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2019/11/18

『カレッジ』セリーヌ・ディオン(Album Review)

 セリーヌ・ディオンという偉大な歌手について、グラミー何部門受賞、世界何万枚セールス……と、過去の功績については今さら何を説明する必要もなく、割愛させていただくが、その顕著な成果を収めた90年代の作品を知る方にとっては、少し違和感を覚えるアルバム……かもしれない。

 本作『カレッジ』は、2016年に発表したフレンチ・アルバム『Encore Un Soir』から3年、英語詞によるオリジナル・アルバムとしては、2013年リリースの『ラヴド・ミー・バック・トゥ・ライフ』以来、約6年振りとなる新作。マネージャーであり夫のレネ・アンジェリルを亡くした2016年から現在に至るまでの心境や人間愛、タイトルが示す勇気や情熱、弱さも全て明るみにした、セリーヌの今が詰まっている。

 前述の「違和感」をネガティブな意味合いでとられてしまうかもしれないが、本人は「新しいソングライターやプロデューサーを受け入れて、これまでと違うサウンドを思いっきり楽しんだ」と前向きに話している。ゴシップ誌で話題を振りまいているライフスタイルやビジュアルもそうだが、ここ最近の彼女からは何かこう、フっきれたもの(というべきか)を感じる。

 先行シングルとしてリリースされた 「インパーフェクションズ」は、LAを拠点とするDJダラス・ケイ(ビービー・レクサ、フィフス・ハーモニー等)と、エレポップ・シンガーのラウヴが制作した、彼等直結のエレクトロ・ポップ。代表曲「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」のような大サビもなく、歌唱力を存分に活かした見せ場もないが、これぞセリーヌ“らしからぬ”新しい試みといえるだろう。

 ザ・ニュー・ロイアルズのリズ・ロドリゲスがソングライターとして参加したオープニング・ナンバー「フライング・オン・マイ・オウン」も、セリーヌの曲という意味では斬新……というか、これまでになかったテイストで、フロアライクなエレクトロ・ダンス・ミュージックに挑戦している。サウンド的には若干時代遅れ感も否めないし、エフェクト効果もイマイチだが、サビで聴かせるセリーヌの歌い上げには圧倒させられる。

 続く「ラヴァーズ・ネバー・ダイ」は、アリアナの「7 rings」をなぞったようなトラップ・ポップ。旋律が歌謡曲風だからか、2000年代初期のアイドルが歌っていたようなニュアンス(3LWとか?)もあり、これはこれで新鮮。気怠さをアプローチした古典的なレゲエ・トラック「ノーバディーズ・ウォッチング」や、ライフハウスのジェイソン・ウェイドがソングライターとして参加した、ダンスホールっぽい「ソウル」なんかも面白い。

 ミディアム~バラードはこれまでの作風とさほど変化はないものの、ソングライター/プロデューサー陣は新しい面々を取り入れている。中でもシーアとデヴィッド・ゲッタが制作した「ライイング・ダウン」は格別で、クレジットがなくてもシーアだと明白な旋律とコード進行、静けさとダイナミックさを兼ね備えた世界観は、映画のワンシーンに起用されそうなスケールの大きさ。彼女とのコラボレーションは、もっと前からやるべきだった……といえるほど、声とサウンドの相性も良い。

 それから、ザ・ウィークエンドの「アーンド・イット」を大ヒットに導いたステファン・モッチオ作のタイトル曲も素晴らしい。歌詞にリンクしたピアノのシンプルなバラード曲で、年齢を重ねたからこそ表現できる母性溢れるボーカルは、『フォーリング・イントゥ・ユー』や『レッツ・トーク・アバウト・ラヴ』の頃では決して聴くことができなかった。

 ボーカルでいえば、セリーヌの真骨頂ともいえるシンプルで強弱・硬軟がはっきりしたバラード「フォーリング・イン・ラヴ・アゲイン」のかすれ具合もいい。ただ張り倒すだけでもなく、美しいだけでもない。曲調のみならず、ボーカルも以前とは少し違う表現がみえてきた。スウェーデンのインディロック・バンド=ピーター・ビヨーン&ジョンのビヨーン・イットリングが制作した「チェンジ・マイ・マインド」では、御年51歳とは到底信じがたい高音を披露し、次曲「セイ・イエス」では張り上げることを一切せず、終始穏やかな歌声で包み込む。

 サム・スミスと、サムの盟友ジミー・ネイプス、それからプロデューサー・チームのスターゲイトが制作した「フォー・ザ・ラヴァー・ザット・アイ・ロスト」は、ピアノ1本で仕上げたマイナー調のバラード。途中、サムのボーカルが乗り移ったかのようなか細くナイーブなフレーズもあり、ここでもまた過去作ではなかった一面を垣間見た。2010年代のヒット曲には欠かせない名プロデューサー=グレッグ・カースティンが制作した、横ノリのミディアム「ベイビー」もいい曲。グレッグの手がけた中では、ケリー・クラークソンやピンクのタイトルに近い感じか。デラックス盤収録の「ハート・オブ・グラス」も、同調のサウンド・プロダクション(ピンク色強し)。

 主には映画やTV番組の音楽を手掛ける、カナダ・トロントの音楽プロデューサー=クレイグ・マコーネルが手掛けた「ザ・チェイス」も、切々と胸に染みるメロディーを丁寧に歌うバラード曲。アデルのプロデュースで知名度を高めたエグ・ホワイト作の「アイ・ウィル・ビー・ストロンガー」は、彼女の「メルト・マイ・ハート・トゥ・ストーン」のようなレトロ感漂う泣かせのメロウで、デラックス盤1曲目の「ベスト・オブ・オール」も、エグ・ホワイトらしいアダルティな好曲に仕上がっている。

 ニュー・ローヤルズのDJカリルと、ブルーノ・マーズやカーディ・Bなど人気アーティストの楽曲を多数手がけるプロデューサー・チーム=ステレオタイプスがプロデュースした「ハウ・ディッド・ユー・ゲット・ヒア」は、ゴスペル・コーラスをバックに従えた6/8の壮大なバラード。こんな曲もあれば、マイアミ出身の日系アメリカ人DJ/プロデューサー、スティーヴ・アオキがプロデュースを担当した「パーフェクト・グッドバイ」では、静けさの中から徐々に熱を帯びるエモーショナルなボーカルの、クリスチャン・ソングのような曲調にも挑戦している。

 本作『カレッジ』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で首位デビューする可能性が高いと、米音楽業界誌ヒッツとビルボードが伝えている。実現すれば、2002年リリースの英語版7枚目のアルバム『ア・ニュー・デイ・ハズ・カム』以来、約17年ぶりのアルバム・チャートNo.1獲得という快挙を達成することになる。以前とは大分色味を変えたセリーヌ、ここからまた新しいスタートを切って走り続けるのだろう。


Text: 本家 一成

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