2019/12/07
ビルボードジャパンの2019年の年間チャートが発表された。テクノロジーの進化が、日本では「生身」のアーティストによるヒットを生みだしたことが、最大の特徴だった。
「Hot100」(年間ヒット曲)のベスト10は、ノーギミックでパフォーマンスするミュージシャンが上位を占めていることが、最大の特徴だ。1位の「Lemon」(米津玄師)は、2年連続で年間1位を獲得した。2位の「マリーゴールド」(あいみょん)も、ロングヒットを続けている。3位の「Pretender」(Official髭男dism)は、トップ3で唯一、2019年にリリースされた曲だ。Official髭男dismは、「宿命」も、年間10位にランクインしている。この他にトップ10にランクインしているのは、King Gnu、菅田将暉、Foorin、DA PUMPの楽曲だ。誰もが、他には代え難い技量や個性がある、ライブ・パフォーマーだ。
「人」という視座のチャートが「Hot Artist」だ。こちらも、トップ3は、あいみょん、米津玄師、Official髭男dismが輝いている。先日、このうちの1組である、Official髭男dismのホールツアーを訪れた。客席を見て、私は彼らが2019年を代表するヒットメーカーになった理由を理解した。「世代を超えた同時代体験」が、そこにあったのだ。音楽を語る時に、「年代」と「世代」を同義で語ることは、これまでは珍しくなかった。「1970年代は、いまの60代の青春だった」というような、ノスタルジー的なアプローチだ。しかし、Official髭男dismの客席では、親子が一緒に彼らの演奏を見て、同じ曲に感動している姿があった。それは、よく語られる「親が好きだった音楽を、子供が好きになる」というビジネスモデルではない。「異なる世代が、『いま』の音楽を、同時に、自分の意志で好きになる」という現象だ。スマホとストリーミングサービスという、かつては存在しなかったテクノロジーが日常的ないま、「世代」という縦軸ではなく、「年代」という横軸で音楽マーケティングを考える必要があるのだ。
キーワードとなるのは「生身」、つまり、「本物のライブ・パフォーマンス」だ。興味深いのは、昨今、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、AI(人工知能)など、エンターテイメント・テクノロジーを駆使した楽曲や公演が数多く制作されているのに、そういった先端技術をアピールした作品が上位に輝いていないことだ。Official髭男dismのライブも、映像スクリーンなどは設置せず、非常にストレートな演出だったが、進化した音響技術が、音楽を観客にダイレクトに届けることを強くサポートしていた。メンバーも「このホールは音が良い」と、何度も口にしていた。
「生身」と「技術」の融合と昇華が、エンターテイメントの新潮流の一つを生み出すことは、間違いない。2010年代には、マンガやアニメなど「2次元」に描かれた主人公が、現実に飛び出してくる「2.5次元」がヒットを生んだ。20年代は、「3.5次元」、つまり、アーティストがテクノロジーを用いて、リスナーやオーディエンスをまだ見ぬ世界へと誘うようになるだろう。
近未来の音楽シーンを予見させるアーティストは、既に出現している。代表的存在は、音楽を媒介にして3次元と4次元を行き来している、米津玄師だ。そもそも、音楽は「空間の芸術」。空気の振動を作品化し、聴覚に訴求するアートだ。ライブ・パフォーマーは、太古の時代から、創造するために必須の存在だった。「CD」という「封じ込められたフィジカル」を失いつつあるのと引き換えに、「本物の肉体」を通して、卓越した創作表現をするアーティストが上位を占めた2019年は、日本の音楽の可能性を大きく感じさせる1年だった。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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