、「おお。映画の話の筋が変わってしまう」って(笑)。

比屋定篤子:でも、組み直した曲順で並べてみても、「やっぱり元の方がいいですね」ってことになりましたね。

−−今は飛ばし聴きするのも簡単な時代ですけど、やっぱりアルバムという形にするなら曲順は大事ですよね。

サトウユウ子:そうですね。あと曲自体も短いし、できれば全体通して聴いてもらえるといいなと。トータル35分で、一気に聴ける感覚のアルバムになったとは思います。

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いい音楽として聴いてもらえるために努力して作ったという感じですね

−−次が「娘ジントーヨー」ですが、また原曲とイメージが違いますね。とくに出だしのピアノの音は天才的なアレンジですよ。

比屋定篤子:そうそう、あの最初のダーンていう低音はね。

サトウユウ子:ありがとうございます。褒められると伸びるから(笑)。この曲は歌詞だけみると、とてもしみじみとしたいい歌詞なんだけど、私には曲調の明るさとの差異が気になりました。

比屋定篤子:でも、「娘ジントーヨー」って敢えて明るく歌う曲なんですよ。人を想っている歌なんだけど、「流す涙なら潮風で消えるよ」っていう歌詞も、しんみりせずに明るく歌っているんです。

サトウユウ子:今回は三線が入る訳ではないので、あえてその歌詞の言葉を前に出す感じにしたいなという気持ちがあって、バラードにして、こそっとメロディも2カ所ほど変えたんです。

比屋定篤子:実は、私は最初そのことがわからなくて。このアレンジで歌うとあのメロディの方が自然なんですよ。だから練習の時も気が付かなくて、サトウさんに言われて、あらためて家で聴いていた我如古より子さんのヴァージョンを聴いてみると、確かに違うんです。

−−それは不思議ですね。

比屋定篤子:そう、だからあの伴奏だと、ああいうメロディにしかならない。

サトウユウ子:メロディを平らにのばして、言葉をしっかり聴かせるようなバラードにしてみました。こんなアレンジの「娘ジントーヨー」は、たぶん他にないと思います。だから怒る人もいるかもしれない(笑)

比屋定篤子:「なんで変えてるんだ!」ってね。

−−いずれにしても、原曲を知っている人が聴くと、目からウロコが落ちるんじゃないかなと思います。

サトウユウ子:比屋定さんしか歌ってないから、面白がって聴いてくれるとありがたいです。どうか怒らないで下さい(笑)

−−次が「ちんぬくじゅうしい」ですが、こちらもシンプルでしっとりとした感じですね。

サトウユウ子:「ウーマクカマデー」と同じ人が作った曲なんですけど、これも島の日常を唄っているんです。このアレンジも「ジョニ・ミッチェルふりかけ」で、フォークっぽく仕上げてみました。

−−いちばん飾り気がない感じがします。

比屋定篤子:いちばん乾いているというか。リバーブも少ないですし。

サトウユウ子:歌詞の内容から、シンプルにポンッと聴いてもらう方向で。あまりこねくり回さないで、アメリカン・フォーク・ソングのイメージですね。

比屋定篤子:これも歌詞が映像的で、訳しても本当に面白かったです。

−−この曲はどういう意味なんですか。

比屋定篤子:「ちんぬくじゅうしい」というのは、沖縄の里芋の炊き込みご飯のことなんです。「おかあさん、薪が煙たいよ」っていう歌詞があって。子どもと大人が会話している様子とか、「おじいちゃんの白髪がとてもきれいだね、米寿の御祝いを盛大にしようね」とか。みんなで暮らしている情景を、ほのぼのと描いているんです。

サトウユウ子:北原白秋の歌詞とかに近いように思います。気持ちを押しつけないというか。日常を飾らない言葉で歌っているだけなんだけど、涙腺がゆるみます。

比屋定篤子:5番の歌詞が面白くて、「魂を落としたからお祈りしたよ」なんていう場面もあって、とても沖縄っぽいですね。

−−歌詞の世界をちゃんと知ると楽しいですね。

比屋定篤子:サトウさんも17、8年くらい沖縄にいるけど、それでもわからないことがいっぱいあって。だから「訳した方がいいよ」って提案されて、正直「面倒くさいなあ」と思ったんですよ(笑)。でも取り組んだら、とっても面白くなってしまって。訳すのは本当に大事だなと思いました。ひとつの言葉がわからないだけでも、意味がつながらなかったりするからね。

サトウユウ子:沖縄民謡が作られた年代っていうのが、唱歌をたくさん作曲した山田耕筰の時代とつながってるし興味深いです。また「じんじん」は蛍の歌なんだけど、「ほたるこい」の沖縄ヴァージョンですし。そういう琉球と日本文化の背景をふまえて、歌詞を伝えるのは大事だなと思いました。

比屋定篤子:歌詞の意味をわからないと、もったいないなって思うんですよ。

−−沖縄音楽を好きな人でも、そこまで踏み込んで聴いている人はあまりいないかもしれないですからね。

比屋定篤子:私自身もわからない言葉もたくさんあるくらいだから。

サトウユウ子:民謡は特にその時代の土地の生活が反映されているから、歌詞を深く知ると面白いですよ。八重山だと自然と共にある生活が唄われることが多いし、本島の民謡は故郷や人への想いが表現されている唄が比較的多かったりします。

−−最後は「島々美しゃ」で締めですね。

サトウユウ子:島の総括というという感じですかね。ほんとにきれいな曲です。

−−これは合いの手なども入るから、もしかしたらいちばん民謡っぽさが出ているのかもしれないです。

比屋定篤子:「サーユイヤサー」というやつですね。

サトウユウ子:これは映像に置き換えると、島を俯瞰した引きの目線で見ているので、エンディングにぴったりかなと。

比屋定篤子:この曲を最後にするというのは、選曲の時点から決めていて。1曲目の「いったーあんまーまーかいが」と最後は決まってましたね。キーも繊細に考えて、同じキーが並ぶと面白くないから、変化を感じとれるように。だから「てぃんさぐぬ花」もいつも歌っているよりも、2音キーを下げたんですよ。

サトウユウ子:これは全体を通して言えることですが、女性が民謡で唄うキーより随分低く設定してます。これを作るって決めたときに、誰に聴いてもらうのがいいかって考えたところ、お母さんが子どもを見ながら家事をするときのBGMになってて、鼻歌で口ずさめる感じにしたいなと。民謡ってキーがとても高いんですよ。私が歌うと悲鳴のようになってしまう。(笑)だから今回のアルバムではちょっと気楽に歌えるキーにしたいなと。

−−そこが、アルバム全体の落ち着いたトーンにつながっているんでしょうね。

サトウユウ子:そうかもしれません。

比屋定篤子:だから自分にとっても、結構低めのキーの曲も多くて。でも聴いている分には落ち着いて自然だと思いますね。

サトウユウ子:人の歌をカヴァーするときは無理なく歌える自分のキーに変更するじゃないですか。今回の歌い手さんは比屋定さんなので、その辺は融通がききました。

比屋定篤子:たしかに民謡はすでにキーが決まっているので、そこに歌う人の声を調整していくんですよ。たぶん、声の高さや張りのようなイメージが先にあるんでしょうね。

−−このアルバムは、民謡が専門じゃないミュージシャンが作った画期的な民謡アルバムだと思うんですよ。お二人にとって、本作の出来映えや達成感ってどんなものなんですか。

比屋定篤子:私は後半、沖縄の民謡を歌っているという意識が無くなっていました。最初に沖縄民謡のアルバムを作るっていう話の時は、けっこう構えたんですけど、やっているうちにピアノと歌でどういういい音楽ができるのかっていう気持ちになって、楽曲も素材としてとらえていました。いい歌だし、シンプルだし、その良さを二人でどう表現するかと。ピアノと歌という時点で、沖縄民謡をやるということから外れてますからね。沖縄っぽさを求められているわけでもないですし。

−−じゃあ、曲自体をどう良くするか、ということに集中したわけですね。

比屋定篤子:そうですね。かわいい歌詞がさらにかわいくするにはどうするかとか、きれいな神々の歌をどうすれば気持ちを込められるかとか、本当に純粋に歌の世界に専念していました。

−−どうしても、民謡を現代風になんていうと、企画モノっぽくなるじゃないですか。でもこれはそういった違和感はないし、ちゃんとメロディと言葉がすっと入ってくるし、その中でも実験的なこともやってる。根本にある歌の良さは変わってなくて、そこがいいなと思いました。

比屋定篤子:基準が、「私たち二人で出来る最高の音楽」というところだから、奇をてらわずにやれたというか。アレンジありきの企画ではなかったのも良かったですね。

サトウユウ子:日本ってよくジャンル分けをするじゃないですか。あなたは民謡の人、あなたはポップスの人って。でも、実際は自分が好きな音楽か、そうでない音楽かのどちらかしかないし、民謡でもヘビメタでもいいものはいいし、そうでないものは好きじゃないというだけ。だから、いい音楽として聴いてもらえるために努力して作ったという感じですね。例えば、ブラジルではいい歌があれば、どんなジャンルの人も歌ったり演奏したりするし世代など壁が無い。そこを目指したというのもありますね。

−−いずれにしても、比屋定さんにとっては、沖縄出身でありながら初の沖縄音楽アルバムになりましたよね。

比屋定篤子:とても楽しかったですよ。小学生の時は合唱団で歌っていたから、そういうことも思い出したりして。私の歌って、やっぱり合唱がベースにあるんですよね。

サトウユウ子:比屋定さんって小さい時から沖縄の民謡、童謡を唄っていたせいかはわかりませんが、発声の仕方とか、とても独特の声音を持っていて、歌い方がとても素直なので、聴いている人にストレートに言葉が届くように思います。そんな歌い手さんと今回のような作品を作る機会が持てて、ナイチャーの私としてはとても有意義でありがたかったです。

−−とりあえず一枚形にはなりましたが、このデュオはまだまだ続くんですよね。もし、もう一枚作りましょうという話になったら、どんなアルバムを作りたいですか。

サトウユウ子:ブラジルものもやってみたいですね。とにかく気に入ったいい曲を選んで。

比屋定篤子:あと、自分たちのオリジナルはやりたいですね。だから、今回と同じコンセプトだと思いますよ。いい曲を選んでその良さを出すというシンプルな内容で。

−−オリジナル自体はあるんですか。

比屋定篤子:まだ世に出してないけどありますね。

サトウユウ子:機が熟す時が来るだろうから、そうなったら発表すると思います。

−−では最後に、楽園おんがくと聞いて何を想像しますか。

サトウユウ子:楽園ってたぶんありのままが許されるところ。自分らしくいられるところというか。そういう意味で、私にとって沖縄は楽園に近いですよね。ありのままのその人が好きな音楽が楽園おんがく。

比屋定篤子:私は受験勉強の頃、小野リサさんが歌うボサノヴァをラジオで聴いて、東京でひとり暮らししてからも部屋でずっと聴いていたりして。どうしてブラジル音楽に惹かれるのかはわからないんですけど、本当にブラジル音楽が大好きで、あそこにしかない何かを感じるんですよね。寂しいような嬉しいようなあの不思議なコード感というか。だからブラジル音楽には楽園を感じますね。

サトウユウ子:ブラジル音楽にも感じる郷愁っていうのは、楽園のキーワードかもしれない。頭の中にはあるけど届かないというか。そこに橋を架けてつないでいるものが、楽園おんがくだと思います。

比屋定篤子×サトウユウ子「RYUKYU STANDARD」

RYUKYU STANDARD

2015/11/11 RELEASE
UBCA-1049 ¥ 2,750(税込)

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Disc01
  1. 01.いったーあんまーまーかいが
  2. 02.ウーマクカマデー
  3. 03.月ぬ美しゃ
  4. 04.じんじん
  5. 05.赤田首里殿内
  6. 06.てぃんさぐぬ花
  7. 07.安里屋ゆんた
  8. 08.娘ジントーヨー
  9. 09.ちんぬくじゅうしい
  10. 10.島々清しゃ

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