初期～終焉までを見届けたスタックスの生き証人

▲ 『ワウ／
バウンド・トゥ・ハプン』

　1939年、米・テネシー州メンフィス生まれ。地元の名門レーベル スタックスの看板シンガーであったルーファス・トーマスのバック・バンドからキャリアをスタートし、やがてソングライターとして同レーベルと契約、デビューを果たしたウィリアム・ベル。1961年のデビュー以降、スタックスが終焉を迎える1974年までの間に、32枚ものシングルを同レーベルから発表している。全米チャートTOP10を賑わすような爆発的なヒット曲には恵まれなかったものの、伸びやかで落ち着きのある歌声が魅力の“玄人好み”のシンガーだ。

　キャリアの中で最もポピュラーなナンバーとしては、1961年発表のデビュー曲「ユー・ドント・ミス・ユア・ウォーター（恋を大切に）」が挙げられる。同曲はサザン・ソウルを代表するする名曲として、多くの人に歌い継がれている泣きのバラード。オーティス・レディングによるカバーを筆頭に、ジェリー・リー・ルイス、バーズ、タジ・マハール、そして80年代にはブライアン・イーノが映画のサウンドトラックのためにカバーを手掛けたりと、その顔ぶれからもジャンルや時代を超越して愛されているスタンダード・ナンバーであることが分かるだろう。

レーベルメイトとの共演も多数

▲ 「Tryin’ To Love Two」

　生粋のスタックス・アーティストであるベルは、レーベルメイトとの共演も多数。なかでもディオンヌ・ワーウィックの義理の妹であるジュディ・クレイとは1968年にデュエット2曲を発表し、「プライベート・ナンバー」は全米では75位ながら全英チャート8位のヒットを記録している。とはいえ、チャートという観点においてのピークはスタックス時代のナンバーではなく、レーベル倒産後にマーキュリーへの移籍第一弾として1976年に発表された「トライン・トゥ・ラヴ・トゥ」。これまでベルが得意としてきた、サザン・ソウル的な“泣き”のナンバーとは一転、ポップス寄りの同曲が自身最高位となる全米10位、全米R&BチャートNo.1をマークしている。

ソングライターとしての功績

▲ 『ボーン・アンダー・
ア・バッド・サイン』
／アルバート・キング

　ベルのソングライターとしての功績としては、1967年にブッカー・T・ジョーンズとのタッグで手掛けたアルバート・キングの「ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン（悪い星の下に）」が挙げられる。同曲はクリームほか、日本でもRCサクセションが日本語でカバーするなど、ブルース＆ソウル・クラシックとして多くの人に愛されている名曲である。ウィリアム・ベルによるスタジオ録音は残されていないが、1989年ブッシュ大統領就任の際に行われた記念コンサート『セレブレーション・オブ・ブルース＆ソウル』で、ローリング・ストーンズのロン・ウッドとともに同曲をパフォーマンスしている映像が近年パッケージ化されている。

オーティス・レディングとの関係

▲ 『オーティス・ブルー』／
オーティス・レディング

　ベルの足跡を辿る上でもうひとつ触れておきたいのが、スタックス傘下のレーベル ヴォルトの第一弾アーティストとしてデビューを果たし、レーベル史上最大の成功を収めたオーティス・レディングとの関係だ。オーティスによる「ユー・ドント・ミス・ユア・ウォーター（恋を大切に）」は、1965年発表のサード・アルバム『オーティス・ブルー』に収録されているが、このアルバムの中から飛び出したヒット曲「リスペクト」のシングル・バージョンでは、なんとレーベルの先輩であるベル自らがバッキング・コーラスで参加しているという。

▲ 「A Tribute To A King」

　ベルは早くからオーティスの才能を認め、自身は一歩下がってレーベルの一員として彼の活動をサポートしていたそうだ。そうしたサポートを経て、瞬く間にスタックスの看板アーティストへと成長したオーティスだったが、ご存知の通り、1967年12月、ツアー中の飛行機事故で命を落としてしまう。彼の突然の死を悼んでベルが発表した「ア・トリビュート・トゥ・ア・キング（オーティスに捧げる歌）」は、まさに弔辞そのもの。優しく語りかけるような歌声が心に沁みる、皮肉にもベルの真骨頂である“泣き”のソウル・バラードとなっている。

今も変わらぬ歌声を届けるソウル・レジェンド

　御年75歳ながら、現役バリバリの歌声を披露しているウィリアム・ベル。最後に、2013年に盟友らと繰り広げたホワイトハウスでのコンサートや、つい先日の英BBCによるカウントダウン特番出演の模様など、最新パフォーマンス映像をチェック。コレを見たら、初来日ライブを観ないわけにはいかないでしょう!!

▲ 「You Don't Miss Your Water at the White House 2013」

　2013年4月にホワイトハウスで行われたメンフィス・ソウルのトリビュート・コンサートにメイヴィス・ステイプルズやサム・ムーア、ブッカー・T・ジョーンズ、スティーヴ・クロッパーなどメンフィスを代表する豪華メンツとともに出演した時の映像。衰え知らずのソウルフルな歌声に、うっとりと聴き入るオバマ大統領の姿も。盟友ブッカーT.ジョーンズの演奏も必見必聴！

▲ 「Private Number feat. Joss Stone」

　こちらは昨年大晦日、イギリスBBCの年越し特番「Jools' Annual Hootenanny」で「Private Number」をパフォーマンスした時の映像。デュエットのお相手はジョス・ストーン。年の差約50歳の“孫世代”であるジョスを貫禄の歌声で見事に圧倒している。色褪せない名曲の魅力を再認識させてくれる番組の名ホスト、ジュールズ・ホランド率いるオーケストラの華やかなサウンドも見物だ。

▲ 「Happy」

　同番組からもう1本。アップテンポなダンス・ナンバーの「Happy」。実は同曲は60年代末にイギリス北部で生まれたクラブ・ムーヴメント“ノーザン・ソウル”のキラー・チューンとして、密かにイギリスで愛されてきたナンバーなのだ。しっとり歌い上げるバラードとは一転、ベルの豪快なシャウトが冴えわたる。

▲ 「I Forgot to Be Your Lover feat. Snoop Dogg」

　最後に変わりダネをひとつ。昨年アメリカにて公開されたメンフィスの音楽シーンを描いたドキュメンタリー映画『Take Me To The River』（日本未公開）のサウンドトラックに収録されている「I Forgot to Be Your Lover」のセルフカバーでは、なんとスヌープ・ドッグをフィーチャー。世代を超えたコラボにより、自身の名曲を見事に現在進行系にアップデートしている。

ビデオ・メッセージ

ウィリアム・ベル 最新メール・インタビュー (1)

??子供の頃は医者になろうと思っていたそうですが、なぜ医者になろうと思ったのですか？

ウィリアム・ベル（以下WB）：実は、両親が僕に家族で初めての医者になって欲しがったんだ。医者になるっていうのは僕の夢というより彼らの夢だったんだよ。

??ご自身で振り返って、どんな子供だったと思いますか？

WB：子供の頃の僕は、一匹狼タイプで、あまり多くの人と関わりを持たなかったんだ。一緒に遊ぶ親しい友達も2人くらいだったし、無理して周りに溶け込もうともしなかったね。大人びた子供だったんだよ。

??あなたがゴスペルから世俗のシンガーに転向したのは14歳の頃とのことですが、そのままゴスペルのシンガーのままで居続けたらどうだったか想像できますか？

▲ Sam Cooke & Soul Stirrers「Jesus Gave Me Water」

WB：12歳の時に父に連れられてサム・クックのコンサートに行ったんだけど、それがきっかけで、僕が本当にやりたいのはこういう音楽なんだって思い始めたんだ。もしあのコンサートに行っていなかったら、どんな人生になっていたか想像もつかないよ。

??初期のあなたの歌にはサム・クックなどと同じようにフランク・シナトラのようなエレガントなポップ・シンガーからの影響もあると思いますが、なぜそのような歌い方をしようと思ったのですか？

WB：フランクをまねて歌おうと思ったことはないけれど、彼に影響を受けたのは確かだね。14歳の時に、カウント・ベイシー・オーケストラのようなビッグバンドと仕事で関わる機会があったんだけど、その時にスタンダードなものから、何から何まで、ジャズの音楽に心を奪われてしまったんだ。

??シナトラと言えば、最近、ボブ・ディランがシナトラのカバー・アルバムをリリースしましたが聴きましたか？

WB：まだ聞いてないよ。でも、面白そうだね。

??あなたがゴスペルを歌い始めたのは7歳前後とのことですが、ソングライターを目指すようになったのはいつ頃なのでしょうか？

WB：自分で曲を作るようになったのは、13歳頃になってからかな。

??ご自身が書いた曲の中で最も気に入っている曲は何ですか？

WB：自分が書いた曲のなかでは「ユー・ドント・ミス・ユア・ウォーター」が一番好きだね。この曲のおかげで僕の音楽キャリアの道が開いたからね。

??数多くある「ユー・ドント・ミス・ユア・ウォーター」のカバーの中で、特にお気に入りのものがあったら教えて下さい。

▲ Otis Redding「You Don't Miss Your Water」

WB：全部好きだよ!! だけど、そのなかでもオーティス・レディングのカバー・バージョンは格段に素晴らしいと思うよ。

??ソングライターとして、最も影響を受けた人物は誰ですか？

WB：サム・クックだね。彼のソングライティング・スタイルが好きなんだ。ほかにも、僕はカントリー音楽が大好きで、ハンク・ウィリアムスにも影響を受けたよ。

??あなたはシンガーであると同時に優れたプロデューサーでもありますが、いま誰かプロデュースしてみたいアーティストはいますか？

WB：是非機会があればブルーノ・マーズをプロデュースしたいね。彼は僕が作るような音楽が好きみたいだし。

??最近はスタックス・ミュージック・アカデミーの生徒とも関わっているようですが、彼らとあなたの関係は、十代の頃のあなたとフィニアス・ニューボーンの関係に似ていると思いますか？

WB：スタックス・アカデミーの生徒を見てると、昔の僕を思い出すよ。アカデミーには才能豊かな子達がいる。彼らと活動するのは楽しいし、かつて、フィニアスが僕にしてくれたように、彼らの夢をかなえる手助けができてとても嬉しいね。

??昨年にはメンフィスの音楽をテーマにした映画『Take Me To The River』にも出演されていましたが、どのような経緯で参加されたのですか？

WB：ボウ・ミッチェルが監督のマーティン・ショアに頼まれて、僕にコンタクトを取ってきたんだ。それで一度監督と会って映画の構想や彼のアイデアを聞いてみたら、興味が沸いてきて映画にも参加したいって思ったんだよ。そこで監督にアカデミーの生徒達も映画に加えてもらえないかと頼んだら、賛成してくれてね。僕にとっては彼ら生徒たちが参加できるかどうかが重要なポイントだったんだ。

ウィリアム・ベル 最新メール・インタビュー (2)

▲ Take Me to the River: Behind the Scenes

??スヌープ・ドッグとの共演はいかがでしたか？彼はとてもあなたを尊敬しているようですが。

WB：最高だったよ。彼は音楽に対して真摯に取り組む人間で、このコラボの発起人だったんだ。アカデミーの生徒達との共同制作も楽しんでいたようだし、スヌープと僕は会ってすぐにフィーリングがばっちり合ったよ。

??メイヴィス・ステイプルズとジェフ・トゥイーディの手によって完成したポップス・ステイブルズの『Don't Lose This』は聞きましたか？

WB：まだ聴いてないね。というのも、公演中やスタジオにいるとき以外はあまりたくさん音楽を聴かなくて。もちろん、ポップス・ステイプルズのことはよく知っている。彼は生まれつきの才能の持ち主で、創造豊かなアーティストだったね。彼の歌声はゴスペル界きっての美声で、ジャンルを超えた卓越したものだったよ。

??もし、ジェフ・トゥイーディとクエストラブのどちらかとアルバムを作るなら、どちらが良いですか？

▲ Pops Staples「Somebody Was Watching」

WB：ジェフ・トゥイーディだね。彼はすごくアイデアに溢れた、イノベイティブなタイプの人間だと思うし、音楽に対する彼の姿勢には感服してるんだ。

??オーティス・レディングに捧げた「トリビュート・トゥ・キング」をリリースした経緯について教えてください。

WB：オーティスは、初めて会った日からずっと仲のいい友人だったんだ。ツアーを一緒に廻ったこともあるし、いつも一緒につるんでいた。彼が亡くなった時に感謝のしるしとしてこの曲を書いて、彼の奥さんに送ったんだ。そしたら彼女にこの曲をリリースするようにって説得されたんだよ。

??いよいよ初来日ですね。今の気分はどうですか？

WB：日本に行けて嬉しいよ。長年、日本では、音楽面では成功してきたけれど、実際に行くのは今回が初めてなんだ。ファンや友人に会うのが待ちきれないよ。

??日本でのライブについて、他のミュージシャンから意見を聞いたりしますか？

WB：日本について教えてくれたミュージシャン達はみんな、日本の公演をとても気に入ったと言っていたよ。だから、この来日公演も僕にとって素晴らしいものになるだろうね。長い間、音楽活動をしてきているけど、いまだに初めての経験をする機会が持てることに、とてもワクワクしているよ。

??昨年のBBCのライブ映像をみましたが今でも全く声が衰えてないですね。何か心がけていることがあれば教えて下さい。

WB：悪いことには手を出さない主義なんだ。ドラッグに興味を持ったことなんて一度もないし。何事も鍛え続けることが必要だから、発声練習はしっかりとするよ。ほかには、パフォーマンス前にいつもホット・ティーを飲むね。

??今回はどのようなメンバーで来日する予定ですか？

WB：今回は、ロイ・ロバーツ・バンド（Roy Roberts Band）と一緒にステージに立つ予定だよ。彼らの演奏は素晴らしい。メンバーの大体がこの業界で25年以上活躍しているベテラン・ミュージシャン達なんだ。

??演奏する予定の曲が決まっていたらいくつか教えて下さい。

WB：「エヴリデイ・ウィル・ビー・ライク・ア・ホリデイ」や「ユー・ドント・ミス・ユア・ウォーター」、「アイ・フォーガット・トゥ・ビー・ユア・ラヴァ―」のような往年ヒットソングを歌う予定だよ。ほかにもスタックス・レコーズからの「ノック・オン・ウッド」や、「ドック・オブ・ザ・ベイ」なんかの、オーティスの曲もいくつかプレイするつもりさ。バラエティに富んだ最高のセットリストになるよ！

??日本のファンにメッセージをお願いします。

WB：僕たちが演奏するのは本場メンフィスで生まれた正真正銘のソウル・ミュージックなんだ。僕らはそれを50年ずっとやってきた。もし本場の音楽を聴きたい人がいるなら、その人達に本物のソウル・ミュージックを聴かせてあげるよ。