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ジョニー・フェイス 来日インタビュー
2015年2月に英<Tru Thoughts>からアルバムデビューを果たした英国出身オーストラリア在住の新鋭プロデューサー、ジョニー・フェイス。先日3月6日には初来日公演も行い、同レーベルの大先輩で、自身も大きな影響を受けたというボノボとの共演で、日本のリスナーにも大きな印象を残した。
そのデビューアルバム『Sundial』は、フライング・ロータスをはじめとするLAビートシーン譲りの、ヒップホップの影響を咀嚼したビートと、シンセサイザーやサンプル音によって紡がれるメロウなテクスチャーが同居した傑作。「日時計」というタイトルが醸す、あたたかみがあって、どこか郷愁を誘うようなニュアンスにもピッタリのそのアルバムは、まさに、長い冬が終わり、あたたかい春が訪れようとしているこの季節にもよく似合う仕上がりだ。
今回は、そんなジョニー・フェイスに、『Sundial』のことはもちろん、前述のLAビートシーンについてや、彼がいま住んでいるオーストラリアはメルボルンのローカル・シーンのことに至るまで、様々な話を聞いた。その作風にも表れている穏やかな口ぶりも印象的な彼の言葉に、ぜひ耳を傾けて欲しい。
バーベキューの炭が燃えてパチパチっていう音を使ってて
すごくオーストラリアっぽい(笑)
??ジョニー・フェイスというのは本名ですか?
ジョニー・フェイス:うん、そうだよ。
??以前には別名義でも作品を出していますよね?
ジョニー・フェイス:ドロップワイズ・ダブっていう名義で、ダブル・シングルを一枚だけね。
??じゃあ、アルバムを作ったのは今回が初めてですか?
ジョニー・フェイス:そう、今回の作品が僕のファースト・アルバムだね。アルバムは「最初から最後まで“聴く”音楽」だと思うから、それを作る心の準備がなかなかできなくて。作り始めるまで時間が掛かってしまったね。
??“聴く”音楽とはどういうニュアンスですか?例えばリビングとかで聴く音楽っていうことでしょうか?
ジョニー・フェイス:“聴く”音楽っていうのは、最初から最後まで全ての曲が興味深くて、かつ全体に流れがあるものっていうか。鑑賞する作品という感じかな。
??なるほど。もともと曲作りを始めたのはいつ頃ですか?
ジョニー・フェイス:本格的に始めたのは5、 6年前だね。高校を出て大学でミュージック・プロダクションを習い始めた時も、ちょっとだけ音をいじったりはしてたんだけど、その後DJを始めてからは、そっちのスキルを磨く方に専念しちゃって。スクラッチとかを覚えるのにも時間が掛かるからね。で、一回は完全にそっちに移行したんだけど、5、6年前に作曲にも戻って来たという感じだね。
??昔作っていたのも今のようなビート系の音楽?
ジョニー・フェイス:その当時はドラムンベースが好きで自分でもそういう音楽を作ってた。でも、僕の場合、何かのジャンルに合わせて音楽を作るのが難しくて。今はジャンルは気にせず、作りたい音楽を作ってるよ。何か一つのジャンルにフィットするものじゃなくて、いくつかのタイプの音楽の要素を持ったものだね。
??では、曲作りはどこから始めますか?
ジョニー・フェイス:特にルールは無いんだ。コードから始まったり、面白いと思ったサンプル音から始まったり。そう言えば、昨日遊びに行った横浜でも面白いフェリーの音を録音したよ。後で何かのインスピレーションになるかも知れないからね。アルバムではバーベキューの炭が燃えてパチパチっていう音を使ってて、すごくオーストラリアっぽいと思う(笑)。でも、ルールが無いからこそ、ずっと飽きずに続けられているんだと思う。決まりを作ると飽きちゃうと思うな。
??新作の「日時計」というコンセプトが固まったのはいつくらいでしたか?
ジョニー・フェイス:アルバムを作ってる真ん中くらいのタイミングだったと思うな。アートを作ってる時にはよくあることだと思うんだけど、作品を作ってから後でコンセプトが思いつくっていう。最初から意図してたわけじゃ全然なくて、曲を作っていて後から“太陽”とか“ライト”に関係する曲が多いなと思って、コンセプトが固まっていった。あと、アルバムを作っている時、並行してオーストラリアの太陽とか光の写真を撮っていたんだよね。それも今回のアルバムのコンセプトに関係したと思う。
??なぜそのような写真を?
ジョニー・フェイス:もともとは僕の奥さんがノルウェーで、全く自然光がない状態で、ライトを使って建築物を作るっていうプロジェクトに関わっていて、家の周りにそのプロジェクトのための機材が沢山あってさ。その機材の中に、覗き込んだ時に模様の見えるフィルターみたいなものがあって、それを見ているときに“ライト”っていうアイデアを思いついたんだ。そのフィルターをカメラにつけて写真を撮ったら面白い写真が撮れるんじゃないか、と思ったんだよね。
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LAビート・シーンの音楽に触れて音楽への情熱を取り戻した
??新作のアートワークに使われている写真もその写真ですか?
ジョニー・フェイスいや。アートワークには何パターンかあって、最初の頃に出したやつも今のアートワークと似てるけど、僕の撮った写真が使われてたんだ。でも、今はシドニーにいる友達のグラフィック・デザイナーと、彼の友達のプロのカメラマンが撮った写真を使ってる。僕の写真がインスピレーションになってはいるけど、今は完全にプロの仕事に置き換わってるんだよね(笑)。
??アートワークは鏡合わせのような構図になっているけど、これはあなたのアイデア?
ジョニー・フェイスうん。これはもともとの僕のバージョンにもあったアイデアだね。この構図はカレイドスコープからもインスピレーションを受けてるんだ。カレイドスコープを覗くと同じ形がいくつも並んだように見えたりするよね。ああいうのを意識したよ。
▲ Boards of Canada「Over The Horizon Radar」
??“カレイドスコープ”と聞くとボーズ・オブ・カナダのアルバム(『Geogaddi』)を思い出します。
ジョニー・フェイス:ああ。彼らの音楽ももちろんすごい聴いていて、すごく影響されてるね。
??新作はボノボの作品が比較されることが多いと思いますが、嫌ではないですか?
ジョニー・フェイス:嫌じゃないよ。彼は僕のヒーローだから、むしろ光栄だね。でも、ある女性のジャーナリストが「ボノボの作品とも似ているんだけど、ちゃんと違いがある」っていうことをレビューに書いてくれて、それは嬉しかったよ。あと、僕らが比べられるのは、単に僕が<Tru Thoughts>と契約したせいもあると思うしね。
??アルバムはフライング・ロータスやハドソン・モホークのようなビート・メーカーとも繋がりを感じます。
ジョニー・フェイス:まさにそうだね。ビーツ・シーン??ある人はLAビートって言ったり、ウォンキーと言ったり、フューチャー・ビーツって言ったりするけど??が盛り上がってきた2005年頃って、僕はそれまでDJとして関わってたドラムンベースのシーンが退屈になってるように感じて、音楽に興味を失っていた時期だったんだ。そういう時にLAビート・シーンの音楽に触れて、すごく面白いと思った。ダブリー(Dabrye)なんかもそうだけど、初期のヒップホップのビートに影響を受けた、クオンタイズされ過ぎてない、ゆるいビートというか、完璧過ぎないところに惹かれて、また音楽に情熱を感じることができたんだよね。だから、僕の音楽には絶対にフライング・ロータスとかハドソン・モホークの影響があると思う。実際、二人がシドニーに来た時、サポートとして一緒にプレイしたこともあるんだよ。
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メルボルンは町中やカフェで聴く音楽がヒップホップ系だった
??なるほど。ちなみに今もまだシドニーに住んでいるんですか?
ジョニー・フェイス:いや、今はメルボルンにいるよ。
??メルボルンのシーンはいかがですか?
ジョニー・フェイス:すごく良いよ。特にアンダーグラウンドのビーツ・シーンとか、ヒップホップのシーンが良いね。良いプロデューサーもDJもたくさん居る。最初にシドニーからメルボルンに行った時に気づいたのは、町中やカフェで聴く音楽の多くが自分の好きなヒップホップ系のビートのものだったことだね。シドニーの場合、もっとハウス・シーンの影響が大きかったからね。あと、メルボルンには大きなテクノのシーンも有るんだよね。
??最近、オーストラリアで面白いと思うアーティストは誰がいますか?
▲ Hiatus Kaiyote「The World It Softly Lulls」
ジョニー・フェイス:いっぱいいるよ。ハイエイタス・カイヨーテはすごく良いバンドだよね。あとは…友達のプロデューサーが多いから誰をピックアップするか迷うけど、ソフィー・ルイーズっていう女性ミュージシャンは良いね。あと、メルボルンには同じ<トゥルーソーツ>のディズ・ワンもいる。それから、ハイエイタス・カイヨーテがfacebookでシェアしていて知ったんだけど、テイラー・クロフォードっていうミュージシャンが居てさ。彼はまだ契約が無いんだけど、気になって連絡したらダブル・アルバムを送ってくれたんだ。これが本当に美しくてさ。スタイル的はアコースティック・ヒップホップというか。シンセもドラム・マシンも使ってて、それに加えてストリングスとか筝とかを演奏するんだよ。
??是非聴いてみたいです。今回、日本でのライブは初とのことですが、緊張はないですか?
ジョニー・フェイス:少し緊張してる。でも、全く緊張してないってことは、全く何も気にしてないってことになっちゃうから、少しくらい緊張するのが良いことなんだと思うよ。
??今日のライブはDJセットということですが、ご自分の曲をプレイする予定ですか?
ジョニー・フェイス:今日は自分の曲と他人の曲を両方やる予定だね。セットを1部、2部という感じで分けて、前半の45分間は<Ableton>を使って自分の曲を掛けて、後半はドラムンベースとか、フットワークとか、ヒップホップとかを掛けるよ。普段DJする時は、他の人の曲に自分の曲を混ぜると流れが悪くなるような気がして、自分の曲を掛けるのはあんまり好きじゃないんだ。それよりも、今日みたいにセットを分けて、自分で自分の曲をコントロールして、自分の曲をミックスして変えて行くようなやり方のほうが好きなんだよね。
??今日はボノボとも一緒にプレイしますね。
ジョニー・フェイス:そうだね。僕が彼の前にプレイするんだけど、すごく光栄だね。彼の音楽は本当に何年も何年も聴いてきたからさ。すごく楽しみだよ。