Billboard JAPAN


Special

GREAT3 Billboard Live スペシャルインタビュー

 2014年にリリースしたアルバム『愛の関係』も記憶に新しいGREAT3が、いよいよ来週、バンド初のビルボードライブ公演を行う。10月14日に東京、そして16日に大阪で行なわれる同公演では、今年デビュー20周年を迎えた彼らが、これまであまりライブでは披露したことがないという過去作の楽曲を含む、スペシャルなセットリストを披露する予定だ。

 今回、Billboard Japanでは、同公演に向けて、バンドメンバーに改めてそのキャリアを振り返ってもらうインタビューを行った。その結果、公演への意気込みはもちろん、Great3というバンドがそれぞれの時代とどのように向き合っていたのか、そして、その音楽面での進化を振り返る貴重な会話となった。公演も予習も兼ねてぜひご覧頂きたい。

ライブで一回もやったことの無い曲も織り交ぜて演奏しようと思ってます

――今回はデビューからちょうど20周年というタイミングでのライブになりますね。

片寄明人:そうですね。でも、20年と言っても、間に8年ぐらい休止しているというのもあって、アニバーサリー的なことは全然考えていませんでした。とは言え、今回ビルボードライブで1マンが出来るということで、ライブでしばらくやってなかった曲や、当時からライブで一回もやったことの無い曲も織り交ぜて演奏しようと思ってます。

――当時ライブでやっていなかったというのはなぜですか?

白根賢一:単純に表現が難しかったっていうのもあるよね。

片寄:やっぱり当時は、ライブはアグレッシブな曲に偏りがちだったんです。でも、今だからこそライブでも表現できる曲がある気がしています。

――作品でいうと、どの辺りのアルバムですか?


▲GREAT3『May and
December』(4th)

片寄:中期と言っても良いのかな? 4~7枚目くらいのアルバムは、当時シカゴでレコーディングした曲が多いのもあって、特にそういう曲が多いのかなと思います。

――レコーディング・アートというか、特にスタジオでのレコーディングにこだわっていた時期の作品ですね。

片寄:そうですね。でも、初期のものにもライブでやってなかった曲は結構ありますね。

白根:いま頃になって「良い曲だね」とか言い出して(笑)。

片寄:いや、もちろん当時から良いと思っていたんだけど、単純に今回思い出したんですよね(笑)。

jan:僕は2000年代の時代感とか音風景とかは、まだ中学生とかだったから分からないけど、いま聴いてもすごい「新しい音楽だな」って感じる。すごい“ナウい”音を改めて出す感じです。

片寄:たしかにGREAT3がシカゴに行っていた頃の音は、いま聴くと時代感があるようで無いというか。すごく不思議な音楽に行っていたから、むしろ、今の方が分かり易く響くんじゃないかなと思います。

――たしかに。当時はロックの最先端の音楽ですよね。

片寄:最先端だったかどうかは分からないですけど、でも、あんまり受け入れられなかった記憶はありますね。みんな戸惑っていたというか。逆に今の方が戸惑いが無い。特にjanの世代なんかは普通に受け入れてくれるんじゃないかなと思います。

――そもそも当時、シカゴ音響派やポストロックと呼ばれるような音楽家たちに接近していたのには、どういう理由があったんですか?


▲Tortoise『Millions Now
Living Will Never Die』

片寄:僕らは、ただトータスの連中とか、特にジョン・マッケンタイアと音楽の趣味があったというだけで、ポストロックのバンドではなかったと思っています。むしろ彼らの方が、僕らのやっていたようなメロディアスな歌モノをやりたがっていたんじゃないかな。

――なるほど。

片寄:彼らは元々ポップスも好きで、バンドとしてはインストでポストロックのフィールドでやっていたけど、そうじゃないものをやりたいっていう気持ちがあった。一方で、僕たちも、ただのポップスじゃない新しいものがやりたいと思っていて、そこでお互いの思惑が一致したというか。だから、別にポストロックになろうと思ってシカゴに行ったわけじゃ到底なかったし、ジョンもトータスで出来ることとは違うことをやろうとしていた。お互いが自分たちだけじゃ出来ないことをそれぞれやろうとしていたんです。

休止前より今の方が気持ち的にはやり易い

――「ただのポップスじゃない」音楽をやるという意識は、デビュー当時からあったんですか?

片寄:90年代に「良質なポップス」っていう言葉があったんですけど、そういうのに括られるのが僕はすごく嫌だったんです。自分はもっとロックとか、若いころはパンクやニューウェーブも好きだったので。

 でも、やっぱりメロディアスなものも好きで。そういう色んなものが入り組んでこういう形に行き着いたというのがあって、全ての感情が一曲の中に内包された音楽が作りたいと思っていました。それは最終的には折衷的な形に行き着くんですけど、音楽的な折衷が前提にあったわけではなくて、感情的な折衷という側面が自分にとっては強かったんです。他のメンバーはどうだったのか分からないですけど。

白根:今でも変わってないんですけど、普段聴いているものとか、憧れているものがある一方で、自分自身とかメンバーの組み合せっていう制限があって。当時は無いものねだりで、これも欲しい、あれも欲しいって感じだったんですけど、最終的にできることは限られていて、メンバー3人に、せいぜい入れてもギターやキーボードだけで、そこに彼(片寄)が歌詞を書く。でも、当時は制限に感じていたそういうことが、いま振り返るとこのバンドのオリジナリティだったんだなと思います。

 だから、よく言うんですけど、未だに自分の中では、GREAT3という一つの人格だと感じていて。それはjanが入ってからも同じで、再始動後もそういう化学反応みたいなものを強力に感じることができたのは大きかったですね。

片寄:活動休止前も「ひと言では語りづらいバンド」って言われることがすごく多かったんですけど、今となってはその感覚の方が普通になったなと思います。「ひと言で語りづらいバンド」ってjanの世代にも沢山いると思うし。だから休止前より今の方が気持ち的にはやり易い。みんなが理解してくれる気がするし、そもそも若い子はジャンルなんかで聴いてないとも思うしね。

jan:今はネット上にあまりに多くの情報量があって、そこから得られる快楽にみんな慣れているから、逆に今は語りづらければ語りづらいほどみんな嬉しいんじゃないかなと思います。

片寄:当時、「情報量が多すぎ」みたいに書かれたのを思い出したよ(笑)。昔の曲をやっても時代感がなくて、むしろ普通に受け入れられそうな気がするのは、そこに理由があるのかも知れないですね。

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メロディの一点で社会と結びついて来た

――一方で、現代のポップスって、すごくマーケティング的に、ガチッとキャッチーに作り込まれたものが、アメリカのポップ・マーケットを中心に一つの主流を作っていると思います。今の話はそれとは全く逆のベクトルの話だと思うのですが、それぞれが両極化している印象とかってお持ちだったりしますか?

片寄:そうですね。自分でもプロデュースをするときは戦略的に考えて制作することもあります。でもGREAT3に関しては、それは到底向かないプロジェクトだと思いますね。

白根:もっと戦略的にやってよ(笑)。

片寄:(笑)。やっぱり自分のことは一番難しいっていうわけじゃないけど、さっきも言ったように、別人格というか、予測やコントロールが出来ないんですよね。

白根:うちはメンバーそれぞれが曲を書くんですけど、それを持って行っても…

片寄:後の2人がそれを全く違う形にしてしまうのが常なので。でも、それが面白さだとも思います。それはさっき言ったマーケティングされた音楽とは正反対のものでしょうね。ただ、うちのバンドが面白いところは、メロディがメロディアスだったり、センチメンタルだったりして、その一点で社会と結びついて来たところかなと思います。そうじゃなかったら、とっくにもっとハードコアな音楽性になって終わっていたんじゃないかな(笑)。

白根:そんなことはないと思うけど(笑)。

作詞は「元々あるものを彫刻のように掘り出す作業」

白根:あと、再結成当初、僕がよく言っていたんだけど、詞の強さっていうかね。音質よりも歌詞が色褪せなかった部分があって。だから今回は割とアレンジを変えずに、原曲に忠実に演奏したいなと思っているんですよね。

片寄:たしかに、今回はCDに近いアレンジの曲もありますね。別に止めちゃうとか考えているわけじゃないですけど、本当にコントロール出来ないし、再活動自体、いつの間にか始まった感じなので、今回のビルボードも含めて、好きな人には観れる時に観ておいて欲しいです。

――何か大きなマスタープランに従っているわけでは無いということですね。

片寄:うん、無いので。またしばらくライブをやらないかも知れないし、逆にまた直ぐビルボードでやることもあるかも知れないけど(笑)。

――ビルボードライブでは以前トータスも演奏しているのですが、座り席で、音響的には良い方のライブハウスだと思っています。

片寄:ビルボードで観るのは好きですよ、個人的には。

白根:僕もしょっちゅう行ってます。

片寄:食事が出来て座れるライブハウスって都内にいくつもあるけど、観に行くのはビルボードが一番好きですね。だから出られることが決まった時は嬉しかったです。

――ありがとうございます。話が戻るのですが、先ほど出た「詞の強さ」ということについて、片寄さんはどのようにお考えですか?

片寄:そうですね。(過去の曲でも)「これはもう歌えないな」って感じるものが無いんですよね。だから、時代とか年齢とかで歌詞を書いてきたのではなかったんだなっていう気が改めてします。もちろん曲によっては、「ここは詰め切れないまま完成させた部分だな」って自分で気づく部分もあったりしますけど、そういう部分が意外と人によっては好きなポイントだったりして。そこはもう世に出した時点で、自分のものでありみんなのものだと思っているので、こだわりはないんです。

――歌詞の書き方は変わりしましたか?

片寄:基本的には変わってないですね。

白根:でも、GREAT3で書く詞と他で書く詞は違うよね。

片寄:そうだね。僕は人に歌詞を書く時も、Chocolat & Akitoで書くときもあるんですけど、意識してなくてもやっぱり違うものになるんですよね。

――GREAT3らしい詞にしているものが何かあるんですね。

片寄:なんでしょうね。でも、やっぱり曲が先なのでそこから導き出されているものはあると思います。

――なるほど。さっき仰っていたように、音楽で複雑な感情を描きたいという前提があって、そこから生まれたサウンドに歌詞が乗るっていうプロセスが肝と言うか。

片寄:そうですね。言葉も自分で考えて書いているというよりは、曲の中に元々あるものを彫刻のように掘り出す作業に近いというか。主だったテーマについてはそんな感じで、細かいところは色々考えてますけど。

――特に、再活動前のGREAT3は現行系の欧米のロックと同時代的にシンクロしながら来ているバンドだったという気がするんですけど、そうすると日本語の歌詞をつける時点でサンプルになるバンドってほどんど居ないのではないかと思うのですが。

片寄:いないですね。響きに関して、GREAT3では英語詞自体はほとんどやらないんですけど、英語詞に近い、母音と子音の関係がサウンドとくっついた状態で頭の中にあるんだと思います。それに近くて違和感のない、だけど意味のある日本語を探すっていうのは昔から変わらないかな思いますね。

――山下達郎さんとかもそれに近い歌詞の書き方をしていると聞いたことがあります。

片寄:そうなんですね。たしかに達郎さんの曲もカラオケとかで歌うと(響きの)違和感が無いかなと思いますね。日本語なんだけど、歌った時の感じが洋楽っぽく聴こえるというか。

jan:でも、それがスムース過ぎると色気がなくなっちゃうんですよね。そこに微かなエグみのようなものが登場してくると色っぽいというか。

白根:さっき「意味のあるもの」って彼(片寄)が言ったけど、結局どっかの時点でかっこ良く体裁だけ整えるやり方を捨てたんだよね、GREAT3は。

片寄:そうですね。耳ざわりの良い言葉で埋めていくっていうのは、今は絶対やらないことの一つかな。当時も意識的にやったことは無いけど、所々、そういうことでお茶を濁した部分は多少あったかな。再始動後、8年ぶりに歌いたいと思った曲はそうじゃ無いものがほとんどだったから、やっぱそういうものが後に残るんだなと思いましたね。
 とは言え、我ながらGREAT3に関しては振り返ると駄曲のないバンドだなという意識はありますね。もちろん、今後もっとそのレベルを上げて行きたいっていう気持ちも有りますけど。

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享楽的でみんなと繋がりたいって気持ちはあるんだけど、
とことん個人的

――ちなみに8年間の活動休止はどういうきっかけがあったんですか?

白根「休もう」って言ったわけじゃなくて、なんとなく自然にフェードアウトしたんですよね。

片寄:そうなんですよね。ちょっと休んでまた新曲でも出来たらライブやろうやって言っていたんですけど。

白根:そしたら、みんな腰が重くて。それぞれの活動とかもあって、誰も欲してなかったのかも知れない。さっきも言ったようにGREAT3って僕らのコントロールが及ばない部分があるので。

――GREAT3って、これまでにも初期のギター・ロック的なサウンドからスタートした時期と、中期のポストロックに接近していた時期があって。でも、再始動後のサウンドはそのどちらとも違っていて、全く別バンドのような印象もあります。

白根:サウンドで捉えたら作品ごとに全然違うのかも知れないし、同じアルバムでも曲によって全然違うんだけど、作品が完成した時の感じとかは、自分の中では変わっている感じがしないんですよね。

片寄:僕もしないですね。(作り方に関しては)シンプルに言うと、その時々に出来るベストを尽くして、カッコいいと思ってる音をやっているだけなんです。(Janに)この間の2枚に関してはどう?

jan:うーん、でも最初に話していたものと、完成したものが全然違うから(笑)。

――最初に話していたのはどんなものだったんですか?

白根:最初はね、ウチにきてみんなであーでもないこーでもないって、サウンド志向で話をして。だけど最終的に一通りやってみて、最後に歌詞と歌声が乗ると、どんな曲でも“GREAT3の音楽”になるんだよね。

jan:でも、曲作りの時は一応それぞれメロウな曲を書いて持って来いっていうテーマがあったじゃないですか? で、実際にみんなそういう曲を作って来ましたよね。でもセッションになったらいきなりサイケみたいになっちゃって(笑)。

片寄:結局サイケなのかな(笑)。 でも、サイケ・ロックが好きでよく聴くかっていったら全然そうじゃないんですけど。

――そうなんですね。

jan:でも、片寄さんの歌詞ってサイケですよね。

白根:サイケだね(笑)。

片寄:曲調でも時々演奏中にハッ!とするくらいサイケデリックだなって時はあるけどね。

白根:急に転調して場面が変わる感じね(笑)。

jan:だから特定のサウンドとかメロディでサイケを定義するっていうより、一つの曲の中にあるトリップ感というか、何回トリップできるか、みたいな部分でサイケっていう気がします。

片寄:一緒にやったミュージシャンからもサイケって言われることは多いよ(笑)。

――「よく分からないけど、プログレではない」っていう感じかも知れないですね。

片寄白根:プログレではない!

白根:そうだね、それは分かりやすい。

――あと、サイケ・ロックって60年代以降、ある種の“可能性”みたいなものの象徴として、今でも捉えられていると思うんです。そのこととGREAT3の音楽の持つ拡張性というか、常に新しい表現を模索して、一曲の中でだったり、曲毎だったりで、サウンドが移り変わっていくような部分に、何らかの共通点があるのかも知れないですね。

白根:そういうことでいうと、例えば僕とJanなんかはテクノとかダンス・ミュージックが好きなんですけど、90年代以降、例えばドアーズとテクノを並行して聴けるような状況が出来たことで、GREAT3というバンドがずっと内包していたものなのかも知れないと思います。いま聴くと、初期からサイケの影響がある一方で、ダンス音楽からも影響を受けているような部分はあるもんな。


▲ARTHUR RUSSELL
『WORLD OF ECHO』

片寄:振り返ると、クラブ・ミュージックのなかでも、アーサー・ラッセルの音楽とかは、影響を受けたり模倣したことはこれっぽっちもないんですけど、すごい気持ちが分かるんですよ。サイケだけどダンス・ミュージックとか、なんでこの人がこういう音楽を作ろうと思ったのか、すごく理解できる。享楽的でみんなと繋がりたいって気持ちはあるんだけど、とことん個人的というか。

白根:それは良い表現だね。

片寄:やっぱりそういう精神から生まれた音楽が好きなんだろうと思います。GREAT3のライブもそういう感じだと思うんですよ。みんな楽しみに来てくれるとは思うんだけど、振付があるわけでもないし。みんなバラバラに来て、楽しんで、またバラバラに帰っていくっていう。あとは部屋で一人で踊りながら聴いているとか。さっき話したトータスのメンバーと通じあったのはそういう所かも知れない。ビルボードでライブできるのも楽しみですね。

GREAT3「愛の関係」

愛の関係

2014/03/19 RELEASE
TYCT-60027 ¥ 3,300(税込)

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Disc01
  1. 01.丸い花
  2. 02.愛の関係
  3. 03.穴と月
  4. 04.Don’t Stop
  5. 05.5.4.3.2.1
  6. 06.ポカホンタス
  7. 07.マグダラ
  8. 08.モナリザ
  9. 09.タランチュラ
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