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2020/07/14

『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』ジュース・ワールド(Album Review)

 昨年12月、米シカゴ・ミッドウェー国際空港に到着した際、薬物のオーヴァードーズにより心肺停止に陥り、21歳という若さで息を引き取ったラッパー/シンガーのジュース・ワールド。2018年にリリースした2ndシングル「Lucid Dreams」が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高2位を記録し、同年発表のデビュー・アルバム『グッドバイ&グッド・リダンス』も、アルバム・チャート“Billboard 200”で4位にランクイン。シーンに登場するなり、シングル・アルバム両チャートでTOP10入りという快挙を達成した。翌2019年に発表した2ndアルバム『デス・レース・フォー・ラヴ』は、同アルバム・チャートで自身初のNo.1をマークし、「Robbery」などのヒットを輩出。まさに“これから”が期待されるアーティストだった。

 本作『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』は、その『デス・レース・フォー・ラヴ』から約1年半ぶり、3作目のスタジオ・アルバム。死後初のアルバム・リリース(遺作)ということもあり、ファンやヒップホップ・フォロワーから高い期待と注目が寄せられていた。本作には、イントロ、アウトロ、インタールードを除く計17曲が収録されているが、ジュース・ワールドは生前、約2,000曲もの未発表曲を残していたそうで、これらの曲が決して寄せ集めではなく、厳選されたタイトルであることがわかる。

 ロブ・マークマンとの対談を起用したイントロ「Anxiety」~ザ・ウィークエンドの「Gone」(2011年)を下敷きにした、同路線のオルタナR&B「Conversations」でアルバムは幕開けする。「Anxiety」では、成功を得てした不安、死因となった薬物乱用についてを語り、自分らしく生きること、自分自身を愛すること、何事も本気になればやり遂げられるという、前向きなメッセージも残している。「Conversations」は、米マイアミの音楽プロデューサー=ロニー・Jが手掛けたナンバーで、イントロを引き継ぎ、ドラッグや煽られる不安について歌われている。

 次曲「Titanic」は、808・マフィアによるプロデュース曲で、かの有名なタイタニック号沈没事故(1912年)と自身の人生を照らし合わせ、“沈む様”を悲観するジュース・ワールドらしいエモ・ラップを披露した。808・マフィアによるプロデュースでは、長年のガールフレンドだったアリー・ロッティについて触れた「Blood on My Jeans」で、見事なラップ・スキルもアプローチしている。アリーは、ジュースが出演予定だったヒップホップ・フェス【ローリング・ラウド】(2019年12月15日)で、アルバム・タイトルの『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』のキャプチャをバックに、「彼は私への愛と同じものをみなさんに与えました。ネガティブなことをポジティブな状況に変えて欲しいと願っています」というメッセージを残している。

 5曲目に収録された「Righteous」は、昨年夏にリークもされた死後初となるシングル曲で、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”では11位に初登場。R&B/ヒップホップ・ソング・チャートで8位まで上昇するスマッシュ・ヒットを記録している。同曲を手掛けたのは、前述の「Lucid Dreams」や「Robbery」、現時点最後のTOP10ヒット「Bandit with ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン」(2019年)等を手掛けるニック・ミラで、「Lucid Dreams」を引き継いだようなメロウネスに不安定な心情を乗せた、まさに遺作に相応しい曲。ファンや評論家からも、「Lucid Dreamsを超える傑作」だと絶賛されている。

 アリー・ロッティのバースデーにリリースされた、アルバムからの2ndシングル 「Tell Me U Luv Me」は、米オハイオ出身のラッパー=トリッピー・レッドとの共演曲。2ステップ風のビートと、オルタナ・ロックにも通ずるサウンド・プロダクションに、両者の絶妙なラップ&ボーカルが絡み合う、「Righteous」とはまた違った味わいのある好曲で、ドラッギーなリリックも程良くハマった。3曲目のシングル曲「Life's a Mess」は、R&Bシンガーのホールジーとコラボレーションした話題曲。人生においての困難な状況を嘆きつつも、打破する術を見出そうともがく様が歌詞から伺える。ホールジーの“病んだ”キャラクターも相まって、コーラスでは絶妙なハーモニーを奏和し、ポップ~R&B層にもアプローチした。同日に公開したビジュアライザーには、両者のアートをペインターのデイヴィッド・ガリバルディが描く様子が映し出され、ホールジーは、ジュースが「邪悪なものを追い払う」という意味で好んでいた“999”のタトゥー、左手に掘り、自身のインスタグラムで公表している。

 その3日後には、マシュメロと生前制作した「Come & Go」がリリースされている。これまでの作品ではなかった、エレクトリック・ギターの演奏を強調したパンク調のビートに、キレの良いフロウを乗せた、両者の異色コラボだからこそ実現できた意欲作で、マシュメロが「才能に溢れたアーティスト」とリスペクトしたのも頷ける、すばらしい出来栄えとなっている。公開されたばかりのミュージック・ビデオには、生前撮影されたジュースの映像に加え、アリーと共に描かれたアニメーション・ムービーが展開されている。マシュメロは、2年前の夏にコラボレーションを仄めかす投稿をしていたが、それが彼の遺作になるとは当時予想もしていなかっただろう。両者によるコラボ曲は、その他にもいくつかのストックがあるそうで、本作には新作『ザ・ゴート』が好調のポロ・Gと、オーストラリアの新星、The Kid LAROIをフューチャーした「Hate the Other Side」も収録されている。

 「Come & Go」の他にも、リル・ナズ・Xの「Panini」(2019年 / 5位)や、初登場1位を記録したトラヴィス・スコットとキッド・カディーのコラボ「The Scotts」(2020年)を大ヒットさせた、プロデューサーデュオ=テイク・ア・デイトリップ作の「Bad Energy」や、中毒症状を綴った歌詞直結のチルホップ「Stay High」、ドレー・ムーンがプロデュースしたアコースティック・メロウ「I Want It」、キッド・カディの「Up Up & Away」(2009年)を一部使用した同名曲「Up Up and Away」、ひと昔前のガレージ・ロックからインスパイアされたような異色曲「Man of the Year」など、ジャンルをクロスオーバーした傑作が収録されていて、ヒップホップ・ファンでなくとも十分たのしめる内容になっている。

 ストレスやドラッグによる鬱状態を宗教的に表現した「Fighting Demons」や、ドクター・ルークによるポスト・マローン・マナーを敷いた「Wishing Well」、エクスエクスエクステンタシオンのトリビュートとされる「Can't Die」では、後にこうなることを予測していたかのフレーズもあり、込み上げてくるものがある。アルバムは、昨年6月にインスタライブに投稿された音声によるアウトロ「Juice WRLD Speaks from Heaven」で、追悼するよう幕を閉じた。その公式インスタグラムには、アルバムのリリースを発表すると共に、ジュース・ワールドというアーティストへの敬意はもちろん、彼が抱えていた問題で同じように苦しむリスナーに、本作を通じて救われてほしいと伝え、タイトルである「伝説は絶対に死なない」というメッセージで締め括った投稿がされている。

 本作『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』の発売1週間前には、今年2月に自宅で殺害されたポップ・スモークの遺作『シュート・フォー・ザ・スターズ、エイム・フォー・ザ・ムーン』がリリースされたばかり。本作は、最新の米アルバム・チャート(2020年7月18日)で初登場1位を記録し、2018年末には、前述のエクスエクスエクステンタシオンによる遺作『スキンズ』も同チャートで首位デビューを果たしている。本作も、ストリーミング・サービスSpotifyで1日のアルバム再生回数として2020年の最高記録を更新し、『デス・レース・フォー・ラヴ』に続く2作目の全米アルバムNo.1獲得も間違いないだろうと報じられている。

 しかし、オーヴァードーズで亡くなった後、こうして絶賛される国もあれば、(おそらく)バッシングで溢れるであろう日本のような国もあるというのは、何とも不思議なハナシ……。

Text: 本家 一成

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