2021/03/18
ソロデビュー10周年という大きな節目を4月に迎えるLiSA。先日、Zepp Hanedaでアコースティックライブ【LiVE is Smile Always~unlasting shadow~】を開催し、約1年ぶりに観客の前で歌を披露した。そして、同日のライブ映像を3月14日にオンラインで配信。自身もリアルタイムで観覧し、今度は配信ライブとして、改めて“LiSAッ子”たちとともに“LiVE”を作り上げていく試みとなった。
今回のライブコンセプトには“暗い時期には終わりがある”という意味もあった。その対象はコロナによって激変した日常生活かもしれないし、逆境を強いられている音楽そのものかもしれない。もともと16thシングル「unlasting」に合わせて準備をスタートしたライブだったが、結果として1年越しに様々な意味合いをまとって届けられることとなった。
語るまでもなく“ロックヒロイン”として、大躍進のさなかにある彼女。紅白初出場を決めた「紅蓮華」(TVアニメ『鬼滅の刃』OPテーマ)をはじめ、これまでに数々のアニソンロックナンバーを歌ってきたが、今回はそれらをアコースティックアレンジで楽しむ特別な夜だ。
降りしきる雨のSEとピアノの繊細なフレーズが世界観を演出する中、ステージに登場したLiSA。照明は暗く、その表情は窺い知れない。それでも客席は温かな拍手で迎え、発声できない状況だからこその、いつもと違う空気に期待感が高まっていく。
先陣を切ったのは「ASH」、ピアノとボーカルのみというシンプルな構成だ。打鍵音すら聞こえそうな静寂の中、最初こそ厳かに歌い始めた声は徐々に熱を増していく。アコースティックでも圧倒的な表現力と力強さは健在で、あっという間にオーディエンスの心を自分の歌でいっぱいに満たしてしまう。
1曲目を歌い終え、「待ってたよ」と言わんばかりの喝采の拍手を浴びたことで不安が和らいだのか、LiSAの目から涙が溢れた。声を震えさせながら、それでも「こんばんは! LiSAです! 今日はここで歌える喜びとか大切さとか全部、一番前から後ろの後ろまで全員に届けます、受け取ってください」と挨拶すると、大きく一礼した。
そんなLiSAの表情は、「紅蓮華」のイントロをきっかけにガラリと変わる。歓声の代わりに会場中が息を飲む気配を感じた。覚悟の歌をうたうLiSAに先ほどの不安の色はもうなく、腕を強く振るたびロングジャケットの裾が舞う。2019年のリリース以降、正直何度聴いたか分からない「紅蓮華」だが、新しい印象で上塗りされていく。
今度のMCは満面の笑みで、「拍手ってこんなにもエモかったんだ、拍手ってこんなにも温かったんだって感じました」。普段、相互性や一体感のあるライブを繰り広げるLiSAにとって、この1年がいかに模索の日々だったかは想像に難くない。晴れ晴れとした表情の「ピース!」を見たとき、今回が彼女史上ひときわ意味の大きいライブになると確信した。
そこからはもう独壇場だ。アコギやドラムも加わって展開される「BRAND NEW YOU」のダウナーな横揺れリズムに体を委ねれば「変わらない青」が始まり、コメントがざわつく。2012年「crossing field」の期間生産限定盤に収録されていたレア曲だ。さらなるサプライズとして、LiSA自らグロッケンの前に立つ。星空を思わせるライティングの中で、グロッケンの音がキラキラと響く。
パンクなジャケットから白い羽衣のようなカーディガンに着替え、ジャジーなピアノで誘う先には「蜜」。グランドピアノの屋根に体を横たえるパフォーマンスはあまりに艶やかで、見てはいけないものを見てしまったような罪悪感すらも聴衆にとってはスパイスとなる。呼吸が詰まるほどの緊張感の中、歌い上げたLiSAは眠るように目を閉じた。
続く3曲はいずれもアニメや映画の主題歌に起用されており、作品本編の中で主要キャラクターの別離、そして絶望が描かれる。言うなれば今回のコンセプトのうち、“shadow”の最も深いところを象徴する重要なパートだろう。TVアニメ『ソードアート・オンラインII《マザーズ・ロザリオ》編』のEDテーマである「シルシ」、映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌「炎」、そしてTVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』のEDテーマ「unlasting」。この3曲が続けて展開されたことで、我々は楽曲の新たな解釈に出会い、新たなメッセージを受け取った。
演奏に集中しながらも、色々なことに考えを巡らせる余裕もあるアコースティックライブ。だからこそ、各作品のキャラクターを思い出さずにはいられない。何より指先まで力のこもった全力の歌唱、ピアノの緩急に心と涙腺を揺さぶられた。
絶望は、永遠に続かない。余韻を断ち切るようにドラムが走り出すと雰囲気が一転、新しい日々の幕開けとばかりに、今年リリースしたばかりの曲「dawn」で手拍子を要求する。「会いたい人に会えなかった1年だけど、(今日)会いたい人に会えたから、ここからは希望を込めてポップなメドレーに参りたいと思います!」とのMCでスタートした、じつに8曲にわたるスペシャルメドレー。リリース時期もバラバラ、古参も新規もみんな楽しめる構成で、気持ちをさらに温めていく。
後半のパフォーマンスはとにかく遊び心たっぷりで、文字通りやりたい放題。ドラムサンプラーを鳴らして客席の手拍子との掛け合いを楽しむなど、制限をものともしない一体感の演出。
そのままポップチューン「Rally Go Round」、さらに「やくそくのうた」になだれこむ。<約束にしようじゃん!>は小指を立てて、<この瞬間、最高だね!>は今日最高の笑顔で! まさしくあの手この手でエンタメを表現する無邪気なLiSAの姿に、自然とこちらの顔もほころんでしまう。有観客、配信、どんな形であれ、ライブはコミュニケーションだということを実感させられる。
「できることは少しかもしれない。だけどね、きっとこの先には最高の未来が待ってると私は信じてます。今日はみんなが進めてくれた一歩です。大切な一歩です」
「unlasting」のカップリングであり、LiSAの優しい強さがぎゅっと詰め込まれた応援歌「ハウル」が、本編のクライマックスを彩る。この終盤にあっても疲れは1ミリも見せず、全身で歌を表現し、届け続ける。「また遊ぼうね! ピース!」と挨拶をすると、まだまだ元気そうなLiSAはステージを後にした。
さざ波のような拍手がやがてアンコールを要求する手拍子に変わると、ほどなくして再度幕が上がる。フリルが何重にもあしらわれた華やかなホワイトドレスで登場したLiSAは、なかなか止まない拍手にはにかむと、激動の2020年、さらにソロデビュー以降の10年を振り返った。
「この10年、色んな人に出会いながら、色んな出来事に泣かされたり、喜んだり、色んな想いを感じさせてもらいました。それはその時々にいてくれたみんなが作ってくれたサプライズのような、希望の光のような一つひとつだったなと思います。みんなに感謝を込めて、そしてサプライズのような希望をこれからも届けていけるように願いを込めて、新曲、歌います」
そんなメッセージを添えて歌われた新曲「サプライズ」。<下を向いて歩いてた もう何も壊さないように><君がくれた喜びが輝きを増しながら 暗くひび割れた心まで宝石箱に変えてしまうんだ><確かにそこにあった 僕に向けられてた愛を知る>――歌詞の断片に、ついLiSAの10年間の道のりとの共通点を探してしまう。
「ラスト、元気にいっちゃうよ、OK?」と煽れば、最後の曲「best day, best way」。ロングドレスにも関わらず、とにかく飛び跳ねて、くるくる回って、(これ、アコースティックライブだよな…?)と思わず感じてしまうくらい、お祭り騒ぎなステージング。でも、やっぱりこの元気いっぱいな大団円がLiSAのライブだ。
いつものように声は出せないから、会場のLiSAッ子は腕を大きく振り、コメント欄やTwitterのLiSAッ子はテキスト版コール&レスポンスで応える。時間を超えてライブ参加者が再び一体になる、不思議な感覚に包まれた。
「誰かが作ってきてくれた歴史の上にライブというものがあって、それを私たちは遊ばせてもらってたんだなと思います。今度は私たちで、新しいライブの遊び方を一緒に作ろう!」
長く暗い影が落ちるような時期が、もしかしたら終わるかもしれない。あるいはこのライブが終わらせてくれたのかもしれない。最後に「ばいちー!」と恒例の挨拶を贈ると、LiSAはやりきった表情で今度こそ幕を下ろした。
Text by ヒガキユウカ
Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
◎公演情報
【LiVE is Smile Always~unlasting shadow~】
2021年3月14日(日)
<セットリスト>
1. ASH
2. 紅蓮華
3. BRAND NEW YOU
4. 変わらない青
5. 蜜
6. シルシ
7. 炎
8. unlasting
9. dawn
10. メドレー
- KiSS me PARADOX
- sweet friendship
- オレンジサイダー
- 妄想コントローラー
- say my name の片想い
- 1/f
- リングアベル
- LOVER” S” MiLE
11. Rally Go Round
12. やくそくのうた
13. ハウル
En-1 サプライズ
En-2 best day, best way
※見逃し配信:3/21 20:00まで
Stagecrowd、LINE LIVE-VIEWINGにて
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