2020/05/14
カナダ・トロント出身。ザ・ウィークエンドのレーベル<XO Record>からデビューしたラッパー、ソングライター/プロデューサーとしても活躍するNAV(ナヴ)。ここ最近では、ヤング・サグの『ソー・マッチ・ファン』(2019年)やリル・ウージー・ヴァートの『エターナル・アテイク』(2020年)など、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”でNo.1を獲得した作品にゲストとして参加し、人気・知名度をさらに高めている。中でも、トラヴィス・スコットの『アストロワールド』(2018年)からカットされたガンナとのコラボレーション曲「Yosemite」は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で16位をマークし、自己最高位を更新する大ヒットを記録した。
その「Yosemite」には一歩及ばずも、本作『グッド・インテンションズ』からの先行シングル「Turks」が同ソング・チャートで17位まで上昇中。R&B/ヒップホップ・チャートでは9位を記録し、シングル曲では自身初のTOP10入りを果たした。同曲は、「Yosemite」と同じトラヴィス・スコット&ガンナの3者による再タッグ・ソングで、ミュージック・ビデオには前述のヤング・サグもカメオ出演している。プロデューサーは、昨今ヒットを連発しているウィージー。タイトルの「Turks」とは、タークス・カイコス諸島のことで、歌詞には「20人の女とタークスでバカンスを過ごしている」というフレーズがある(凄い)。ガンナは、7曲目の「Codeine」にも単体で参加した。
ヤング・サグは、2曲目の「No Debate」と11曲目の「Spend It」計2曲にクレジットされた。前者はヤング・サグらしいトラップ&リリックで、イントロ「Good Intentions」から繋ぐオープニング曲としてのインパクトも兼ね備えてる。後者は、DJキャレドの「Hold You Down」(2014年)などをヒットさせたBkornによるプロデュース曲で、ボーカルを主とした夏らしいナンバー。これまで何度とコラボレーションしているだけはあり、相性の良さが伺える。リル・ウージー・ヴァートも、6曲目に収録された「Status」にフィーチャーされた。お得意の“3連呼”を用いた今っぽいトラックで、シングル・カットも期待できそう。
その他には、前作『バッド・ハビッツ』(2019年)収録の「Amazing」に続き、フューチャーが「My Business」にゲストとして参加。大ヒットしているドレイクとのコラボ曲「Life Is Good」よりハードなトラップで、巧みな舌業を披露したフロウも聴きどころとなっている。それから、ドレイクのヒット曲で知られるカードーがプロデュースしたメロウ・トラップ「Recap」に、米テキサス州ヒューストン出身のラッパー=ドン・トリバーが、幼少期のヘヴィな想い出を回帰させた「No Ice」には、米イリノイ州シカゴ出身のラッパー=リル・ダークがそれぞれ参加している。
ゲストが参加したタイトルでは、今年2月に死去した故ポップ・スモークとのコラボレーション「Run it Up」も注目度が高い。この曲は、2月8日にデモ音源がリークされ、その後リリースを仄めかすような動きがあったが、その11日後にポップ・スモークは自宅で殺害されてしまった。いわば彼の遺作で、この曲とリル・ティージェイが同日にリリースした「Zoo York」が、死後初の新曲となる。
自身のシングル「Ballin'」を大ヒットさせたばかりのマスタードによるプロデュース曲「Did You Wrong」や、サン・ローランやディオールといったブランドを引用して女子を皮肉るミディアム・ソング「Saint Laurenttt」、ボーカルとラップを交互に使い分けたトラップ・ソウル風の「Proud of Me?」、インド系カナダ人である自身のコンプレックスやトラウマについて歌った「Brown Boy」など、ゲスト不在のナンバーも秀逸。なお、トータル・プロデューサーにはザ・ウィークエンドもクレジットされている。
その「Brown Boy」をタイトルに冠した『ブラウン・ボーイ 2』として、本編『グッド・インテンションズ』のデラックス・エディションを3日後にリリースした。なお、NAVは前作『バッド・ハビッツ』を発売した際も、発売日の3日後に8曲のボーナス・トラックを追加したデラックス盤をリリースしている。今年に入ってからも、前述の『エターナル・アテイク』やザ・ウィークエンドの『アフター・アワーズ』などがこの手法で再リリースし、チャートの上位を独占している。『バッド・ハビッツ』に続き、2作連続の全米アルバム・チャート制覇が期待できそうだ。
本作『ブラウン・ボーイ 2』は、昨年3月にリリースしたEP『ブラウン・ボーイ』の続編となるミックステープで、ゲストには前述のリル・ダークと、ミーゴスのクエイヴォが参加している。
XOの代表格であることを誇らしく歌った冒頭の「I'm Up」は、テイ・キースがプロデュースを担当。スペイシーなお洒落トラップ「Relax」からクエイヴォとのコラボ曲「Chirp」へ、1曲目から比較的ユルいトラックが続く。なお、「Chirp」は以前XOの設立者であるキャッシュがSNSに公開し、話題を呼んだ。コデインの服用と脱却を歌った「Sprite Clean」や、ダイレクトに表現した「Pine Soul」~「Heat」、ザ・ウィークエンドの「Can't Feel My Face」に似せた「Two Face」など、ドラッグについて歌われた曲も多い。
一方、リル・ダークが参加した「Free Santana」は、「There It Go (The Whistle Song)」(2005年)などのヒットで知られる米NY出身のラッパー=ジュエルズ・サンタナについて歌っている。ジュエルズ・サンタナは、2年前に銃器不法所持の容疑で逮捕され、現在も服役中。この曲ではその解放を訴え、敬意を表した。マイルドな旋律の「No Time」では、忙しくて時間を作れないことをパートナーに弁解していたり、“ブラウン・ボーイ”から人気ラッパーに駆け上がったサクセス・ストーリー的な「Extra」など、また違った目線で綴られた曲もある。
前述にもあるように、NAVは前作『バッド・ハビッツ』 で自身初の全米1位を獲得し、2018年5月にリリースしたデビュー・アルバム『レックレス』(最高8位)の2作連続、TOP10入りを果たしている。本作がNo.1獲得となれば、一躍トップスターとして位を上げるだろう。
Text: 本家 一成
関連記事
最新News
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像