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秦 基博 インタビュー
映画『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌「ひまわりの約束」は、リリースして1年以上たってもなお、多くの人に聴かれ続けている。パッケージやダウンロード以外に、ストリーミングやYouTubeなど音楽の聴き方が多岐にわたる今、ヒットとはなにか、そして曲を作る時に意識していることについて、話を聞いた。
サービスの良し悪しより、どんな風に楽曲に興味を持ってもらえたかが大事
−−秦さんは、日頃音楽チャートってご覧になりますか?
秦 基博:常に見ているわけではないですね。自分が作品を出した時に、見る程度です。
−−では、新たに聴く音楽はどうやって探しますか?
秦 基博:自分の好きなアーティストの新譜が出たら買いますし、「これを聴いている人は、こういう作品も聴いています」というレコメンドを見て、試聴して気に入ったら買うこともあります。神奈川に住んでいた時は、TVKの『Billboard TOP 40』 を見ていました。あとは、人に薦められて買ったり。信頼している人に薦められた時は、試聴もせずに買うこともあります。
−−普段、音楽はCDを買うかダウンロードするかどちらですか?
秦 基博:どちらもありますし、その作品との出会いの形によります。インターネットで知った場合は、そのままダウンロードしますし、知り合いからパッケージを見せてもらって知った場合は、パッケージで買いますし、特に、こだわりはありません。ただ、作り手としては圧縮されている音源かどうかによって、感動の度合いは違うのかなということは考えます。ハイレゾであれば全て感動的になるというわけではないと思いますが、それぞれ相応しい形と、それに合わせたミックスの施し方があるんだろうなと。なので、自分が音楽を聴く時も、どのフォーマットで聴くのが最も良いのかということを、最近は より強く意識するようになってきています。
−−なるほど。
秦 基博:それだけ、ダウンロードもパッケージも同じくらい浸透してきたということだと思いますけどね。
−−今年はAWAやLINEミュージックなどのサブスクリプション型音楽配信サービスが数多く生まれました。ストリーミングで音楽を聴くということに抵抗はありますか?
秦 基博:全くありません。「音楽を聴く」ということは同じでも、用途が違うと思っています。ダウンロードやストリーミングによって、音楽を持ち運べるという便利さは、すごく実感しています。実際、僕もツアー中の移動で好きな音楽を聴いていると、気分がすごく良くなりますし。音楽のアンサンブルや、その人の歌声の持つ倍音などを細かく感じたい人は、アナログで聴けば良いと思いますし。なので、サービス自体の良し悪しというより、どんな風に楽曲に興味を持ってくださって、どういう風に聴いてくださっているのかということの方が気になるし、大事なことだと思っています。
−−YouTubeなどの無料で音楽が聴けるサービスについては、いかがですか?
秦 基博:自分の作品を手にしていただくためのプロモーションツールとしては、YouTubeによって、きっかけも、プロモーションできる範囲も広がったと思っています。
−−私達は、シングルセールス、ダウンロード、ラジオ、ルックアップ、twitter、YouTube、ストリーミングという7つのデータを使ってBillboard JAPAN HOT 100という複合チャートを制作しています。秦さんが昨年リリースされた「ひまわりの約束」は、今もなおチャートインし続けていて、今週で60回目です。ここまでヒットすると思ってらっしゃいましたか?
秦 基博:いやいや、そんな風には思ってなかったですけど、やっぱり、「ドラえもん」という作品との出会いは非常に大きかったと思います。国民的な作品ですし、ファンの間口も広いですし。
−−ドラえもんを知らない日本人は、いませんもんね。
秦 基博:大人も子供も世代を超えて、楽曲と出会っていただく機会が多いですからね。そこは一つの大きな要因だと思っています。
−−作る時も、そういったリスナーの幅広さを意識しましたか?
秦 基博:そうですね。全員に全てを理解してもらえなくても、小さなお子さんでもイメージできるよう、なるべく子供でも知っている言葉を使って作ろうと思いました。「ひまわり」をモチーフにしたのも、そういった理由からです。小さいお子さんの場合は、夏に咲くひまわりの明るい黄色を想像してもらえるだけでも良いかなって。一方で大人が聴けば、もっと細かい心理描写やシチュエーションまで、たどり着いてもらえればいいなと思いました。普段は自分の主観をもとに曲を作るので、どんな人が聴くかということはそこまで意識しません。でも『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌は、あらゆる人が対象であるということを強く意識しました。
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その人の中に、どこまで深く その曲があるのか
−−「ひまわりの約束」がヒットしたなと実感されたのは、いつですか?
秦 基博:卒業式や、文化祭、体育祭で歌ってくれていることを知った時です。歌ってもらえるということは、自分の曲が、みんなの曲になっているということですし、今まではそういう反応は感じたことはなかったので。逆に「秦 基博の歌はカラオケで歌いにくい」って言われることの方が多かったですから(笑)。 今回、「ひまわりの約束」を特に簡単に作ったつもりはないんですが、そうやって歌ってくれるようになるまで、みんなが聴いてくれて近くに感じてくれたんだな。そんなに浸透したんだなというのは実感しました。
−−自分も一緒に歌いたい、口ずさみたいと思うというのは、繰り返し聴きたいと思う以上の熱量の高さですもんね。
秦 基博:そうですね。ヒットするということは作り手から、どこまで離れて広がっていくかだと思います。作った当初は「こんな風に聴いてほしいな」っていう自分の世界があるわけじゃないですか。でも、人それぞれ色んな解釈があって、心が震えるポイントやシチュエーションも、それぞれで。その人の中に、どこまで深く、その曲があるのかということがヒットにつながっているんじゃないかと思います。
−−秦さんは、ヒットを意識して曲を作ることはありますか?
秦 基博:大多数に向けてのヒットというより、どうすれば自分の歌がその人の歌になるかということは考えます。それぞれ色んな人生を歩む人たちに対して、自分が見えている景色や気になった物事を伝えた結果、どこまでイメージしてもらえて、自分の何かに当てはめてもらえるのかということを考えて作っています。それらを考えていくと、言葉の選び方やメロディの作り方、アレンジの仕方など何を大事にするべきかに繋がってきます。例えば、「夕陽が綺麗で・・・」ということを伝える時に、どういう風に表現すれば自分が見た時の感動を共有できるかって色んな方法があると思うんですよ。色を伝えるのか、季節なのか、もしくは心象風景なのか。
−−色んなアプローチの仕方がありますね。
秦 基博:自分のリアリティを、どれだけ人に届けられるか。それは、みんなが知っている言葉で書けば良いというだけではないと思います。伝えるために表現というものがあると思うので、どうやったら、その人の歌になるのかということを考えています。
−−9月にリリースされた「Q&A」ですが、「ひまわりの約束」、「水彩の月」とシングル3作連続映画主題歌です。映画用に曲を書きおろす時と、ご自身のオリジナルを作られる時では、どちらの方が書きやすいですか?
秦 基博:どちらも同じですね。例えば「Q&A」は『天空の蜂』という映画の主題歌ですが、作品を見て自分とリンクする部分があるのかどうかということから、作り始めていくので。
−−なるほど。映画が伝えたいことを、歌にするわけではないんですね。
秦 基博:映画のストーリーは、すでに2時間もかけて丁寧にスクリーンで伝えていますから。主題歌を作る時は、できあがった映画を見て自分が何を感じて何を言えるかということをぶつけてみた時に生じるズレを表現するようにしています。重なっているんだけど、また違うものが存在するというか。
主題歌が流れるエンドロールの時は、観た人の数だけ余韻があると思います。なので映画館を出るところまで、もしかしたら出た後も映画の余韻を持ち帰ってもらえるような、そんな後押しができるような曲になればいいなと思っています。
▲ 「Q&A」(映画『天空の蜂』主題歌)-Short Ver.- MV
−−「Q&A」については、具体的にどんなことをイメージして作られましたか。
秦 基博:人間として抱えている根源的な矛盾や、それらの表裏一体なところ、揺れ動く様みたいなものを描こうと思いました。この曲はサビの最後が「迷うことなく 君は 手を差し出せるか?」という問いかけで終わっています。普段、作る時は自分なりの答えで締めくくることが多いんですが、今回は、人はどうして傷つけ合おうとするのかとか、求める答えがあるのにその通りにならない時に何をするのかということを描いたので、問いかけで終わろうと決めました。そして分かっているのにできないことに対する問いかけというのをタイトルに反映させて、「Q&A」と付けました。
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一番嬉しいのは、その人の毎日に自分の音楽が鳴っていることを知った時
−−普段、作曲される時はどんなシチュエーションで書かれるんですか?
秦 基博:歌詞と曲では、曲を先に作ります。「こういう曲調のサウンドを作りたいな」と思って書き始めたり、「こういう雰囲気のメロディだから、こんなテーマにしよう」と思って言葉を乗せていったりします。
−−ファンの方からのメッセージの中で、印象的なひと言ってありますか?
秦 基博:一番嬉しいのは、その人の毎日に自分の音楽が鳴っていることを知った時ですね。ファンの方が本当に大切に聴いてくれているんだなっていうことが分かると嬉しいです。あとは、ツアーで訪れた街のホールがいっぱいになっているのを見ると、「ここの街で暮らしてるみんなが自分の音楽を聴きにここに集まってくれているんだな。」って感じます。そういう時が「作って良かったな」って思う瞬間ですね。
−−普段、自分が行かない街なのに、大勢の方が集まってくださるのを目の当たりにするって、不思議な気分ですよね。
秦 基博:そうなんですよね。「こんなところにお城があるんだ」とか「ショッピングモールもあるんだな」とか、そういうのを感じながら会場へ行ってライブをすると、「この街にも届いてたんだな」って実感します。
−−秦さんが、ご自身の作品を通じて伝えたいことは何ですか?
秦 基博:聴いてくださった方の中で、その曲が意味を持ってくれたらいいなって思います。それは1フレーズだけでも良いと思います。なので、僕が今思っていることを伝えるということよりも、自分が作った曲をきっかけに何を想起させられるか、何をみんなに残せるかだと思います。そして、一度世の中に出したら、あとは聴く人の自由だと思うので、その人の毎日の中で自分の音楽が鳴っていてくれたら嬉しいなと思います。
−−秦さんにとって、そんな作品ってありますか?
秦 基博:僕が、今 言っているようなことを考え始めたきっかけはキャロル・キングの「タペストリー」を、駅のホームでぼーっと聴きながら電車を待っていた時です。いつもの駅なのに、「今日は、やけに良いな」って思ったんですよ。キャロル・キングの声と、ホームから見える河川敷と、夕焼けがぴったり合ったというか。音楽って良いなって思いました。普段の景色もこうやって変わるんだな、その瞬間を特別にしてくれる力があるんだなって。
−−それはいつ頃の話ですか?
秦 基博:プロになる前のことだったと思います。これって、もう自分の歌になってるじゃないですか。こんな風に、自分の曲も聴いてもらえたら最高ですよね。それが、音楽が持っている素晴らしい一部分だなと思いますし。みんなと一緒に盛り上がったり、一緒にライブに行ったり、音楽には様々な楽しみ方がありますが、景色を変えてくれる、ある種どこかへ連れていってくれる力もあるんだなって。自分の曲も、そういう作品であると良いなと思っています。
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ひまわりの約束 -Deluxe Edition-
2014/12/24 RELEASE
AUCL-173/4 ¥ 2,037(税込)
Disc01
- 01.ひまわりの約束
- 02.海辺のスケッチ
- 03.グッバイ・アイザック (Acoustic Session with 島田昌典)
- 04.ひまわりの約束 (backing track)
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