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NONA REEVES -Choices of the "Choice"-
2015年4月、東京そして大阪にて行われるNONA REEVESのビルボード公演を記念し、NONAが<ビルボードレコーズ>よりリリースしている洋楽カヴァー・アルバム『Choice』シリーズ3作の収録曲から、選りすぐりの10曲をピックアップ。選曲のエピソードや楽曲の魅力を西寺郷太氏みずからご紹介。題して、【NONA REEVES -Choices of the "Choice"-】。公演の予習にするもよし、復習にするもよし。あるいは仕事や勉強のサントラ、そして、ちょっと懐かしいあの名曲の魅力に触れる機会に、ぜひご覧ください。
また、特集の最後にはNONA REEVES自らが『Choice』のカヴァー音源をミックスしたスペシャル・ミックス音源も掲載。さらに、いち早く4月19日に行われたビルボードライブ東京公演のレポートも掲載します。
1. Michael Jackson/Human Nature
マイケル・ジャクソンが遺した名作群の中で「最もカヴァー、サンプリングされている」のがこの曲。特に85年のマイルス・デイヴィスのカヴァー、93年に大ヒットしたSWVによるマッシュ・アップ「ライト・ヒア」は印象的です。
2010年、初めて僕らがビルボードライブ東京のステージに立った時、追悼の意味も込めてこの曲をカヴァーしました。その時、硝子越しのビルボード舞台裏にミッドタウンの公園から夏のイベントで放たれたレーザー光線が舞い飛んだのはマイケルが見守ってくれたようで、嬉しかったです。(西寺郷太)
2. Huey Lewis And The News/THE POWER OF LOVE
ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースが映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に主題歌として提供した「パワー・オブ・ラヴ」は、単なるヒット・シングルの領域を超えた“80年代アメリカン・ポップ・カルチャーの代名詞”と呼べる存在。今年は映画公開から、ちょうど30周年。主人公のマーティが物語の中でタイムスリップした未来が「2015年」ということでメモリアル・イヤーなんです。
ノーナ版の「パワー・オブ・ラヴ」はビーチ・ボーイズを彷彿とさせるブリッジ部のめくるめく展開など、オリジナルの“多幸感”を残しつつ、より2010年代のソリッドでシャープな音像がポイントです。(西寺郷太)
3. Pet Shop Boys/What Have I Done To Deserve This(邦題:とどかぬ想い)
英国を代表するエレクトロニック・デュオ、ペット・ショップ・ボーイズが、彼らの憧れであった白人女性ソウル・シンガーの草分け、ダスティ・スプリングフィールドを大々的にフィーチャリングした87年の「とどかぬ想い」。非常に長い原題「WHAT HAVE I DONE TO DESERVE THIS?」は、意訳すると「ぼく、こんな酷い仕打ちを受けるほどのこと、なんかしたっけ?」と、なります。ラップに近い淡々とした言葉の速射砲的羅列と、情感溢れるメロディのミスマッチが不思議な魅力を生む大好きな曲です。(西寺郷太)
4. Prince/I Wanna Be Your Lover
プリンスにとって初の全米ビルボード・チャート11位のヒットとなったこの「アイ・ウォナ・ビー・ユア・ラヴァー」が収められた二枚目『愛のペガサス』こそ、今からプリンスの魅力にハマろうとする人に最適のアルバムなのではないか、と僕は思っている。一昨年、大ヒットを記録したダフト・パンクの『ランダム・アクセス・メモリーズ』、ファレル・ウィリアムズがファルセット・ヴォイスで歌うシングル「ゲット・ラッキー」の持つメロウでリズミックなフィーリングが好きな人には、この感覚はドンピシャのはずだから。プリンスのファルセットは僕も大好きで何万回もこの曲鼻歌で歌ってきました。ノーナ版のグルーヴを聴けば、あまりの本気のイタコ感に笑ってもらえると思います。(西寺郷太)
5. Culture Club/Don't Talk About It
女装と化粧の鮮烈なヴィジュアルとカリスマ性を誇るボーイ・ジョージがマイクを握る“異人種混合バンド”カルチャー・クラブ。MTVを通じて80年代を代表するヒットとなった「カーマは気まぐれ」を筆頭に、破竹の勢いで世界中の人気を集めた。楽曲とヴォーカルのレベルの高さからソウル・ファンから評価も高かった。しかし、ドラッグやバンド内トラブルで全盛期は短く、サード・アルバムに収録されたこの曲は日本ではノエビア化粧品のCMに使われたが地味な存在のままだった。あまりにも過小評価された曲なので、NONA REEVESではこの曲を『Choice』しました。(西寺郷太)
公演情報
NONA REEVES
Choice 80's!!!!!!!! featuring Wham!
ビルボードライブ東京:2015/4/19(日)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2015/4/23(水)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
関連リンク
続いて【NONA REEVES -Choices of the "Choice"-】パート2。ここからはいよいよワム!の音源を西寺氏が紹介します。
6. WHAM!/BAD BOYS
31年前の1984年初頭、カセットテープ「maxell UDII」のCMキャラクターとしてブラウン管の左右両端から、それぞれ黒と赤のスーツを着て宙を浮いて飛んできたふたり、ジョージ・マイケル、アンドリュー・リッジリーとの出会いは、京都に暮らす小学生だった僕の人生を変えた。歌われていたのは、歌詞とメロディがオリジナルとは微妙に異なるヴァージョンの「バッド・ボーイズ」。
同じ時期に、長野県飯山市で魚釣りやスポーツに明け暮れていた小松シゲルも「maxell UDII」のCMをテレビで見て、そこで流れる「フリーダム」にハマったことから洋楽のレコードを聴き漁るようになり、しばらくしてドラマーを志している。ところでそのキャッチーさに日本でウケたのも当たり前な気がするこの曲、メロディやサウンドがあまりにも「日本的」な丁寧さに満ちていると思いませんか。(西寺郷太)
7. WHAM!/Like A Baby
「ライク・ア・ベイビー(消えゆく思い)」は、セカンド・アルバム『メイク・イット・ビッグ』に収められた、シングル・ヒット揃いのワム!の中で珍しいインストゥルメンタル中心の小品。しかし、こういう曲こそ素晴らしいからワム!は侮れないのだ。83年から84年、ほぼ一年の間に、ジョージの音楽世界が、ぐっとボーイズ・ファンク路線から、大人なAOR風味に成熟し、深化しているのがわかる。ノーナ版では、奥田のギタリストとしての妙味が爆発してます。ダフトパンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』が好きな人はぜひ!生バンドの魅力をビルボードライブにて。世界でこの曲、こんな感じにカヴァーするライヴないと思います。(西寺郷太)
8. WHAM!/Freedom
ワム!と出会ったきっかけの maxell 『UD II』CM第二弾が〈フリーダム〉。特にこの曲は数年ごとに何度もCMソングに選ばれるほど、日本での人気の高い曲だ。世界的に大ヒットしたワム!の曲を「香川県在住の『日本人ゴースト・ライター』がテレビCM用に書いた」という証言を得て、5年間追いかけた僕は小説『噂のメロディ・メイカー』(扶桑社)も書いたほど。日本人のメロディで、最もヒットしたとされるのは「上を向いて歩こう」だが、実はもっと他にも隠された「日本人曲」があるのではないか、と。詳細はぜひ、本で(笑)。
さて、テンポを上げたノーナ版「フリーダム」での真城さんのソウルフルなヴォーカルは、スタイル・カウンシルのDCリーや、カルチャー・クラブのヘレン・テリーの存在感を彷彿とさせ、あまりの素晴らしさにレコーディング中、全身が震えたほど。ビルボードライブ東京&大阪では、初参加のジャマイカ系カナダ人のスーパー・シンガー、オリヴィアが歌ってくれます!(西寺郷太)
9. Wham!/Club Tropicana
「クラブ・トロピカーナ」は、地中海に浮かぶスペイン領イビザ島の高級リゾート<パイクス・ホテル>のプールサイドで主な撮影が行われた印象的なプロモーション・ビデオによって、ワム!が、スーパースターになる決定打となった。ワム!扮するふたりのパイロットと、ふたりの美しいスチュワーデス、若い男女の休暇と恋の予感が描かれたこの作品は、80年代特有の能天気さに満ちたもの(その光景を、ノーナ・リーヴス「ヒポポタマス」において「プールサイドにワイングラスとトランペット。眩し過ぎた夏、1983」と、僕は歌詞に描いている)。
ちなみにビデオに登場する白人女性は、ジョージやアンドリューの“幼馴染み”的存在で、のちにヴォーカル・グループ“ペプシ&シャーリー”として「ハートエイク」で全英2位のヒット曲も生むシャーリー・ホリマン。黒人女性は、後にポール・ウェラーの妻となるDCリー(現在は離婚)。彼女は、このビデオの撮影後ほどなくワム!チームから離脱し、ポール・ウェラーと鍵盤奏者のミック・タルボットが始動した“スタイル・カウンシル”に合流している。
ワム!の強烈なアイドル・イメージと“80年代的悪い意味での派手さ”のせいで敬遠する音楽マニアの中でも「恋のかけひき(Everything She Wants)」と並んで人気の高い曲だ。ノーナ・リーヴスの『Choice III』でのカヴァーでは、ギタリスト奥田健介の代名詞とも言える「パーティは何処に?」のカッティング・ギターのフレーズをマッシュアップ的に演奏することでふたつの世界の融合を計ってみました。シンセ・ベースとバンドサウンドが心地よくも刺激的な2010年代サウンドになっていると思います。(西寺郷太)
10. Wham!/Everything She Wants
この特集で最後の選曲となる「エヴリシング・シー・ウォンツ」は、僕が世界一愛している曲だ。ワム!の楽曲の中で、ジョージ自身も「最も好きな曲」と公言してはばからず、彼のライヴでもセット・リストの重要な位置をいまだに占め続けている。この曲に対するあまりの偏愛のため、90年代末にノーナで一度カヴァーを試みたことがあるが、その時の自分の力量では無理だと諦め、計画は放置されていた。そこから20年近い日々を経て、遂に『CHOICE III』で我々のヴァージョンを完全パッケージすることが出来た。
僕はいつも楽しいことと悲しいこと、嬉しいことや切ないことの間にこそ、音楽でしか表現出来ない感情があるのではないか、その「何か煌めきつつもはかないもの」を見つけるたびに、自分は必死にいつも手を伸ばし、掴もうとしてミュージシャンとして生きていると思っている。象徴的な比喩で言えば、土曜日の夜にずっと前から楽しみにしていたパーティがあった、そして時を忘れるほど大笑いして、美味しいものを食べて・・・、でも誰かが「そろそろ終わるな」と思う、そんな時に起こる想い。太陽が水平線に沈むその瞬間、空も海も紫のグラデーションになるような・・・。
ワム!の音楽は自分にとって、特別なものだ。まさに「パーティの瑞々しいせつなさ」に満ちているから。若くして夢に見た成功を収めたジョージ・マイケルとアンドリュー・リッジリー。親友のふたりが、頂点に昇り詰めた喧噪と賞賛のバッシングの中で、フッと我に帰って、でもまだ甘美な栄光の中にいる美しさに満ちていると僕は思う。だからこそ、嘘が混じる前に解散しなければならなかった。
それぞれの時代、人には大切な想い出と音楽がある。そして、それは消えてゆくだけではなく、愛した者が責任を持って伝承していくべきだと信じてます。今回、ヒットの規模に比べ、後の評価が低いワム!とジョージ・マイケルを中心にカヴァー・ライブをビルボードライブで開けることを心から嬉しく思っています。(西寺郷太)
公演情報
NONA REEVES
Choice 80's!!!!!!!! featuring Wham!
ビルボードライブ東京:2015/4/19(日)
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ビルボードライブ大阪:2015/4/23(水)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
関連リンク
最後は、4月19日に行われた東京公演のレポートと『Choice』シリーズより、NONA REEVES自身のミックスにより送るスペシャル・ミックスをどうぞ!
NONA REEVESが贈るワム! and more!その熱演と熱弁に80年代ポップスの芳醇な拡がりを感じる夜
ノーナ・リーヴスが4月19日、ビルボードライブ東京にて【Choice 80's!!!!!!!! featuring Wham!】と題した公演を行った。
昨年11月にリリースした洋楽カヴァー・シリーズ『Choise』最新作、『ChoiceⅢ by NONA REEVES』を引っ提げての本公演。80年代に世界を席巻したワム!をフィーチャーした同作を受けて、今回の公演もワム!の楽曲を中心に、これまで彼らが手がけてきた洋楽カヴァー曲を披露するというスペシャルなセットとなった。
公演はワム!デビュー期の曲、「Wham Rap!」からスタート。西寺郷太、奥田健介、小松シゲルというノーナの3人に加えて、ベース、パーカッション、キーボード、そして女性コーラスも加えた“ゴージャス”な編成で、名曲の数々を演奏していく。もちろん、演奏されるのはワム!の曲ばかりではなく、マイケル・ジャクソンやプリンスなど、ノーナにとって切っても切り離せない先達アーティストの曲も披露した。
サポートメンバーも含めた演奏の良さはもちろん、その合間合間に挟まれる西寺による曲解説や、自身の体験に基づく思い出話も非常に興味深い。プリンス「I WANNA BE YOUR LOVER」の演奏前には「白人のポップスばかりが主流を占めていた80年代のMTVに有色人種の入り込むきっかけを作った一曲」と学校の先生のような的確な解説を西寺が披露。
また、ワム!の「フリーダム」の演奏前には、西寺が「フリーダム」というタイトルの印象から<自由が欲しい>と歌う曲だと思っていたら、実は<お前の自由は要らない!>というサビを持つ曲だと知り、「“自由”って全面的に良いものじゃないのか!」と衝撃を受けた曲だという少年時代のエピソードを明かした。
「If You Were There」の演奏時には「この曲は元々はアイズレー・ブラザーズの曲なんですけど、僕はそれをワム!のカヴァーで先に知っていたんです。そんな風に、僕らがカヴァー・アルバムを出すことで、ノーナを通してみんなが良い音楽を知るきっかけが作れればいいなと思ってます。」と、カヴァー・シリーズにかける思いを語った。
終盤に披露した、ワム!「Everything She Wants」の演奏前には「僕が世界で一番好きな曲です」と演奏前に前置き。ミニマルなフレーズのリフレインによる淡い煌めきを湛えたグルーヴが、淡々と続くその曲調は、パーティめいた華やかさやある種のキッチュさが魅力だと思われているワム!の別の魅力を強調する、まさに納得の「世界一」だ。
ノーナとサポートメンバーの熱演と熱弁によって、いまも色褪せない名曲の魅力を伝える機会となった今回の公演。それは裏を返せば、ノーナ自身の音楽的なバックボーンを伝えるものにもなっている。【Choice 80's!!!!!!!! featuring Wham!】は4月23日、ビルボードライブ大阪でも開催される。名曲の魅力に触れ、ポップス音楽の芳醇な拡がりを感じる一夜をぜひ体験しよう。
NONA REEVES / Choice digest
公演情報
NONA REEVES
Choice 80's!!!!!!!! featuring Wham!
ビルボードライブ東京:2015/4/19(日)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2015/4/23(水)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
関連リンク
Choice Ⅲ by NONA REEVES
2014/11/05 RELEASE
HBRJ-1014 ¥ 2,200(税込)
Disc01
- 01.ワム・ラップ! (楽しんでるかい?)
- 02.クラブ・トロピカーナ
- 03.ラヴ・マシーン
- 04.バッド・ボーイズ
- 05.消えゆく思い
- 06.フリーダム
- 07.エヴリシング・シー・ウォンツ (恋のかけひき)
- 08.イフ・ユー・ワー・ゼア
- 09.ラスト・クリスマス
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