2020/01/18
1994年生まれ、米ニュージャージー州出身。2010年代後期を代表する女性シンガーとして、世界中に多くのファンを獲得しているホールジーの、2020年代初、通算3作目となるスタジオ・アルバム『マニック』が完成。まずは簡単に、これまでの功績をご紹介する。
2014年にシングル「ゴースト」でデビュー。翌2015年にリリースした1stアルバム『バッドランズ』が、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で初登場2位を記録し、2016年にはフィーチャリング・アーティストとして参加したザ・チェインスモーカーズ「クローサーfeat.ホールジー」が、通算12週の米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”首位を獲得。同年の年間チャートでは10位、翌2017年は7位と2年連続でTOP10入りするモンスター・ヒットを記録した。
その大活躍を経て、2017年にリリースした2ndアルバム『ホープレス・ファウンテン・キングダム』が同アルバム・チャートで初の1位を記録。本作からは「ナウ・オア・ネヴァー」(全米17位)や「バッド・アット・ラブ」(全米5位)といったヒットが生まれ、熱愛が囁かされたラッパー、G・イージーとのコラボ・ソング「ヒム&アイ」もポップ・チャートで首位獲得を果たした。
翌2018には、ベニー・ブランコ&カリードとのコラボ・ソング「イーストサイド」が最高9位をマークし、同年10月に発表した「ウィズアウト・ミー」でリード曲としては初の全米No.1を獲得。同曲は2019年の年間シングル3位にランクインし、一躍トップスターへと駆け上がった。つまり本作『マニック』は、彼女の絶頂期におけるアルバム、ということになる。
その「ウィズアウト・ミー」は、アルバムの1stシングルとして9曲目に収録される。ジャスティン・ティンバーレイクの「クライ・ミー・ア・リヴァー」(2002年)を下敷きにした憂愁のミディアムR&Bで、陰気なトラックにもハマった未練がましい失恋ソング、といえよう。同曲は実体験から書いた曲だそうで、メディアやファンの間ではG・イージーにあてたものだと予想されている。その“墜ちていく様”をドラマ仕立てに画いたミュージック・ビデオも、リアーナ風の優秀作。その後、BTSとコラボしたダンス・ポップ「Boy With Luv」や、ニュー・メタル調の「ナイトメア」をリリースしたが、ヒットには至らず。ホールジーのキャラクターには、やはりこのテの曲が合う。
「ウィズアウト・ミー」のプロデューサーは、前述の「イーストサイド」も手掛けたルイス・ベル。本作では、2ndシングルの「グレイヴヤード」も担当した。その他、米NYのシンガー・ソングライター/プロデューサーのジョン・ベリオンや、R&B~ヒップホップ・シーンで注目されているリド(Lido)、カミラ・カベロやセレーナ・ゴメスの最新作にも参加したザ・モンスターズ・アンド・ストレンジャーズ、そして言わずと知れた人気プロデューサーのグレッグ・カースティンが、クレジットされている。
その「グレイヴヤード」も、取り方によってはネガティブな曲だが、周囲がみえなくなるほどの“恋愛中毒者”として、ある意味前向きなメッセージが込められている。何せ、タイトルの“墓場”までついていく……というフレーズが登場するほどだ。トラックは、ここ最近の主流であるR&Bとエレクトロを掛け合わせたミディアム。メロディも聴き心地良く、「ウィズアウト・ミー」ほど重くない。遊園地を舞台にしたミュージック・ビデオでは、ロングヘアの美女と戯れるシーンが続くが、これは“女性に対して”のメッセージなのだろうか。真相は不明だが、ホールジーはバイセクシャルであることを堂々公言している。
発売直前にリリースされた「ユー・シュッド・ビー・サッド」は、これまでの作品ではなかったタイプのカントリーを基としたダンス・ポップ。珍しくダンス・パフォーマンスを披露したミュージック・ビデオでは、テンガロン・ハットを被り、シャナイア・トゥエインの「ザット・ドント・インプレス・ミー・マッチ」(1997年)を真似たヒョウ柄の衣装を纏う等、カントリー“風”を強調している。哀愁を漂わすメロディ・ライン含め、個人的には故アヴィーチーの「ウェイク・ミー・アップ」(2013年)を彷彿させるが、それほどエレクトロ色は強くない。断定はしていないが、「ウィズアウト・ミー」同様、G・イージー絡みの失恋ソングかと思われる。デラックス盤のボーナス・トラックとして、同曲の「ヴォイスノート」バージョンが収録される。
昨年9月に先行トラックとして配信された「クレメンタイン」は、メルヘン調のイージー・リスニング……と、いうべきか。サウンド・ボーカル共に終始リラックスした癒し系のミディアムで、これもまた、過去2作ではなかったタイプの曲といえる。タイトルの「クレメンタイン」とは、2004年に公開された映画『エターナル・サンシャイン』で、ケイト・ウィンスレットが演じた同名のキャラクター=クレメンタイン・クルシェンスキーにちなんだものだそう。ホールジーは、このキャラクターやケイト自身の性格・考え方等に影響を受けたそうで、「ウィズアウト・ミー」路線のダーク・ポップ「アシュリー」のアウトロにも、ケイト演じるクレメンタインのセリフが起用されている。
5曲目の「フォーエヴァー…イズ・ア・ロング・タイム」は、感情の起伏が激しいオセンチ系バラード。ホールジーの声質は機械的ながら、時にこういったエモーショナルなボーカルも魅せてくれるから凄い。この曲でもまた、失恋の痛手を引きずっている様を歌っているが、もはやホールジーの“お家芸”ともいうべきか。曲終のノイズ焼けしたアウトロから、米フロリダ州出身のシンガー/ラッパーのドミニク・ファイクによるインタールード「Dominic's Interlude」へ移行。再び自他否定を歌った「アイ・ヘイト・エヴリバディ」へと続く。この流れは、いずれも前述のリドがプロデュースしたタイトル。なかなか良い曲を書く人だ。
ドミニク・ファイク以外には、カナダを代表する女性シンガーソングライター、アラニス・モリセットによる「Alanis' Interlude」と、共演がキッカケとなったBTSのメンバー=SUGAとの「Suga's Interlude」の2曲がインタールードとして収録されているが、いずれも2分強とフル・バージョンに近いボリュームがある。前者は、アラニスのお得意とするポスト・グランジ、後者はSUGAの高速ラップが炸裂するスロウ・ジャムという、アーティストの属性を主張した仕上がりとなった。
ヒット曲のイメージからR&Bシンガーとして認識されがちだが、ピンク路線のロック「3am」や、レディー・ガガの「ユー・アンド・アイ」(2011年)に酷似していると囁かれたアコースティック・ギターによるミディアム・メロウ「ファイナリー//ビューティフル・ストレンジャー」、挑発的な歌詞含めテイラー・スウィフトの引用っぽい「キリング・ボーイズ」、経験と基に自問するダンスホール調の「スティル・ラーニング」、オーガニック系のチルアウト・ソング「929」と、バラエティに富んだ楽曲を作り、歌いこなしているホールジー。本作『マニック』ではその多才さが更に際立った、そんな印象だ。
日本盤&海外デラックス盤のボーナス・トラックには、前述の「ユー・シュッド・ビー・サッド(ヴォイスノート)」に加え、「アイム・ノット・マッド」と「ワイプ・ユア・ティアーズ」の3曲が収録される。
Text: 本家 一成
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