2020/04/01
以前はモデルとしての知名度が高かったデュア・リパだが、2017年発表のデビュー・アルバム『デュア・リパ』以降、シンガーとしての活躍がその頻度を上回っている。同アルバムは、本国イギリスで3位をマークし、他ヨーロッパ各国でTOP10入りを果たす大ヒットを記録。アルバムからは、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で6位を記録した「ニュー・ルールズ」が世界各国で売れまくり、その名を轟かせた。
それから3年をかけて完成させた2作目のスタジオ・アルバム『フューチャー・ノスタルジア』からは、前年11月にリリースした1stシングル「ドント・スタート・ナウ」が、全米・全英チャートで2位まで上昇中。アルバムのプロモーション効果により、両チャートで1位に浮上する可能性も高まっている。
「ドント・スタート・ナウ」は、昨今のエイティーズ・ブームに則ったニュー・ディスコ。プロデュースは、「ニュー・ルールズ」の制作にも参加したイアン・カークパトリックが担当している。80年代のフレンチ・ハウスと、2020年代のエレクトロ・サウンドをミックスした、まさに“フューチャー・ノスタルジア”を感じさせるナンバーで、フロアの妖精と化すミュージック・ビデオも、懐かしさと新しさが融合した作りになっている。「前に進むことを誰にも邪魔させない」という強いメッセージは、キャリアにおける前進ともとれなくない。
2ndシングルの「フィジカル」も、80年代直結のシンセ・ポップ。オリビア・ニュートン=ジョンによる同名ヒットや、83年の大ヒット映画『フラッシュダンス』にインスパイアされたとのことで、バブル期以前のエイティーズ・サウンドを今風に再現している。女子ならではの目線で歌ったエッチな歌詞も、オリビア版「フィジカル」(1981年)を彷彿させる“ノスタルジック”な仕上がり。アニメーションと交差するカラフルなMVは、“フューチャー”テイスト。
3曲目のシングル「ブレイク・マイ・ハート」も、レトロ感を漂わす同路線のディスコ・ポップ。曲間には、INXSが1987年にヒットさせた「ニード・ユー・トゥナイト」のギターリフがサンプリングされている。昨今リバイバルしつつあるダブル・スーツや、チェック柄のジャケットを起用したビデオでも当時を再現。キャッチ―なサビに合わせたダンス&ステップも、懐かしさが込み上げる。強い女性像をフィーチャーした曲が多い一方、この曲では弱気なフレーズが大半を占めている。ソングライター/プロデューサーは、アンドリュー・ワイアットとザ・モンスターズ・アンド・ストレンジャーズの2大ヒットメイカーが担当。
オープニングを飾るタイトル曲も、ラップ・パートとキャッチーなサビを柔軟に操る、まさに“フューチャー・ノスタルジア”の世界観に溢れたエレクトロ・ポップ。「ドント・スタート・ナウ」のヒットを武器に、最先端に立つアーティスト(女性)の自信に満ちた歌詞もすばらしく、個人的には前3曲を上回る出来栄えだった。この曲から「ドント・スタート・ナウ」への繋ぎは、ここ1年にリリースされたポップ・アルバムの中でも1、2を争う好展開。
「ハビッツ」(2014年)のヒットで知られるトーヴ・ローを制作陣に招いた「クール」は、前2曲から“クールダウン”したミディアム・チューン。歌詞にもある夏の夜に聴きたい風通しの良いトラックと、熱気とスリルを帯びた歌詞の対比が、良い具合に絡まり合っている。プロデューサーは、マドンナやグウェン・ステファニー等トップ・シンガーを手掛けるスチュアート・プライス。
5曲目に収録された「レヴィテイティング」は、アルバム・コンセプトの軸になったという重要な曲。ラップを引き立てたボーカル、ダフト・パンクを彷彿させる洒落たブギー、煌びやかでハッピーな歌詞、いずれも本人が絶賛するだけはある完成度の高さで、他曲を上回る華やかさを添えている。同曲のテーマは、カバー・アートに直結した「宇宙旅行」とのこと。この鮮やかな遊飛行から、次の「プリティー・プリーズ」で小休止。この曲もスペイシーなエレクトロ・ポップではあるが、歌詞やテンポは落ち着いたトーンに仕上げている。そして次の「ハルシネイト」で再びエンジン全開。
「ハルシネイト」は、80年代というより90年代以降のフロアを賑わせたUK受け抜群のハウス・トラックで、これもまた“フューチャー・ノスタルジア”的要素が存分に詰まっている。次の「ラヴ・アゲイン」は、「ドント・スタート・ナウ」や「ブレイク・マイ・ハート」の続編ともいえる、ディスコ黎明期をリメイクしたダンス・トラック。ラップからR&B、ハウスまで何でも熟すが、やはりマイナー調のエレクトロ・ポップが最も彼女の声質・キャラクターと合う。
「グット・イン・ベッド」は、BTSやリトル・グリー・モンスターの新作にも曲を提供した、メラニー・フォンタナをソングライターに招いた意欲作。レトロなピアノのイントロ、ヒップホップにも通ずるユルいトラック、半音ずつ下降していく中毒性の高いサビ、いずれも他の曲とは違う持ち味があり、異色を放っている。そして、壮大な宇宙と終着点をイメージさせる、ジャスティン・トランター作のミディアム・バラード「ボーイズ・ウィル・ビー・ボーイズ」で旅は終了。本作は、音楽で体感する「未来型宇宙旅行」のようだ。
『フューチャー・ノスタルジア』とは矛盾したタイトルだが、アルバムを通して聴くとその意味が十分理解できる。期待値を超えたデュア・リパの新作『フューチャー・ノスタルジア』を聴かずして、2020年のポップ・シーンは語れない。チャート・アクションでは、全米・全英アルバムの最高位更新にも期待が寄せられる。
Text: 本家 一成
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