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楽園おんがく Vol.28:BEGIN~デビュー25周年を迎えた沖縄の至宝に迫る
旅と音楽をこよなく愛する、沖縄在住ライター 栗本 斉による連載企画。第28回は、今年デビュー25周年を迎え、オリジナルとしては3年ぶり19枚目となるアルバム『Sugar Cane Cable Network』を10月にリリースする沖縄の至宝、BEGINのこれまでの歩みを振り返る。
“イカ天”出演からメジャー・デビューへ
1989年9月のある日。人気オーディション番組の「三宅裕司のいかすバンド天国(通称:イカ天)」に沖縄出身の3人組が登場し、視聴者に大きなインパクトを与えた。BEGINが世に出た瞬間である。以来、四半世紀に渡って活動休止もメンバー・チェンジもすることなく、精力的に活動を続けてきた。そして今年はデビュー25周年を迎え、リリースやイベントの充実した1年を送っている。今回は、名実ともに沖縄を代表するアーティストとなったBEGINの歴史を紹介したい。
BEGINのメンバーは、比嘉栄昇(ヴォーカル・ギター)、島袋優(ギター・コーラス)、上地等(電子ピアノ・コーラス)の3人。いずれも石垣島出身の幼なじみではあるが、実際に結成したのは上京してから。当初はハードロックを演奏していたようだが、徐々にリズム&ブルースにシフトチェンジ。
先述の通り1989年に「イカ天」に出場して話題になり、翌1990年にテイチクからメジャー・デビューを果たす。最初のシングルは、「イカ天」初登場時に披露したバラード・ナンバーの「恋しくて」だった。直後に発表されたLA録音のファースト・アルバム『音楽旅団』も合わせてヒットを記録。セカンド・アルバム『GLIDER』(1991年)、サード・アルバム『どこかで夢が口笛を吹く夜』(1991年)とコンスタントにリリースを重ねていった。
ルーツ・ミュージックへ傾倒、日本屈指のライヴ・バンドに
1992年にはファンハウスに移籍。まさしくルーツを見つめた『THE ROOTS』(1992年)、ナッシュビルでレコーディングした『MY HOME TOWN』(1993年)、初のセルフ・プロデュース作品『USED』(1995年)といった力作を発表し続ける。その後、CMタイアップ曲の「声のおまもりください」というヒットもあったが、デビュー当時のように大きなセールスには結びつかなかった。しかし、ロック、ブルース、フォークなどアメリカン・ミュージックを彼ら流に解釈し、独自の視点で再構築した作品群は、高い評価を得ることとなる。
1997年には再びテイチクに移籍。デビュー作のタイトルをそのまま引用した『音楽旅団 ll』(1997年)、荒木一郎のカヴァー曲「空に星があるように」を収めた『Tokyo Ocean』(1998年)、バラードを集めたベスト・アルバム『BALLADS』(1999年)と着実に充実した作品を発表し続けた。また、ライヴも精力的に行い、日本屈指のライヴ・バンドへと成長していった。
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Text: 栗本 斉
沖縄らしさを打ち出した、デビュー10周年目の転機
大きく流れが変わったのは、デビューして10周年を迎えてから。これまではそれほど前面に出していなかった沖縄色を、一気に出し始めたのだ。森山良子と共作したシングル「涙そうそう」(2000年)、そしてこの曲や「イラヨイ月夜浜」などを収め、初めて全編を沖縄音楽で占めた企画作『ビギンの島唄 ~オモトタケオ~』(2000年)を発表し、それまでのアーシーなロックやブルースのイメージをガラリと変えた。また、このアルバムの第二弾『ビギンの島唄 ~オモトタケオ2~』(2002年)には、彼らの代表曲となる「島人ぬ宝」や「オジー自慢のオリオンビール」も収録されている。
この沖縄らしさを打ち出した作戦が功を奏したこともあり、BEGINは再びメディアに取り上げられることが増えてくる。その決定打となったのが、三線とギターを合体させるというコンセプトでオリジナルで開発した楽器の「一五一会」だ。楽器の発表と同時に、セルフ・カヴァー・アルバム『ビギンの一五一会』(2003年)を発表。話題性と相まって、久々の大ヒット作品となった。このアルバムはシリーズ化され、同年には洋邦のカヴァー・アルバムもリリースされている。
この頃からは、ルーツ・ミュージック的なテイストと沖縄色を両立させながら、力作アルバムを次々と発表している。10周年記念のオリジナル作品『BEGIN』(2000年)、FM沖縄のスタジオで録音された『Ocean Line』(2004年)、架空のコンサートという設定がユニークな『オキナワン フール オーケストラ』(2007年)、メンバー3人のソロ楽曲もバランスよく収めた『3LDK』(2009年)、様々なジャンルと沖縄への想いが合体した『トロピカルフーズ』(2012年)と、いずれもクオリティの高いポップ・アルバムに仕上っている。もちろん、“オモトタケオ”や“一五一会”のシリーズも定番となり、コンスタントにヒット作を生み出し続けていくのだ。
時代を超えて歌い継がれていく名曲の数々
BEGINの魅力は多数あるが、なんといっても彼らが歌う楽曲が時代を超えて残っていくことではないだろうか。とりわけ、沖縄音楽と彼らならではのルーツ・ミュージックを融合させた名曲群は、すでにスタンダードとなっている。「涙そうそう」、「島人ぬ宝」、「オジー自慢のオリオンビール」、「三線の花」、「イラヨイ月夜浜」などは彼らの代表曲としてだけでなく、多くのシンガーにカヴァーされ、楽曲自体が独り歩きしているといってもいいだろう。このことからも、世に広がる名曲を生み出す力を持ったグループだということがよくわかる。
それと同時に、彼らはやはりライヴ・バンドであるということ。定例のコンサート・ツアーに加え、「うたの日」というコンサート企画を2001年よりスタート。BEGINがメインだが、森山良子、忌野清志郎、さだまさし、MONGOL800、THE BOOM、Perfume、ORANGE RANGE、ケアリイ・レイシェル、ポルノグラフィティ、秦基博など数々のゲストを招き、沖縄有数のイベントに成長していった。これもひとえに、BEGINの音楽性や人柄があってのことだろう。
デビュー25周年を迎えた2015年、BEGINのこれから
デビュー25周年を迎えた2015年は、ますます彼らの周辺が騒がしくなってきている。まず、3月には故郷の石垣島でワンマン・ライヴを実施して話題を呼んだ。そして、6月にはアルバム『ビギンのマルシャ ショーラ』をリリース。この作品は、ここ近年交流が深まったブラジルの伝統音楽であるマルシャを取り入れ、セルフ・カヴァーや未発表曲を披露するというもの。これまでにない独特の雰囲気を持ったアルバムに仕上っている。
▲ 『Sugar Cane Cable Network』アルバム・トレイラー
そして、オリジナルとしては3年ぶり19枚目となるアルバム『Sugar Cane Cable Network』を10月にリリース。NHK「ラジオ深夜便」で使われた「ハンドル」、福島スパリゾートハワイアンズのショーの為に書き下した「アロハの花」、auのCMソングに抜擢された「海の声」などのタイアップ曲も多いが、それ以外にもブルースやハワイアン、ブラジル音楽、そして沖縄音楽と、様々ジャンルをごった煮しながらもBEGINらしさを前面に押し出している。3人それぞれがリード・ヴォーカルを取るなど、まさにこれまでの総決算的な傑作が誕生したといってもいいだろう。
25周年といえども、BEGINはここで立ち止まっているわけではない。彼らのスタンスは、長い時間がかかっても、とにかくいい歌を届けることだ。それがじわじわと実りながら、今この時がある。もちろん、これからもそのスタンスは変わることがないだろう。そして、この3人は「恋しくて」や「涙そうそう」、「島人ぬ宝」に続く名曲を、次々と我々に届けてくれるに違いない。
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Text: 栗本 斉
Sugar Cane Cable Network
2015/10/28 RELEASE
TECI-1468 ¥ 2,852(税込)
Disc01
- 01.Blessing Rain
- 02.アサイーボウル
- 03.海の声
- 04.憧れのアンダー
- 05.アロハの花
- 06.僕だけの愛で出来たうた
- 07.黄昏のリベルダージ
- 08.俺は嫌って言う
- 09.Rogan’ Roll
- 10.サーファーに傘は要らないのさ
- 11.ハンドル
- 12.朝焼けの情景
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