2019/10/25
新宿の街を“屋根のないアート&カルチャーの博物館”と捉え、音楽・美術・演劇・伝統芸能など200以上のイベントが行われる一大文化事業【新宿フィールドミュージアム】。そのメイン・イベントとなる音楽フェスティバル【-shin-音祭】が、10月5日に新宿区立新宿文化センターにて開催され、ライターの土佐有明によるオフィシャル・ライブレポートが届いた。以下、ライブレポートを公開する。
【フジロック】や【サマーソニック】には何度か通ったことがあるものの、ここ数年はすっかり音楽フェスからは遠ざかっていた筆者。ところが、ひょんなことから見に行った【-shin-音祭】という都市型フェスが実に刺激的かつ快適で、合計9時間、10組のライブを見たあと、心地よい疲れとともにこれを書いている。以下、記憶の断片を手繰り寄せながら、印象深かったアクトなどを記述していきたい。
10月5日午前11時、フェス開始のオンタイムに新宿区立新宿文化センターに到着。早速最初のアクトであるMONO NO AWAREを見に大ホールへ。ここには以前、ピナ・バウシュというドイツの振付家によるコンテンポラリー・ダンスを見に来たことがあるが、音楽ライブの会場として訪れるのは初めて。1,802人を収容する天井の高いホールで、天然のリバーブが響き渡るのが特徴だ。
大ホールのトップを飾るのは2013年結成の4人組、MONO NO AWARE。ツイン・ギターが醸すサイケデリックな音塊と甘美なメロディは、海外のドリーム・ポップ勢とも共振するもの。ホール特有の残響も効果的に作用し、茫洋としたサウンド・スケープにしばし陶然とさせられた。
続いて、小ホールの最初のアクトであるbetcover!!を見にエレベーターで3階へ。こちらは1999年生まれのヤナセジロウのソロ・プロジェクトで、ライブはギター/ボーカル、ベース、ドラムというスリー・ピース編成。時折デヴェンドラ・バンハートや佐藤伸治も連想させるボーカルは中毒性があり、シューゲイザー的なノイズ・ギターと絡み合うことで、立体的な音像を構築していた。
betcover!!が終わり、大ホールへ向かう途中、エントランスのステージで室井雅也を見た。97年生まれのシンガー・ソングライターである室井は、アコースティック・ギターの弾き語りスタイルで、衒いやけれん味のない歌を聴かせる。ストレートで蒼い想いが伝わってくるあたり、崎山蒼志や君島大空に続くニュー・カマーとして評価されるのでは?というのが素直な感想だ。
再び大ホールへ戻って、あらかじめ決められた恋人たちへ(以下、あら恋)を見る。あら恋は10年近く前に一度見たことがあり、当時はオーセンティックなレゲエ・マナーに忠実な印象があったのだが、この日のサウンドは当時とはかなり違っていた。重低音を強調したベースやディレイを効かせたドラムはダブの語法に則っているが、テルミンやシンセサイザーを織り交ぜた演奏はドープそのもの。オーガスタス・パブロよろしくピアニカを操るフロントマン、池永正二のカリスマ性も際立つステージだった。
続く□□□は、大人数による合唱をフィーチャーした『マンパワー』(2012年)の頃のモードを踏襲。三浦康嗣が最前列でピアノを弾きながらメイン・ボーカルを取り、9人の合唱隊が澄み渡った歌声を披露する。村田シゲの激しくうねりまくるベースも、端っこにいながらも存在感を見せつけるいとうせいこうのパフォーマンスも、□□□ならでは。まさに人力(=マンパワー)でどこまで大ホールの観衆を巻き込めるかに挑戦していたようだった。
□□□の余韻を噛み締めながら再び小ホールに向かい、国府達矢バンドを見る。国府といえば、15年ぶりのリリースとなった昨年の『ロックブッダ』が各所で高い評価を得ていたが、この日は発売されたばかりの『スラップスティックメロディ』から3曲を、03年の『ロック転生』から2曲を、そして未発表の2曲(うち1曲がインストゥルメンタル)を演奏。幾何学的なリズムの構築という面で画期的な装いを見せた『ロックブッダ』のようなダイナミクスこそ見られなかったものの、やや変則的なメロディを愛でるように歌う国府の姿は胸を撃つものがあった。また国府は、アーティスト写真では正面から映った写真がなかっただけに、ひたむきに音楽を奏でる彼の姿を目撃できたのも嬉しかった。
再び移動して大ホールでGRAPEVINEに備える。彼らのライブを見るのも久しぶりだが、あらためてそのルーツにソウルやブルースがあることを実感した。表面的にはかなりポップな肌触りの彼らの演奏は、マーヴィン・ゲイの曲名からバンド名を取っていることからも明らかなように、ブラック・フィーリングを内面に秘めている。そう考えると、リハーサルでローリング・ストーンズの曲を演奏していたのも納得(嬉しいサプライズだった)だし、西川弘剛の土臭いスライド・ギターが場を盛り上げたのもらしいと思った。
再び小ホールに戻ってサンガツを見たのだが、これがこの日の私的ハイライトというか、ベスト・アクトに挙げたい刺激に満ちた50分だった。冒頭、床に並んだハンド・ベルをメンバーが一人ずつ鳴らすと、トーン・チャイム(気になった方は検索してみてください)を取り囲み、ミニマリスティックなサウンドを奏でてゆく。その響きはあえて引き合いに出すならスティーヴ・ライヒ的とも言えるのだが、サンガツのジョイフルな演奏はもう少し遊び心がある印象だ。その後、ドラム4台、ギター2本、ベースという編成でステージにあがり、いくつものレイヤーが折り重なるような複合的で重層的なアンサンブルを展開する。ぱっと見では即興的に映る演奏は、おそらく厳格で厳密なリハーサルを経て獲得されたものでは?と感得した。マス・ロック的とも言えるそのサウンドは、バトルスやボアダムス、トータスなどにも近いが、結果的にそのどれにも似ていない独創的な相貌を見せていた。
サンガツを最後まで見ていたので、大ホールに急いで戻ると、大トリの真心ブラザースが演奏中。彼らのライブを見るのもかなり久々だが、がらっぱちでバンカラなYO-KINGのボーカルと桜井秀俊のシャープなギターの組み合わせは不変。ベース、ドラムに若手のサポートを迎えた4人編成で、キャッチーでポップな楽曲を次々に繰り出してくるあたり、余裕と貫禄を感じさせた。山下智久もカバーした「サマーヌード」で盛り上がりが最高潮に達したのもさすがの展開である。
それにしても、若手からベテランまでを幅広く網羅したラインナップの妙には改めて唸らされる。将来が嘱望される若手から、成熟した大人の音楽を聴かせる大御所まで、振れ幅の広さがこのフェスの特色と言っていいだろう。筆者はMONO NO AWAREやbetcover!!をあえて前情報なしに見たのだが、そのポテンシャルの深さと伸びしろの大きさを実感した。先入観なしに見るアクトとの偶発的な出合いはこういうイベントならではの醍醐味だが、このフェスは見事にそれを体現していた。
また、betcover!!やあら恋、サンガツのような、ストイックに音響の快楽を提供するアクトと、真心ブラザーズやGRAPEVINEのような音楽の感動をストレートに伝えるアクトが共存していたのも面白い。音の鳴りや響きに徹底して留意した前者と、オーソドックスなロックの文法を踏まえながらもフレッシュであり続ける後者。その両輪が同時に機能してこのフェスをワン・アンド・オンリーなものにしていた。ホール間の移動がスムーズだったり、大ホールでは着座でアクトを見られることなども含め、満点を献上したいこのフェス、来年以降も継続してゆくことを期待したい。
Text by ライター/土佐有明
◎公演情報
【新宿フィールドミュージアム「-shin-音祭 2019」】
2019年10月5日(土)
新宿区立新宿文化センター(大ホール/小ホール/エントランスロビー)
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