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2020/05/21 18:00

『ハウ・アイム・フィーリング・ナウ』チャーリーXCX(Album Review)

 ランジェリー姿でベッドに横たわり、自撮りをするチャーリー。このカバー・アートからも予想がつくように、本作は新型コロナウイルスの影響で自粛する中、そのほとんどを自宅で制作したという意欲作。ソングライター/プロデューサーには、A.G.クックやBJ・バートン、ダニー・L・ハールなどがクレジットされているが、ゲストとして参加したアーティストいない。

 オープニング曲「ピンク・ダイアモンド」は、“曲”という概念を取っ払ったようなインダストリアル。チャーリーもフリースタイルのようなボーカル・ラップを披露し、冒頭からエンジン全開で飛ばす。2曲目の「フォーエバー」は、アルバムからの1stシングル。自粛生活で逢えないハック・クォンというボーイフレンドに向けた曲だそうで、独特な表現でその想いを綴っている。不安定なノイズ・ミュージックにキュートなメロディを重ねたあたり、歌詞の世界観をうまく表現している。「フォーエバー」のミュージック・ビデオは、ファンが寄せた様々な自撮り動画をひとつにまとめたもので、途中ハックとの2ショット写真もお披露目している。

 2ndシングルとして先行リリースした「クローズ」でも、「フォーエバー」とはまた違うニュアンスで彼氏へメッセージを届ける。グリッチ風のサウンドにラップを絡めたボーカルを加える、チャーリーらしいナンバー。自宅のスタジオで撮ったと思われるミュージック・ビデオでは、クロマキーを使用してカラフルな世界観を演出。とても個人製作とは思えないクオリティだ。

 4曲目の「セブン・イヤーズ」は、インスタ・ライブでも話題を呼んだミディアム・チューン。チャーリーが学生の頃に制作し温めていた曲だそうで、思い入れも強いとのこと。続く「デトネート」も、インスタグラムで一部披露された曲。前4曲と違うのは、歌詞に若干不安定な要素が含まれていること。ヒステリック&ドリーミーなサウンド・プロダクションもすばらしく、地味ではあるがシングル曲に匹敵するインパクトを放っている。

 アルバム同日にカットされた「エナミー」は、映画『ゴッドファーザー PART II』(1974年)の「友達は近くに置いておけ。だが敵はもっと近くに置いておけ」というフレーズを引用した曲。ボーイフレンドに向けたものだとすれば、どこか信用しきれない何かがあるの……かも?歌詞にちなんだ浮遊感漂うファンタジーなトラックは、アルバムの中盤に配置したことで息をつく余裕を与えてくれる。そして、発売直前にリリースした3rdシングル「アイ・ファイナリー・アンダースダンド」へ。

 「アイ・ファイナリー・アンダースダンド」は、90年代初期ののUKガラージをアレンジしたような、フロア向けのトラック。実際、どこかのクラブで聴いた曲に影響を受けたとチャーリー本人も話している。前曲「エナミー」同様、若干メンヘラっぽい歌詞が印象的で、ある意味ドラッギーなレイヴ・トラックにハマっている。次曲「c2.0」は、ヘヴィなインダストリアルとエフェクト・ボーカルで固めた、超機械的な曲。前作『チャーリー』(2019年)に収録された、キム・ぺトラとトミー・キャッシュによるコラボレーション曲「クリック」をアレンジしたもので、一部披露した際SNSでも話題を呼んだ。

 初期のチャーリーを彷彿させるドリーミーなメロウ・チューン「パーティー・フォア・ユー」、ロックダウン中のフラストレーションをダイレクトに歌詞にした、パワフルなシンセ・ポップ「エンテンムズ」、ファルセットとエフェクト・ボーカルを使い分けたスペイシーなエレポップ「ビジョンズ」と、最後まで気が抜けない曲陣が並ぶ。

 自宅で、そしておよそ数週間で仕上げたことには、本当に驚かされる。高度な機械やスタジオを使用しなくても、十分すばらしい作品が個々で作れるということを知らしめた、そんな意味合いも込められている。彼女がどういった感情・心境をもってこの自粛生活を送っていたのか、そういったことが生々しく綴られている……ということも、本作の聴きどころ。しかし、時代は進化したなぁ……。

Text: 本家 一成

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