2020/08/28
昨2019年9月6日・8日に、米サンフランシスコのチェイス・センターでこけら落とし公演として開催された、サンフランシスコ交響楽団とのセッション・ライブ『S&M2』。1999年に大盛況を収めた『S&M~シンフォニー&メタリカ』から20年ぶりとなる交響楽団との共演で、翌10月9日には日本を含む世界3,700以上の映画館で同日上映され、大きな話題を呼んだのも記憶に新しい。前作は米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で最高2位をマークし、ライブ盤としても異例の大ヒットを記録。本作からは、2001年の【第43回グラミー賞】で収録曲「ザ ・ コール・オブ・クトゥルー」が<最優秀ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞>を受賞するなど、様々な功績を残した。
地元・サンフランシスコで行われた同公演は、世界中から集ったファンが360度周りを覆い、センターステージに指揮者のエドウィン・アウトウォーター率いる約80人の交響楽団と、同楽団の監督を務める指揮者=マイケル・ティ ルソン・トーマス、中心にはメタリカのバンド・セットが配置された壮大なスケールで展開され、演奏技術の高さやベテランの意地をみせたパフォーマンスが、各音楽メディアにも絶賛された。
レコーディング作品としてはBillboard 200で1位に初登場した10thアルバム『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』(2016年)以来の新作で、プロデュースは前作に続きグレッグ・フィデルマン(with ジェイムズ・ヘットフィールド&ラーズ・ウルリッヒ)が担当した。
オープニングは、エンニオ・モリコーネのトリビュート・アルバム『ウィ・オール・ラヴ・エンニオ・モリコーネ』(2007年)より「ジ・エクスタシー・オブ・ゴールド」。割れる歓声に包まれ、オーケストラの美しい奏で幕開けする。続いて演奏されたのは、2ndアルバム『ライド・ザ・ライトニング』(1984年)より前述の「ザ・コール・オブ・クトゥルー」。ストリングスをフィーチャーした“静”から、緊迫したムードを破壊する“動”へ移行する構成、中でも中盤のカークによるギター・ソロは圧巻だった。2曲目で既にハイライトという感じか。
3曲目は、同『ライド・ザ・ライトニング』(1984年)より「フォー・フーム・ザ・ベル・トールズ」(1984年)。ジェイムズのボーカルがはじめて加わり、会場からもコーラスバックが鳴り響く。YouTubeの公式チャンネルには映像も公開されていて、演者側も観客側も、会場にいるすべての人たちが一体となり、ライブを堪能している様子が伺える。同曲から、9thアルバム『デス・マグネティック』(2008年)より、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で31位、メインストリーム・ロック・チャートでは1位を記録したヒットナンバー「ザ・デイ・ザット・ネヴァー・カムズ」へ。交響楽団の演奏が活かされたオープニングもすばらしく、メタリカも衰えないパワーを炸裂させる。後半の鬼気迫るパフォーマンスは本当に凄い。
MCを挟んで、7thアルバム『リロード』 (1997年) からの1stシングル「ザ ・メモリー・リメインズ」(メインストリーム・ロック・チャート3位)がはじまる。会場は冒頭から大合唱する盛り上がりで、終盤では観客の手拍子とコーラスだけが鳴り響く、ライブらしい演出もあった。一息つく暇もなく、『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』から「コンフュージョン」~「モス・イントゥ・フレーム」へ。後者はメインストリーム・ロック・チャート5位を記録し、2017年の【第59回グラミー賞】ではレディー・ガガと共演したことでも有名。スピード感あるトラックに調和させた交響楽団のパフォーマンスは、ライブ映像でもお楽しみいただきたい。
6thアルバム『ロード』(1996年)の最後を飾る「ザ・アウトロー・トーン」でクールダウンし、前作『S&M~シンフォニー&メタリカ』(1999年)よりメインストリーム・ロック・チャートで1位を記録した「ノー・リーフ・クローヴァー」へ。クラシック&ハードロックのコラボレーションが最も活きた、両者のコラボレーションだからこその大傑作。20年のブランクも一切感じさせない。第一部のラストは、『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』から最後のシングルとしてカットされ、メインストリーム・ロック・チャート14位を記録した「ヘイロー・オン・ファイアー」で締める。
5分にわたるMCからはじまる第二部は、サンフランシスコ交響楽団による「スキタイ組曲(アラとロリー)作品20 第2曲: 邪教の神、悪の精霊の踊り」~「鉄工場 作品19」の演奏でスタート。交響楽団の演奏を主としたパフォーマンスも、言うまでもなくすばらしい。第一部同様、2曲のインストを経て『デス・マグネティック』よりHot 100で35位、米メインストリーム・ロック・チャート10位を記録した「ジ・アンフォーギヴンIII」で歌が再開する。オーケストラの演奏をバックに、飛ばし過ぎず徐々に熱を加えていく、まるで映画のオープニングのような壮大さは、音だけでも十分伝わってくる。
続いては、8thアルバム『セイント・アンガー』(2003年)より「オール・ウィズイン・マイ・ハンズ」を披露。オーケストラの演奏からはじまるミッド・テンポの同曲では、ヴィオラ、ハープ、マリンバ、ウィンドチャイムなど、若干聴き取り難い楽器の音もフィーチャーされていて、「ジ・アンフォーギヴンIII」同様、壮大さが感じられた。同曲は、発売前月にライブ映像も公開されている。デビュー・アルバム『キル・エム・オール』(1983年)収録のインストゥルメンタル「(アネシージア)プリング・ティース」では、エレキ・ギターのソロ演奏で会場を沸かせた。
以下、ライブでは盛り上がり必須の人気曲が連なる。ダイヤモンド・アルバムに認定された5thアルバム『メタリカ』(1991年) から「ホェアエヴァー・アイ・メイ・ローム」、4thアルバム『メタル・ジャスティス』(1988年)からHot 100では初のランクイン曲となる「ワン」(35位)が披露され、観客の熱気も上々。9分を超える後者の演奏では、抒情的なロックとクラシックの融合が存分に堪能できる。3rdアルバム『メタル・マスター』のリード・トラック「メタル・マスター」では、イントロからパワー全開。アラカンの底力を振り絞ったどギツい演奏には恐れ入る。
ラスト2曲は、『メタリカ』からの大ヒット・ナンバー「ナッシング・エルス・マターズ」(ソング・チャート34位/メインストリーム・ロック・チャート11位)~「エンター・サンドマン」(ソング・チャート16位/メインストリーム・ロック・チャート10位)。前者はライブ映像が公開されているが、会場のファンによるスマホのライトアップ演出も効果抜群で、バンドとオーケストラのハーモニーもより美しい奏となった。後者ではボルテージ・マックスに、最後まで全力で駆け抜けた両者のテンションがピークに達する。
誰が聴いても、辛口のメディアがこぞって絶賛したのも納得できるクオリティの高さ。音源だけでここまでライブ感を表現できるアーティストはごく僅かだろうし、キャリアを重ねたメタリカとサンフランシスコ交響楽団とのコラボレーションだからこそ成し得た業といえる。年齢的な意味を含めれば、前作『S&M~シンフォニー&メタリカ』をも超えたのでは?
Text: 本家 一成
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