Billboard JAPAN


Special

レオ・セイヤー来日記念特集 ~34年ぶりの来日公演を行うポップ・シンガーの魅力に迫る

 いよいよ今月、34年ぶりの来日公演を行うUK出身のシンガーソングライター、レオ・セイヤー。今回はそんな彼の魅力に、そのデビュー当時より彼の歌声に魅了され続けてきたという中田利樹の文章で迫る。中田が久々の来日となったレオをそれでも「“懐かしい”という感覚は湧いてこない」という理由とは? また、来日に備えて私達が楽しみにすべきレオの曲は? そんな疑問に颯爽と応えるような特集を、ぜひ楽しんで読んで欲しい。

時代に左右されない生涯一ポップ・シンガー

 レオ・セイヤー、待望の公演が決定した。もちろん、Billboard Live初登場。と言うか、31年ぶりの来日公演になるのだからこれはファンにとって喜び以外のなにものでもない。待って良かった!と。レオは1970年代中盤から80年代初頭にかけて数々のヒット曲、名曲を生み出した英国のシンガーだが、今その名前を耳にしても決して“懐かしい”という感覚は湧いてこないところがポイントだ。それは、彼が常に時代に左右されない不変のアーティスト、そして、瑞々しさを失わない生涯一ポップ・シンガーだからであり、実際、最近もイギリスやオーストラリア他でツアーを行っている話を耳にしていた。それなので、ノスタルジックな印象よりも、むしろ、日本にはいつ来てくれるのだろう? まだかな、まだかな、そんな思いばかりが大きく募るここ数年だった。


めくるめくポップ・クラシックスから知るカラフルなシンガーとしての魅力

You Make Me Feel Like Dancing


▲「You Make Me Feel Like Dancing」(LIVE)

 レオはとてもカラフルな魅力を持つシンガーだ。70年代の彼は視覚的にもかなりカラフルだったと思うが、それよりなにより、楽曲によって全く異なった表情を見せる声のトーン、そのコントロール、そこが最大の武器だと思っている。初めて彼の声に耳を奪われたのは僕がまだ中学3年生だった1976年、ラジオから流れてきた「恋の魔法使い:You Make Me Feel Like Dancing」だった。とても印象的なファルセットは、同じ年、これまたシャープなファルセットで衝撃を与えてくれたビー・ジーズ「You Should Be Dancing」と共に15歳の少年のハートをとてもワクワクさせたのだが、レオ・セイヤーは世の中がディスコ一色に染まる1977~78年も決してそのムーヴメントにすがるのではなく自分らしさ100%のポップスを展開。次々とヒットを生み出した。

When I Need You


▲「When I Need You」

 特にこの時期の彼の曲はいわゆるポップ・クラシックス化したものが多く、例えば、1977年の全米No.1ヒット「はるかなる想い:When I Need You」は作者であるアルバート・ハモンドのヴァージョンもよく知られているが、それ以外にもロッド・スチュワート、バリー・マニロウ、ジョー・サンプル&ランディ・クロフォード…ほか多数のビッグ・アーティストがレコーディング。今なお、哀愁漂う秋にピッタリの色香を放っている。

More Than I Can Say


▲「More Than I Can Say」

 それから、1980年に全米2位まで上がった「星影のバラード:More Than I Can Say」、これは元々ボビー・ヴィーが1961年に中ヒットさせた(最高61位)ナンバーのリメイクだが、プロデュースを手掛けたアラン・ターニーのセンスの良さもあり、オリジナルとはひと味違う、実にフレッシュな仕上がりになっている。「恋の魔法使い」でのヴォーカルはちょっぴり奇をてらった感じもあるが、この「星影のバラード」はど真ん中のポップスで、こういった曲におけるピュアな歌声がなんとも心地良い。

Raining In My Heart


▲「Raining In My Heart」(LIVE)

 この路線では1978年のスマッシュ・ヒット「レイニング・イン・マイ・ハート:Raining In My Heart」が特に素晴らしく、今回のライヴでも特に聴きたい1つなっている。因みに、この曲はバディ・ホリーの1959年の小ヒットのカヴァーだが、レオが10代でバンドを始めた時によく耳にしていたのがこのバディ・ホリー、そして彼のグループ:ザ・クリケッツだった。そして、「星影のバラード」もヒットさせたのはボビー・ヴィーだったが元々はクリケッツのメンバーが書きレコーディングしている曲だった。そういった意味でもこの2曲はレオ・セイヤーのルーツを知る上でも非常に興味深いリメイクになっている。

The Show Must Go On


▲「The Show Must Go On」(LIVE)

 その一方で、実はとても力強いロック・シンガーとしての一面もしっかり備えている。特に初期の彼は曲調も歌い方もかなりロックなスピリットを前面に出していた。元々、レオの2nd『Silverbird』(1973年)に収められた楽曲で、スリー・ドッグ・ナイトのカヴァーで1974年に大ヒットした「道化師の孤独:The Show Must Go On」はその良い例だ。また、1977年のスマッシュ・ヒット「Thunder In My Heart」における歌唱も、ダンサブルな曲調に流されることのない力強さを届けてくれた。そして、もう1つ、1978年初めに全米トップ40入りした「イージー・トゥ・ラヴ:Easy To Love」で展開されるファンキーさとクールな都会感との融合も聴き逃せない。これらの全く違ったスタイルを全て自分のものにするヴォーカル・パフォーマンスは流石の一語。今回の公演でもカラフルな歌声を堪能させてくれることだろう。とにかく期待したい。

ヒット曲、代表曲が続々登場する、全てのポップス・ファンが忘れえぬ夜に


▲『Restless Years』

 さて、その今回の公演だが、9月の上旬からひと月以上にわたって行われている【The Restless Years Tour 2015】と同じセットになるのでは、と予想している。『Restless Years』とは今年、7年ぶりに発表した新作のタイトルで、それに合わせた内容でツアーを行っているわけだが、その新作から多く歌うのではなく、あくまでもこれまでのヒット曲、代表曲が次々に登場する内容で、まさに、そのパワフルなレオのポップ・ワールドが堪能できそうだ。それにしても、彼の精力的なツアー・スケジュールには驚かされる。スコットランド、アイルランドを含むイギリス・ツアーはひと月強で26本という物凄い数になっている。そしてそれは本国イギリスでの未だ衰えることのない人気の高さの証明でもある。1948年5月21日生まれというから67歳になった今もバリバリの現役感をアピール、だからこそ冒頭で書いたような感想を持たずにはいられなかったというのがある。34年ぶりの日本公演への期待は高まるばかり。

 全てのポップス・ファンにとって忘れられない2日間になることは間違いない。王道の素晴らしさ、普遍性の偉大さ、この2つを全身で受け止めたい。

レオ・セイヤー「ベスト・オブ・ベスト」

ベスト・オブ・ベスト

2008/10/22 RELEASE
TECI-26520 ¥ 2,934(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.渇いたワイン・グラス
  2. 02.ワン・マン・バンド
  3. 03.恋の魔法使い
  4. 04.はるかなる想い
  5. 05.愛の迷い
  6. 06.心の叫び (サンダー・イン・マイ・ハート)
  7. 07.イージー・トゥ・ラブ
  8. 08.レイニング・イン・マイ・ハート
  9. 09.星影のバラード
  10. 10.夢の中で
  11. 11.アイ・キャント・ストップ・ラビング・ユー
  12. 12.ショー・マスト・ゴー・オン
  13. 13.すべてが水の泡
  14. 14.ムーンライティング
  15. 15.この愛は君だけに
  16. 16.ハート・ストップ
  17. 17.ドント・セイ・イッツ・オーバー
  18. 18.アンチェインド・メロディー
  19. 19.レット・イット・ビー

関連キーワード

TAG