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2021/05/06

『キャレド・キャレド』DJキャレド(Album Review)

 デビュー・アルバム『Listennn... the Album』のリリースから今年で15周年を迎えるDJキャレド。コンスタントにシングル、アルバムをリリースし、ヒットさせ、順調にキャリアを積み、美貌と知性を兼ね備えた妻ニコール・タックと2人の息子にも恵まれるという、まさに順風満帆な人生を謳歌……しているようにみえる、真相は色々あるだろうが。
 
 前作『ファーザー・オブ・アサド』(2019年)から約2年ぶりにリリースされた本作『キャレド・キャレド』には、次男のアーラムくんが初めてカバー・アートに登場。前作からの最も大きな変化といえば、昨年1月に彼が誕生したことだろう。『グレイトフル』(2017年)から3作連続で起用された長男アサドくんと、2人の息子に挟まれたこのジャケ写からも、心の充実っぷりが伺える。
 
 エグゼクティブ・プロデューサーに息子2人を起用したのは、ほんの洒落(?)ともとれるが、作品のインスピレーションやモチベーションを維持するにおいて、重要な存在であることは間違いない。今年1月に米育児雑誌Parentsの表紙を飾った際、息子たちには昔のソウルなどを聴かせたり、ヒップホップはクリーン・バージョンが鉄則との教育論を語っていたキャレド。参加アーティストによっては子供への悪影響ともとれる曲があるが、若手のアルバムと比較すれば大分威厳は保たれている。
 
 ゲスト陣は、新旧問わず超一流揃い。若手では、テイ・キースがプロデュースした陰鬱なトラップ「Every Chance I Get」に、昨今チャートを荒らしている人気ラッパーのリル・ベイビーとリル・ダークが、そのテイ・キースが手掛けた「Big Paper」には「Up」がNo.1を獲得したばかりのカーディ・Bが、メディアやアンチに物申している。リル・ベイビーは、昨年「The Box」でブレイクした新人ラッパーのロディ・リッチと、「Wild Thoughts」でリアーナとボーカルを務めたブライソン・ティラーとのコラボ曲「Body In Motion」にも参加している。
 
 ブライソン・ティラーは、3月に開催された【第63回グラミー賞】で<年間最優秀楽曲>を受賞したR&BシンガーのH.E.R.と、ニッキー・ミナージュとのゴシップでも話題に事欠かないミーク・ミルが参加した「I Can Have It All」の2曲で、持ち前のソウルフルな歌声を披露した。とはいえこの曲でのパートはわずかで、 H.E.R.のパワフルなボーカルとミーク・ミルの強烈なラップがメインといえる。
 
 H.E.R.は、カーディの夫オフセット率いるミーゴスと4曲目の「We Going Crazy」にも参加。「I Can Have It All」とはまた違う、気怠くエキゾチックなボーカルにシフトチェンジし、レゲエ・サウンドにフィットさせた。レゲエといえば、ブジュ・バントン、ケイプルトン、バウンティ・キラー、バーリントン・リーヴィというレゲエ~ダンスホール系のアーティストで固めたヘヴィなラガヒップホップ「Where I Come From」という曲もあり、ジャンルもバラエティに富んでいる。
 
 エレキが甲高く唸るロック調の次曲「I Did It」には、ジャンルをクロスオーバーして頂点を極めたポスト・マローン、昨年カーディ・Bと「WAP」を大ヒットさせたメーガン・ザ・スタリオン、前述のリル・ベイビーとダベイビーというまさに“豪華メンツ”が集結した。クレジットを伏せてもそれぞれが誰だと認識できる存在感は流石。
 
 先行シングルとしてリリースした「Popstar」と「Greece」は、いずれもドレイクがラップ/ボーカルを担当。彼の作品ではお馴染みのOZによるプロデュースということもあり、曲調はドレイクまんまだが、アルバムを通して聴くとアクセントにはなっている。「Popstar」は、ドレイクのパートをジャスティン・ビーバーが口パクするミュージック・ビデオも話題を呼んだ。
 
 そんなジャスティンは、21サヴェージと6曲目の「Let It Go」にフィーチャーされている。チルアウトにキャッチーなコーラスを乗せた構成は「I'm the One」の続編というべく、シングル・カットも期待できそうな狙い通りの仕上がりに。「I'm the One」にクレジットされたメンバーでは、ジャスティンと前述のクエイヴォ(ミーゴス)の他、ボビー・”ブルー”・ブランドの「Ain't No Love in the Heart of the City」をサンプリングしたゴスペル風味の「Thankful Thankful」にリル・ウェインが、シンガー/ラッパーのジェレマイと参加している。
 
  ジャスティン違いでは、ジャスティン・ティンバーレイクがフィーチャーされた「Just Be」も聴き心地の良い傑作。ゴーストフェイス・キラーの「All That I Got Is You」(元ネタはジャクソン5の「Maybe Tomorrow」 )をネタ使いしたメロウ・チューンで、ジャスティンの曲ではソロ・デビューしたばかりの2003年にコーラスを担当したブラック・アイド・ピーズの「Where Is The Love?」を彷彿させる。  
 
 どれをとっても目玉曲だが、かつて(すさまじい)対立関係にあったナズとジェイ・Zの豪華共演による「Sorry Not Sorry」は、キャレド本人も絶賛する超目玉曲。クレジットはないが、妻ビヨンセもバック・ボーカルで参加するというサプライズもあり、3者がカジノで大御所感を醸すMVもクールで、当時のヒップホップチューンで、ジャスティンの曲ではソロ・デビューしたばかりの2003年フォロワーも納得の出来栄え……ではないだろうか?メイン・ボーカルは、ジェイ・Zの<Roc Nation>所属でビヨンセやジャスティン・ティンバーレイクなど著名アーティストに楽曲提供してきたジェイムス・フォントルロイによるもの。この曲には、2001年に発表したジェイ・Z本人の「Song Cry」 (元ネタはボビー・グレンの「Sounds Like A Love Song」)がサンプリングされている。
 
 90年代に一世を風靡したアーティストでは、9曲目の「This Is My Year」にパフ・ダディ(P・ディディ)が参加している。この曲では、2000年代にブレイクしたリック・ロスと、2010年代前期にデビューしたビッグ・ショーン、デビュー4年目の若手エイ・ブギー・ウィット・ダ・フーディという世代の違う4人がコラボレーションするという、キャレドならではの演出がたのしめる。
 
 本作も良い意味で“ハズし”のなかった期待通りのアルバムで、ゲストの面々からしても上位ランクインが見込める。米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard200”ではこれまで8作がTOP10入りしているが、首位を獲得したのは2016年の『メジャー・キー』と前述の『グレイトフル』の2作のみで、3作目のNo.1に期待が高まる……ところだが、当の本人はさほど功績を重視していないかもしれない。

Text: 本家 一成

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