2019/11/15
ユニバーサルミュージックからのデビュー・アルバム『STORY TELLER』を11月6日にリリースしたシンガー・ソングライター、Sano ibuki。彼が約2年間かけて構想を練ったという本作は、それぞれの収録曲に綿密なプロットが存在し、空想の主人公が存在する、いわば短編小説集のような構成となっている。登場するキャラクターには趣味や性格、好きな食べ物など、詩中では描写されない裏設定まで用意するという徹底ぶりだ。
そんな新作のリリース記念として、11月8日に東京・SHIBUYA WWWで行われたSano ibuki初のワンマン【Sano ibuki Premium Live “翠玉の街"】は、それまで机上の存在だった『STORY TELLER』の物語に、生の歌声とバンド・サウンドによって彩りと生命力を吹き込んでいく、その手応えと喜びを噛みしめるようなパフォーマンスで、とりわけ第一声から<始まりの合図が聞こえた>と歌う「決戦前夜」の幕開けは、空想物語とSano自身の体験がバチッと重なった、鮮烈なオープニングの瞬間だった。
アウトロのかき回しも終わらないうちに、食い気味のシンバル4カウントから2曲目「スイマー」へ、疾走感をそのままになだれ込む。およそデビューしたての新人とは思えないほど、確固たる作家性を持ったSanoだが、エレキ・ギタ―をかき鳴らしながらマイクに噛みつくように歌う姿には、どこか等身大の青さも滲んでいて、ライブならではの新鮮な発見があった。
「WWW遊ぼうぜー!」と景気づけの挨拶から、軽やかなシンセ・ポップ「Kompas」が始まる。以降は頭2曲の前のめりなスタート・ダッシュから一転、重心を徐々に下げ、歌声や演奏の繊細さを際立たせながら、ディープな世界観の奥深くへ誘っていく中盤戦だ。気だるげな着席状態から立ち上がり、大地を力強く踏み鳴らすようなビートに身を委ね、ユラユラとステージをさまよい歩く、MVの内容を再現するような「革命的閃光弾」のパフォーマンスに続き、「滅亡と砂時計」ではピアノ伴奏、フル・アンサンブル、そして転調と段階的に盛り上げていく展開がドラマティック。
ミニマムな弾き語りの「moonlight」が終われば、この日初めてのMCタイムへ。「(喋ろうと考えていたことが)どうでもよくなるくらい幸せです」と語ると、12月公開の映画『ぼくらの7日間戦争』の書き下ろし主題歌「おまじない」を初披露した。
この映画主題歌に限らず、Sanoが作り出す音楽は、物語に寄り添うサウンド・トラックとしての側面が大きいものの、それでも根底には彼自身の感情や衝動、願いや祈り、伝えたいメッセージがある。この日も演者から観客へ、観客から演者へ、相互的なコミュニケーションを交わそうとする姿勢が何よりも強く印象的だった。「おれの想いは全部歌の中に込めて、最後2曲、爆走で行きます!」と宣言し、ラストは「WORLD PARADE」「梟」と駆け抜け、記念すべき初ワンマンを締めくくったのだった。
パフォーマンス終了後、スクリーンに『NEXT LIVE!! Sano ibuki LIVE “NOVEL”』と記されたブックカバーが映し出されると、2020年2月の東阪ツアー開催が発表。今回のワンマンの経験値を糧に、さらにレベル・アップしたSano ibukiのパフォーマンスに期待大だ。
Text by Takuto Ueda
Photo by Takeshi Yao
◎公演情報
【Sano ibuki Premium Live “翠玉の街"】
2019年11月8日(金)
東京・SHIBUYA WWW
<セットリスト>
01. 決戦前夜
02. スイマー
03. Kompas
04. 革命的閃光弾
05. 滅亡と砂時計
06. moonlight
07. おまじない
08. WORLD PARADE
09. 梟
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像