2020/02/17
2015年11月に発表した前作『パーパス』から4年3か月。本作『チェンジズ』の完成までに経た期間を“長かった”と感じないのは、メジャー・レイザーの「コールド・ウォーター」(2016年)や、通算16週のNo.1をマークしたルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキーの「デスパシート」(2017年)、DJキャレドの「ノー・ブレイナー」(2018年)、そしてエド・シーランとのコラボ曲「アイ・ドント・ケア」(2019年)と、フィーチャリング・アーティストとして参加したタイトルがチャートを荒らしていたからだろう。
その『パーパス』からは、「ホワット・ドゥ・ユー・ミーン?」、「ソーリー」、「ラヴ・ユアセルフ」の3曲が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で首位を獲得。翌2016年の年間チャートでは、「ソーリー」が2位、「ラヴ・ユアセルフ」がNo.1をマークし、ワンツーフィニッシュを飾った。これだけの成功を収めると、次作へのプレッシャーが重くのしかかることは言うまでもない。モンスター・アルバム『スリラー』を経て『バッド』を発表した、マイケル・ジャクソンのような心境か?
タイトルの「変化」とは、本人の心境や環境等を示したものだと思われるが、4年も経つと当然「音の流行」も変化が生じるわけで、「ホワット・ドゥ・ユー・ミーン?」のようなトロピカル・ハウスも、「デスパシート」路線のラテン~レゲトンも今では衰退している。ここ最近は、重低音と太いベース・ラインを強調したヒップホップ~R&Bが主流になりつつあるが、本作にもそういった要素が多く取り込まれている。トータル・プロデュースは、前述の「ホワット・ドゥ・ユー・ミーン?」や「ホウェア・アー・ユー・ナウ」、『ジャーナルズ』(2013年)収録の「オール・ザット・マターズ」などを手掛けたジェイソン“プー・ベア”ボイド。
年明けにリリースした1stシングル「ヤミー」も、流行りのトラックを搭載したジャスティン流トラップ・ポップ。何かとゴシップされる妻・ヘイリーとのラブラブっぷりをセンシャスに表現した歌詞や、タイトルに因みレストランを舞台としたミュージック・ビデオも傑作だが、何といっても高音域を駆け回るサビこそ聴きどころで、キャリアの中でも1、2位を争う出来栄えと評価したい。本編の後に収録された、サマー・ウォーカーとのコラボレーション(リミックス)も上出来だったが、上位を狙うための無理くりなプロモーションは仇となった……気もする。
リリース1週間前に発売した2ndシングル「インテンションズ」も、トロピカル・ムードを醸すトラップ・ソウル。前述の「ノー・ブレイナー」と「アイム・ザ・ワン」(2017年)で共演したミーゴスのクエイヴォをゲストに迎え、「ヤミ―」に続きジャスティンはヘイリーを、クエイヴォはかねてから噂のサウィーティーについて“ノロけ”っぷりを披露した。同ミュージック・ビデオは、満足な教育を受けられない子供たちへの支援を意図とした有意義な内容になっていて、こういったプロモーションも、以前までの作品ではみられなかった“変化”といえる。
アルバムの発売同日には、ポスト・マローンとクレヴァーをフィーチャーした3rdシングル「フォーエヴァー」がリリースされている。ポスト・マローンとの共演は、彼のデビュー作『ストーニー』(2016年)に収録された「デジャヴュ」以来、約3年振り。ラップの如く畳みかけるボーカルとは対照に歌詞の世界観は甘く、「2人だけで目覚める朝」、「僕が落ち着いちゃうとはね」、「永遠に傍に居てほしい」等のフレーズからも、ヘイリーへの賛歌……であることが分かる。やはり「変化」にある彼女の存在は大きいようだ。「永遠」というフレーズに加え、愛は不変だというフレーズも登場する「ハビチュアル」も、同路線のラブ・ソング。
R&Bシンガーのケラーニとコラボした「ゲット・ミー」は、“はじまり”を予見させるラブ・ソング。直接的な表現はないものの、現在の2人に至るまでの経過ととれなくもない。歌詞はイマイチ面白みないが、ネオ・ソウル興隆期を彷彿させる黒いエッセンスと、両者の甘酸っぱいボーカルには、文句のつけようがない。ソングライター/プロデュースは、ラッパーの作品ではおなじみのボーイ・ワンダ。先述の「デジャヴュ」を手掛けたビニールズも参加している。
昨年チャリティー・ソング「アース」で共演したリル・ディッキーとのコラボレーション「ランニング・オーヴァー」は、ラクシティの「グッド・モーニング」(2018年)という曲を下敷きにしたエレクトロR&Bで、メロディラインもジャスティン節全開のキャッチ―な仕上がりになっている。ラップを絡めたリル・ディッキーのパートは雑過ぎる印象を受けるが、十分なアクセントにはなっている。強力なゲスト・チューンでは、弾力あるリズムのミディアム・ヴァイヴに巧みなフロウを乗せた、トラヴィス・スコットとのコラボ曲「セカンド・エモーション」も相当いい。
アルバムは、「君のことを幸せにする」とダイレクトに歌った「オール・アラウンド・ミー」からはじまる。オープニング曲としては若干弱いが、ワンフレーズ毎のインパクトや、アカペラに近いボーカル・ワークは余裕と凄みを感じられる。浮遊感のあるトラックに、ファルセットと地声を交互に操るボーカルを乗せたミディアム「カム・アラウンド・ミー」や、過去作『アンダー・ザ・ミスルトウ』(2011年)や『ビリーヴ』(2012年)にも参加したバーナード・ハーヴィ作の「アヴェイラブル」も、地味ながらいい曲。
カナダのR&Bデュオ=dvsn(ディヴィジョン)の「トゥー・ディープ」(2015年)をサンプリングした、90年代のネオソウル直結、真っ黒なグルーヴの「テイク・イット・アウト・オン・ミー」や、ノスタルジックで渋みのあるコンテンポラリーR&B「E.T.A.」あたりの曲も、本作でみせた「変化」といえるだろう。こういった曲調は、過去の作品では決して聴けない。E.T.A.とは「到着までの時間」を示していて、彼女(ヘイリー)の帰りが待ちきれない、そんな心情を綴った激甘な歌詞と、クールなサウンドのギャップがまた面白い。この演歌っぽさが、ある意味そのもどかしさを表現していると言えなくもないが。
後半4曲は全てスロウ~バラード曲で固めている。中でもアコースティック・メロウのタイトル曲「チェンジズ」は絶品。前作からの大ヒット「ラブ・ユアセルフ」とはまた違う、ネオソウル路線の涼やかなトラックで、変化に至ったこれまでの経緯を諭すかのように歌っている。ソングライター/プロデューサーには、レゲエ・バンド=マジック!のフロントマン、ナスリ・アトウェがクレジットされている。
「人生の休暇を取った」~「プレッシャーはもうない」などのフレーズから、昨年の休止期間における状況だと受け取れる「コンファメーション」、精神状態が不安定だった時期の鬱っぽさを打破してくれたのがヘイリーだと、ダイレクトに伝わってくるようなメッセージが込められている「ザッツ・ホワット・ラブ・イズ」、迷走期の思いの丈や、仕事上の理由でぶつかったであろう、夫婦の問題についても少し触れている「アット・リースト・フォー・ナウ」と、弱さや繊細さを垣間見てアルバムは終わる。
前作のような売れ線ではないものの、流行はしっかりおさえつつ、今の自分に見合ったサウンドを追求したことが伺える4年ぶりの新作『チェンジズ』。年始に公開したドキュメンタリー『ジャスティン・ビーバー:シーズンズ』では心配を煽るような発言もみられたが、本作の内容を一読すると、結婚生活やメンタル面は報道されているような酷い状態ではない、そう解釈できる。タイトルに込められた「変化」が良い意味であり、ひと安心……。
Text: 本家 一成
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像