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Special

カーネーション『a Beautiful Day』20周年再現公演 スペシャル・インタビュー

リンダー・ブラザーズ

 リリースから20年。来たる8月1日にビルボードライブ東京にてカーネーションの1995年の名盤『a Beautiful Day』の再現公演が行われる。(大阪は8月3日、umeda AKASOにて)。その記念すべき公演にあたって、今回、カーネーションの直枝政広と大田譲に作品のリリース当時を振り返ってもらうインタビューを行った。聞き手は、奇しくも『a Beautiful Day』リリース時にバンドにインタビューを行っていたという音楽評論家の岡村詩野。今なお色褪せない作品を巡って、当時バンド自身が置かれていた状況から、90年代以降の音楽シーンの流れ、そして現代における同作の意義についてまで話題は多岐に渡った。公演に向けて、ということはもちろん、音楽家と“時代”を巡る1つのテキストとして、ぜひ一読いただければ幸いだ。

『EDO RIVER』のタイトル曲が突然ラジオから流れ始めた。
面白いなあって思っていましたよ。

――当時、『a Beautiful Day』の制作に入る前の話から聞かせてもらえますか?

直枝:『a Beautiful Day』はアルバムというフォーマット、全体の統一感を意識して作った作品なんですね。その前の、コロムビア移籍第一弾となったアルバム『EDO RIVER』(94年)の続きみたいなイメージもあるかもしれないけど、『EDO RIVER』はその前に作ってライヴでやっていた楽曲を集めたものだったので、そこがまず大きく違うんです。で、さらにその前、徳間から出た『天国と地獄』(92年)というアルバムまではディレクターと二人三脚でずっとやってきて、事務所にも所属しないし、だいたい僕が代表してメンバーのギャラを預かって分配して、みたいなことをやっていて。バンドってこうやってやってくんだろうなって思っていた頃だったんですね。その一方で、その頃くらいからライヴをまたたくさんやるようになってきて、改めてライヴ・ハウスに挨拶にいったりしていて。僕らとしては『無邪気にライヴでサウンドが変化していくことを楽しんでいたん時期なんです。例えばバッファロー・ドーターの大野由美子さんにも毎回出てもらっていたし、ホーンを3人くらい入れてやったりもしていて、自由かつスリリングな時期でしたね。そんな時に声をかけてもらったのがその後所属することになるミストラルズ・ミュージックという事務所。「キミたち、自分たちじゃ気づいてないかもしれないけど、実はすごいんだよ」ってことで話を進めてくれて、まずはコロムビアから1枚アルバムを出してみようってことになったんです。それが『EDO RIVER』につながるわけです。そういえば、いい意味で当時は暇がいっぱいあったから曲も日記のように作っていましたよ。みんなでスタジオに集まってプリプロも何週間も時間をかけてできたし。その頃で僕ももう30歳半ばだったんですけど、学生っぽい感じが残っていたんですよね、いい意味で。

――サウンド面では当時ブラック・ミュージック指向がダイレクトに出ていた時代でしたよね。


▲「EDO RIVER」(MV)

直枝:そうですね。華やかなソウルっていうのを意識してやっていた時代です。ヴォーカル・スタイルだとタイロン・デイヴィスとかに憧れて。そういう曲をたくさん作ってライヴで披露していましたね。当時渋谷系全盛時代でしたが、僕らはとても泥臭いことをやっていたわけです(笑)。そんな中で作った『EDO RIVER』のタイトル曲が突然ラジオから流れ始めた。面白いなあって思っていました。これが意外と評判が良くて、社内的にもすごく評価が高かった。じゃあ…ってことで改めて契約をすることになって、そこから制作をスタートしたのが『a Beautiful Day』だったわけです。

大田:そうか……『EDO RIVER』を受けて、『a Beautiful Day』で初めてコロムビアと正式に契約したんだったっけね。『EDO RIVER』は“とりあえずまず1作”って感じで出したんだよな。

直枝:そう。僕らとしても、あまりメジャーとかそういう深いところまで考えずにやっていたし、ライヴのお客さんも自然とジワジワ増えてきているのかな?って感じだった。まだまだCDが売れていた頃だったし。

大田:うん、ただ、渋谷クアトロとかでのライヴはそれまでにもやっていたけど、『EDO RIVER』を出した後くらいから、後ろの通路のところまで人が入るようになったな~くらいの違いは感じていたけどね(笑)。


▲『a Beautiful Day(Deluxe
Edition)』

直枝:ちょうどその頃って、自分も迷わない、聴いてくれる人も迷わない、とにかくポップで誰にでもわかりやすいアルバムを作りたいって気持ちになっていた時代で。ひねくれたことをやりたがっていた80年代もあったわけだけど(笑)、『a Beautiful Day』を作る頃は、黒人音楽的な趣味はもちろん変わらないんだけど、突き抜けてポップなものをやりたいという意識もより強まってきていた。自分たちのやっている音が届いている、という自覚が出てきていたんですね。『EDO RIVER』もおそらく誰にも媚びていないアルバムで。明るくてまっすぐで無邪気な作品だったわけだけど、その時の気分は純粋に『a Beautiful Day』にも強く引き継がれていたと思います。

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    そういう意味でも勇気をもらった実感ありましたね。
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たくさんレコードを持っているってことが重要だったわけで、
そういう意味でも勇気をもらった実感ありましたね。

――なぜその当時、ブライトな感覚を求めていたんだと思いますか?


▲Beck 「Loser」(MV)

直枝:メンバーも周囲もスタッフも楽しそうにしていたんだろうなって思いますね。『天国と地獄』の頃まではみんなで懸命に、必死になって練習していたわけだけど、この頃はもっとゆったりと制作に迎えたし、色んなことが刺激になって楽しんで音楽を吸収できていた時代でもあったんです。僕らは常に新しい音楽や買ったレコードなどを聴いて共有したりして、それが曲に現れていくようなバンドなんですけど、この頃も本当に多くの音楽に刺激を受けていました。例えば、存在感としてのベックはすごく意識していました。

――『EDO RIVER』が出た94年はベックが『メロウ・ゴールド』でメジャー・デビューした年でもありました。生音とサンプリングを交錯させた作風が新鮮でしたね。

直枝:そうそうそう。僕も90年代初頭にローランドのS-50というサンプラーを手に入れたから作風が少し変わったりした時代でしたからね。自分で昔のレコードからサンプリングしてリズムのループを作ることが出来るっていうね。大田くんもグランドファーザーズの後、カーネーションに加入するにあたって、“(構築的な)カーネーションの音は自分には無理だよ~”みたいに言ってたのに、いつのまにか“カーネーションでもこんな黒いことやるんだ”みたいに受け入れるようになっていて(笑)。

大田:僕のルーツはそっちだからね~(笑)。でも、カーネーションのロックっぽさっていうのもよくわかっていたし、それがブラック・ミュージックの影響を受けているというのも理解していたので、それが『a Beautiful Day』前後から16分の曲とかも実際の作品になって現れてきた時に、“あ、これは自分と同じだ”って思えてきたよね。

直枝:だって、ジョージ・ハリスンもベイビーフェイスもニール・ヤングもベックも同じ感覚で聴けた時代でしょ。同じようなリスニング体験をしてきた僕や大田くんや矢部(浩志)くんたちだったら当然共有できるわけだよね。

大田:『a Beautiful Day』は下北沢にあった渚十吾さんのスタジオでプリプロをしたんだよね。

直枝:そうそう。『ソングサイクル』ね。

大田:CDからレコードから、とんでもない量があそこにあったね。


▲Gang Starr『Step in the
Arena』

直枝:毎日あのスタジオに行って作業をしてた。この曲の感じってこれじゃない?とかって言ってはすぐ横の棚からそのレコードを取り出して聴いてみたりして。そういう引用みたいなことがてらいなくできた時代でしたね。表現に対して何でもアリっていうか。ベックもそうだけど、当時のヒップホップの影響はすごく大きかったですね。ギャングスターというヒップホップ・デュオがザ・バンドの曲をサンプリングしているのを聴いて、“こんなこともやっていいんだ!”って驚いたりね。当時はたくさんレコードを聴いたり、持っているってことが重要だったわけで、そういう意味でも勇気をもらった実感ありましたね。僕なんてレコード買ってばかりの青春時代だったわけで、そういうそれまでの経験が報われた時代でもあったんです(笑)。スティール・パンとかも使っている「市民プール」って曲なんて、そういう感覚が素直に落とし込まれた曲だと思いますね。その頃は僕と矢部くんで代表して色んなレコードを中古屋で買ったりしてましたよ。

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    トータルで素晴らしい完成度を伴った作品
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アートワーク、写真、音響……
トータルで素晴らしい完成度を伴った作品

――その矢部さんと直枝さんの共作曲が『a Beautiful Day』には3曲収録されています。「Happy Time」「未来の恋人たち」「GLORY」。

直枝:そう、その3曲はすごく大きいんですよ。矢部くんは『エレキング』(91年)から曲を書くようになっていて。なんたってドラマーがメロディ・メイカーっていうのが強みなんですね。リズム隊の歌心って大事ですよね。

大田:矢部くんはノリも素晴らしいんだけど、歌に対する理解がすごいもんね。

直枝:この『『a Beautiful Day』の時にはもう矢部くんの曲は完璧でしたよ。ほんの何年かでここまでソングライターとして成長するんだからすごいものだと思います。僕なんて13歳の頃から曲書いててコレですからね~(笑)

――とはいえ、このアルバムにはバンド史上最大のヒット曲でもある「It's a Beautiful Day」が収録されています。もちろんこれは直枝さんの曲ですが、ナゴム時代の84年に初めてシングル・リリースされた「夜の煙突」以来となるシングルというフォルムに対しては何かこだわりを持っていましたか?

直枝:「夜の煙突」が84年? そこから10年しか経っていなかったんだ!

大田:でも、この『a Beautiful Day』からどれを先行シングルにするかって、結構モメたよね? 結局「It's a Beautiful Day」になったわけだけど、レコード会社としては“この曲はサビが聴こえてくるまでが長い!”とかって言って(笑)。2コーラスでようやくサビなんだけど、それじゃ遅いってことで1コーラスですぐサビっていうエディット・ヴァージョンを作って。ラジオ用に。

直枝:そんなことあったっけ?(笑)。

大田:作り手である直枝くんはそこは最初イヤだって言ってたんだけど、まあ、一応レコード会社の思惑もあるからってことで妥協案としてラジオ・オンエア用としてエディット・ヴァージョンを作ったんだよ。要は、最初にシングル用の曲として作ったわけじゃなかったってことなんです。でもこの時代のシングルって縦長の短冊形だったでしょ。そういうのも自分たちとしては新鮮だったし嬉しかったですね。ああ、僕らのようなバンドもシングルを出してもらえるんだって。

――この時代らしい…と言えば、『a Beautiful Day』はアート・ディレクターが故・川勝正幸さんで、写真が三浦憲治さん。豪華な制作スタッフィングでした。

直枝:川勝さんはパッケージのトータル・デザインでしたね。

大田:PVもね。


▲The Band『Music From Big
Pink』

直枝:そう。実際に出来上がった音を聴いて、ザ・バンドの『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』を想定したらしくて。ブレッド&バターやジョージ・ハリスンや…なんかイメージしたものがあったみたいだね。意見がぶつかったのは、ジャケットのバンド名と作品名のロゴくらいかな。ポスター型の歌詞カードにするとかそういうのは全部川勝さんからのアイデアだった。たぶん……昔レコードをたくさん聴いていた音楽好きな少年、みたいなイメージを僕らに感じて、演出してくれたんじゃないかな。CDでもポスターを封入したスタイルっていうのは、やっぱり昔のレコード盤のイメージだもんね。ザ・バンドとかニール・ヤングとかを聴いてきた僕らの今の姿というのを、音だけじゃなく、デザイン、アートワークでもちゃんと寄り添わせようとしてくれたんだろうな。今でもこの時のフォト・セッションのアウトテイクとか残っているんですけど、そうやって作品がカタチとして残っていくっていうのも、レコードとかCDの良さでもあると思うんです。00年代に再発した時もそうだったし、今回の再現ライヴにあたってこの時代のアーカイヴとかを集めていたら、結構出てきたんですね。改めて作品の強さを実感しましたね。


▲ザ・ニューエスト・モデル
『クロスブリード・パーク』

 実は音響(プロデュース、エンジニア)は『EDO RIVER』から引き続いての牧野“Q”英司さんなんですけど、これにも面白い縁というか、思い出があってね。牧野さんが手がけたニューエスト・モデルの『クロスブリード・パーク』に僕がすごく感銘を受けて、“このエンジニアさんとやりたい”ってリクエストして実現したのが僕らのこの2作だったんです。で、その後、牧野さんはグレイプバインを手がけている。そんなつながりも面白いでしょ? そういう意味でも、曲はもちろん、アートワーク、写真、音響……トータルで素晴らしい完成度を伴った作品になっていると今聴いても思いますよ。

――しかも、様々な楽器のチョイスも含めて直枝さんの多彩なアレンジャーとしての資質もこの作品前後に一つ大きな完成をみていますよね。

直枝:そうですね。ホーム・デモの段階である程度は僕が楽器のチョイスやアレンジを全部事前に決めていました。本チャンのスタジオに楽器がたくさんあったわけじゃなかったから、プリプロまでにアレンジはかためていましたね。でも、そういうことをやれる余裕もあったし、それ自体を楽しんでいた時代なんです。当時はまだ今みたいにレコーディングに慣れてもいなかったし、第一、時間がたっぷりあった。昼にスタジオに入って、朝5時までいられたんだから……いい時代だったよね(笑)。

大田:あの頃って毎日スタジオに通っていたもんね。1か月くらいずっと。

――今回の再現ライヴには、矢部浩志、鳥羽修というかつてのメンバーはもちろん、このアルバムに参加している鈴木桃子(ex.コーザ・ノストラ)、ZOOCO(ex.エスカレーターズ)、ロベルト小山(ザ・スリル)も出演されますね。当時、女性コーラスをふんだんにとりこんだアレンジが直枝さんの曲の特徴でもありました。ソウル・レビューのような華やかで壮大な風合いは女性コーラスによるところが大きかったと思います。

直枝:そうそう。岡村(靖幸)ちゃんじゃないけど僕もハンド・マイクで歌う、みたいなのに憧れてましたからね。むしろ、ギターはどうでもいいやっていうか(笑)。だから、この頃のアルバムのギターの多くは鳥羽くんが弾いてます。僕はヴォーカルに集中したいからって。となると、当然女性コーラスも絶対欲しいってことで、桃ちゃんを紹介してもらって、同じコロムビアに所属していたZOOCOも呼んでもらって。コーラス・アレンジも僕がやりました。僕、うまいんですよ、女性コーラス・アレンジ(笑)。

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時代の中でずっと生きて、今の時代を作る礎になった作品

――このアルバムがリリースされた年、阪神・淡路大震災が起こりました。その年の夏に“なんて素敵な(美しい)日!”と繰り返される曲をリード・トラックとするアルバムが出たことにはすごく意味があるように感じていました。実際に、「It's a Beautiful Day」は大阪のラジオ局でたくさんオンエアされていましたよね。そうした時期に発表したことについてはどのように思っていましたか?

直枝:あの時代の関西にあの曲が鳴り響いたことはすごく意味のあることだと思っていましたよ。実は僕らのその年の心斎橋クラブクアトロ公演って、クアトロにとって震災後一発目のライヴだったんです。そのクアトロが入っていたパルコの館内放送では常に「誰々さんは無事です」と消息確認のラジオ放送が常に流れていました……なんてことだろう!って心を痛めて。で、そのタイミングでプロモーションで神戸にも行ったんですけど、もう本当に言葉にならなかったですね。でも、その夏、そんな関西の地に僕らの「It's a Beautiful Day」が流れたのはすごく誇らしいことだったと思っています。そんな状況でもお客さんは見に来てくれる。僕らは演奏する。音楽ってすごいな、そういう役割があるんだなって。

――いくつもの役目を背負ったアルバムであり、同時に、過去の音楽財産とその後登場することになる未来の音楽財産との間をつなぐアルバムにもなりましたよね。例えば、今のceroやスカート、あるいは今のカーネーションのサポート・メンバーでもある佐藤優介くんもメンバーのカメラ=万年筆、あるいは海外だとマーク・ロンソンやファレルが今やっていることは確実にこの時代のカーネーションと地続きであると思いますよ。

直枝:うわあ、そう言ってもらえると本当に嬉しいですね。もちろんそんなつもりで作っていたわけじゃないし、今も僕としてはそういう意識で聴いたりしないけど、云われてみればそうかもしれない。そうやって時代の中でずっと生きて、今の時代を作る礎になった作品だってことは本当に素晴らしいことですよね。今回再現ライヴでそういう時代の継承と、今も自分たちはここにいるんだってことを伝えられたらいいなと思っています。


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