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<Light Mellow Searches> Special Feature -AOR now and then-

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 洋楽AORのディスク・ガイド『AOR Light Mellow』のタイトルとして、99年に登場した“ライトメロウ”。その後AOR系のCD再発シリーズや、シティ・ポップスのガイド本などの名前に使用され、都会派ポップス愛好家には、ハイ・クオリティでなおかつオシャレ、というサウンドを形容する言葉としてスッカリ定着した。その浸透度は、今や“フリーソウル”に次ぐものと言って良い。和モノ・ブームが盛り上がり始めた昨年は、30作以上の“Light Mellow和モノ”コンピレーションが登場している。そうした中、このたび新しいシリーズ《Light Mellow Searches》がスタート。先物買いの音楽ファンたちの耳目を集め始めた。ここではそのシリーズ内容にスポットを当てながら、ライトメロウなシーンの現在と過去を辿ってみよう。

「ゲット・ラッキー」を境に80’sサウンドに向ける目が大きく変わった。


▲Tuxedo 「Do It」MV

 ダフト・パンクがナイル・ロジャースとファレル・ウィリアムスを巻き込んで大ヒットさせ、グラミー賞にも輝いた「ゲット・ラッキー」。おそらくあれを境に、世間の80’sサウンドに向ける目が大きく変わった。そのあとをファレル自身やロビン・シックが追い掛け、最近はタキシードのような新人ユニットや、マーク・ロンソンがブルーノ・マーズと組んでヒットを飛ばしている。主戦場はダンス・ポップのフィールドながら、そこからあの頃のAORやブラック・コンテンポラリー、アーバン・ファンクなどの匂いが強烈に漂ってくるワケだ。

 彼らは大抵、そのあたりの音をリタルタイムで楽しんだ世代のジュニアたち。現に俳優であるロビンの父親アラン・シックは、80年代に自分のバラエティ・ショーを持ち、当時のミュージシャンたちを出演させて深い交流を持った。かのデヴィッド・フォスター&ジェイ・グレイドンのプロデュースでシングルをリリースしたこともある。

 また、現在のAORシーンで要注目となっているノルウェーのオーレ・ブールド、スウェーデンのステイト・カウズのメンバーも、親がミュージシャンだったり、親が音楽フリークだったりする。幼い頃から80年代の音を刷り込まれた世代なのだ。


▲シンリズム「心理の森」

 それを日本のシティ・ポップス勢に置き換えても、同じようなコトが言える。ちょうど中堅からベテランに差し掛かってきた90年代?00年代初頭デビューの組、たとえばキリンジやノーナ・リーヴス、土岐麻子、一十三十一、paris matchなどは、いずれも何らかの形で洋楽にドップリ浸かって成長した人たちだ。しかも日本のポップ・シーンは、その点では海外より一歩先行。最近デビューして話題をさらっている新人たちの中には、北園みなみやシンリズムなど、90年代生まれにも関わらず70?80年代風のサウンドをクリエイトする者が現われてきた。それこそキリンジを聴いたり、そのプロデューサーである冨田恵一(冨田ラボ)に影響を受けた世代であり、これまで主流だったガレージ・サウンドのアンチテーゼに位置づけられる。

新世代ファンが、シャレたヴェニューに数多く押し寄せた。


JD Souther「Something in the Dark」

 こうした流れが次第に大きくなるのと連動したかのように、リアル・タイム世代のアーティストの活動も活発化している。今年に入ってBillboard Liveに登場した、もしくはこれから登場するAOR/ウエストコースト派のアーティストを見ても、ボビー・コールドウェルやクリストファー・クロス、J.D.サウザーがニュー・アルバムを届けているし、名盤『ハード・キャンディ』の再現ライヴで盛り上がったネッド・ドヒニーも、昨年は未発表音源を多数含んだ『SEPARTE OCEANS』をリリースした。ボズ・スキャッグス、TOTO、ジャクソン・ブラウン、クロスビー・スティルス&ナッシュ、ブライアン・ウィルソンにハワイのカラパナ、元クール&ザ・ギャングのJ.T.テイラーといった大御所たちも、新作や来日公演などでシーンを活性化させている。かのジェイムス・テイラーのニュー・アルバムも登場間近。

 とりわけ注目したいのは、こうした超ベテランたちのライヴに、若いリスナーが少しづつ足を運ぶようになって来ていることだ。ネッド・ドヒニーのショウに顕著だったが、当時を知るエルダー・リスナーが懐メロ的に集まるだけでなく、クラブ/レア・グルーヴ以降にこうした音を楽しむようになった新世代ファンが、シャレたヴェニューに数多く押し寄せた。あの熱気と期待感の高まりは、ネッドの4年前の来日時には感じられなかったものである。

 もちろんシティ・ポップ勢も元気だ。シーンを先導している山下達郎や竹内まりや、松任谷由実、大貫妙子、南佳孝、尾崎亜美、角松敏生、杏里らは言うに及ばず、これからのBillboard Liveのステージにも佐野元春や八神純子、大橋純子らが登場する。また八神のバックに後藤次利(b)、松原正樹(g)、佐藤準(kyd)、村上ポンタ秀一(ds)らが付いたり、その松原が在籍する往年の名バンド:パラシュートのライヴもスケジュールに上がっているなど、当時の日本のポップス・シーンを影から支えた職人ミュージシャンたちが元気なのも嬉しいところ。

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 こうして再びアクティヴになっているAOR周辺シーンの状況を反映するように、Light Mellowの看板の下、今年2月にスタートしたのが《Light Mellow Searches》である。音の善し悪しや違いの分かる耳の肥えたオトナのリスナーに向けて、本物志向の優れたアーティスト及び作品を紹介していく…。それがこの《Light Mellow Searches》のメイン・コンセプト。既に日本デビューとなる2アーティストの作品がリリース済みで、6月初旬に3組目がデビューする。しかもどれも本邦初登場のニュー・カマーとはいえ、それぞれがシッカリしたキャリアと実力を誇っており、その音は70?80’sラヴァーズにはスンナリ受け入れてもらえるに違いない。

初期ホール&オーツを思わせるブルー・アイド・ソウル、ハイ・レッド


▲High Red「I Got It Bad」

ざっと紹介すると、第1弾のハイ・レッドはノルウェー発の4人組ニュー・グループで、アヴェレージ・ホワイト・バンドや初期ホール&オーツを思わせるブルー・アイド・ソウルが身上。アルバムではボビー・コールドウェルの曲をカヴァーし、マイケル・ランドウがゲスト参加してギターを弾いている。熟れたサウンド・メイクも然ることながら、フロントマンであるアダム・ダグラスのヴォーカルが素晴らしく、聴く者のハートを鷲掴み。4オクターブ以上というレンジの広さに加え、その歌声にはレイ・チャールズやソロモン・バークといったR&Bレジェンズから受け継いだソウル・スピリットが宿っているのだ。その支持は日本でも着々と広がっており、近い将来のジャパン・ツアーも期待される。心から、“ナマで観たい!”と思わせてくれるバンドだ。

“ドナルド・フェイゲンお墨付き”、モンキー・ハウス


▲Monkey House「Headquarters - I could do without the Moonlight」

続いて登場したのが、モンキー・ハウスというカナダのアーティスト。これは、トロントを拠点にするkyd奏者/シンガー・ソングライター/サウンド・クリエイター:ドン・ブライトハウプトのワンマン・プロジェクトで、オリジナル3作目『ヘッドクォーターズ』で本邦初登場となる。だがそのサウンドは、完璧にスティーリー・ダン・フォロワー。ヴォーカルを代えてしまったら、誰もが復活後のスティーリー・ダン、もしくはドナルド・フェイゲンのソロ・アルバムだと聴き間違えてしまうだろう。それもそのはず、首謀者のドンは音楽ジャーナリストの顔を持っており、フェイゲンへのインタビューを元に書かれた研究書『スティーリー・ダンAJA 作曲術と作詞法』の著者でもあるのだ。しかも『ヘッドクォーターズ』には、近年のスティーリー・ダンのサポート・メンバーも参加している。言い換えればこれは、“フェイゲンのお墨付き”を貰っているに等しい。スティーリー・ダンに憧れてそれらしい音を創るアーティストは引きも切らないが、その最高峰に鎮座するのがモンキー・ハウスなのである。

本家シカゴを脅かすほどの力強さ、CTA


▲CTA「In The Kitchen」

 そしてこの6月登場の作品が、2作目にして日本デビューとなる、CTAことカリフォルニア・トランジット・オーソリティー。名前の通り、シカゴのオリジナル・ドラマーであるダニー・セラフィンが、キース・エマーソン・バンドなどで活躍するサウスポーの実力派ギタリスト:マーク・ボニーラらと組んだ新グループだ。07年の1stは、そのままシカゴのカヴァー・アルバムだったが、この2作目『セイクリッド・グラウンド』ではオリジナル中心に軌道修正。元シカゴのビル・チャンプリン、その愛息で米の人気オーディション番組『THE VOICE』のファイナリストになったウィル・チャンプリン、そして最近までタワー・オブ・パワーのシンガーを務めていたラリー・ブラッグスなどをリード・ヴォーカルに迎え、オリジナル楽曲中心のアルバム作りへ大きく進化した。当然ながらその音は初期シカゴの意匠を受け継いているが、そこにパワー・ブースターを搭載したようなサウンドはまさにエンジン全開で、しかも今風。本家シカゴを脅かすほどの力強さに、ビックリすること請け合いだ。そのうえアルバムには、本家とブラッド・スウェット&ティアーズのカヴァーが1曲ずつ収められており、60/70年代のブラス・ロック/ジャズ・ロックに忠実であることもアピールしている。シカゴ・ファンやブラス・ロック好きならもちろん、広くアメリカン・ロックを愛する方みんなにチェックして頂きたい好作だ。

 この3作以降も、新進気鋭の日本人男性シンガーや、未CD化のままの名盤カタログ、そして知られざる奇跡の発掘音源など、いま世に問うべき作品の数々が続々リリースされる予定になっている。それこそ、シリーズ丸ごとのチェックが怠れない新シリーズ、《Light Mellow Searches》なのだ。

Text:金澤寿和

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