2020/07/14
神はサイコロを振らないのオフィシャル・ライブレポートが到着した。
今勢いを増している4人組ロックバンド、神はサイコロを振らないが7月10日、自身初の無観客ストリーミングライブを開催した。2015年に福岡で結成して以降、ライブシーンで着実に実績を積み上げてきた彼らだが、2020年春、新型コロナウイルスの影響で社会が不安に包まれる中、大きな注目を集めることとなる。今はもう会えない亡き恋人を想うバラード「夜永唄」が主にSNSを通じて広まり、YouTubeで公開されているオフィシャル・リリックビデオ再生数は急上昇。950万回再生(※7月13日現在)を記録し、今もその数を伸ばし続けているのだ。配信ライブでは、7月17日(金)のデジタルシングル「泡沫花火」配信を機に、Virgin Musicからメジャーデビューを果たすことを発表。過去2作のミニアルバム収録曲を網羅する集大成的セットリストを新曲で締め括り、バンドとしての新章を幕開けた。
会場は、元々全国ツアーのファイナル公演の開催を予定していた渋谷WWW X。定刻の20時を迎えると、SEに乗せてステージにメンバーが登場。最後に姿を現した柳田周作(Vo)がマイクスタンドを両手で握り、一瞬の静寂の後、そっと歌い始めたのは「ジュブナイルに捧ぐ」。2020年2月にリリースした『理-kotowari-』の冒頭を飾る曲で、「自分らしく生きてほしい」というメッセージを込めたミディアムナンバー。軽やかなバンドサウンドに乗せ、柳田はスタンドからハンドマイクを抜き去って、その世界観に没入。終盤では崩れ落ちるように膝をつき、目を閉じて熱唱した。1曲目から静と動の振り幅に圧倒されていると、ギターを肩に掛けながら柳田は「〝神はサイコロを振らない Streaming Live「理-kotowari-」″、最高の一日にしましょう!」と呼び掛け、同アルバムの「揺らめいて候」へと雪崩れ込む。黒川亮介(Dr)が繰り出すダンサブルなリズムに乗せて、妖艶なファルセットを交えながら歌唱する柳田。吉田喜一(Gt)がギターソロを奏でている間、桐木岳貢(Ba)と柳田が向き合ってバトルするようにプレイする。その両場面が映し出され、画面越しではあるが、ライブの臨場感を味わうことができた。
続く「胡蝶蘭」ではまたガラリと空気を変えて、エレクトロとバンドサウンドとを融合したバラードを届けていく。オーディエンスに訴え掛けて盛り上げるというよりは、柳田の心の内に響く独り言を聴いているかのような、不思議な感覚に陥った。かと思えば、「歌える人は一緒に歌ってください」と誘うと、次曲「illumination」は明滅するライトの下、朗らかにパフォーマンス。「自分は音楽で誰かを救えているのか?」「俺はなぜ歌っているのか?」との自問自答から生まれたというロッカバラードを、一言一言、噛み締めるように丁寧に歌い届けた。
「パワーを送ってくれているのをカメラ越しに感じました、ありがとう!」とファンに感謝する柳田。「開放的な曲をやってみたいな、と思います」と予告し、「家の中でたくさん頭を振ってみてください」と呼び掛けると、「解放宣言」へ。煽情的な赤いライトに照らされながら、柳田は歪んだメガホンヴィイスで挑発。「歌え!」と煽ってサビに突入すると、激情的な歌と演奏、メンバーの放つすべての音と音とがぶつかり合って、ボルテージは最高潮に。黒川のドラミングと吉田のギターの短いセッションを橋渡しに、同じく激情的な色を持つ「アノニマス」へ。ここからは前々作『ラムダに対する見解』の楽曲群を畳み掛けていく。柳田は早口で冷ややかに宣戦布告するような序盤から、激しい中にも美しいメロディーラインを持つサビに至るまで、次々と違った声色を聴かせていく。メンバーも、歌を尊重するプレイを第一とする一方で、ソロパートではたしかなテクニックと持ち味を前面にアピールし、アウトロでは全員で音を打ち鳴らす。その佇まいだけで興奮をもたらす、ロックバンド然とした4人の姿があった。音が鳴り終わらないうちに「新曲やります」と柳田、「パーフェクト・ルーキーズ」を初披露した。裏打ちのビートで疾走するマイナーキーのロックナンバーで、歌い出しは「ギターを抱えた少年の10年先を誰が予想していただろう?」と聴き取れる。柳田が人生を自叙的に綴った歌詞かと思われ、深い感慨を覚えた。
歌い終えた直後のまだ息が上がっている状態で、柳田は、普段のライブではできないこととして「フロアからメンバーを観たい」と語り、撮影スタッフに接近すると「遊んでみてもいいですか?」とカメラを操作しながら、「すごいよ、画質!」と喜んでいたところ、メンバーのいたずらで次曲がスタート。慌ててステージに戻り、「No Matter What」を披露。郷里・九州の旧友を思い浮かべて書かれたというこの曲。柳田はマイクを差し出し、画面越しにシンガロングを求めると、「次また会える日まで、絶対覚えておいてください!」と笑顔を見せた。メンバーも生き生きとした表情でコーラス。会場で生まれているバンドの一体感と、ネットを介しての一体感、両方を感じ取れる瞬間だった。
ブルーの光の中再び静寂に戻ると、「かけがえのない日々の中を、悲しみも苦しみも飲み込んで、最後の最後まで命を燃やしてください」(柳田)と語り掛け、「CLUB 27」へ。胸に手を当てて時折目を閉じながら切々と歌い、最後は跪いて仰け反るように渾身の絶唱。今は亡き敬愛するアーティストへの感謝から生まれたこの曲。立ち上がった柳田は天を指さした後、黒川のほうへ振り返ると、全員で呼吸を合わせて音を止めた。
「悲しみや、苦しみや、孤独……全てからどうか、この曲で、この世界のどこかの誰かが抜け出せますように。大切な歌を歌います。どうか聴いてください」との言葉から届けたのは、神はサイコロを振らないの飛躍を決定付けたバラード「夜永唄」。歌に入り込む柳田の姿が、逆光に照らされて大写しになる。体温を感じさせる息遣い、切なさが溢れ出す繊細なファルセットに耳をそばだてているうちに、曲の世界へと深く誘われていく。柳田と呼吸を合わせ、寄り添うように音を重ねていく吉田、桐木、黒川。うなだれるようにして歌い終えた柳田は、深い余韻の中「ありがとうございます」と呟いた。
「神サイが始まってから5年が経ちました」とこれまでの歩みを振り返った柳田。「ただただ音楽が好きな一人のギター少年で、いつの間にかマイクに向かって歌を歌うようになっていて……」と、自身の音楽への目覚めにまで遡って語り始める。バンド結成以降、「何度も何度も、音楽を嫌いになり掛けたこともありました。この4人で肩を組みながら、なんとか今日この日までバンドを続けて来られています」とも明かした後、既に発表されていた事務所への所属について、更に「僕ら4人はこのたび、ユニバーサルミュージックのVirgin Musicとメジャー契約することが決まりました」とうれしいニュースを発表。「これからより一層、ガンガン、グイグイ飛躍していく神はサイコロを振らないの4人と、チーム神サイをどうかこれからも末永くよろしくお願いします!」と深く頭を下げた。
最後に届けたのは、メジャー第一弾となるデジタルシングル「泡沫花火」。ところがここで機材トラブルが発生、小休止を余儀なくされる。メンバーは動じることなく、バンド結成当初のエピソードを誰からともなく話し始め、機転を利かせて待ち時間もファンを楽しませたのが印象的だった。「バンド始めた当初は、ここまで本気になれるものとは思っていなくて」と柳田。「間違いなく言えるのは、今まで応援してきてくれた、今観ていただいている、これから応援してくれる皆さんのお陰です、本当にありがとうございます」と力強く語った。無事に機材が復旧し、「泡沫花火」をいよいよ初披露。ピアノのイントロに続き、ウィスパーを含む柔らかい歌声で、女性目線で綴られた歌詞で、切なく淡い恋心を歌い始める柳田。夏の終わりの気怠い空気感に包まれるようなピアノサウンドと、幼き日の原風景を呼び起こすような愁いを帯びたメロディーライン。緩急のメリハリがあるドラマティックな展開で引き込み、演奏を終えると彼らはステージの前方へ出て、深く礼をした。4人がステージを去った後、画面上では「泡沫花火」のリリックビデオを初公開。視聴者が投稿したコメント欄には、「メジャーおめでとうございます」「これからもついていく!」などの祝福・激励、「泡沫花火」への「エモい」「歌詞が切ない」といった反響が早くも寄せられていた。
「イレギュラーな存在でありたい」と柳田自身が語っていた通り、鋭く切り込むような激しいロックナンバーと、聴き手の心に寄り添うような静寂のバラードと、一見両極端な音楽性を自然と共存させ、驚異的な振り幅を実証するライブだった。加えて、合間のトークやファンとのコミュニケーションの取り方には飾りのない素顔も垣間見え、そのギャップが生む魅力も絶大。SNS世代との親和性も高いだろう。コロナ禍でライブ、音楽、エンターテインメントそのもののあり方が問われる苦境であり、彼らは外出自粛下でメジャー契約を結び、無観客ライブでデビューを発表するという異例の形でスタートを切った。しかし、そんな不安な世情だからこそ、一層切実に音楽を求める人々がいる。神はサイコロを振らないは、そんな人たちの心の奥底に必要な音楽を送り届けられる、揺るぎない決意と才能を持っている。そう確信する一夜だった。
TEXT:大前多恵
PHOTO:MASANORI FUJIKAWA
◎セットリスト
【神はサイコロを振らない Streaming Live「理-kotowari-」at WWW X】
01.ジュブナイルに捧ぐ
02.揺らめいて候
03.胡蝶蘭
04.illumination
05.解放宣言
06.アノニマス
07.パーフェクト・ルーキーズ
08.No Matter What
09.CLUB 27
10.夜永唄
11.泡沫花火
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