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TK from 凛として時雨 『film A moment』インタビュー
“不安になってしまう人は多いと思う”
昨年、最新アルバムで週間セールス1位を記録。その轟音を思えば、驚異的な支持を得た凛として時雨だが、このたびTK(vo,g)が“TK from 凛として時雨”名義にて、ソロ作品『film A moment』をリリースする。フォトブックとDVDという、音楽作品としては異質な形態となった本作。そして今、音楽家として直面する現実についてまで、答えてもらった。
考えるほど、ソロ以外ではやりようがない
--思えば昨年末の凛として時雨のツアーでは、プロジェクターを使った演出がありました。映像を使った見せ方というのは、TKさんにとって次のステップにあたるのでしょうか?
TK:ライブでの映像の見せ方って難しいんです。より踏み込んだ物事が見えてしまうというか、抽象的だったモノが見えてきてしまうという部分がライブだと特に強いんです。ただ、もうちょっと踏み込んで見えるモノの中で表現してみたいって想いが、フツフツと出てきていたので、それがツアーの演出や今回のプロダクトに繋がった部分はありますね。
--昨年秋にアルバム『still a Sigure virgin?』で週間セールス1位を獲得しましたが、そうしてより観衆が増えていく中で、完成された演出に以前とは違った変化を加えたことに驚いた部分もありました。
TK:もちろん1位になったのは嬉しいんですけど、偶然といえば偶然ですし、実はあんまり体感できていないというか(笑)。だから演出面でそういった点を踏まえることはないですし、照明スタッフや舞台監督など表から演出する人に委ねることが多いですね。
--そして4月27日、PHOTO BOOK+DVD作品として『film A moment』をリリースします。こちらは“TK from 凛として時雨”名義では初の作品になります。
TK:シングル『moment A rhythm』に付属したフォトブックは凄く好きだったんですけど、もっと目に見えるモノってところに入り込むにはどうしたらいいのか。って考えた時に、やっぱり映像かなって。ただ、写真で一瞬を収めることはできても、それを連続させて切り取ることは未経験だったので、どう動いていけばいいのか分からなかったんです。ビデオカメラの勉強をすればいいのか、編集技術が先なのか……。 あと、映像を撮るのも写真を撮るのも自分だとして、それを時雨の作品と言えるのか、っていう葛藤もありました。普段、作詞作曲からレコーディングなどまで自分でやっていても、3人で音を出すのとひとりでやるのとでは明らかに違うんです。何となくその……、「ふたりが寂しいかな?」っていう想いもあったりして(笑)。 そうしてなかなか動けなくなっている時に、「そういうプロダクトなら、時雨の枠を考えずに作る方が、中途半端にならなくていいんじゃないか」って話があって。確かに考えれば考えるほど、ソロ以外ではやりようがない。時雨として中途半端に出すよりも、振り切った方がいいんじゃないかって判断をしました。どういう作品形態にするかも色んな可能性があったんですけど、今回は映像と一緒に見てもらいたいって大前提があったので、DVDと写真集という形にしました。
--本作で使用されている映像は、どちらで撮影されたのでしょうか?
TK:スコットランドとアイルランドですね。それぞれ別の時期に行っているんですけど、一回目はアルバム『just A moment』をリリースして、ツアーが終わった後。オフがあったので、「じゃあ行ってみようかな」ってスコットランドを一人旅してきました。8mmカメラは知り合いに借りたんですけど、どう映るかも分からないながら撮ってみて、帰って現像したフィルムを確認してみたら、自分の求めていた質感に近かったんです。
ただ、それがどういうパッケージになるのか見えていない状況で、そうこうしている内に次のアルバム『still a Sigure virgin?』の制作に入って、それが終わると「……ってことは、また行っていいのかな?」って(笑)。次はロシアなのか、もう一回スコットランドなのか。他の国も含めて色々考えたんですけど、時期的に飛行機のチケットがもう無かったんですよ。で、スタッフに相談したら、旅行代理店の方がアイルランド行きを一席用意してくれて。
--アイルランドの時は、既にサウンドの構想なども決まっていましたか?
TK:どちらかというと素材を先に撮って、って感じですね。映像は写真以上に合う合わないがはっきり出てくるので、僕が撮ってきた8mmの素材に「Telecastic fake show」は合わなかったり(笑)。まずは8mmで撮ってきて、そこに合う音を考え始めた時、映像の入口としてぴったりだったのがピアノだったんです。
映像は殆どその2回の旅でしか撮影できなかったので、何かを想定して撮ることができなかったんです。カメラと違って、何処がどう映っているか分からないので、現像してみたら全部上ずっている映像とかもたくさんありました(笑)。
Interviewer:杉岡祐樹
制限がないことで自分と向き合えました
--映像の編集作業はTKさんが?
TK:ソフトの使い方から、学んでいくことになるとは思わなかったです(笑)。レコーディングは何とか独学でやってきて、ひとまずCDを出せるくらいにはなってきているんですけど、映像はまったくのゼロからだったので、色んな人に訊きながら迷惑もかけつつ、助けてもらいました。
--M-01「introduction」は、行間を感じさせる映像になっています。写真に近い部分もあって、受け手に想像させる余白が多いんですよね。
TK:M-03「film A moment」だけ違う方にも撮ってもらったんですけど、プロの方は撮りたい画をそれぞれちゃんと映し出せるし、進む方向がはっきりしている。自分はまったく分からない状態で撮っているので、何を撮りたいのかも分からない映像になっているんです(笑)。ピアノのサスティンを響かせる余白を残したかったので、ひとつひとつの音が長く録音されていたりして、映像もひとつの場面が長かったりしますよね。
--いわゆる定型の映像が無い分だけ、受け手がフラットな状態で楽しめ、落とし込まれた感情を探っていける。TKさんの旅を追体験するような感覚でした。
TK:そう言って頂けると嬉しいですね。ただ、この旅はけっこう大変だったんですよ(笑)。「とりあえず素材を撮らなければ」って、カメラをブラさげて信じられないような道を何十キロも歩いたりとか……。欲しいモノが明確にある訳でもなく、常に何かを探している状態でした。一種の焦りを感じながら迷っている感じ。それがフラットに映っているんじゃないかと思います。人には漠然とした映像かもしれないですけど、音楽と相まって伝わり易くなったんじゃないかって思います。
--では、曲作りにおいて時雨との違いを感じたところは?
TK:スタジオで弾いたり歌ったりして作るってところにおいては、変わらなかったです。ただ、バンドに置き換えるプロセスが無かったというか、再現性も考えなかったですし、楽器に関しても制限がない。それに付随して取捨選択の難しさも増していくんですけど、鏡の前に立たされて作った感覚です。どちらが良いという訳ではないですけど、そういう部分での純度は高いですよね。
ひとりで制作する上では、制限がないことで自分と向き合えましたし、やりたいこと、演奏したいこと、表現したいことをちゃんと分かっていないと、とっ散らかってしまう。それぞれの難しさが分かった点は良かったです。
--M-02「white silence」は7分強の楽曲ながら、リフレインのメロディがあって、繰り返しの展開があってと、聴き慣れた楽曲の形を保っていますよね。
TK:元々作ったデモが3~4分くらいの楽曲だったんです。その後に(湯川)潮音ちゃんと一緒にやることになって、そうなるからには彼女の歌がある前提で作り直したかった。やっぱり潮音ちゃんの存在は大きいですね。
--湯川潮音さんはボーカリストとしても、かなり特殊な声をお持ちの方ですよね。
TK:歌声が不思議な伸び方をするんですよね。初めて生で聴いた時はびっくりしました。本当に小さな声がもの凄く伸びたりする。絶対に自分にはできないし、自分になかったモノを添えてくれた感じですね。
僕も人のことは言えないですけど、彼女はしゃべっている時の声と歌っている時の声が全然違うんですよ。レコーディングはうちのスタジオでやったんですけど、「じゃあ歌いますねー」とか言ってて、いざ始まると「さっきのは誰だったんだ!?」ってくらい凄い声を出す(笑)。「たぶん俺もこんな風に思われてるんだろうなー」って、自分と重なって見える部分があって勉強になりました(笑)。
--確かに彼女の魅力を十二分に発揮させたメロディですよね。
TK:あの部分だけ聴くと、潮音ちゃんの曲だと思っちゃいますよね(笑)。ラジオであそこだけ流れたらどうしよう、って(笑)。
--feat.TKですね(笑)。
TK:そうそう(笑)。彼女の声は自分の手の中にあるモノではなかったので、最初からすんなりとは良い形で収まらなかったんです。でも、すぐに収まっていたとしたら、予想通りの曲になっていたと思います。一筋縄ではいかなかったことが、結果としては良かった。声を聴いてから作り直した部分はありますし、歌詞も変えました。最終的には映像も変わりましたし、一緒に作った感覚が強いですね。
Interviewer:杉岡祐樹
考えても考え切れないところが、まだある
--そして「film A moment」は、先ほどのお話にもあった通り、上記2曲とは違う質感の作品になりました。こちらの映像は何と言ってもBOBOさんだと思います。まさかいつものスタイルで登場するとは……(笑)。
TK:レコーディングが終わり次第撮影だったんですが、ゼブラ柄の短パン姿になってました(笑)。BOBOさんは、例えば16分を刻んでいるとして、尺はピッタリながらもその中で蠢いているというか。そもそもが矛盾しているドラムだと思うんです。(ピエール)中野くんは逆のタイプで、テクニックとかを凄く見せてくれるし、彼にしかないタイム感で時雨を決定付けるドラムを叩いてくれる。BOBOさんはドラムキットも特殊ですし、ミックスしていくプロセスも、いつものようにいかなかったんですけど、ハマッた時が凄く面白くて癖になるんです。
--しかも、同曲では、ピエール中野さんのギターをまたしても聴くことができるという特典もあります。
TK:345ボイスと共に、ですね(笑)。レコーディングの時は僕のギターで録音しようって流れだったんですけど、当日にスタジオのインターホンが鳴ってモニターホンを見たら、ギターバッグを背負った中野くんがいたんです。……ギター少年のようでしたね。ギターキッズが舞い降りました(笑)。
--また、今回の作品にはDVDのメニュー画面がスライドショーになっていて、BGMが挿入されています。自分はこの曲、大好きなんですよ。
TK:普段あんまりDVDを観ないんですけど、静止画にメニューがあるのが普通らしいんですよね。でも、1枚の静止画を作るくらいだったら、写真集で使わなかったカットを並べた方が、見せたいモノを見せられると思ったんです。ただ、選出した50枚の写真を指定した秒数で表示していくと13分になるんですけど、最初に使おうと思っていた曲は2分半しかなかった。単に音をループさせるのも何だしと思って録り直してみたら、ちょうど良い感じに収まったんですよね。
--あの雑踏のような音は?
TK:全て向こうで録ってきた音なんですけど、潮騒の音だったり空港の雰囲気だったり、それは本編では使えないような音だったんですよね。時間を感じずに聴ける曲 ―――といえるかは分からないんですけど、限りなく雑踏に近い感じの中で、ピアノやギターが鳴っている曲にしたかったんです。
--一番曲が盛り上がって、一旦落ち着くくだりで、おじさんが腕組んでる写真が出てきた瞬間、爆笑しました。「時雨でも表現しているユーモアの部分が、こんなところに反映される!」って。
TK:ちょっとした出来心で(笑)。写真集は枚数が決まっていたので、使えなかった写真もあったんです。それを見せるためにもちょうど良いと思って使いました。
--そして、本作には100ページのフォトブックが付属されます。こちらにはTKさんの言葉も掲載されるんですよね?
TK:向こうで書き溜めていた日記のような文章があって、そこから削ぎ落として使った感じですね。だからもう、すべてを出しましたね(笑)。最終的に満足のいくパッケージに落とし込めました。
--また、3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生し、音楽を取り巻く環境も一変してしまいました。震災発生以降、作品を発表していく意識に変化はありましたか?
TK:この作品の出るタイミングも含め、考えても考え切れないところが、まだあります。余りにも突然の直面だったので、言葉にできない想いが強すぎる。……正解の無い中で考えても考えても抜けられないというか。
映像の編集作業をやっている真っ只中に起きたので、本来ならすぐに編集に戻らなければいけなかったんですけど、気持ちがなかなか入らなくて……、無理を言って作業中に録った音をサイトに載せてもらったんです。僕の周りにも不安になっている人はたくさんいたし、窓を開けて鳴らした音がどうか届いて欲しかった。
僕はいつも自分と向き合う事だけで精一杯になってしまうから自分たちの音楽に力があるのかどうかを考えた事も無かったし、だから何を考えてもやろうとしても間違っている様な気さえして。それでも音を聞いてくれた人達の言葉を中野君から聞いたりとか、周りの人達から聞けて僕も力を貰えた様な気がして。小さな世界かもしれないけど自分の音楽がちゃんと色んな人に届いてるという当たり前の事がとても嬉しかったし、この作品に対してもそうであって欲しいと思っています。
Interviewer:杉岡祐樹
film A moment
2011/04/27 RELEASE
AIBL-9214 ¥ 4,819(税込)
Disc01
- 01.introduction
- 02.white silence
- 03.film A moment
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