2020/11/30
社会現象を起こしたドラマ『ハンナ・モンタナ』でブレイクしたのが、今から14年前の2006年。あのキュートなティーン・アイドルが、こういうカタチで変貌を遂げるとは誰が予想しただろう。そして今もなお、マイリーの進化は続いている。
同2006年にリリースした『ハンナ・モンタナ』のサウンドトラックは、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”でチャート史上初のテレビ・サントラとしてのNo.1を獲得。翌2007年には第二弾『ハンナ・モンタナ 2』も2作連続の首位をマークし、2009年の映画版『ハンナ・モンタナ ザ・ムービー』まで3作連続の快挙を達成した。同09年には、デビューEP『タイム・オブ・アワ・ライヴズ』(最高2位)から「パーティ・イン・ザ・U.S.A.」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で2位を記録。ハンナ・モンタナを離れ、ソロ・シンガーとしての成功も手にした。
ソロ・アルバムとしてはこれまで3作がNo.1を記録しているが、中でも「ウィ・キャント・ストップ」(最高2位)、ソング・チャート初の首位獲得曲「レッキング・ボール」の2大ヒットを輩出した4thアルバム『バンガーズ』(2013年)は、キャリアの転機となった衝撃作だった。本作ではR&Bに音楽性を一新し、次作『ヤンガー・ナウ』(2017年)では父親譲りのカントリー~フォークを中心としたアルバムに挑戦。そして昨年リリースしたEP『シー・イズ・カミング』ではヒップホップをカマしてみたりと、カメレオンの如く変化を遂げている。
スタジオ・アルバムとしては約3年ぶりとなる本作『プラスティック・ハーツ』はというと、今度はロック~パンク、シンセ・ポップといった過去作とはまた違うコンセプトにシフトチェンジしている。作品毎にキャラを切り替える巧みな戦術は女優出身の強みか、どんなジャンルも自分色に染め上げる器用さには舌を巻く。パンクっぽいビジュアルのカバー・アートも、これまでの作品にはないテイスト。
アルバムはスピード感あるパンク・ロック「WTF・ドゥ・アイ・ノウ」で幕開けし、勢い落とさず次曲「プラスティック・ハーツ」に繋げる。ハスキーが売りのしゃがれ声もサウンドにフィットしていて、これまでこのテの曲を押し出さなかったのが不思議なくらいクオリティが高い。両曲のプロデュースを担当したのはアンドリュー・ワットとルイス・ベルの2大ヒット・メイカー。制作陣には、ワンリパブリックのライアン・テダーとアリ・タンポジもクレジットされている。4者は、今年ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーの『カーム』やサム・スミスの最新作『ラヴ・ゴーズ』でもタッグを組んでいて、チーム・プロジェクトとして活動している模様。
一転、3曲目の「エンジェルズ・ライク・ユー」ではアコースティック・ギターを基とした弾き語り風メロウに切り替え、ボーカルもソフトにアレンジしている。悲観的な歌詞は昨年夏に破局が報じられたケイトリン・カーターについて……との見解もあるが、明確には示されていない。思えば、リアム・ヘムズワースとの結婚・離婚を経てガールフレンドと交際、そして破局という人生そのものがパンクな人だった。でも、意外と繊細なところがアーティストらしくもある(という見方も?)。
4曲目に収録されたのは、前週に先行リリースされたデュア・リパとの初デュエット曲「プリズナー」。アンドリュー・ワットに加え、ザ・モンスターズ・アンド・ストレンジャーズが主要制作陣として参加している。レトロなグラム・ロック~デュア・リパの『フューチャー・ノスタルジア』にも通ずるニュー・ディスコ風のサウンド、オリビア・ニュートン=ジョンの「フィジカル」(1981年)そっくりのサビ、ノイズをきかせたオールド・タッチのMVいずれも昔っぽい作りで、その辺りの音をリメイクした昨今の流行もしっかり取り入れている。
その他にも、ナイン・インチ・ネイルズを彷彿させるミディアム・テンポのフューチャー・エレクトロ「ギミー・ホワット・アイ・ウォント」や、ビリー・アイドルとコラボレーションしたニューウェイヴ調の「ナイト・クローリング」、1stシングルとして先行リリースしたシンセ・ウェーブ風の「ミッドナイト・スカイ」など、80年代っぽい音が満載。ザ・ウィークエンドの「ブラインディング・ライツ」やデュア・リパの「ドント・スタート・ナウ」を筆頭に、今年はエイティーズの再ブームが巻き起こったが、本作もその流れにオリジナリティを加えて便乗している。
「ミッドナイト・スカイ」はダーティーなリリック&ボーカル、過度な露出に舌出しを炸裂させまくった下品なMVいずれも(良い意味で)マイリ―らしい。日本盤CD&配信アルバム限定ボーナス・トラックには、スティーヴィー・ニックスとのリミックス「エッジ・オブ・ミッドナイト」と「ハート・オブ・グラス (ライブ・フロム・ザ・iHeart Music Festival) 」、「ゾンビ (ライブ・フロム・ザ・NIVA・セイヴ・アワー・ステージズ・フェスティバル) 」も収録されている。
80'sといえば、当時「アイ・ラヴ・ロックン・ロール」(1981年)などのヒットで大活躍を遂げたジョーン・ジェットとのデュエット「バッド・カルマ」 という曲もある。ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツを継承したファンキーなロック・チューンで、彼女(等)へのリスペクトも大いに感じられる。それは前述のビリー・アイドルしかり。「ナイト・クローリング」も曲調は溢れんばかりのビリー・アイドル愛一色で、レジェンドたちの名に恥じないシャープな音を提示した。
前作『ヤンガー・ナウ』寄りのカントリー・メロウ「ハイ」 や、諭すように歌う優しい旋律のロッカ・バラード「ネヴァー・ビー・ミー」、先日の大統領選で敗退が確定したドナルド・トランプ氏について歌った「ゴールデン・G・ストリング」など、ミディアム~スロウも充実。『ヤンガー・ナウ』の転身はキャラに見合わなかったと指摘されたことが、ある意味吉と出た……と、言えなくもない。再ブレイクするか否かはさておき、こういったアルバムに取り組んだのはキャリアにおいて「ありたい姿」を見据えた重要な意味をもつ。よって、 マイリーの進化は続く。
Text: 本家 一成
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