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ザ・シャーラタンズ 来日インタビュー!近年のバンド最高傑作『モダン・ネイチャー』はどうやって生まれたのか?
先日【FRED PERRY presents Sub-Sonic Live】への出演のために来日を果たした英国バンド、ザ・シャーラタンズ。結成から27年、すっかりベテランの域に達した彼らだが、今も色褪せぬ数々のアンセムと、幸福感のあふれるダンサブルなサウンドで観客を楽しませた。
そんな彼らが先日リリースした最新アルバム『Modern Nature』は、ファンは知っての通り、初期からバンドの屋台骨を支えていたドラマーのジョン・ブルックスの2013年の死を乗り越えて作られた1枚だ。バンドのフロントマンであるティム・バージェスは「どんなレコードを作るかという理由を自分たちで見つけなければいけなかった」とアルバム制作を振り返る。
その結果、完成したアルバムはバンドにとって、ここ10年でもベストと呼べる仕上がりとなった。シングルにもなった「So Oh」に代表される温かいダンス・フィールと、「Come Home Baby」のゴスペル・コーラスに象徴されるユーフォリックな感覚が渾然一体となり、バンドの悲しみや葛藤が美しいソウル・ミュージックとして昇華されている。バンドにとって革新的であると同時に、とても感動的なレコード。まさにかけがえのない一枚だと言えるだろう。
今回はそんな傑作『Modern Nature』を生み出した背景について、彼ら自身の言葉から窺うべく、前述の来日公演を終えたなかりのバンドに話を聞いた。その対話は、バンドのパブリック・イメージと違わぬメンバーの心優しい人柄と、充足感に満ちた穏やかな受け答えがとても印象的なものになった。
いま振り返ると、モダンなことがやりたかったんだと思う
--久しぶりの日本でのパフォーマンスはいかがでしたか?
ティム・バージェス:とてもファンタスティックだったよ。
マーティン・ブラント:ちょうどUKツアーを終えたところで、その勢いのまま来られたのも良かったね。
--イギリスではどれくらいの期間ツアーしていたんですか?
マーティン・ブラント:2週間くらいだね。英国に帰ったらまたツアーなんだけど。夏にはヘッドライナーのショウもいくつか決まってるよ。
--ライブは新曲と昔の曲を入り混ぜたセットリストでしたね。
ティム・バージェス:もちろんみんなが昔の曲で聴きたい曲がたくさんあるのは分かってるよ。でも、新曲を聴いてもらうのはバンドにとってすごく大事なことだからね。
マーティン・ブラント:でも、昔の曲と今の曲を上手く混ぜるのも難しいんだ。新しい曲には今まで自分たちがやってきたことと違う要素があったりするから。それを上手く一つのセットリストにするのは意外と大変で、自分たちの努力が必要なんだ。
--新作『モダン・ネイチャー』、とても素晴らしかったです。聴いていて、すごくゆったりとしたダンス・フィールのあるアルバムだと思ったのですが、そこは意識されていましたか?
ティム・バージェス:ありがたいことに、このアルバムは伝統的なロック・アルバムにはなっていない。そこが好きなところなんだけど。でも、作り始めたときから、そういうアルバムになるんじゃないかっていう予感はあったよ。
--前作の『Who We Touch』に比べても、すごくチャレンジングなアルバムだと思いました。
ティム・バージェス:うーん、特に新しいってことにチャレンジしたっていうことじゃないと思うな。アルバムに着手するとき、自分たちがバンド・メンバーを亡くしたことについて、本当に色んなことを感じていたんだ。それでも、バンドでスタジオに入った時に、みんなが同じような気持ち、同じような精神状態で居られたっていうことが、このアルバムにとってはすごく重要だったと思う。
で、そこで何をやろうかっていうときに、むしろ、やりたくないことの方が多かったんだよね。前と同じこととか、慣れてるから自然に出来ちゃうことはやめよう、とか。例えばマークが慣れたギターのフレーズをパパパッと弾いちゃうとか、僕がいつもの歌い方で歌っちゃうとかね。
いま振り返ると、モダンなことがやりたかったんだと思う。でも、それを自然にやりたかった。それが自分たちにとってチャレンジングだったかどうかは分からないけど、具体的な設定よりもそういうことをやろうとしたアルバムだったんだ。
--モダンというのは具体的に何についてのモダンさでしょうか? サウンドとか?
ティム・バージェス:サウンドでもあるし、考え方のモダンさでもあるね。いまって10年前と比べても、すごく色んな音が飛び込んでくるよね。例えば携帯電話の音とか。そういうことが頭にあったかもね。
--それは「そこを離れたい」という意識でしょうか?
ティム・バージェス:面白い質問だね。どちらかと言うと、それを記録するようなイメージかな。このアルバムは未来的なアルバムではなくて、いまのアルバムなんだ。
--例えば、「Talking In Tones」は、バンジョーを思わせるようなアナログな質感を感じる音と、シンセサイザーやドラム・マシンの未来的な音が混ざっているようなサウンドに仕上がっていますが、そういった意識はありましたか?
ティム・バージェス:そうだね。あの曲はエンリオ・モリコーネの映画的なサウンド・スケープを意識したよ。
マーク・コリンズ:バンジョーは入って無いけどね(笑)。
(一同笑)
ティム・バージェス:そう。あの曲ってペチャクチャ喋ってるような感じがあるよね。色んなドラム・マシンの音が聴こえてきたり、全体的にはものすごく悲しさとか不安、静けさみたいなものもあったり。サビになったらユーフォリックな、すごく幸せに溢れた感じがあったり、かと思えば、すごくエッジな部分もあったりして、ものすごく対照的な要素が詰め込まれた曲だ思ううよ。と同時に、ちゃんと空間はあるっていうね。
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レコードを作る理由を自分たちで見つけなければいけなかった
--個人的には、アルバム全体がとてもユーフォリックな作品だと思いました。
ティム・バージェス:それはたぶん、どの曲にも強いサビがあって、なおかつ、それに向かって曲全体がビルドアップしていくようになってるからじゃないかな。
マーク・コリンズ:「Come Home Baby」もすごくいいサビだよね。
--ですね。「Come Home Baby」でゴスペルのコーラスを取り入れたのはどういう意図からでしょうか?
ティム・バージェス:ゴスペルっていうのはアイデアとして元々あったんだ。最初は「Trouble Understanding」に入れてみて、「うーんでもこれはどうかな?」って考えていたら、トニーが「Come Home Baby」に入れてみようって言い出して。さらに「Let The Good Times Be Never Ending」にも試してみて、最終的には全部に入れることになったんだ。そこはちょっと過剰なくらいやりたいって思ってたよ。
――ある意味では、そうやって色んなサウンドの組み合わせを試したアルバムでもある?
ティム・バージェス:そうだね。アイデアが湧くたびにそれを全て試す、というようなところはあったと思う。
マーク・コリンズ:ショーン・ヘイガンにストリングスを頼んだのもそう。2曲頼んでみて結局は1曲しかうまく行かなかったんだけど。あとはブラスを入れてみようとか、バックコーラスを入れてみようとか。そいうアイデアが出る度に、それに合いそうな曲で試してみる、みたいなプロセスだったと思う。
――なぜ今作についてはそういう作り方を試したのでしょう?
ティム・バージェス:ある意味では、今回はチャンスだと思ったんだよね。というのも、自分たちにはドラムがいなかったから。じゃあ、何でもやれるってなった時に、ここはスティーブ・モリスに頼んでみようとか、ここにはシンガーを加えてみようとか。ショーンにストリングス頼んでみようとか。そうやって色々作っているうちに、それぞれの曲にキャラクターがあることに気が付いたんだ。で、それをどんどん強めていったというか。例えば「Talking In Tones」のキャラクターはドラム・マシンだよね。そういう風に、それぞれの曲に特徴的なキャラクターが出てきた時にそれを不安に思わずに、むしろ押し進めていくっていう。そういうアプローチを取った結果なんだ。
――なるほど。では、そういったアプローチを取る上で、インスピレーションを受けたミュージシャンや作品はありますか?
マーティン・ブラント:うん。いくつか影響があるよ。
ティム・バージェス:さっき話したみたいに、曲のキャラクターを不安に思わずに押し進めるっていう意味では、いま思いついたんだけど、マーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイング・オン」の影響がある気がする。あの曲はアーティストとして制限が無いっていう曲だっていう気がするから。何でいま思いついたのかは自分でも分からないんだけど。
あと、作ってる最中に影響を受けたのは、ウィリアム・オニーバーっていう70年代のアフリカのミュージシャンだね。彼はロシアのシンセサイザーを使った、アフリカでは有名なミュージシャンで、<Luaka Bop>っていうデヴィット・バーンのレーベルから作品が再発されてるんだ。是非みんなにも聴いてほしいね。
マーティン・ブラント:あとはさっき言ったモリコーネ。それにカーティス・メイフィールドからの影響もあると思う。っていうのも、このアルバムはすごくソウルフルなアルバムだと思うからね。
――先ほど話したように、「いま」のドキュメントとして作ったアルバムが結果的にソウルフルな作品になったのはなぜだと思いますか?
ティム・バージェス:もちろん、メンバーを亡くしたっていう前提があったから、ソウルフルなレコードになった理由をシンプルに説明するのは簡単だけど、それは良い方法じゃないって気がする。僕としては、どんなレコードを作るかという理由を自分たちで見つけなければいけなかったアルバムだった、っていうことが関係しているんじゃないかなと思うよ。
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『モダン・ネイチャー』という言葉に各々が意味を見つけた
――では、アルバム・タイトルの『モダン・ネイチャー』という言葉は、どういう意味の言葉でしょうか?
ティム・バージェス:アルバムを作ってるちょうど半分くらいのときに思いついたんだ。バンドとは別のプロジェクトで、友達の家で音楽を作ってたんだけど、その時、本棚から本が頭の上に落ちてきて--まさにアイザック・ニュートン的な瞬間だね--それが同じタイトルのデレク・ジャーマンの本だったんだよ。タイトルっていつも苦労するんだけど、今回の場合は偶然かも知れないけど、向こうからやって来た気がして、見た瞬間にこれがタイトルだって分かった。でも、すごく興奮したと同時にナーヴァスにもなったよ。っていうのも、他の3人がそれをどう思うか分からないからね。でも、3人に言ったら、みんながそれぞれの意味をこの言葉に見つけてくれて、同意してくれたんだ。そうやって4人の意志がパッと揃うことって、いつも起きるわけじゃないんだよね。
『モダン・ネイチャー』って言葉自体は、多分アーティストのマギー・ハンブリングがデレク・ジャーマンに与えた言葉だったと思う。デレク・ジャーマンが晩年作っていた庭があるよね? それを見て彼女が、ただの自然の庭じゃなくて“モダン・ネイチャー”だって表現したんだよ。
――うーん、なるほど。ちなみにその本はどんなことが書かれているんですか?
マーティン・ブラント:基本的にはデレク・ジャーマンの書いた自伝のようなもので、デレク・ジャーマン自身の小さい頃の話や、60年代、70年代のシーンで彼が何をしたか、とかが書いてある本なんだ。で、デレク・ジャーマンって最後にはエイズで亡くなってしまうわけだけど、晩年、ダンジェネスっていう場所に彼自身が作った庭から、すごく慰めを得ていたんだよね。季節がやってきて去っていく様子を、ものすごく詳しく書いていたり、それが彼のおばあさんがやっていた庭の思い出と繋がっていたりとか、そういう本なんだよ。
--よく分かりました。では、最後にどうしてもこれだけは聞きたいので教えて欲しいのですが、ティムのソロアルバムにR・スティーブ・ムーアが参加していますよね? 是非経緯を教えて頂きたいのですが。
ティム・バージェス:R・スティーブ・ムーアね…。いまでもよく連絡を取るんだけど、前にナッシュビルでレコーディングをした時に、午後4時に仕事が終わって人と話していたら、そこから北40マイル先に彼が住んでいるって教えてもらったんだ。で、行ってみたら、そこはキャンピング・カーみたいなもので暮らす、貧しい人たちの集まる場所だったんだけど、そこに彼が居てね。「何か食べる?」って聞いたら、「向こうでピザが売ってるから買ってきて」って言われて。それで、ピザを買って戻ったら、そこからマンチェスターの音楽について夜通し彼と話したんだよね。その後、2週間ナッシュビルにいたんだけど、毎晩そんなことをして過ごしたんだ。それがきっかけになって、彼に自分の作品に参加して貰ったり、彼の作品に参加したりっていう感じで交流するようになったんだよ。
余計なことかも知れないけど、彼がどういう人生を送ってきたのかっていうことを考えると、すごく色んなことを考える。ホントに素晴らしい人だよ。ちょっと気難しいけど(笑)、あんな人は他にいないよね。
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モダン・ネイチャー
2015/02/04 RELEASE
OTCD-4360 ¥ 2,530(税込)
Disc01
- 01.トーキング・イン・トーンズ
- 02.ソー・オー
- 03.カム・ホーム・ベイビー
- 04.キープ・イナフ
- 05.イン・ザ・トール・グラス
- 06.エミリー
- 07.レット・ザ・グッド・タイムズ・ビー・ネヴァー・エンディング
- 08.アイ・ニード・ユー・トゥ・ノウ
- 09.リーン・イン
- 10.トラブル・アンダースタンディング
- 11.ロット・トゥ・セイ
- 12.ウィ・スリープ・オン・ボロウド・タイム (日本盤ボーナス・トラック)
- 13.ウォーク・ウィズ・ミー (日本盤ボーナス・トラック)
- 14.ジャスト・アズ・ロング・アズ・ユー・スティック・バイ・ミー (日本盤ボーナス・トラック)
- 15.アイ・ウィル・ネヴァー・リーヴ・ユー (デモ) (日本盤ボーナス・トラック)
- 16.オネスティ (インストゥルメンタル・ストリングス・ヴァージョン) (日本盤ボーナス・トラック)
- 17.マローダー (日本盤ボーナス・トラック)
- 18.トナル・ナグワル (グランブリング・ファー・リミックス) (日本盤ボーナス・トラック)
- 19.ソー・オー (ブライアン・ジョーンズタウン・マサカー・リミックス) (日本盤ボーナス・トラック)
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